(,,゚Д゚) ここは解決屋『シルバー&ブラック』本社のようです
4 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/06/13(水) 20:57:08.21 ID:dIQaqijs0



時は、罠に掛かり四人が離ればなれになった直後まで遡る。



モララーとヒートの二人は、『COLOR's』の“白”、トソン=ホワイトルシアンの後を追い、奥の部屋へと歩を進めた。

その部屋は広かった。目測で四十畳はあり、机や椅子やらの、人の動きを阻害するような置物は一切無かったので、より広大に感じられた。



そんな、少し物寂しさを思わせる部屋の中央に、トソンは背を向けて立っていた。
モララーとヒートも中央に向かって歩く。そしてトソンから五メートル程の距離を置いて立ち止まった。



静寂。
ただし場の空気は限界まで張り詰めている。


(;・∀・)「…………っ」


モララーの額から冷たい汗が流れ落ちる。唾を飲み込む音が、やけにうるさく感じた。

5 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/06/13(水) 20:59:08.16 ID:dIQaqijs0
 「……来ないのですか?」


そう発言したのはトソンだ。
物音一つすら無かった部屋の隅々までに、彼女の凛とした声が行き渡る。


ノパ听)「敵と言えど、背中から襲い掛かるような真似はしません。こちらを向いてください」


準備万端、意気軒昂といった表情のヒートは、しかしながら不意打ちを良しとせず、お互いが正面からの激突を望む。
考えた結果の行動ではない。裏もない。「ただ、そう思ったから」。
それがヒートという少女の骨子である。


 「なるほど。繰り返しますが貴女のその純真さは、やはり良い。しかし……、となると困りましたね」

ノパ听)「?」


困った、とトソンは語った。
いったい何のことだろうと、ヒートが彼女の意図を掴めずにいると。

8 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/06/13(水) 21:02:10.11 ID:dIQaqijs0
 「このままでは……」


トソンはゆっくりと首を動かし、片眼だけでヒートを見た。
彼女の、その眼は―――







(,,゚Д゚) ここは解決屋『シルバー&ブラック』本社のようです 川 ゚ -゚)?


第17話





( 、゚トソン「既に貴女に向けて攻撃を仕掛けている私が、卑怯者であるかのように思われてしまいますね」



練磨された真珠のごとく、瞳の強膜の箇所よりも更に深い“白”に染まっていた。




10 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/06/13(水) 21:05:09.25 ID:dIQaqijs0
(;・∀・)「ヒートちゃん! 後ろからだ!」

ノハ;゚听)「っ!」


モララーの声とほぼ時を同じくして、ヒートが振り返る。

彼女の眼に、『宙に浮いた四角形の白い何か』がこちらに向かって飛んでくるのが見えた。


ノパ听)「モララーさん! 私の後ろに!」


その言葉と同時に、ヒートは身を翻してモララーの前に躍り出た。
謎の四角形の板(大きさはタテヨコ共に三十センチ程、厚さはほとんど無い)はこちらに向かっているものの
スピードはあまりなく、ヒートはそれをじっくりと観察できた。

しかし、どんなに目を凝らして見ようとも、それが何なのかはよく判らない。
正体は不明。だが、それでもある程度の予想を立てることは出来る。


ノパ听) (恐らくは、先程の落とし穴の時に、ギコさんの鎖を防いだモノと同じなんだろう)


あの時に現れた白い壁。そして目の前の白い板。これこそがトソンの能力であることは明白だ。

13 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/06/13(水) 21:08:10.96 ID:dIQaqijs0
ノパ听) (謎物体すぎて、ちょっと不気味だけど、どのみち叩き落とすしかない!)

                ヒノカグツチ
ヒートは自身の武器である鉄槌【火之楽鎚】の柄を強く握り締め、


ノパ听)「ハッ!」


その白板に向けて、一直線に叩きつけた。
ヒートの一撃を受けた白板はガラスのように、いともあっけなく砕け散る。


ノパ听) (? 思ったよりも、手応えが―――)


ない。
と、ヒートがそう感じた瞬間。



砕け散った白板のカケラは重力には従わず、『その全てが、白く鋭い刃となってヒートに襲いかかってきた』。


ノハ;゚听)「っ!」


だが、ヒートの反応は速かった。驚きつつも、鎚を振り回してカケラを残らず弾き落とすことに成功する。

14 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/06/13(水) 21:11:13.38 ID:dIQaqijs0
(゚、゚トソン「あら、お見事」

ノパ听)「ふう……。まあ、普通なはずが無いとは思っていましたから」


床に散らばったカケラは、もうそれ以上動くことはなく、徐々にその姿が曖昧になっていき、やがて消えていった。


(゚、゚トソン「今ので私の能力について、だいたい判りましたかね? 見ての通り、単純なものです」

ノパ听)「私のために実演してくれたんですか?」


ヒートは意外そうな声を上げた。
勝手なイメージだったが、トソンは勝負事に関しては微量の甘言も赦さないタイプだ、とヒートは思っていたのだ。


ノパ听)「トソンさんは、戦うときにはいつもこんなことを?」

(゚、゚トソン「まさか、です。私はそこまでお人好しでも、また、暇人でもありません。
     教えてあげたのは、貴女の純真さに対する返答のようなモノ、とでも捉えてください」


トソンは自分の胸に左の掌を当て、正面から真摯にヒートを見つめる。



ヒートとモララーは、トソンが自分達の敵であることを一瞬忘れてしまっていた。
その清楚さ、凛々しさに。彼女の姿に、しばし見蕩れていた。

15 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/06/13(水) 21:14:36.84 ID:dIQaqijs0
(゚、゚トソン「それに、残念なことですが……。知られたからといって、
     どうこうできるモノでも無いのですよ。私のコレは、ね」


しかし、トソンが右の腕を、彼女の武器であろう白い杖を手にした右の腕を動かすと、二人は直ぐに気持ちを入れ換えた。

―――来る。
本格的な戦闘が始まるのだと、二人は同時に理解する。



瞬間、対面する三人の間に、先程の白い四角形の板が四つ、横並びに現れた。
それらは手裏剣のように回転しながら左右二つずつに別れ、
弧を描くような軌道で、四つ全てヒートの元へ飛来する。

挟み撃ちの形。
されども、ヒートはそれを。


ノパ听)「っ!」


鎚を薙ぎ払うように振るい、一息で全ての白板を打ち砕く。
だが、先程と同様に、ここでは終わらない。

一つの白板が十の刃へと変わる。
計四十の刃は槍兵の軍隊の如く、一直線にヒートへと襲いかかった。

17 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/06/13(水) 21:17:58.41 ID:dIQaqijs0
しかしヒートはそれに対し、退かずに真正面から突っ切っていった。
ただし、姿勢を極限まで低くして。

この行為の意味するところは、範囲の減少。
白い刃は一直線にヒートに向かって来ている。
そこには後ろもなく、ついでに左右もない、ただの“前”になる訳だが、しかし”高低“はある。


つまり自らが“低”になることで、”高“をやり過ごす、至極単純な行動だ。


単純ではあるが、しかしその行為に至る過程は、単純という陳腐な語句では語れない。
敵陣の中に一歩踏み出す勇気。ヒートは、その程度の勇気では勇気と呼べない程度に、強い心を過多に持ち合わせていた。

前へ。僅かに残る刃は、鎚を盾にすることで凌いだ。

             ヒノツチ
ノパ听)「奮えろっ! 【火之鎚】っ!!」


トソンとの距離を縮めたヒートは、鎚を高く掲げる。
すると、ヒートの周りにビーチボール程の大きさの火球が三つ浮かび上がった。

       エングン
ノパ听)「《炎群》! 行けえっ!!」


ヒートが声を上げると、三つの火球は緩やかなカーブを描きつつも、
ハイスピードでトソンへ向かって飛んでいった。

18 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/06/13(水) 21:20:36.72 ID:dIQaqijs0
だが、それらの火球がトソンの前方五十センチ付近にまで辿り着くと。


(゚、゚トソン「届きませんよ」


まるで、『壁に激突したかのように』、火球は爆発した。
爆風は、トソンの髪すらも揺らすことはなく、消えた。


ノパ听)「!」


よく見ると、トソンの前に半透明の白い大きな壁が、途切れ途切れに確認できる。

その壁は限りなく透明に近く、立ち位置によっては照明の反射によって見え難い。
ヒートがその壁に気付けなかったのは、その為だ。

一度その場にあることが確認できれば、後は割とはっきり見えるのだが、その壁は部屋を二つに分けていた。
ヒートやモララーがいる入り口側と、トソンがいる奥側の、二つに、だ。


(゚、゚トソン「これはただの蛇足的な発言に過ぎないのですが―――」


と、トソンは、攻撃を仕掛けられた直後にも関わらず、まるで気にしていないかの様に、ごく冷静に注釈を入れる。


(゚、゚トソン「私、攻撃よりも、防御の方が得意なのです」

19 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/06/13(水) 21:23:16.65 ID:dIQaqijs0
ノパ听)「そうですか。それでは!」


尚も一歩、踏み出す。
鎚を後ろに振りかぶり、ひたすらに、前へ。


ノパ听)「攻撃しか! 前に出ることしか能がないこの私と、勝負です!」


宣告。
駆けるヒートの、その手に持つ鎚の先端の温度が急速に上昇していく。
周囲の大気中の熱を、根こそぎ奪い尽くしていく―――!

            カグツチ
ノパ听)「震えろっ、【楽鎚】っ!」


鎚の先端が超振動を始める。
凝縮された熱に振動が加わることで産み出されるのは、破壊のみに特化した一撃。

             ヒノカグツチ
ノハ#゚听)「喰らえっ! 《火之楽鎚・フルドライブ》ッッ!!!」


限界まで蓄えた熱を余すことなく一気に解放。
その衝撃をもってトソンの壁を打ち砕くべく、ヒートは鎚を叩きつけた。

20 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/06/13(水) 21:26:06.48 ID:dIQaqijs0
(;−∀・)「っっ……!」


耳をつんざく轟音。
そして閃光。
眩しさに目を開けていられないが、しかし事の顛末を見届けるためにモララーは前を見る。

結果は―――。




ノハ;゚听)「くっ……!」


白い壁は、健在していた。
激突の箇所に無数のヒビが入っているものの、倒壊する様子は見受けられない。

『COLOR's』最大の矛は、“白”の盾を打破できなかった。


(゚、゚トソン「……少し、ヒヤヒヤしました。私の壁にここまで傷を入れられるのは、貴女くらいのものでしょう」

ノハ;゚听)「っ、まだっ! もう一度同じ場所を狙えば!」

        カグツチ
ヒートは再度【楽鎚】を起動させ、今度こそ壁の破壊を目指す。

22 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/06/13(水) 21:29:09.28 ID:dIQaqijs0
(゚、゚トソン「おっと、させませんよ」


しかし、またもや出現した二枚の板がヒートを襲う。


ノハ;゚听)「! このっ!」


不意を突かれた形になったが、それでも難なく落とすことが出来た。
追撃の刃も鎚を支えにしての器用なバク転で躱し、壁に当てる。


(゚、゚トソン「修復、完了です」


だが、その隙はトソンにとって、状況を立て直すには充分な時間であったようだ。
ヒートが渾身の力で与えた壁のヒビが、呆気なく元に戻ってしまっている。

23 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/06/13(水) 21:32:14.28 ID:dIQaqijs0
(;・∀・)「くっ! なら僕が!」


モララーは手に持っていた拳銃―――“デザート・イーグル”を両手でしっかりと握りこみ、構える。


(;・∀・)「当たれっ!!」


そして、発砲。
銃口から放たれた50AE弾は、白い壁の一点―――先程修復されたばかりの部位を穿った。



モララーが狙っていた、まさにその箇所にヒットした。
が、白い壁は、弾丸を先へと行かせることを拒む。
その弾丸が得た成果は、薄らぼんやりと見える程度の傷を与えるモノであった。


(゚、゚トソン「これなら治す程でも無いですが……。まあ、一応」


弾丸が当たった部分をトソンが一瞥すると、それだけで傷は消滅した。
彼女にとってはモララーの攻撃など、目線ひとつで事足りるようだった。

24 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/06/13(水) 21:35:10.48 ID:dIQaqijs0
(;・∀・) (突破できない……。あの一瞬で完璧にダメージを修復できるのか……。
       そもそも、僕のコレじゃパワー不足だ。
       50AE弾ですらあれだけっていうのなら、もうハンドガンじゃどうしようもない!)


小型の熊なら撃ち倒せる程の威力を持つ銃でも、まるで通用しない。
モララーは、『COLOR's』という集団が如何に常識から外れたところにいるのかを改めて思い知った。


(;−∀−) (拳銃の他の手持ちは、室内用手榴弾が二つだけ……。これでもあの壁は壊せないだろうな。
       あぁ、師匠からロケットランチャー借りとけば良かったなぁ……。それでどうにかできるかは判らないけど、無いよりはマシだった筈)


ロケットランチャーとヒートの一撃を上手く連続で当てれば、あるいは破壊できたのかもしれないが、
今は無い物ねだりをしても仕方がない、とモララーは他の方法を思案する。

しかし、敵は守りを固めているだけではない。
トソンの眼が、モララーをはっきりと捉えた。


(゚、゚トソン「前に出てくるなら、撃退します」


新たに産み出された二つの白板が、今度はモララーをターゲットにした。
刃物並みの鋭さを持つそれが、彼の体を切り裂こうと襲い来る。

25 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/06/13(水) 21:38:57.14 ID:dIQaqijs0
(;・∀・)「! でも、このスピードなら!」


モララーはデザート・イーグルを構え直し、二度、連続で発砲する。
放たれた二つの弾丸は見事、白板の中心をそれぞれ射抜くことに成功した。

だが、


(゚、゚トソン「それでは駄目ですよ」


粉々になった白板は、やはり無数の刃と化してモララーに反撃を仕掛ける。


(;・∀・)「うわっ!」


例えるならショットガンか。
多数の破片、しかも一つ一つが軽量化した為に、元の白板よりスピードが増している。

点の攻撃しか出来ない拳銃で全てを撃ち落とすのは、不可能だ。

26 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/06/13(水) 21:41:14.93 ID:dIQaqijs0
ノパ听)「モララーさん!」


モララーの危機に、ヒートが駆けつける。
彼女は素早くモララーの前に躍り出て、彼に向かって飛んできた刃を鎚で弾き落とした。


ノハ;-听)「っ!」


しかし、無理に割り込んだせいか、その全てに対応することは出来なかった。
刃の一つが彼女の左腕を撫でる。鮮血が飛び散った。


(;・∀・)「! ヒートちゃ―――!」

ノパ听)「モララーさん、下がっていてください!」


自分のミスで怪我を負わせてしまった―――。
モララーは堪らずヒートの元へ駆けつけようとしたが、
ヒートが左の掌をモララーに向けて制した為に、彼の足は止まってしまった。

ポタリ、と血が落ち、床に斑点を作る。

28 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/06/13(水) 21:45:08.09 ID:dIQaqijs0
ノパ听)「モララーさんの拳銃では、トソンさんの能力と相性が悪すぎます。ここは私が決着をつけます」

(;・∀・)「で、でも、君一人じゃ、あの壁は……」


壊せない。
モララーはそう思ったからこその加勢であったのだが、しかしヒートは首を横に振る。

              ヒノカグツチ
ノパ听)「大丈夫。私の【火之楽鎚】は、まだ先がありますから」

(;・∀・)「…………っ」


「じゃあ僕も手伝うから」、と。
モララーは言うことが出来なかった。

今のモララーにはヒートの力になれることは無く、それどころか足手まといなだけである、
というのが先程の攻防によって明らかになってしまったからだ。

「きっと彼女―――ヒートは、僕の身が危険に晒される度に僕を助け、その度に傷付いていくのだろう」
モララーはそう思った。だからこそ、協力を申し出ることは出来なかった。

29 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/06/13(水) 21:48:11.46 ID:dIQaqijs0
( ・∀・) (僕は……、また……)


何も出来ないのか。置物のごとく、ぼうっと突っ立って護られているだけなのか。



以前、悔しい思いをした。
ギコや、クー。自分の仲間。ちょっとダメなところもあるが、それでも自分の大好きな、仲間。
彼らの力になれないことを、モララーはずっと気に病んでいた。

二人は、そんなことをまるで気にしていないだろう。
だがモララーはずっと悩んでいた。自分は彼らの仲間であると、胸を張ることが出来ないでいたのだ。

だからモララーはショボンの元で、戦闘のイロハを学んだ。
その訓練は激しいモノであったが、苦にはならなかった。
彼にとっては、仲間の力になれない方が、よほど辛かった。



初めから、一対一で勝てるようになりたいだなんて思い上がっていなかった。
ただ、仲間のサポートが出来る程度には、強くなりたかった。





それすらも、駄目なのか。
それすらも、思い上がりだと言うのか。

31 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/06/13(水) 21:51:08.61 ID:dIQaqijs0
今、彼の横には、彼の新しい仲間であるヒートがいる。
彼女は、モララーを助けるために、怪我をしてしまった。




(;−∀−) (僕は、何をしている……。いや、何をしていた―――)




次々に溢れてくる感情は。
彼の心の許容量を遥かに越えて、全身の隅々まで埋め尽くしていった。




(゚、゚トソン「上」


今までヒートとモララー、二人のやり取りを静観していたトソンであったが、唐突にその口を開いた。


(゚、゚トソン「まだ上がある、と。そう、おっしゃいましたね」


先程のヒートの発言のことを言っているのだろう。

32 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/06/13(水) 21:54:16.27 ID:dIQaqijs0
トソンは言葉を続けた。


(゚、゚トソン「今しがた、ヒートさん、貴女の攻撃を防いだ私の、この壁。
                  ファランクス
     便宜上、私はコレを《過密装甲》と呼んでいるのですが。
     例え貴女の奥の手が、いかに強力なモノであっても、
     私の《過密装甲》は耐えきる自信はあります」


彼女は腕を前に伸ばし、杖を掲げた。
杖の先端部にある八面体の水晶が、白く、そして淡く光り始める。


(゚、゚トソン「ですが、油断大敵、とも言います。
     勝利の確率を上げることが出来るのであれば、積極的にそうすべき、です」


次にトソンは杖を動かした。
白い光は残光となって軌跡を保存する。

キャンパスに筆を走らせるようにして描かれたその残光の軌跡は、魔方陣と思われる紋様を浮かび上がらせた。

33 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/06/13(水) 21:57:24.70 ID:dIQaqijs0
(゚、゚トソン「故に」


魔方陣を描き終えた。
その瞬間、魔方陣から強烈な光が発せられ、瞬く間に部屋中を白く染め上げる。


(;−∀・)「!?」


思わず眼を閉じてしまう。
それは一秒にも満たない間だった。
しかし、彼が眼を開けた時には既に。


(;・∀・)「なっ!」

ノハ;゚听)「…………っ!」


モララーとヒートの周り、四方八方に、先程から彼らに襲いかかってきていた白板が所狭しと配置され、宙を漂っていた。



その数、およそ五十。

35 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/06/13(水) 22:01:00.67 ID:dIQaqijs0
       レウカス・マーチ
(゚、゚トソン「《白楯軍進》。非力さは数でカバーします。それでは―――」


トソンは左腕―――すなわち杖を持っていない空手の方の腕を前に伸ばす。
そのしなやかな指の先は、ヒートに向けられている。


ノハ;゚听)「っ! モララーさん! 絶対に前に出ないように!」

(゚、゚トソン「―――出陣」


ヒートの警告の声。
それと同時に宙に浮かんでいた白板が一斉に回転を始め、動き出した。


(;・∀・)「ヒートちゃん!!」


モララーの叫びを尻目に戦いは幕を開けた。
かたや一戦士。もう一方は軍隊。



それは、圧倒的な戦力差であった。

――――――――――――――――――――
――――――――――
―――――

36 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/06/13(水) 22:04:47.60 ID:dIQaqijs0



数刻後。回想終了の現在。




ノハ;ナ听)「はぁっ……、はぁっ……!」


満身創痍。
誰しもが知っていて、しかし普段は使われることは無いこの言葉は、
今まさにこれ以上は有り得ないというタイミングで彼女に当てはまった。

紅い。ヒートの全身が紅い。
それはヒートが操る炎の紅ではなく、ましてや比喩表現でもなんでもない。

血。血の紅だ。ヒート自身の、血。


(゚、゚トソン


ヒートと闘っている―――いや、これは闘いではない、存分に彼女を蹂躙している、が正しい。
その彼女を蹂躙しているトソンの体には、傷は一切無い。

その肌は、どこまでも白く透き通っている。

37 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/06/13(水) 22:08:01.22 ID:dIQaqijs0
ノハ;ナ听)「っ!!」


息をつく暇もなく、立て続けに白板が飛来してくる。
ヒートがそれらに対して許される行為は、一つ一つ丁寧に、それでいて迅速に叩き落としていくことだけだ。

例え白板に触れることなく身をよじって躱したとしても、白板はブーメランのごとく舞い戻ってくる。
それは多数の刃へと生まれ変わった後でも、同様の追尾機能が設定されていた。

一度二度なら躱せるかもしれない。しかしそれは、ただのその場しのぎだ。
いつかは必ず追い詰められてしまう。

それに白板は逐一補給されている。
どのみち手当たり次第に壊していかなければ、やがて部屋中が白板で埋められて手詰まりになるのだ。



だから壊す。二度叩き落とす。
そうしなければいけない。致命傷になるから。

ただ、それが完璧な対応かと問われれば、きっと違うのだろう。

白板の量が多すぎるのだ。
たった一人、二本の腕で対応しきれるモノではない。

結果、躱しきれず致命的ではない傷を負ってしまう。致命的ではない傷が増えていく。



致命的ではない傷が重なって、致命傷へと、近付いていく。

38 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/06/13(水) 22:10:21.65 ID:dIQaqijs0
(゚、゚トソン「時間の問題ですね」


トソンは至極、機械的にそう呟く。
しかしそこに油断の色は見えない。壁に守られ、安全地帯に身を置いていても尚、
注意深くヒートの動きを眼で追っている。


ノハナ听)「っ、いいえ、まだです。私を倒すには、この程度ではまだまだっ!!」


確かに、全身の至るところに切り傷があるヒートではあるが、まだ充分に動けている。
一つ一つの傷はそれほど深くはないため、見た目ほど酷い状況ではない。



だがしかし、それもトソンの言を借りれば「時間の問題」であるのだが。


ノハナ听)「んっ!」


ヒートが白板や欠片の刃を落としていく。
そして一瞬の隙が出来たタイミングを見計らって、

      エングン
ノハナ听)「《炎群》っ!」


複数の火の玉をトソン目掛けて撃ち出す。

39 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/06/13(水) 22:13:07.45 ID:dIQaqijs0
しかし。


(゚、゚トソン「足りませんよ、出力が」

      ファランクス
トソンの《過密装甲》に容易く阻まれる。
火の玉は少しずつ小さくなりながら天井近くまで舞い上がり、陽炎のごとく消滅した。


(゚、゚トソン「あの程度で破れるような壁では無いことは、身をもって知っているはずでしょう?」


トソンの言葉には、僅かにだが棘が含まれている。


ノハナ听)「さあて、どうでしょう? 挑戦しないまま諦めるのは嫌なんです、私」

(゚、゚トソン「……貴女の踏み込みの良さは認めますが、前を見ずに走るのは止めておいた方が賢明ですよ?」


会話中にも白板は次々と生成されている。
そして間断なくそれらは襲い掛かってくる。着実にヒートの体力は減少し続けていた。

41 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/06/13(水) 22:16:11.75 ID:dIQaqijs0
(;・∀・)「…………っ」


モララーはその光景を歯噛みしながら見ていた。
ヒートとトソンから一歩退いているせいか、彼の元に白板はやって来ない。

しかし少しでも行動を移せば、直ぐに彼にも飛んでくるだろう。
蛇に睨まれた蛙のように、彼は動くことが出来ない。


(;−∀−) (なんでこの脚は止まっているんだ! 結局は痛いのが怖いんじゃないのか!?
       役に立たないというのなら、せめて僕がヒートちゃんの盾になるべきなんじゃないのか!?
       一瞬でも隙を作ればヒートちゃんは次こそあの白い壁を突破するのかもしれない!)


(;−∀−) (…………)


(;−∀−) (いや、違う……。自棄になるな。それは駄目だ。彼女は……そうじゃない。
       彼女は、優しい子だ。優しすぎる。もし僕が犠牲になれば、彼女の動きは止まる。
       僕を……、弱い人間を、助けようとする。そうなれば、この戦いは負けだ)


(;−∀−) (彼女とは……、ヒートちゃんとは、まだ、知り合ってそんなに経ってないけど……。
       それでも、判る。理解してる。してる、つもりだ。ヒートちゃんは……、とても、良い子なんだ)


(;−∀−) (だからこそ。だからこそだ! だからこそ、僕は彼女を支えてあげたい! 彼女の仲間として、隣に立ちたいんだ!
       考えろ、考えろ、考えろっっ……! 僕が今、出来ることはなんだ!?
       僕が今、やらなきゃいけないことは一体なんなんだ!?)

43 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/06/13(水) 22:19:17.69 ID:dIQaqijs0
存在意義。
ここにいる理由。
自分の役割。


(;−∀−) (なにが出来るっ!?)


仲間。

ギコ。
クー。
ヒート。

助けたい。
力になりたい。


(;−∀−) (どうすれば、いい!?)


強さへの渇望。
現実が示す絶望。


(;−∀−) (なにも……出来ないのかよ! 僕は!)


泡のように浮かんでは消えていく様々な想いは、彼の体を渦に巻き、反転させる。

45 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/06/13(水) 22:22:12.18 ID:dIQaqijs0
(;−∀−) (なにも……出来ない……。なにも……)


手を限界まで伸ばしても何も掴めない、そんな無力感。


(;−∀−) (銃の扱い方、必死になって覚えた。でも、僕は今、なにも出来ない)


必死?
それは本当に必死と呼べるモノであったのだろうか。
自らが積み上げてきた力。努力。今の状況においては懐疑的に見えてしまう。


(;−∀−) (所詮は、僕なんて、自分の危機が判るだけの、只の―――)



( ・∀・)



ふと、あることに気付く。いや、『とある事象に辿り着く』。

48 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/06/13(水) 22:25:11.62 ID:dIQaqijs0
( ・∀・) (危機が……判る……)


【危険察知】。
彼が持つ、唯一の“非凡”な才能。


( ・∀・) (僕には、自分に迫ってくる危険が、事前に判る。なんでかは判らないけれど、
       そんな力を持っている。そう、“力”を、持っている……)


危険が事前に判ってしまえば、怪我を負うことはない。
すなわち“鉄壁”であるということだ。



彼の前に立ちはだかっている、トソンと同様に。


( ・∀・) (危険な箇所が判る。自身の危険が判るっていうのなら……)


長所は裏返せば短所となる。
ならば、トソンと同質の力を持つモララーであれば。

49 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/06/13(水) 22:28:14.22 ID:dIQaqijs0










( ・∀・) (相手の危険箇所、すなわち『相手の弱点を見つける』ことが可能なんじゃないのか?)





『その力を裏返してみれば』、彼女に対する決定的な一打となりえるのかもしれない。








50 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/06/13(水) 22:31:08.35 ID:dIQaqijs0
だが、事はそんなに単純な話でもない。


( ・∀・) (……でも、今までそんなの見えたことは無い。見つけることは、本当に出来るのか?)


迷い。
しかし。


( ・∀・) (いや、違う。出来ないかも、じゃ駄目だ。『出来なければならない』。今、理解した。僕がこの先、皆のとなりに立つには……)


モララーは一人、頷く。
彼の瞳に、堅固な意思が宿る。


( ・∀・)「この力を使いこなすことが、不可欠だ」


モララーは再び眼を閉じた。
先程のような、己から背く為のモノではなく、己と向き合う、その為に。

52 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/06/13(水) 22:34:05.84 ID:dIQaqijs0
( −∀−) (なら、イメージしろ。今までこの力に振り回されていた自分を払拭。力を支配下に置く、強い自分をイメージするんだ)


自信を抱くこと。
今の位置より一歩進むためにはそれが必要だと、モララーは直感的に知った。


( −∀−) (足手まとい。役立たず。貧弱。劣等感。それが現実。ありのままの事実。それなら―――)


自分は、弱い。
それは今更変えられない事。
ただ、それでも。


( ・∀・) (せめて、気持ちだけは強くなれ! ハリボテでも、やせ我慢でも、なんだっていい!)


苦悩するほどに膨れ上がったこの想いだけは。
それだけは、絶対に―――。

53 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/06/13(水) 22:37:08.33 ID:dIQaqijs0










(#・∀・)「心だけは―――負けてたまるもんかよぉっっ!!!!」




強い、と。
自信を持って、答えられるから―――。











55 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/06/13(水) 22:40:11.86 ID:dIQaqijs0
ノハナ听)  「!」  (゚、゚トソン


攻防を続けていたヒートとトソンはモララーの雄叫びに反応し、彼の方に振り向く。
二人の目に映る彼の姿は、今までとは何処か違って見えた。


(#・∀・)


(゚、゚トソン (なんでしょう? 彼の雰囲気が変わった?)


……彼にも白板を飛ばすべきだろうか。
トソンは、モララーに対する警戒のレベルを上げるべきかどうかを思案するが。


ノハナ听)「っ!」

(゚、゚トソン「おっと!」


ヒートがエネルギーの“溜め”を作っていたのに気付き、慌てて白板を飛ばせてそれを阻止する。
“溜め”から産まれるのは必殺の一撃だ。防げなくはないものの、撃たせないに越したことはない。

反撃のチャンスを妨害されたヒートは、それでも腐ることなく丁寧に白板を処理していく。

57 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/06/13(水) 22:44:01.73 ID:dIQaqijs0
(゚、゚トソン (……彼の方が気になりますが、ヒートさんに掛かりっきりになってしまいましたね。
     圧倒していた筈なのに、いつの間にか私が抑えられている形になってしまっている……。
     火力が無さすぎるのも考えもの、ですか)


自分の非力さが恨めしい。
ただ、それは防御に特化した結果であるのだから、やはりそう感じてしまうのは強欲なのだろう、とトソンは思う。

私は、盾であればいい。
あの人を護る盾であれば、と。


(゚、゚トソン (ま、いいでしょう。彼が私に対し、何か出来る可能性はかなり低い。
                 ファランクス
     彼の拳銃で、私の《過密装甲》を破るのはまず無理です)


トソンはそう結論付け、再びヒートの対応に集中した。
今でこそヒートは問題なく動けているようだが、おそらく五分は持たないだろう。
全身から溢れる出血が激しい動きによって更に加速し、残り体力を無慈悲に奪っていくのだから。


(#・∀・) (……また、ヒートちゃんに助けてもらっちゃったな)


かくしてモララーは、攻撃を受けることを回避できた。
これで、彼は今から為そうとしている“進化”に専念できる。

58 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/06/13(水) 22:48:12.64 ID:dIQaqijs0
(#・∀・) (でも、次は……! 僕が、彼女の力になるんだ!)


想いを込めて、見る。
眼を見開き、呼吸すらも惜しむほどに、ただ前を見続ける。


(;・∀・) (くっ……。だってのに、全然見えない! そりゃ、見えないモノを見ようとしてるんだから、当たり前なんだけど……)


僅かに焦りが浮かぶ。
手間取れば手間取る分だけ、彼女が、ヒートが傷付いていく。自分を護る為に。


(;・∀・) (いや、見える。落ち着け。焦りは周りを濁らせる。そう、僕ならきっと見える筈なんだ。
       僕はただ、その方法を知らないだけ……)


探る。
最善の手は、何かを。


(;・∀・) (……眼だけに頼っちゃ駄目だ。視覚だけじゃなくて、聴覚、嗅覚、触覚、味覚。五感の総てをセンサーにする)


野生の動物が捕食者から逃れようとする際、眼で見て初めて敵の存在に気付く、という状況になれば、ほぼ手遅れであると言ってもよい。
何故ならこちらが相手を見ているということは、同時に相手もこちらを見ている可能性が高いからだ。

だから彼らは眼ではなく耳や鼻、すなわち全身のあらゆる器官を使って、捕食者が彼らに気付く前に捕食者の接近を察知する。
この能力は、同じ野生の動物でも、捕食者に狙われる者、つまり被捕食者に当たる動物らが特に優れている。

59 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/06/13(水) 22:51:12.79 ID:dIQaqijs0
(;・∀・) (僕は力の弱い、被捕食者。捕食者から狩られる側……。ならば、僕のすべきことは全身で狩人を感知すること!)


モララーがイメージしたのは血液の循環。
血液は心臓から送り出されて管を通り、身体中を巡りめぐってまた心臓へ戻る。

サイクル。
五つの感覚器官を纏めあげ、一へ帰す。


(;・∀・) (五感で道を造り……、第六感で扉を開くっ!)


一となった五感を練り上げるのは、モララーの、彼の手だ。


(;・∀・) (探れっ! 道を! かき集めろ! ありとあらゆる情報の欠片を!)


押し込むようにして纏めたそれらは反発しあい、散り散りになろうとする。
それを抑え込み、在るべき形を練り上げる。


(;・∀・) (広大無辺な銀河の果てから、たった一つの命を掬い上げる……!! 僕なら、その命の輝きを、見逃さないっ!!)

61 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/06/13(水) 22:55:38.23 ID:dIQaqijs0
産まれる命は、鍵だ。
扉の先に、モララーが望む答えがある。

構築する。
いや、想像する。創造する。さながら錬金術のように。


(;・∀・) (っく…………、ううっ…………!)


能が軋む。
揃えられた情報が多すぎる。
だがあと少しだ。
光輝く形成物が、彼の眼底を照らしている。


(;・∀・)「っ…………は、ぁ…………!」


声が漏れる。
もはや音ですら、今の彼には重荷になる。
必要なモノ以外は、すべて体外へ。


(;−∀・)「ぁぐ……っ、あ、あ、あ……っ!」


鍵が完成した。
しかし気を抜けばすぐにも霧散しそうな程に、それは儚い。
もう鍵を抑えるのも限界だ。急がねば。

62 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/06/13(水) 22:58:07.67 ID:dIQaqijs0
(# ∀ )「ぁ、ぁぁああああああああああああああああああああああ!!!!!」





手を伸ばして鍵を掴む。
ほうほうの体になりつつも、鍵を穴に差し込んだ。












―――“解錠”。




64 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/06/13(水) 23:01:12.03 ID:dIQaqijs0
(゚、゚トソン「!!」


トソンの体が、一瞬のみ硬直を余儀なくされた。

それは、モララーの悲鳴に近い叫びによって。
そしてもう一つ。肩を落とし、首をダラリと垂らして沈黙をする彼から、先程の違和感とは段違いに濃厚な異常が読み取れるからだ。


(゚、゚トソン (これは、不味い!? 止めなければ!)


実際のところ、トソンはモララーに対し、意図的に攻撃を控えていた。
多少特殊な能力を持っているとはいえ、こと戦闘力においては一般人並みであろう彼に手を出すのは、彼女としても憚られたからである。
故に、彼への攻撃は、あくまでも牽制程度に留めておいたのだが。

自分の驕りと甘さに苦渋の顔を覗かせながら、トソンは彼に白板を飛ばそうと左腕を前に伸ばす。



それと同時。
俯いたままの姿で、モララーの右腕も前に伸ばされた。




(  ∀ )「―――見えた」

66 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/06/13(水) 23:04:06.46 ID:dIQaqijs0
彼の手には拳銃。
その銃口はトソンに向けられている。


(゚、゚;トソン (むう…………)


トソンの手が、止まる。
         ファランクス
拳銃ごときで《過密装甲》は突破できない。それは判ってる。
ただ、今のモララーからは、そんな理屈など問答無用で排除してしまいそうな凄みが感じられた。


ノハナ听)「モララーさん!」


ヒートがモララーの前に立つ。
トソンと彼との間に入り、彼の盾になる為に。


ノハナ听)「モララーさん! 危険です! 下がっていてください!」

(  ∀ )「ヒートちゃん。ごめん、そこを退いてくれないかな? 狙えないんだ」


譲らない。
今の彼には、確固とした意志があった。

68 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/06/13(水) 23:06:13.79 ID:dIQaqijs0
ノハナ听)「ダメです! 彼女は貴方の手に負える相手では!」

(  ∀ )「うん、そうだね。僕じゃ勝てない。どうあがいても」

ノハナ听)「だったら!」


何故、と。
そう言葉を繋げようとしたヒートは、息を飲んだ。





( ・∀・)「だから、二人で勝とう。彼女に。僕とキミの、二人で」





ノハナ听)「―――!」

70 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/06/13(水) 23:11:54.16 ID:dIQaqijs0
モララーが顔を上げた。
その顔は、その眼は。


( ・∀・)


彼女が護ろうとしていた、“力無き人達”のそれでは無かった。


ノハナ听)「モララーさん、貴方は―――」


問おうとした言葉を、


ノハナ-)「…………」


留め、


ノハナ听)「無茶しないで、下さいよ?」

( ・∀・)「うん。でも頑張る。君と同じくらいには、ね」


彼と共に戦うことを、彼女は心中で誓った。

72 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/06/13(水) 23:14:18.44 ID:dIQaqijs0
( ・∀・)「さて、それじゃヒートちゃん。準備を頼むよ」

ノハナ听)「モララーさん?」


準備を頼む、とモララーは言った。
それが指す意味は、《フルドライブ》の先を行く、ヒートの“切り札”のことであろう。
それを撃つ準備をしろ。そうモララーは言っているのだ。

ただ、問題は如何にしてトソンの隙を突くのか、だ。
先程からヒートは何度も“切り札”を撃とうとしていた。
しかし“切り札”には溜めが必要であり、それをトソンは許してくれなかった。
        レウカス・マーチ
モララーでは《白楯軍進》を食い止めることは出来ない。
必壊の一打を当てる、その策とは、一体。


( ・∀・)「ゆっくり説明してる暇はないから……」

(゚、゚トソン「っ! みすみすチャンスを与える訳にはっ!」


トソンが動く。無数の白板がモララーとヒートの元へ襲い掛かる。

73 名前: ◆KrvshEaXS2[>>71 13話からが良いかも] 投稿日:2012/06/13(水) 23:18:50.37 ID:dIQaqijs0
( ・∀・)「後は、任せたよ」


そう言うやいなや、モララーはヒートの前に躍り出て、ポケットから何かを取り出し、それを白板へ投げつけた。



次の瞬間、爆発。


(゚、゚トソン「くっ! 手榴弾ですか!?」


モララーは手持ちの手榴弾を起爆させた。
室内用にカスタマイズされていたので威力はヒートの《フルドライブ》よりも数段劣るが、それでも白板を一掃するには充分だ。

モララーは横っ飛びで爆発から逃れ、回転しながら受け身を取り、膝をついて体勢を固定させ、


(#・∀・)「その壁の弱点! 脆い部分はもう、僕には見えているんだ! 此処だァ!!」


発砲した。

75 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/06/13(水) 23:21:39.80 ID:dIQaqijs0
(゚、゚;トソン「―――!」

                              ファランクス
拳銃から放たれた弾丸は、認知できない速度で《過密装甲》の一点にヒットする。

発砲音と衝突音。
二つの音が、まるで一つの音のように連結して部屋に響く。

モララーが決死の思いを込めて撃った銃弾。
その銃弾は跳弾し、天井に穴を開ける。



《過密装甲》は、銃弾が当たったと思われる箇所に僅かな傷を残しただけだった。





そう、《過密装甲》はモララーの銃弾をまるで意に介さなかった。

77 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/06/13(水) 23:24:15.22 ID:dIQaqijs0
(゚、゚;トソン「―――フ、」


彼女の口から空気が漏れる。
思わず、漏れてしまう。

                    ファランクス
(゚、゚;トソン「当然、ですよね。私の《過密装甲》は、あんなちっぽけな弾で突破することは出来ない! 出来る筈がない!
     例えそれが貴方の言う“脆い部分”であったとしても! こんな結果は判りきっていたことです!
     それなのにモララー君、貴方は何故!?」


普段の、寒気すら感じさせる程に冷徹な彼女にしては、珍しく声を張り上げている。
その心境とは、如何なモノか。


( ・∀・)「……そうですね。僕のコレじゃ、かすり傷を負わすのが精一杯だ。それはさっき確かめた」


逆に、モララーは落ち着いている。
その顔に失敗の色は見えない。
彼の余裕が、尚更トソンの心を惑わせる。

78 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/06/13(水) 23:27:14.08 ID:dIQaqijs0
(゚、゚#トソン「判っているなら!」


その目的は。
だがしかし、もうトソンも気付いている。彼は何かを『成功させた』。
しかし答えが判らない。だから、聞いた。


( ・∀・)「そう―――」


真実。
モララーの狙いは―――。







( ・∀・)「『傷をつけられたら、それで良かったんですよ。目印になれば』」




80 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/06/13(水) 23:30:08.12 ID:dIQaqijs0
(゚、゚トソン「―――めじ、るし?」


目印?
一体なにの?


(#・∀・)「ヒートちゃん! 今だっ!! “そこ”を狙うんだァッ!!!」

ノハナ听)「ッッ!!」


モララーの怒号。
その声に爆発的な反応を見せて、ヒートが動いた。


ノハ#ナ听)「っあああああ!!!」


ヒートは鎚を高く掲げ叫ぶ。
巨大なエネルギーのうねりが彼女の鎚を中心として巻き上がっていく。

狙いは、モララーが付けた傷。
           ファランクス
彼が指し示した《過密装甲》のウィークポイント。
そこに、ヒートの最大火力をぶち込めば。

81 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/06/13(水) 23:33:13.06 ID:dIQaqijs0
(゚、゚#トソン「〜〜〜〜〜〜ッッ!! させませんっ!!」


トソンは現状を完璧に把握した。
気付いたのは遅かったが、そこから先、無駄は一切無かった。

       レウカス・マーチ
(゚、゚#トソン「《白楯軍進》!!」


白板の群れがヒートをターゲットに捉える。
このままでは、ヒートの攻撃よりも速く、ヒートは全身を切り刻まれてしまうだろう。


ノハ;ナ听) (やっぱり隙がっ……!)


しかし、同時に一つの影がヒートの前に飛び出してくる。


(#・∀・)「させないっ!!」

82 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/06/13(水) 23:36:07.29 ID:dIQaqijs0
ノハ;ナ听)「えっ!?」


モララーだ。
彼はヒートの壁となるべく前へ飛び出した。
上着を脱ぎ、少しでもダメージを減らすためにそれを盾にして、自ら白板の中へ突入していった。



当然、その程度の布で防ぎきれる訳もない。
白板は、モララーの全身を容赦なく蹂躙していった。


(; ∀・)「―――!!」

ノハ;ナ听)「モララーさん!!!」


その場に崩れ落ちていくモララー。

84 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/06/13(水) 23:39:07.16 ID:dIQaqijs0
ヒートは彼を支えるために、脚を前に出そうとする。


(# ∀・)「ヒートぉ!!! 『ヒート=レッドハート』ッ!!!!」

ノハ;ナ听)「っ!!?」


が、止まった。止められた。
倒れながらも彼女の名を叫んだモララーの声によって。


(# ∀・)「今だっ! キミの一撃を、決めるんだぁぁぁぁぁっ!!!!!」


そう。
彼が身を挺して産み出したこのチャンスに、二度目は無い。


ノハ;ナ听)「―――」


彼の眼、そして声。
“強い”彼の行動の一つ一つが、ヒートの背中を押してくる。


ノハ#ナ听)「っ、うあああああああああああああああっっ!!!!」


ヒートは、モララーを助ける為に踏み出したその一歩を、攻めの踏み込みに変えた。

86 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/06/13(水) 23:42:53.98 ID:dIQaqijs0
ノハ#ナ听)「オオオオオオオッッ!!!!」


掲げていた鎚を固定したまま、跳躍する。
鎚の先は天井スレスレの位置に届いた。



ヒートは、仕込んでいた。
                     ファランクス
己の限界を超える為に。トソンの《過密装甲》を打ち砕く為に。
                   エングン
ヒートは《過密装甲》に向かって《炎群》を何度も叩き込んでいた。
しかし《炎群》は堅固すぎる壁によって、その都度弾かれていた。

だが、それで良かった。
ヒートは壁を砕くために《炎群》を撃っていたのではない。
《炎群》が弾かれ、消滅する際に現れる“モノ”―――。これを造る為に繰り返し放っていたのだ。



その造られていたモノとは、『可燃性の気体』―――すなわち、“ガス”だ。



ヒートの鎚が、天井に充満していたガスに火を着ける。

87 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/06/13(水) 23:46:17.29 ID:dIQaqijs0
       ダイエングン
ノハ#ナ听)「《大・炎群》ッ!!!」


天井が豪炎の海と化す。
肉体が昇華してしまうかと、その炎を見た者が錯覚する程の光量と熱量が部屋中を支配した。


(゚、゚;トソン「!!」

ノハ#ナ听)「集まれッ!! 我が信念の糧となれッ!!」

                                                         ヒノカグツチ
拡散してしまえば、この工場内のあらゆる部屋を瞬く間に焼き尽くすであろう炎全てを、ヒートは【火之楽鎚】に吸い込ませた。
【火之楽鎚】は自らの許容範囲を超える熱量が与えられたことで、一回り肥大している。



ヒートの髪が真紅に染まりきっている。その姿はまさしく、炎そのものであった。


ノハ#ナ听)「我が力は原始の神! 悪意を燃やし、我欲を焦がし、邪を灰にする!! 刮目せよ! この一撃は―――」


柄を両手で握り、あらんかぎりの力を【火之楽鎚】に託す。


ノハ#ナ听)「メチャクチャ熱いぞォォォォォ!!!!」

88 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/06/13(水) 23:49:08.14 ID:dIQaqijs0
                ファランクス・エクセス
(゚、゚;トソン「出力全開ッ!! 《過重密装甲》ッッ!!!」

          ファランクス
トソンが咄嗟に《過密装甲》に強化をかける。
こうなれば最早、矛と盾の純粋な力比べだ。



意地と意地が、ぶつかり合った。




        ヒノカグツチ
ノハ#ナ听)「《火之楽鎚・オーバードライブ》ッッ!!!!!」





轟音が波紋へと変わり、部屋全体を揺るがした。



――――――――――――――――――――
――――――――――
―――――

90 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/06/13(水) 23:52:27.49 ID:dIQaqijs0



(;−∀−)「くっ…………、ぅ……、ううっ…………」


うずくまって、音と爆発から逃れようとしたモララーであったが、それでも体には相当なダメージを受けてしまった。
全身に受けた切り傷の痛みが無ければ、失神していたかもしれない。


(;−∀・)「は…………ぁ、か、壁
は……? どうなったんだ……?」


眼を閉じて横になりたい感情を堪えて、モララーは前を見る。
見届けなくてはいけない。この戦いの結末を。


( 、 トソン

ノハ )


止まっている。
ヒートとトソン、二人の体は止まっている。
二人の表情は、巻き上がった煙のせいでモララーからは見れない。


             ファランクス
そして、肝心の壁、《過密装甲》は―――。

92 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/06/13(水) 23:55:23.20 ID:dIQaqijs0
(;・∀・)「そん、な―――」


顕在していた。
ヒートの限界を超えた強大な一撃をもってしても、その壁は残っていた。



この勝負、盾の勝利―――。




(;・∀・)「―――いや! 違う、これはっ……!」


ピシリ、と。
氷が割れるような、大きな音が一つ。
その音と同時に、壁に斜めの亀裂が走った。

そのまま、音と亀裂は断続的に鳴り、走り、そして―――。


       ファランクス
一枚壁の《過密装甲》は、千の破片へと砕け散った。

94 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/06/13(水) 23:58:11.96 ID:dIQaqijs0
( 、 トソン「―――お見事」


張りつめた糸。
そのような緊迫した、だけれども先程までの彼女と変わらない様子で、トソンは声を発した。


( 、 トソン「この勝負……」


ただ、次に連なる言葉は、とても女性らしい、柔らかい雰囲気のそれであった。

トソンは、




(゚、゚トソン「―――しかしながら、私の勝ちです」



赤子をあやすかの如く、実に優しく自らの勝利を宣言した。

95 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/06/14(木) 00:02:35.89 ID:TASTKwe/0
(゚、゚トソン「不可侵を謳う城壁の条件。それは」


砕けた壁。
しかしその破片は地へ落ちず、今だ空を漂っている。


(゚、゚トソン「例え敵の決死の猛攻によって、その身を粉砕されたとしても」


やがてそれらの破片は皆、一律に動き出す。
破片の刃が鈍く光っている。


(゚、゚トソン「瓦礫の雨と化し、回避不可の兵器として敵を殲滅させる」


その千の切っ先は、全てヒートへ向けられている。

                  デス・キュロス
(゚、゚トソン「これが私の切り札、《無生入城》です」


トソンは杖の先を僅かに傾ける。
それだけで、千の刃はヒートに向かって射出された。


(゚、゚トソン「諦めないで下さい。上手く防御できれば、或いは生き延びることが可能かもしれません」

97 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/06/14(木) 00:05:16.51 ID:TASTKwe/0
降り注ぐ千刃。
這い寄る終焉。


ノハ )「諦めるな、か……」


しかし、その状況下にあっても、彼女は―――。


ノハ )「済まないが、私は“諦める”なんていう贅沢そうな言葉は―――」


“ヒート=レッドハート”という少女は―――。


ノハナ听)「知らないのさっ!!」


前に進むことを止めなかった。

一歩を大きく踏み出し、床を噛み砕くかのように脚で押し込んで加速。
真正面から全速力で突っ切った。

98 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/06/14(木) 00:07:54.49 ID:TASTKwe/0
(゚、゚;トソン「っ、馬鹿!」


思わず罵声を口にしてしまう。
ヒートのその行動は、まず真っ先に外さなくてはいけない選択肢なのだから。


(゚、゚;トソン (抜けるつもりですか!? 初めと同じ様に! あの時とは大きさも量も、当然密度も! 文字通り桁違いだというのに!)


無理だ。
いくら姿勢を低く、鎚を盾にしていても、確実に致死量の怪我を負う。

そんなことは見たら判る。
例えるなら、大時化の海をゴムボートで横断しようとする程に無茶な行為を、彼女は選んだのだ。


(゚、゚トソン「勇敢と無謀は違う……! そんな盲進は只の自殺です! 死にたいのなら死になさい!!」


もう刃の群れとヒートとの間隔は、ほとんど無い。
一秒後には、彼女は絶命しているだろう。

99 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/06/14(木) 00:10:10.86 ID:TASTKwe/0










( ・∀・)「違うよ、死なないさ。僕が死なせはしない」

(゚、゚トソン「―――ッ!?」




ヒートが死へ突入した、その瞬間。
モララーの銃口の照準は、既に定められていた。




101 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/06/14(木) 00:13:45.82 ID:TASTKwe/0
(#・∀・)「…………ッッ!!!」


一息で放たれる七発の銃弾。

それらの銃弾はヒートの後ろを疾走し、彼女の体スレスレを横切り、彼女の肉を裂いたであろう刃に衝突。
軌道を反らし、結果当たるはずの刃からヒートを護ることに成功する。
更に弾かれた刃は他の刃を巻き添えにして墜ちていく。そこまで計算された弾道であった。

それが七発。七発すべてが驚異的な精度でもって、ヒートに降りかかる刃の量を極端に減少させた。


(゚、゚;トソン「そんな……っ!!」


トソンは我が眼を疑った。
当然だ。銃の名手だとか、そのような次元の遥か上を行く行為を、モララーは『狙って』果たしたというのだ。


( ・∀・)「この銃で壁を貫くことは出来なかった。それでも、破片くらいなら弾くことは出来るでしょ。
       でも、上手くいって良かったよ」


“覚醒”―――。
モララーは、ヒートに致命傷を与える刃の“危険”を識別し、放たれた銃弾が描く軌道の“危険”を読み取ったのだ。

限界を越え、自身の能力を理解したモララーの立ち位置は、最早『COLOR's』の面々と引けを取らない所にまで至っていた。


( ・∀・)「今の僕は、とても良く見える」

102 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/06/14(木) 00:17:08.42 ID:TASTKwe/0
モララーの力に、モララーの成長に、トソンは身体中の血の気が引いていくのを感じた。


(゚、゚;トソン (勇敢でも……、ましてや無謀でもなかった!
     “信頼”っ……! ヒートさんは信じていたのか、モララー君の力を!)


誤算であった。
結局、トソンは侮っていたのだ。油断していた。
そして理解していなかった。トソンは、敵をヒート一人だと思っていた。



敵は二人いた。




(#・∀・)「決着だ! ヒートちゃん!!」

104 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/06/14(木) 00:20:23.06 ID:TASTKwe/0
ノハ#ナ听)「だああああああああああっっ!!!!」


残った刃の群れを、ヒートは強引に突き抜けた。
血飛沫が舞う。かなりの量の血液が体外に放たれる。
しかし、耐えられる。ヒートなら、立っていられる。

死地を過ぎて、ヒートの射程内にトソンを捉える。


(゚、゚;トソン「っ! しまっ―――!」

           ファランクス
トソンはもう一度《過密装甲》を展開しようとするが。


ノハ#ナ听)「遅いッッ!!!」


ヒートの鎚の方が速かった。
遠心力をフルに乗せた横薙ぎの一撃が、トソンの脇腹に重くのし掛かった。


( 、 ;トソン「!!!!」


無防備なその身に痛恨の一打が入る。
トソンの体は、爆発に近距離で巻き込まれたかの如く真横に吹き飛ばされた。
スピードが全く落ちる気配も無く、その勢いのまま壁に叩きつけられる。

105 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/06/14(木) 00:22:58.96 ID:TASTKwe/0
( 、 ;トソン「――――っ、ぁ―――」


受け身などは取りようもなかった。
壁にヒビを入れ、後頭部を強打した彼女は、壁に寄りかかりながらズルズルと倒れこみ、そのまま気を失った。


ノハ#ナ听)「この勝負ッ!」

      ヒノカグツチ
ヒートは【火之楽鎚】を振るい、天へ突き刺すように真っ直ぐ掲げ、


ノハ#ナ听)「私達の勝利だァーーーーッッ!!!」


吼えた。
勝ちどきだ。

107 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/06/14(木) 00:25:09.56 ID:TASTKwe/0










今、この瞬間。ヒートとモララー、二人の完全勝利が確定した。











108 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/06/14(木) 00:27:11.76 ID:TASTKwe/0
ノハ;ナ听)「っ…………!」


最後の力を振り絞ってトソンを打ち破ったヒート。
その傷だらけの体が、遂に悲鳴を上げる。
体を支える程の力も失ってしまった彼女は、その場に倒れこんでしまった。


(;・∀・)「ヒー―――! っ! くうっ……!」


モララーはヒートの元に駆けつけようとしたが、しかし彼とて軽傷ではない。
痛む傷口を押さえ、フラフラになりながら、それでも何とかヒートの近くまで寄った。


(;・∀・)「ひ、ヒートちゃん! しっかりするんだ!」


ヒートを抱きかかえ、体を揺さぶる。
ヒートは全身が己の血で染まっていたが、『COLOR's』の超人的な強化肉体のお陰で、出血そのものは既にほぼ止まっていた。

しかしそれでも、今の彼女の状態は危険だ。
瞳は閉じられ、モララーの呼び掛けにも応じない。

109 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/06/14(木) 00:30:12.23 ID:TASTKwe/0
(;・∀・)「ヒートちゃん! ヒートちゃん!!」


ひたすらに、彼女の名前を呼び続ける。
汗が流れ落ちる。嫌な予感が拭えない。


ノハナ )「―――、――――」


モララーの必死の呼び掛けが届いたのか。ヒートの体が僅かながら反応を見せた。
合わせて何事かを呟いたようだが、その声は掠れていたのでモララーは聞き取ることが出来なかった。


(;・∀・)「ヒートちゃん!? 気を取り戻したの!? 何て言ったの!?」


閉じられていたヒートの双眼が、ゆっくりと開かれた。彼女を抱きかかえているモララーと眼が合う。
目線はしっかりとモララーに向けられている。どうやら意識はハッキリしているようだ。

そしてヒートは口を開いた。
恐らくは先程口にした言葉と、同じモノを。


ノハナ听)「―――“ヒート”」

( ・∀・)「…………は?」


彼女がモララーに伝えた言葉は、彼女自身の名前であった。

111 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/06/14(木) 00:33:14.95 ID:TASTKwe/0
意図が掴めない言葉を唐突に投げ掛けられたモララーは、ポカンと口を半開きにし、呆気にとられている。

当のヒートは、そんな彼の疑問などお構いなしに、自分の気持ちを伝えた。


ノハナ听)「さっきも一度、“ヒート”って……呼んでくれたでしょ? “ちゃん”は付けなくていい、これからは。
     呼び捨ての方が、私は……、嬉しい、かも」

( ・∀・)「え? あ……」


モララー本人としては、あの呼び捨ては特別な意味を込めたモノではなかった。
ただただ無心に、実直に彼女へ想いをぶつけた結果だ。

もしかしたら、その飾り気の無い言葉が、彼女の心を揺り動かしたのかもしれない。


ノハナ听)「“ヒート”」

( ・∀・)「あ、う、うん。判ったよ。えーと、……ヒート?」


眼で訴えかけてくるヒートに、モララーはしどろもどろになりながらも、彼女の願いを叶えた。
なんだか、改めて呼ぶと気恥ずかしいな、と彼は思った。

112 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/06/14(木) 00:36:13.52 ID:TASTKwe/0
ノハナ竸)「………………良し」


“ヒート”と呼ばれた少女。
彼の口から放たれた自分の名前をゆっくりと飲み下すように受け取って、彼女は笑った。

その笑顔があまりにも輝いていたから、モララーはより一層に気恥ずかしさを覚えた。
彼女を抱き起こしている今の格好が、何かとんでもない状況なのでは、とも思い始めた。


ノハナ听)「あ、それと……モララーのことも呼び捨てで呼んでいいかな? あと、敬語じゃなくても」

( ・∀・)「あ、うん。それは全然いいんだけど……。でも何で急に、そんなことを?」


今は熾烈を極めた戦闘の直後。
命を落としていても不思議ではなかった先程までと、この現状は、どうにもアンバランスだ。


ノハナ听)「だって、私達は……仲間でしょ?」


“仲間”。
確かに、今までも彼らは、ヒートとモララーは仲間であった。
しかし、仲間というモノは言葉だけで決まる訳では無い。

共通の敵と肩を並べて立ち向かう。
その最中に、信念を通じ合わせる。
その過程が彼らを真の仲間へと導くのだ。

113 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/06/14(木) 00:39:19.68 ID:TASTKwe/0
この戦いで、二人は心で判り合えた。真の仲間となれた。
だからこそヒートは、今の想いを素直に伝えたのだ。
彼との間に隔たりを作らないように。もっと側に、居られるように。


( ・∀・)「ヒートちゃん……」

ノハナ听)「“ヒート”」

(;・∀・)「おっとと。ヒート」

ノハナ竸)「良し」


その白い歯を見せて、尚もヒートは笑った。
普段は落ち着いていたり凛々しかったりで実感は無かったが、彼女の今の笑顔は年相応のモノだなと、モララーは思う。


ノハナ听)「うん。取り敢えず、今言っておきたいことはそれだけ。まだ話したいことはあるけど……。それは、皆で帰ってからにしよう。
     あ、それと、もう一つ」

( ・∀・)「ん?」


どうやらヒートにはまだ、モララーに伝えたいことがあるようだ。
次々とまくし立てるように語りかけてくるヒートを微笑ましく感じながら、モララーは彼女の言葉を待った。


ノハナ竸)「ありがとう、モララー。キミのお陰で、私は勝てた」

114 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/06/14(木) 00:42:08.50 ID:TASTKwe/0
( ・∀・)「…………」


ヒートが口にした言葉は、感謝だった。
決して一人ではない、二人で手にした勝利。
礼を受け取ったモララーは、胸中がじんわりと満たされていくような気持ちになった。


ノハナ )「うん……、良し。これで良し、だ。それじゃあ……………………おやすみ」

(;・∀・)「っ! ヒート!?」


急に、ぐらりと、体の力が抜けてヒートは眼を閉じた。
モララーは慌てて彼女の顔を覗き込むが、そんな彼女からは微かに寝息が漏れていた。


(;・∀・)「ね、ねむっちゃっただけか……。ビックリしたぁ」


胸を撫で下ろす。
先程の会話でも異常は無かったようなので、単に極度の疲労から眠りに落ちてしまっただけなのだろう。

116 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/06/14(木) 00:45:27.14 ID:TASTKwe/0
( ・∀・)「…………」


モララーは、ヒートの頭を自分の太股の辺りに乗せる。
そして、彼女の頭を軽く撫でながら。


( ・∀・)「僕からも、ありがとう、ヒート。キミと一緒に戦ったからこそ、僕は大切な何かを見つけられた気がする」


ポツリ、と。
先程のお返しとして、彼の素直な気持ちを眠る彼女に伝えた。

118 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/06/14(木) 00:47:43.41 ID:TASTKwe/0
(;・∀・)「っ! いたた……」


体のあらゆるところが痛む。
ヒートとは違い、彼はごく普通の肉体だ。
出血はそう簡単には止まらない。とは言えそれほどの量は流れていないのだが。

あの時、ヒートの身代わりとして全身を切り裂かれた。
ただ、自らの“危険”を認識した上での行動だった為、出来うる限りダメージは抑えられた。
それでも、今から立ち上がって再び闘いに身を投じられる程の体力は残っていない。


( ・∀・) (ギコさん、クーさん、すみません。どうやら僕達は先へ進めそうにないです)


二人は、今どうしているのだろうか。
傷だらけになりながらも、それでも諦めずに戦っているのだろうか。


( ・∀・) (後は、任せます)


モララーは二人の無事を祈り、皆で笑って事務所に帰ることが出来るよう願いながら、その眼を閉じた。



――――――――――――――――――――
――――――――――
―――――

119 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/06/14(木) 00:50:12.48 ID:TASTKwe/0



ギコは、走っていた。
落とし穴によって地下に落とされ、そこで出逢ったジョルジュを倒したあと、残る敵を見つけ出す為にひたすら走り続けていた。


(,,゚Д゚)「あ〜〜……。見つからねえ」


しかし、誰とも逢うことは出来なかった。
この地下施設は部屋が乱立しており、さながらテーマパークの迷路に迷い混んだ様相となってしまっていた。


(,,゚Д゚)「こんなに部屋要らねえだろ……。VIPコーポレーションは予算の使い方ゼッテー間違ってんぞ」


愚痴を吐かずにはいられない。
時間を無駄に浪費している今の状況は、不安や焦りなどを産み出し、蓄積させていく。

要するに、ギコはイライラしていた。


(,,゚Д゚)「何だか同じところをグルグル回っている気がする……。ああもう、いっそ壁ぶち壊しながら真っ直ぐ進んでみるか?」


どうせ『COLOR's』を壊滅させるのだ。ちょっとアプローチの仕方が変わるだけさ。

そんなストレス解消法を思い付いたギコは、早速実行してみようと立ち止まる。

120 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/06/14(木) 00:53:14.79 ID:TASTKwe/0
その時。


(,,゚Д゚)「―――!」


ギコは、ハッキリと感じ取った。
この居心地の悪い感覚は……、“共感覚”とでも言えばいいのだろうか。


(,,゚Д゚) (いや、“同族嫌悪”の方がしっくりくるか)


いる。
すぐ近くに。
彼と、限りなく近しい存在のモノが。


(,,゚Д゚)「……ったく、ようやく見つけたぜ」


走った。力強く。

すぐそばの部屋に入り込む。
気配が増した。やはり間違いない。

その奥の部屋に押し入る。
近い。もう眼と鼻の先。ここだ。

121 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/06/14(木) 00:56:13.46 ID:TASTKwe/0
(#゚Д゚)「どぉぉりゃぁぁぁぁああ!!!!」


溢れだす激情を抑えきれず、ドアを蹴り壊して中に飛び込んだ。
部屋に入ったギコが、真っ先に目にしたモノは―――。


川;メ - )「ぐうっ!!」

(;゚Д゚)「っ! クー!!」


前方からギコの元へ吹き飛ばされてきた、クーの姿であった。
反射的にクーの体を受け止める。ギコはその衝撃で少し後ずさった。


ミ,,゚Д゚彡「…………」

(,,゚Д゚)「…………チッ!」


ギコが前を見ると、そこにはフサギコが立っていた。
ギコは一度強く睨み付けたが、すぐにクーの方へ視線を落とす。


(,,゚Д゚)「クー! 大丈夫か!?」

122 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/06/14(木) 00:59:07.91 ID:TASTKwe/0
川;メ゚ -゚)「つっ…………、ギ、ギコか……?」


クーが顔を上げ、ギコの存在に気付く。彼女の声はとても弱々しいモノであった。
全身が酷く傷ついている。恐らく何度も向かっていき、その度に迎撃され、それでも己に鞭を打って立ち上がり続けたのだろう。
クーの体を抱き締めるギコの手に、力が入る。


川;メ゚ -゚)「ギコ、下がっていろ……。奴は、私が―――」


フサギコとギコを戦わせたくないクーは、尚も戦闘を続行しようとする。
しかし体が痛むようで、なかなかその身を持ち上げることが出来ない。


(,,゚Д゚)「クー、もう良い。後は俺に任せろ」

川;メ゚ -゚)「だ、駄目だ。まだ私は―――」


ギコはクーを壁際に座らせ、持っていた彼の愛用している鎖を彼女に押し付けるように渡した。

123 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/06/14(木) 01:02:14.52 ID:TASTKwe/0
川;メ゚ -゚)「ギコ……?」

(,,゚Д゚)「コレ、預かっといてくれ」


ギコはクーに背を向け、前方を見る。
視線の先には―――。


ミ,,゚Д゚彡「遅かったな。よもやジョルジュ相手に手こずったと?」


フサギコがいる。


(,,゚Д゚)「言ってろ。今日限りでテメエとの因果をぶっちぎってやんよ」


ギコと、フサギコ。
血を分けた兄弟が、道を違えた兄弟が、今ここで向かい合った。

124 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/06/14(木) 01:05:15.09 ID:TASTKwe/0
ギコが前に出る。
フサギコが一歩遅れて前に進む。


(,,゚Д゚)「―――ッ」


歩を進めながら、ギコは髪と眼の色を“銀”に染める。


ミ,,゚Д゚彡「―――」


“金”の髪と眼をしたフサギコは、既に臨戦態勢だ。



そして二人は会話を交わすことなく至近距離まで近付き、歩みを止める。
お互いがお互いの眼を見ている。その数瞬の睨み合いの後に―――。




(#゚Д゚)「「ッッ!!!!!」」ミ゚Д゚,,彡




同時に繰り出された右の拳。
その二つの拳は衝突し、人体が奏でたとは思えない程の大きな音を鳴らした。

125 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/06/14(木) 01:08:20.98 ID:TASTKwe/0










闘いのゴングは鳴らされた。


最後に立っているのは、“金”か。それとも、“銀“か。





第17話 おわり

   →最終話に続く?



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