(,,゚Д゚)ここは解決屋『シルバー&ブラック』本社のようです
3 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/01/21(土) 20:34:09.68 ID:Gfnu2P8d0



クーとの距離が三メートルを切ったところで、フサギコは一足跳びで間合いを詰めた。

      シ
ミ,,゚Д゚彡「疾ィッ!!」


振り上げられた右拳はまさに大砲の弾。直撃すれば巨木すら粉砕可能なその一撃を。


川 ゚ -゚)「っ!」


躱す。
彼女の顔の、僅か一センチ横を、フサギコの拳が通過する。
その拳が巻き起こした風圧によって、クーの長い黒髪が後方へたなびいた。


川 ゚ -゚)「そこだっ!」


拳を突き出したことによって体が開いたフサギコの懐に潜り込む。
そしてその勢いのまま、彼の左側の脇腹に目掛けてクーはショートアッパーを繰り出した。

4 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/01/21(土) 20:36:36.46 ID:BCqq5JY50
完璧なタイミングのカウンターであった。しかし、フサギコという男はそんなに楽な相手ではない。
彼は左腕を脇腹に素早く差し込み、クーのショートアッパーを防いだ。



その時だった。
クーの右拳とフサギコの左腕が激突し、『けたたましい金切り音』を産み出す。


川 ゚ -゚)「!?」


己の拳がフサギコの腕を叩いた。
その特別視する必要の無い、極めて普遍的なやりとり。しかしクーの顔は一瞬陰る。



クーの機械の肌が読み取ったその感触は、異質だった。




ミ,,゚Д゚彡「ぬうっ!!」


振り払うかのように、フサギコは右腕をクーに飛ばす。
彼女はバックステップでそれを躱し、距離をとった。

5 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/01/21(土) 20:38:06.79 ID:BCqq5JY50
川 ゚ -゚)「…………」


クーはフサギコの動きを窺いつつも、右の掌を握ったり開いたりしながら先程の感触を思い出していた。


川 ゚ -゚) (彼の左腕……。アレは……)


クーは、頭の中に現れたとある疑惑を深く追求したかったが、今は戦いの場。


ミ,,゚Д゚彡「どうした? 来ないのなら此方から仕掛けさせてもらう」


当然フサギコは待ってくれはしなかった。
取り合えず、その疑惑は後回しにしなければいけない。
でなければ数秒の後に地面に転がることになる、とクーは気持ちを切り替えて、目の前の戦闘に集中した。



彼女に走り寄ったフサギコは、遠めの距離から勢いそのままに左の横蹴りを真っ直ぐ突き出してきた。
フサギコは190cmに迫る程の長身である。当然それ故に脚も長いので、クーのリーチ外から一方的に攻撃が可能だ。
クーは何とか潜り抜けてもう一度懐へ入りたいが、その蹴りは鋭く、速い。
下手に焦って近付けば、確実に捌ききれず喰らってしまう。

クーは距離を詰められないままジリジリと後退し、遂には壁を背にしてしまった。

6 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/01/21(土) 20:40:40.29 ID:BCqq5JY50
川 ゚ -゚)「くっ……!」


もう下がれない。かといって動かなければ蹴り飛ばされて後ろのガレキの山とブレンドされてしまう。
そうなれば身動きがとれなくなって詰みだ。何とか凌がなければならない。

クーが次の一手を思い付く前に、フサギコの右脚が飛んでくる。


ミ,,゚Д゚彡 (さて、どちらに逃げる? 右か? 左か? それとも上か?)


前には出れず、後ろにも下がれないので、逃れるなら右、左、上空の三択だ。
そのすべての動きに対応するために、前に蹴り出した右脚を軸にして追撃をする。

フサギコから向かって左にクーが逃げるのなら、追って右手で殴り付ける。
向かって右なら、左の後ろ回し蹴り。
上に飛ぶなら軸足で震脚し、左脚の爪先でクーの鳩尾を貫く。


ミ,,゚Д゚彡 (さあ、貴様はこの三択からどれを選ぶ―――!)


フサギコの脚がクーの間近へと迫る。
彼女が選んだのは―――。

8 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/01/21(土) 20:43:13.79 ID:BCqq5JY50
一秒にも満たない、しかし鼓膜を揺さぶるほどの巨大な音。
クーが動いた先。それは。


川 ゚ -゚)「ふう……。これが我が身だったと想像すると、ぞっとしないな」


不動―――。
彼女は左右上のどこにも動かず、後ろのガレキの山から椅子を引っ張り出してフサギコの蹴りを止めていた。
椅子は、座部が破裂して中のスポンジが剥き出しの状態となっている。


ミ,,゚Д゚彡 (四択目―――!)


クーはフサギコに身を寄せるかのように近付く。そしていともあっさりと彼の懐へと潜り込めた。



――――――――――――――――――――

9 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/01/21(土) 20:45:02.92 ID:BCqq5JY50

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第16話・


「さあ、待望の反撃タイムだ」








10 名前:>>7マジか。まあ落ちたらその時で 投稿日:2012/01/21(土) 20:49:37.76 ID:BCqq5JY50
ミ,,゚Д゚彡「チッ……!」


軽い舌打ちと共に放たれたフサギコの左フック。クーはそれを屈んで回避する。
フサギコはその隙に素早く後方へ飛ぶ。彼の方がリーチが長いのだから、わざわざ近接距離で付き合う道理はない。
むしろリーチが短い分だけ小回りがきくので、この距離は不利とも言える。

故の後退。なのだが。


川 ゚ -゚)「当然、楽に離しはしない」


先程のお返しだとばかりに、クーはフサギコの思考を読んだ上での発言をしながらピッタリと彼に追跳する。

しゃがんだ動作からのノーモーション、ノータイムの跳躍。


ミ,,゚Д゚彡 (『圧空』っ!)


『圧空』は、クーの最大の特徴である機械の四肢が備えている機能だ。
周りの空気を圧縮しつつ吸い込み、それを一気に解き放つことで爆発的な衝撃を産み出せる。
その衝撃を動力にすれば、まさしく人の力を越えた動きも可能となる。

11 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/01/21(土) 20:51:42.05 ID:BCqq5JY50
ミ,,゚Д゚彡 (成る程、確かに厄介な技だ。だが……)


肉薄したクーは掌底をフサギコの鳩尾に飛ばす。


ミ,,゚Д゚彡「それの欠点は知っている!」


しかしフサギコは、瞬時にその場に屈んだ。
額が床に付くほどの低姿勢でクーの掌底を躱し、また同時に片腕で全体重を支えつつ回転、足払いを放つ。

驚異的なスピード、しかもカウンターで繰り出されたその蹴りは、しかし一連の動きが長すぎた。
モーションが大きすぎるが故に相手に当たるまでには若干のラグが発生し、その僅かな時間があれば達人は優に避けたり防いだりが出来る。

クーも同様、いつもなら対策がとれるその攻撃を。



しかしながら躱しきれずに左脚が引っ掛かってしまい、状態を崩してしまった。


川 ゚ -゚)「しまった……!」


空中でなんとかバランスを取り戻し、右脚で着地に成功するものの、フサギコは既に数メートル離れたところに立っていた。
苦労して縮めた距離は、いとも呆気なく開いてしまった。

12 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/01/21(土) 21:00:34.94 ID:doDjixvW0
二人は前に出ずに互いに見合って相手の出方を窺う。
だが、しばらくの後にクーは深くゆっくりと息を吐いて場の緊張を解いた。フサギコの闘気が若干和らいだのを見計らって、クーは彼に話しかけた。


川 ゚ -゚)「どうやら知っていたようだな。私の『圧空』と、その弱点を」

ミ,,゚Д゚彡「見ていた、が正しい。貴様とガナーの戦いの時にな。覗き見など趣味が悪いのだが―――」

川 ゚ -゚)「気にするな。敵の武器や弱点を知ろうとするのが普通であって、そうしない方が異常だ」

ミ,,゚Д゚彡「理解して貰えて助かる」


クーの『圧空』。
それは確かに強力な武器ではあるのだが、使用後は少しの間だけ、麻痺したかのように使用部位の自由がきかなくなるというデメリットがあった。

彼女はフサギコを追いかけるために左脚の『圧空』を使用した結果、左脚が硬直。
それを見抜いたフサギコの足払いを、クーは躱しきれなかったのだった。



対ガナー戦で露呈していた弱点は、ウイルスのように敵側に広まっていた。

14 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/01/21(土) 21:02:22.24 ID:doDjixvW0
川 ゚ -゚) (まあ当然といえば当然の結果か。何も考えずにこの場で『圧空』を使った私が浅慮だった)


一対一の戦闘だったとしても情報というのは重要なカテゴリーであり、それが多対多であれば尚更無視できないモノとなる。
敵側に一度見せた技など、対策をすぐに立てられるに決まっているのだ。


ミ,,゚Д゚彡「さて……、まさかこれで降参という訳でも無いだろう?」


クーを招いているかのように、フサギコは右手を前に突き出した構えを見せる。


川 ゚ -゚)「勿論。お互いに無傷で終わらせられる程、この戦いは安くない」


それに言葉を返して、クーは正面から駆け出した。
『圧空』は警戒されているので、おいそれとは使えない。ここぞという時まで温存する。


川 ゚ -゚) (それに、私だって無為無策で敵の中枢に乗り込んだ訳ではない……!)

15 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/01/21(土) 21:05:32.16 ID:doDjixvW0
しかしその『策』を講じるには少々のモーションが必要だ。
直前までフサギコには気付かれずに行いたいため、何とかして彼の隙を突かなければ、と考える。


川 ゚ -゚) (そうするには……、とにかく休みなく攻め続ける!)


止まっていては何も産まれない。前へ出続ける事でようやく光明が掴めるモノなのだ。

だから、前へ。
幾度となく前へ出て、その度にフサギコの蹴りに行く手を阻まれ続けた。

たまに躱しきれず、彼女の体に傷が走る。だが致命傷でなければそんなモノはダメージの内に入らない。
気にせずに、ただし危険な反撃に対しては慎重に立ち回って回避しつつもひたすら攻めた。



そして遂にチャンスが来た。
数えること十七回目の衝突の際に、フサギコが後ろ回し蹴りを放ってきたのだ。

若干の溜めを要する代わりに高威力なその攻撃は、瞬間的にではあるが相手に背を向ける事になる。
普通なら隙とも言えない僅かな時間。しかし常に待ち続けていたクーにとっては、それで充分だった。



クーはその針の穴のような隙間に向けて、『圧空』を使用した。

17 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/01/21(土) 21:07:26.58 ID:doDjixvW0
ミ,,゚Д゚彡「っ!」


フサギコの回し蹴りのすぐ横を抜けるようにして、クーがフサギコの背後へ移動する。


ミ,,゚Д゚彡 (『圧空』で俺の死角に入ったか!)


一瞬虚を突かれたフサギコであったが、すぐに冷静になって考える。
彼女が立っているであろう場所から推測される攻撃方法とは? タイミングは?
それらを瞬時にシミュレートし。


ミ,,゚Д゚彡「そこっ!」


その箇所へ渾身の力を込めて裏拳を振り抜いた。



が、空を切る。
うねりを上げた豪腕は、標的を捉えることなく停止した。
ならばクーは何処にいたというのか。

振り向いた先、フサギコの目に映ったのは―――。



その場から軽くバックジャンプをしてフサギコから遠ざかる、彼女の姿であった。

19 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/01/21(土) 21:09:22.54 ID:doDjixvW0
ミ,,゚Д゚彡 (……何故だ? 何故攻撃してこない? 俺の裏拳を読んだ?
     いや、それなら最初に『圧空』を使った意味がない。ではいったい何を狙って……)


クーの意図が読めない。
彼女の行動の理由が判らない。
判らないというのはすなわち闇であり、闇とは恐怖の対象へとなり得る。
フサギコには彼女の行動が、奇妙で気味の悪いモノとして映った。

彼は慎重になっていた。だからこそ感づいた。
彼の第六感が、彼の体をとっさに右に動かした。


ミ,,゚Д゚彡「!」


彼が体を動かしたその直後に、何か細長い物が後方から飛んできて彼の直ぐ左を通過した。
……槍だ。先端が三つに分かれている、三叉槍。
もし動くのが一秒でも遅れていたら、槍は彼の背中に突き刺さっていただろう。

20 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/01/21(土) 21:12:26.36 ID:doDjixvW0
川 ゚ -゚)「はあああああっ!!」

ミ,,゚Д゚彡「ぬうっ!」


彼が躱す事を読んでいたのか。
クーは前に飛び出し、飛来する槍を掴んでフサギコに振るった。
フサギコは反応が遅れたものの、薄皮一枚でこれを回避。
しかし二撃三撃と流れるようにクーは槍を振るい、突いていく。

いくらフサギコのリーチが長いと言っても、武器持ちと素手では比べ物にならない。
防戦一方となりながらも、彼は先程の不可解な攻撃について考えていた。


ミ,,゚Д゚彡 (しかし、あの槍は彼女が仕込んだとして、いったいどうやって飛ばしたのだ?
      協力者がいる気配は無い、明らかに一対一の状況で。
      それこそ、魔法のような……)


そこまで考えて、そして合点がいった。判ってしまえば余りにも普通の事であった。



そう、何もない所から槍が飛び出して来るなど、彼ら『COLOR's』同士が激突すれば何ら不思議ではない≠フだ。



そう言えば、あの深海のように青い槍は見覚えがあるな、とフサギコはさして興味も無かった過去の映像を思い出す。

21 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/01/21(土) 21:15:48.02 ID:doDjixvW0
ミ,,゚Д゚彡「その槍……、『青』が所持していたモノだな?」

川 ゚ -゚)「見ての通りさ」


二人の攻防は激しさを増し、部屋内を所狭しと駆けずり回る。


川 ゚ -゚)「フィレンクトと名乗っていたかな……? 彼を打倒した時に戦利品として貰っておいた」

ミ,,゚Д゚彡「ふむ。まあ、むざむざ敵方に武器を置いていってやる道理は無い、か。
       しかし解せぬのは『なぜ所有者以外の者が武器の能力を使用出来るのか』という点だ。
       その槍の能力は、確か『物体に潜り込むことが出来る』というモノだったな?
       俺の背後から槍を飛ばすことが出来たのは、貴様が槍の力を使ったからに他ならない」


そう、本来であれば『COLOR's』が所有する武器は、専門の人間が使用することで初めて機能が十全に発揮できるというシロモノである。
故に正当な持ち主以外の誰かが持っていても、ただの普遍的な武器と相変わらない筈なのだが。


川 ゚ -゚)「なに、私達の仲間には優秀な武器商人とメカニックがいてね。他の人間でも使えるようにカスタマイズしてもらった」

23 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/01/21(土) 21:18:08.62 ID:doDjixvW0
ミ,,゚Д゚彡「ほう……。それは確かに優秀だな。簡単に言ってくれたが、少なくともは瀬川よりは才があるぞ。
       しかし、となるとその武器、満足に使いこなせる訳では無いという事だな」


フサギコの針を刺すかのような指摘は、クーの眉間を狭まらせた。


川 ゚ -゚)「……やはり判るか」

ミ,,゚Д゚彡「自明の理だよ。誰でも100%使えるように改良するなど、世界中の科学者が集まっても不可能だ。
       何故ならその槍を含めた『COLOR's』の武器全ては荒巻博士が設計したものだからな。
       彼の理論を越えたモノを作るのは今の時代では無理な相談だ。
       推測するに、『青』は自らの体ごと壁や地面の中に潜っていたが、貴様が扱うとなると槍のみを潜らせるのが精々といったところだろう」

川 ゚ -゚)「……正解も正解、大正解だよ。まったく、君は余り良い聞き手とは言えないな。
      こちらが話す前に正解に辿り着いてしまわれたら、解説によるカタルシスが得られないのだが」

ミ,,゚Д゚彡「お喋りは苦手でな」


「今までの流れを鑑みるに、そうでも無いんじゃないかな?」と、クーは思う。
何となくフサギコの心の一部が覗けたような気がして、彼女は気付かれないように微かに笑った。

24 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/01/21(土) 21:20:17.39 ID:doDjixvW0
川 ゚ -゚) (さて、どうにも均衡してきたし、次の手だ)


クーが攻め続け、それをフサギコが躱し続けるという、未だクー有利なこの図式。
しかし虚を喰らっていた先程までとは違い、今のフサギコは既に冷静さを取り戻している。
このまま攻めても有効打は与えられずに反撃を受けてしまうだろう。

故に次の手。出し惜しみなしで畳み掛ける。


川 ゚ -゚)「ハッ!!」


クーは柄尻を持って大きく槍を振り回した。
それをフサギコは素早く後ろに下がる事で回避するが、クーは距離を取った彼に向けて槍を投擲した。
遠心力の乗ったその槍は、空気の壁を突き破りつつ猛然とフサギコに襲い掛かる。

ところが彼は右脚を引いて半身になることで槍を避ける。だがそれで良い。
蒼槍『デイトラント』はここからが真骨頂であるのだから。

26 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/01/21(土) 21:22:11.48 ID:doDjixvW0
しかしフサギコは次の瞬間、前へ飛び出した。
槍が壁に刺さるまでの僅かな時間。彼はその隙を突いて攻勢に打って出たのだ。


ミ,,゚Д゚彡 (ここで有効打を与え、終わらせる!)


後方で飛行している槍は、まだ壁へと到達していない。
フサギコは右腕に力を込めて目標を見据える。

すると、クーが懐から一振りのナイフを取り出して構えているのが見えた。


ミ,,゚Д゚彡 (ナイフ? 今まで隠し持っていたのか? となると……、アレもか!)

ミ,,゚Д゚彡「『紫』のナイフだな!?」


フサギコの言葉に、クーはニヤリと笑うことで答えた。

27 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/01/21(土) 21:25:09.17 ID:doDjixvW0
ミ,,゚Д゚彡 (確かあのナイフの刃には致死量の筋弛緩剤が……っ!)


その事に気付いたフサギコは急ブレーキをかける。このまま特攻気味に行ったとしても、良くて相討ちだからだ。


川 ゚ -゚)「そう心配しなくてもいい。薬の量は抑えているから死ぬことはないよ」


クーはナイフを逆手に持ち直してから、軽く上体を落とし、


川 ゚ -゚)「とはいえ半日動けない程度に塗ってはいるけどな!」


余分な動きをして隙が出来てしまったフサギコに向かい、飛び込んだ。

フサギコの左側を掠めるように通り過ぎながらナイフを振るっていく。
彼はそれを右側に軽く飛んで躱すが、


ミ,,゚Д゚彡「! ちいっ!」


後ろから迫ってきた槍に気付き、咄嗟にその場にしゃがみこんでやり過ごした。
クーはナイフを持つ方とは逆の手で飛んできた槍を掴み、大きく横へ薙ぎ払う。
フサギコは両手両足の力を使ってしゃがんだ姿勢のまま後方へ跳躍してそれを避けた。

流れるようなクーの連携には一縷の淀みもない。フサギコが許される行動は回避のみだ。

28 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/01/21(土) 21:28:20.68 ID:doDjixvW0
ミ,,゚Д゚彡 (随分と巧みに武器を使ってくれる。一朝一夕で出来るモノではないぞ。あれらの武器は元々彼女のでは無いのに、だ。
       この技量は才能の一言で片付けていいものかどうか……)


クーは薙ぎ払った槍を、その勢いのまま真上に飛ばす。槍は天井に吸い込まれ、その姿を消した。

同時にクーは極端な前傾姿勢で突進する。
その姿はさながら地を這う蜘蛛。猛毒の牙を携えてフサギコを狙い打つ。


ミ,,゚Д゚彡 (体勢が低くて当てづらいが、この格好なら左右には避けにくくなる。ローキックで撃退する)


フサギコはタイミングを見計らい、コンパクトだが鋭く正確無比なローを繰り出す。
彼の脚がクーの鼻先を捉えようとする、まさにその瞬間。



がん、という音と共に、クーの体が一気に跳ね上がった。

30 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/01/21(土) 21:31:00.22 ID:doDjixvW0
ミ,,゚Д゚彡「!」


クーは上下逆さまの姿勢で飛び上がり、フサギコの体をなぞるような軌道でナイフを振るった。


ミ,,゚Д゚彡「くっ!」


フサギコはその斬撃を、上体を後ろに大きく反らすことで辛くも避けきる。
しかしクーの侵攻は止まらない。彼女の周りだけ重力が反転したかのように、ごく自然に天井へ『着地』した後に。



片足の『圧空』を発動させた。


ミ,,゚Д゚彡「!」


天井に放射状のヒビが入る。そのヒビが入る速度よりも速く、クーがフサギコに向かって降下した。
フサギコはそれを、半ば反射的に半歩下がることで何とか躱す。

32 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/01/21(土) 21:33:55.47 ID:doDjixvW0
躱しても躱しても誘導弾の如く迫るクーだが、それでもフサギコは直撃を許さなかった。
そして着地の硬直で動けない彼女が足元にいる今こそ、反撃のチャンスだ。
フサギコは下を見て彼女の姿を捉える。クーが天井を蹴ったときに割れた細かい破片が一つ、二つと彼の頭に降りかかってきた。



その時フサギコは、こちらに背を向けて片膝をついているクーの姿を見て、
ほんの僅かな、有るか無いかという程度の微小な違和感を垣間見た。



そしてその微小な違和感は。



フサギコの頭を、微かに後方へ動かすことに成功する。



その行為の0.5秒後、彼の目のすぐ前を、刃先を下にした『紫』のナイフが通り過ぎていった。

34 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/01/21(土) 21:36:24.27 ID:doDjixvW0
ミ;゚Д゚彡 ( 〜〜〜〜〜〜〜〜ッッ!!! 『ミスディレクション』か!!)


『ミスディレクション』―――。

とある物や行動によって注意を向けさせる事で、真に注視して欲しくない場所から相手の意識を逸らす行為を指す語句である。
主に手品などで使用される技術だ。

今回の場合では、クーは天井へ着地した後に『圧空』を発動させたが、その『圧空』を使う直前に、ナイフをその場に『置いてきた』のだろう。
『投げる』のではなく、『置く』。投げるという行動はどうしても予備動作が必要となる。
如何にそれを隠そうと画策しても、フサギコ程の相手なら見抜いてしまう。

だから、『置く』。これなら余分な動作などは起こらない。つまり見抜かれないという訳だ。

クーの手から離れたナイフは重力に従い落下を始める。しかしクーはその落下より速く地面へ飛んだ。
ナイフを背にするように飛べば当然見えない。『圧空』の際の轟音も、彼女に注意を向けるのに一役買っていた。
そしてクーの体がフサギコを通り過ぎた後でも、彼はクーの姿を目で追って下を見る。
上から猛毒のナイフが迫っている事に気付かずに、だ。

天井から降る破片でカモフラージュも施した、余りにも綿密な作戦。
自身の体を丸ごと囮にしたその大胆さも含め、フサギコは戦闘中にも関わらず軽い感嘆を覚えたのだが。

35 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/01/21(土) 21:38:57.65 ID:doDjixvW0














その推理は完全ではなかった。フサギコは失念していたのだ。彼女のもう一つの『武器』を。














36 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/01/21(土) 21:41:37.57 ID:doDjixvW0
両手と片膝を地面についていたクーの体が、勢いよく横方向に反転した。
そう、彼女は隠していた。先程は天井にナイフを。





そして今は、地面に『青い槍』を。




ミ,,゚Д゚彡 (! まさか、ナイフすらも囮!? 二重の『ミスディレクション』……っ!!)


槍の穂先はフサギコに向けられている。クーは地面から顔を出している槍の柄を握ると一気に引き抜き、そのまま捻りを加えて突き出した。


川 ゚ -゚)「避けられるのなら避けてみろ!!」

ミ,,゚Д゚彡「っ―――!」


襲い来る槍先。動けないフサギコ。
その凶刃は確かに彼の腹部へと吸い込まれていき―――。

39 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/01/21(土) 21:42:42.28 ID:doDjixvW0














部屋中に『けたたましい金切り音』が、『再度』響きわたった。















41 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/01/21(土) 21:44:24.93 ID:doDjixvW0
クーは床に腰を預け、上半身を軽く起こした仰向けの体勢で『それ』を見ていた。
伸ばした右手には三ツ又の槍が握られている。そして更にその槍の先端は―――。





確かに、フサギコの体に届いていた。




川 ゚ -゚)「……これは、一体」


しかし、クーの顔には笑みはない。余裕もない。あるのはただ、疑問だけだ。
槍は届いていた。避けきることは敵わず、フサギコは致命傷を避けるために左手で咄嗟に自身の体を守っていた。
それは良い。そこまでは理解できる。だが―――。


川 ゚ -゚)「―――どういうことだ?」




問題は何故、『槍がフサギコの生身の左手を貫けていない』のか。それどころか血液が流れる気配すらない。

加えて何故、『金属同士の衝突音が鳴った』のか。

42 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/01/21(土) 21:46:46.07 ID:doDjixvW0
当然槍の刃は鋭く、刃引きなどはされていない。
いくらフサギコやギコが超能力による身体強化を得意としているといっても、刃物を通さない程の硬化は不可能な筈だ。


ミ,,゚Д゚彡「……不思議か? 違うだろう、クール。惚けるんじゃあない」


思考がぐるぐると脳内を駆け巡っている。
クーは、すぐ近くにいるはずのフサギコの声が遠くから発せられたように感じた。


ミ,,゚Д゚彡「貴様ならこの体を俺以上によく知っているだろう? なあ、『ラスト・チャイルド』」

川 ゚ -゚)「……っ!」


そう言ってフサギコは、槍を受け止めていた左手を軽く横に動かした。
すると左手を覆っていた『人工肌』がいとも容易く破れ落ち、その真の姿を彼女にまざまざと見せつけた。





そう。そのきらびやかに眩しく光る、『黄金』の左腕を。






44 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/01/21(土) 21:48:46.27 ID:doDjixvW0
川;゚ -゚)「馬、鹿な……。それは、まるで……」

ミ,,゚Д゚彡「『まるで』ではない。いつまで認めないつもりだ? これは貴様の四肢と同じ、金属の体だよ」

川 ゚ -゚)「っ!」


地面に横になった体勢から、クーは槍を片手に持ち大きく横に薙ぎ払った。
フサギコはそれを後ろに跳んで躱すが、元々彼と距離を離すのが目的の行為だ。
その隙に、振り回した槍の遠心力を利用してクーは勢いよく立ち上がった。

彼女はフサギコに対し、これまでの戦意とは異なる、敵意を孕んだ眼で睨み付ける。


ミ,,゚Д゚彡「ふむ。そのような眼も出来るのだな。そんなにこの腕が気に障ったか」


フサギコは左腕の袖を捲ってみせる。
その腕は確かにクーのそれと似通っていた。唯一、色だけがはっきりと異なっていた。

47 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/01/21(土) 21:52:00.97 ID:doDjixvW0
川 ゚ -゚)「フサギコ! お前はっ……、その腕を一体どうやって手に入れた!?」

ミ,,゚Д゚彡「その質問に答える意味はあるのか?」

川 ゚ -゚)「ッ……!」


そうだ。わざわざ問い質す必要なんてない。
あのような、人体と機械を融合させる事が出来る人物など、後にも先にもただ一人。
荒巻博士の他に居るべくもないのだ。


ミ,,゚Д゚彡「そうだ。貴様が荒巻の『ラスト・チャイルド』ならば、さしずめ俺は『アナザー・チャイルド』と言ったところか」

川 ゚ -゚)「……では何だ? お前は幼少期の頃から、周りから知られないように極秘に! 私達と同様に薬物投与されていたと言うのか!?」

ミ,,゚Д゚彡「いや、俺はそのような処置は受けていない」

川 ゚ -゚)「有り得ない! 私達は機械との融合で拒否反応を限りなく抑えるために、十数年もの時間を掛けて肉体を機械に近付けていったんだ!
      その処置をせずにそのまま繋げたら、激しい痛みによって満足に立ち上がることすら出来ない筈だ!」


体を機械に近付けていく所業。言うまでもなく自然の理に反する行為であり、幼少の頃からクーの体には苦痛と不快感が常に付きまとっていた。
しかし、かえってその痛みが荒巻との絆を深めていった。痛みがクーの思い出の基盤となっているのだ。
だがフサギコはその痛みを受けずに彼女と同じ位置に立ったと言った。それは彼女の荒巻に対する親愛を侮辱する行為に等しい。

だからクーは声を荒らげた。
けれどもそれは違うのだ。フサギコとて楽に機械の左腕を得たわけではない。
彼は痛みとは別のモノを犠牲にしていた。

49 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/01/21(土) 21:55:16.61 ID:doDjixvW0
ミ,,゚Д゚彡「だから。それだから、俺は常に『金』を発動している。四六時中、一刻も休むことなく、な」

川;゚ -゚)「〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!」


クーは言葉を失った。
今なんと言った?
拒否反応が出ないように常に力を開放している、と言ったのか?

すなわちそれは常時臨戦態勢だという事。緊張の連続だ。
例えるなら戦争の始まりから終わりまで、すべての戦場で最前線をキープし続けるといった愚行。
仮に一発の銃弾もかすらなかったとしても、肉体・精神共に持つ筈がないのだ。

そのような地獄ですら生温い行軍を、フサギコは受け入れていると言う。戦闘中以外にも。寝るときにも。ただの一時すらの休息も許さぬ、それを。



そんな……





そんな事が、人間に可能だというのか?

51 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/01/21(土) 21:59:50.70 ID:doDjixvW0
川 ゚ -゚) (…………何が。何が、彼を駆り立たせる?)


強い意志を支えるには強い目的が必要だ。
とすればフサギコには、己の総てを犠牲にしてでも叶えたい何かがあるという事になる。


川 ゚ -゚) (その根源、大元。フサギコを、彼を形成しているその正体とは、一体?)


その素質、そして体格。産まれながらにして強者であったフサギコが、尚も貪欲に力を求めなければ届かない程の願いとは―――。




ミ,,゚Д゚彡「理解しようとするな」

川 ゚ -゚)「!」


しかし、そんな思考の縫い目にフサギコの声が差し込まれる。


ミ,,゚Д゚彡「誰も理解しなくていい。俺はそんな無駄なことを望まない。ただ、結果がそこにあればいい。
       俺の生きる道は……、決して他者と交わらない」


フサギコは実に軽く、孤独を迎え入れた。むしろ差し伸べられる手など邪魔なだけだと、そう言った。

52 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/01/21(土) 22:02:47.22 ID:doDjixvW0
その発言は目の前の彼女を苛立たせる。彼女は人との繋がり、絆のために自らの肉体すらも犠牲にしたのだから。


川 ゚ -゚)「何故! 何故そこまで他人を否定する! お前が何を望んでいるかは知らないが、周りに協力してもらえばもっと―――!」


吼える。普段感情を前に出さない彼女がそうしたのは、彼を間違った道から更正させようとしている、というよりも
自らの正しさ、生き様を否定されないように、という思いの方が強く現れた為なのか。


ミ,,゚Д゚彡「一人だ、俺は。一人で成していく。これからも、ずっと」


しかしフサギコはそのようなクーの思いなど関係無いと言わんばかりにあしらう。
元より彼は人の感情というモノに、疎い。


川 ゚ -゚)「一人!? じゃあギコはどうなんだ! お前は、血の繋がった弟が、唯一の肉親がいるのに! それでも一人と言い切るのか!?」


そして何よりも彼女が許せなかったのは、ギコがないがしろにされているという事。ギコ本人は嫌がるかもしれないが、それでも二人は兄弟なのだ。
両親の行方が不明な現状、互いが唯一無二の肉親。その二人が憎み合い、殺しあう様などクーは見たくなかった。

だが、それでも。


ミ,,-Д-彡「……一人しかいない。俺一人だ。何度も言わせるな」

53 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/01/21(土) 22:04:59.71 ID:doDjixvW0
川 ゚ -゚)「っ! フサギコ、お前はどこまで!」


フサギコの解は変わらない。どこまでも、地平の果てのその先でも、彼の道は交わらない。


ミ,,゚Д゚彡「もう、良いだろう」


破談の宣告をする。
同時に、フサギコの体からこれまでの比にならない程の闘気が湧き上がった。


川 ゚ -゚)「っ……!」

ミ,,゚Д゚彡「準備運動はこれまでだ。……そろそろ、愚弟も来る頃だろうしな」


金色に光る左手を顔の前に出して握り締める。金属の軋みが断片的な悲鳴のように部屋に響いた。


川 ゚ -゚) (今までは力を抑えていた、のか……)


ただ対峙しているだけなのに、背中に汗がつたう。
クーはまるで自分が小人になったような、そんな不安に似た感情を覚えた。

55 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/01/21(土) 22:07:09.61 ID:doDjixvW0
川 ゚ -゚)「っ、それがどうした!」


消沈しかけた自らの覇気をもう一度奮い立たせるために、クーは最後のカードを切る。


川 ゚ -゚)「お前とギコは戦わせない。私がケリを着けてみせる!」


懐から取り出し、彼女が両手に握るそれは、黄色の波線が幾重にも刻まれている白い一組のトンファーであった。


ミ,,゚Д゚彡「『黄』の武器……。当然持っていたか。しかし……」


フサギコの眼光が強まる。睨み付けている視線の先にはトンファーと、クーの顔が。


ミ,,゚Д゚彡「所詮は敗者の武器。それも劣化物。そんなものが、この俺に通用すると思うな……!」

川 ゚ -゚)「仕留める!」


トンファーに電流が走る。多彩なる武器を足掛かりとして、見上げても尚、頂が見えぬ断崖絶壁にクーは挑みかかった。
天雷のようなフサギコの一撃が、彼女に向かって振り落とされる―――!



――――――――――――――――――――

56 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/01/21(土) 22:10:12.21 ID:doDjixvW0



( ´_ゝ`)「クックル! メガトンパンチだ!」

( ゚∋゚)「…………!」


兄者の命により、クックルはそのはち切れそうな程に筋肉が詰まった腕を振るい『No』の顔面に拳を打ち付ける。
打撃をモロに受けてしまった『No』は吹き飛び、地面に倒れてもなおその勢いを殺せずに滑っていった。
無論、その『No』は二度と立ち上がることはなかった。


(´<_` )「さて、そろそろ打ち止めが近そうだな」


弟者が周りを見渡してみると、『No』の数はもう残り僅かであった。目算で30といったところか。


(`・ω・´)「よーし頑張れ! あとちょっとだ! しかし最後まで油断するんじゃないぞ!」

从 ゚∀从「……アンタも口ばっかりじゃなくて働きなさいよ」

(`・ω・´)「しょうがないだろ。とうとう弾が尽きたんだからな。いや参ったなぁ、はっはっは!」



(´・ω・`)「ふぅ」

(*゚∀゚)「あ、武器もってないから元にもどった」

58 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/01/21(土) 22:12:55.54 ID:doDjixvW0
ショボンはとうとう弾が尽きてしまったらしく、応援してるのか野次を飛ばしているのか、よく判らない声を上げている。
無力となったショボンを護るためか、散り散りで闘っていたメンバーは自然と彼を囲いこむような陣形へとなっていた。


(´<_` ) (そろそろ片付きそうだな)


弟者は、この場に『No』を全て倒し終えたら次はどう動くかを考えていた。
『No』の生産装置を止めた今、地下に『No』は残っていないだろう。万が一居たとしてもごく少数のはず。
という事は、他に倒すべき敵は『COLOR's』のみという事になる。

先行したギコ達が『COLOR's』をどれ程まで倒せたのかは判らないが、いずれにしても待ち構えているのは強敵しかいない。
『No』との乱戦により消耗したこちらの戦力では、『COLOR's』とまともにやり合えるのはクックルだけだろう。


(´<_` ) (しかしそのクックルでも『COLOR's』とサシで戦うのはまだキツイ。やむを得んが、後はギコ達に任せるしか―――)


客観的に現状を分析。その結果、中途半端な戦力の投下は却ってギコ達の枷になると判断した弟者は、この場での待機がベターだと考える。
だが次の瞬間、その思考を飲み込むような―――。


(´<_`;)「!!?」


爆発が、部屋の隅で発生した。

59 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/01/21(土) 22:16:05.79 ID:doDjixvW0
从;゚∀从「! なんだっ!?」

(´<_`;)「襲撃か!?」


全員が轟音のした方に振り向く。音源付近は埃やらなんやらが混じった煙幕が巻き上がり何も見えないが、
こちらにゆっくりと歩いてくる靴の音は聞こえる。
間違いない。敵が、脅威が近付いてくる。


(´・ω・`)「……ん?」


最初にショボンが気付いた。
煙の中から何か丸いモノが彼らの元へと転がってきた。



次に気付いたのがつーだった。


(*゚∀゚)「…………みかん?」


現れたのはオレンジ。この場には余りにも似つかわしくない果物の登場に、ショボンとつーは呆然とただそれを見ていた。

60 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/01/21(土) 22:19:28.09 ID:doDjixvW0
そしてその次に、兄者と弟者が同時にオレンジに気付き―――。







(´<_`;)「みんな兄者の後ろに隠れろォォォォッッ!!!!」

(#´_ゝ`)「『ファイヤーウォール』ッッッ!!!!」







二人の咆哮とほぼ時を同じくして、二度目の爆発が起きた。

62 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/01/21(土) 22:22:05.36 ID:doDjixvW0
至近距離での起爆。まともに受ければ身体の欠損等、重大な傷害を負いかねないそれを、彼らは間一髪で免れることに成功する。


(;´_ゝ`)「……ふぃーっ。『ファイヤーウォール』の強化改良、しといて良かったなぁ」

(´<_`;)「ああ。そして今日帰ったら防音の設定もしておこうか」

(;*-∀゚)「み、耳がぁ〜……。キーンって……」


極めて暴力的な爆破音に全員が顔をしかめているが、それでも無傷でやり過ごすことが出来た。
しかしそれは第一波を凌いだに過ぎない。敵はまだ爆煙の中にいる。


「あはっ。どうだったかな、ボクの歓迎の印は?」


声が聴こえる。まだ若い、恐らく十代半ばと思われる少年の声だった。


(´<_`;)「相変わらずの悪趣味さだったさ、『オレンジ』」

( ・□・)「そう。気に入ってくれたようで何よりだよ、弟者くん」


煙が晴れて姿を現したのは、まだ幼さの残る笑みをその顔に貼り付けた背の低い少年。
弟者から『オレンジ』と呼ばれたその少年は、尊大な態度で弟者達を見渡していた。

63 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/01/21(土) 22:24:39.03 ID:doDjixvW0
( ・□・)「兄者くん、弟者くん、久し振りだね。会うのは君たちが裏切ってからは初めてだね?」


皮肉を微塵も隠しもしない『オレンジ』の言葉に、兄者は。


(;´_ゝ`)「…………誰だっけ?」


完璧なる天然(ド忘れ)によってカウンターパンチを返した。
普段は抜けている癖に、こういう時に限って正確に打ち抜いてくるから末恐ろしい。


(;・□・)「ぐ、ぬっ……! 君は、いつもいつも人をバカにして……!」

(´<_`;) (兄者の場合、皮肉じゃなくてマジで忘れてるから、なおさらタチが悪いんだよな……)

( ・□・)「ま、まぁいい。初対面もいるんだ、改めて自己紹介をしよう」


兄者の言葉によって苦々しい顔になっていた『オレンジ』であったが、直ぐに元の笑顔を貼り付かせると、
両腕を横に広げて己の姿をアピールしながら自信たっぷりに名乗り始めた。

64 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/01/21(土) 22:27:24.50 ID:doDjixvW0
( ・□・)「ボクの名前はブーン=オレンジブロッサム。言うまでもなく『COLOR's』の一員、『橙』を冠する者であり―――」


『オレンジ』は一旦言葉を切り、ポケットをまさぐる。
取り出したのは一つのオレンジ。先程爆発を起こしたモノと全く同じものであった。


( ・□・)「このボクの武器である『螺巻果実(クロック・フルーツ)』が君たちのカラダをミジンコ並の大きさになるまで吹き飛ばし尽くす」


そのまま手に握られていたオレンジを兄者達に向けて放り投げた。
軽く投げられたオレンジは放物線を描きながら彼らの命を奪いにくる。

しかし、その動作と同時に銃声が四発。


(`・ω・´)


ショボンだ。
彼が放った弾丸の内、三つは空中の爆弾へ。その中の一発がヒットし空中で起爆した。
残りの一つは『オレンジ』に向けて。狙いは正確に彼の眉間へと吸い込まれていくが。


( ・□・)「あはっ♪」


難なく、躱される。

66 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/01/21(土) 22:30:30.81 ID:doDjixvW0
(`・ω・´)「ちぃっ」

(*゚∀゚)「……てゆーかショボン。弾全部撃ち尽くしたんじゃなかったのさ?」

(`・ω・´)「ホントに全部撃つ阿呆がいる訳無いだろうが。予備に残しておくに決まってるだろ」

(*゚∀゚)「むぅ……。いや判るけどさ、なんか納得いかない」

(`・ω・´)「どのみち、こんなチャチな拳銃じゃ奴には届きそうもないな」


ショボンはマガジンの交換を手早く行いながら、過去にモララーが語った話を思い出していた。
彼曰く、以前オレンジ型の爆弾が大量に転がっていたビルで酷い目にあった、とのことだった。
目的はよく判らないが、恐らくそれは目の前の『オレンジ』と名乗る男の仕業と見て間違いないだろう、とショボンは結論づける。



ともあれ、ショボンの即座の判断によって『オレンジ』の攻撃を止めることが出来た。
距離を詰めるなら、今。


( ´_ゝ`)「クックル、GO!」

( ゚∋゚)「!!」


兄者の声と同時にクックルが駆ける。
『オレンジ』との距離はあっという間に無くなり、クックルは目前の敵に向かって拳を振り上げた。

68 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/01/21(土) 22:33:14.36 ID:doDjixvW0
( ・□・)「来いよ、『No』」


だがそんな二人の間に割り込む二つの影が。『No』だ。
背の低い『オレンジ』は『No』によって隠される。


( ゚∋゚)「…………っ!」


クックルの拳は『No』の片割れの顔にヒットした。直撃を受けた『No』はその場に崩れ落ちるが、まだあと一人残っている。
クックルは返す刀で再度拳を掲げ、『No』を倒そうとしたが―――。




(;´_ゝ`)「ダメだクックル! 下がれェッ!!」

( ・□・)「手遅れ。土に還りなよ泥人形」




今度はクックルと『No』の間に『螺巻果実』が割って入る。
閃光。『オレンジ』が投げた爆弾は、『No』をもろともにクックルを爆炎の暴風で包み込んだ。

69 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/01/21(土) 22:36:18.16 ID:doDjixvW0
(´<_`;)「クックル!」


煙が引いて場が鮮明になる。
『No』は頭と左腕が欠損し、黄色の体液を撒き散らして地に伏せていた。

そしてクックルは。


(メ゚∋ナ)「…………」


片膝をつけた体勢で、その場に顕在していた。
ただ五体満足ではあるものの、上半身は焦げ付き皮膚は所々炭化している。
片眼も焼きつき潰れて、残る眼で『オレンジ』を強く睨み付けているが、立ち上がることは出来ないようだ。


( ・□・)「へぇ、頑丈だ。じゃあしょうがないな。あと二つプレゼントしてあげるよ」


『オレンジ』は懐に両手を入れて爆弾を両手に一つずつ掴むと、同時にクックルへ放り投げた。
クックルは黙って爆弾の軌道を眼で追っている。体は動かない。

70 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/01/21(土) 22:38:27.28 ID:doDjixvW0
( ´_ゝ`)「クックル、戻れ」


爆弾がクックルに到達しようとするその直前に、兄者の声がクックルを捉えた。
途端にクックルの体は光に包まれ、光線状となって兄者が持つノートPCのディスプレイへと吸い込まれていく。


(メー∋ナ)「……」


光になる前、クックルの眼は閉じられていた。
その顔には、無念の情がありありと浮かび上がっていた。



クックルの離脱からコンマ数秒遅れて、投げられた爆弾が起爆する。
もしクックルがあの場に居たままだったのならば、今度こそ四肢がバラバラになっていたのかもしれない。


( ・□・)「あーあ、逃げられちゃったかあ。ま、あんな人形をいくら壊しても意味無いし、いいけどね」


『オレンジ』はまた新たに出した爆弾を弄びながらニヤついている。
その様は、子供が捕らえた虫を戯れに分解している姿のそれに似ていた。

71 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/01/21(土) 22:41:41.72 ID:doDjixvW0
( ・□・)「判ったかい? これが急増品で出来損ないの『COLOR's』モドキとは違う、正真正銘の『COLOR's』の力だよ。
        流石兄弟。キミ達は大人しく裏方に回っていれば良かったんだよ。
        前に出ず、ボクら『COLOR's』の為に尽力していればそれで、ね?」


『COLOR's』モドキとは、つまり流石兄弟のことを指しているのだろう。
元々流石兄弟は研究者であり、戦う立場の人間ではなかった。
だが『COLOR's』は人手不足に悩んでいた。メンバーを増やす必要があったのだ。
そこで白羽の矢が立ったのが彼らという訳であった。彼らが産み出した『クックル』は、実に強力な戦力であったからだ。

そのような特殊な事情があったため、流石兄弟は『COLOR's』の中で唯一肉体改造を受けていない。
メインで戦うのはあくまでもクックルであるので、彼ら自身が強くなくても良かったのだ。
だから二人の身体能力は一般人と何ら変わりなかった。当然、髪や瞳の色も変化しない。


(´<_` )「…………ふっ」

( ・□・)「む」


しかし、弟者は笑った。
彼のその笑みに、『オレンジ』は不快さを感じた。
笑われるべき人種から逆に笑われるのは、まるで自分が最下層の人間のように思えてくるからだ。

72 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/01/21(土) 22:44:45.08 ID:doDjixvW0
( ・□・)「何が可笑しいのかな? 弟者くん」

(´<_` )「いやあ……。改めて言うことも無いし答える必要もない。
        俺たち研究者ってのは、解が出てしまった問いを何時までも眺めてはいないからな」


弟者が言いたいことは、つまりこうだ。
「お前、俺らに嫉妬していたんだな」、と。



実は、流石兄弟が『COLOR's』に任命された時、『オレンジ』はまだ『COLOR's』では無かった。
『オレンジ』はその時、流石兄弟と同じく研究者であったのだ。彼らが知り合いだったのはその為である。

まだ研究者だった頃の『オレンジ』は、『COLOR's』の一員になることを目指していた。
『COLOR's』に任命されるということは、その者がエリートであると認められることと同意であったのだ。
故に『COLOR's』になろうとした。自分は優れているという自信が彼にはあったから。
非凡である自分なら、『COLOR's』になることは当然だと、そう思っていたのだ。

しかし、人手不足の際に声をかけられたのは自分ではなく流石兄弟であった。
先を越された。しかも自分と同じく研究者であった彼らに。『オレンジ』のプライドはズタズタに傷つけられた。

『オレンジ』はその日から、取り憑かれたように研究に没頭し始めた。
自身が設計していた『螺巻果実』の作成を急ピッチで進めて完成させ、それをは瀬川に見せることで遂に念願の『COLOR's』になることを許された。



そう、詰まるところ流石兄弟への執着心が、『オレンジ』を『COLOR's』にまで押し上げたのだ。

73 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/01/21(土) 22:47:47.21 ID:doDjixvW0
( ・□・)「……ふん。まあそんな風に思っていたこともあったかもしれないね。
      しかし今となっては過去の話。今のボクは君らの遥か先に立っているよ。君らの自信作を容易く退けたのがその証拠さ」

(´<_` )「…………」


『オレンジ』は笑う。
過去に劣等感を抱かされた相手を屈伏させるのは、気分が良いのだろう。


( ・□・)「さて、昔話はもういいよね? 壁を無くした君たちが何処まで足掻けるものか、見物だよ」


『オレンジ』はゆったりとした動作でもう一つ爆弾を取り出そうとする。
しかしそうはさせるかと、ハインとショボンの二人が同時に動き出した。


从 ゚∀从「このっ! あんまりチョーシに乗ってんじゃ―――」

(`・ω・´)「―――ねぇぞ!!」


ハインはメスの投擲を。ショボンは拳銃を。合わせて十以上の弾が、一つ残らず『オレンジ』へと迫る。


( ・□・)「並べ、『No』」


しかし彼は動かない。その場から動かない代わりに、短く呟いた。
その声は、周りにいた四人の『No』を彼の目の前に集めさせる。

75 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/01/21(土) 22:51:12.29 ID:doDjixvW0
並んだ『No』はメスや銃弾をその身に受け、次々と倒れていった。
最後、四人目の『No』が地に伏せた時、『オレンジ』に向かっていた凶弾は全て無くなっていた。


(*゚∀゚)「あいつ! また味方を盾に!」

( ・□・)「味方? 違うよ、コレは道具だ。もともとこういう使い方をするんだよ。
       コレは、『COLOR's』には決して届かない使い捨ての道具に過ぎない」


『オレンジ』は床に転がる『No』達を邪魔臭そうに一瞥し、少し横に移動した。


( ・□・)「そして―――」

(;´_ゝ`) (……来る! 爆弾!)


『オレンジ』が両手に持った爆弾を強く握りしめているのを確認すると、兄者はいつでも障壁を張れるように構えた。


(;´_ゝ`) (だが『ファイヤーウォール』じゃ一度に受けられる爆弾は、恐らく二つまで!
       それ以上投げられたら何とかして叩き落とさないと―――)


兄者の額に冷や汗が流れる。クックルが戦闘不能になった今、兄者達には逃げの一手しか残されていない。
ひとまず爆弾をガードしつつ、煙に紛れて退却するしかない。作戦とも言えないような策だが、それ以外に方法が無い。

77 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/01/21(土) 22:54:17.74 ID:doDjixvW0
とにもかくにも、もう一度爆発を凌がなければ。そう思っていた兄者だが、しかし。


( ・□・)「これで終わりだ」


『オレンジ』が握りしめていた二つの爆弾は、みるみるうちに『増殖していった』。


(;´_ゝ`)「んなっ!?」

( ・□・)「いやねぇ、一個一個チマチマやってても面倒だろ? もっと合理的にいかないとさぁ」


気付けば『オレンジ』の髪と瞳の色が橙色に変化している。
恐らくはこれこそが彼の能力であるのだろう。その無数に増えた爆弾は、そのまま彼の本気度を示していた。


( ・□・)「今から君たちは、この寂れた工場の床や壁に擦り付けられるであろう雀の涙ほどのDNAを残してこの世から消える。
       それが嫌ならどうにかして防いでみな。急いだ方がいいよ?」

78 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/01/21(土) 22:56:27.27 ID:doDjixvW0
『オレンジ』は両腕を振り上げる。



宙を舞う時計。
バラ撒かれる雷菅。
放物線を描く殺戮果実。



間違いない。三秒以内に、この場は無数の地獄で溢れかえる。




( ・□・)「出来る、ものならね」

(;´_ゝ`)「絶対ムリだよ馬鹿ぁぁぁぁぁあ!!!!」





                                                           

79 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/01/21(土) 23:00:30.00 ID:doDjixvW0
兄者の叫び。
今から逃げ……、いや、もう間に合わない。



ハインとショボンがそれぞれの獲物を構える。しかしどれを狙えば良いか判らない。
全てを落とし尽くす事は不可能。それどころか一つでも起爆させればたちまち全てが誘爆してゲームオーバーだ。詰んでいる。



もう駄目だ。生を諦め、眼を閉じる。
時の流れが遅く感じる。走馬灯という奴か。
今にも世界は光に包まれ、きっと何もかもを根絶する。絶望に苛まれる。





ふと、感じた後方からの風。
目線を横に向ける。
だけれども、『それ』は既に通り過ぎている。





全てがスローな世界で、『それ』を視認できた者は誰一人居なかった。

81 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/01/21(土) 23:02:47.24 ID:doDjixvW0
                                                                             












絶叫と閃光の間を、赤褐色の風が駆け抜けた。












                                                                                                    
83 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/01/21(土) 23:04:58.68 ID:doDjixvW0
『オレンジ』の横を、無数の疾風が飛んでいく。


( ・□・)「え」


次いで大規模な爆破が彼の背後で起こる。地面は揺れ、熱風が髪を逆立てる。


(・□・;)「!?」


この時点でようやく『オレンジ』が気付いた。今さっき起きた爆発は、自分がバラ撒いた爆弾によるものだと。
何者かによって、自分の爆弾が全て誰もいない処へ飛ばされたのだと。


(;・□・)「っ! 誰っ……!?」


『オレンジ』が眼を向けた先。




( ^ω^)




其処には赤褐色の髪と眼をした少年が、兄者達を護るかのように立ち塞がっていた。

86 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/01/21(土) 23:07:22.82 ID:doDjixvW0
(;´_ゝ`)「ん? あ、あれ? 俺たち生きてる? もしかして助かった?」

(*゚∀゚)「ていうか、あれ、誰?」


ようやく現状を把握し始めた兄者達は、目の前に突如現れた少年に視線を集中させた。
あの一瞬で何をやったかは判らないが、いずれにせよ只者ではないだろう。
それは、生まれつきでは有り得ないであろう彼の髪の色を見ても容易に推測できる事だ。


(´<_` )「あの髪の色……。もしかしてアイツは―――」

从 ゚∀从「あ、ちょっと待って」


弟者が何が思い出したかのような素振りをしたが、横からハインが割って入った。
彼女は何気ない動作で一本のメスを手に取ると、


从 ゚∀从「よっ」


それを一見誰も見受けられないような空間へと投げた。
メスは、一番最初にショボンがロケットランチャーで破壊した壁近くの床に突き刺さる。

87 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/01/21(土) 23:10:04.40 ID:doDjixvW0
「きゃっ!」


するとメスが刺さった付近から、可愛らしい女性の悲鳴が発せられた。
ハインの行動は、この女性をあぶり出すためのモノだったようだ。


从 ゚∀从「出てきなさい?」

ξ;゚听)ξ「あ、え、ええとー……」


壁に空いた穴からおずおずと出てきたその女性は、まだ大人になりきれていない小柄な少女であった。
特徴的な金髪の縦ロールを揺らしつつ、少女は小走りでハイン達の元へ近付くと頭を下げて謝罪をする。


ξ;゚听)ξ「ご、ごめんなさい。隠れてたとか、そういうのじゃなくて、出るタイミングを窺ってたというか……」

( ^ω^)「ツンは、僕のパートナーだお。敵なんかじゃないお」


何とも怪しい登場の仕方になってしまい、少女はしどろもどろになりながらも敵意が無いことをアピールした。
そんな少女に助け船を出したのが、先に現れた赤褐色の少年だ。
ハイン達の危機を救った彼の進言により、少女への疑惑はキレイに消滅と相成った。

88 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/01/21(土) 23:12:16.58 ID:doDjixvW0
(`・ω・´)「おう。要するにお二人さんは俺達の味方をしてくれるって事だよな? 助けてくれてありがとう。ええと―――」

ξ゚听)ξ「あ、私、ツンです。『ツン=メイルス』。そしてこっちが」


少女―――ツンは自分の名前を伝えた後に、パートナーである少年の名前を口にしようとした。
しかしそこに弟者が割り込み、少年の顔を興味深そうにまじまじと見つめながら声を掛ける。


(´<_` )「アンタ、『ブーン=ブロンズホライゾン』だな?」

( ^ω^)「お、僕を知って―――」


弟者は少年の、ブーンの名前を知っていた。
ブーンは自分の名前が知られていたという事に嬉しさを感じ、人懐っこそうな笑顔を弟者に向けたのだが。


「あはっ、あははははははははははっ!!」


前方から発せられた、狂気すらも感じさせる高笑いによって、ブーンの顔は真剣なそれへと変化していった。

ブーンが向き直り、前を見ると、『オレンジ』は誰にも共感されないような歪んだ悦びをその顔で表していた。

89 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/01/21(土) 23:15:10.71 ID:doDjixvW0
『オレンジ』の嬉々とした声が室内に響き渡る。


( *・□・)「そうかそうか君が! あの! 有名な!
       荒巻博士の『4th』であり! 『皇剛三色』第三位でもある! 『瞬銅』と呼ばれた!
       あの! あの『ブーン=ブロンズホライゾン』なのか! あははあはははははははっ!!!」


体をくの字に曲げ、呼吸をも惜しんで笑う彼の姿は薄気味が悪い。
『オレンジ』の態度から、彼とブーンとの間に直接の面識は無かったものだと思われるが、どうやら彼はブーンの事を特別視しているようだった。


(*゚∀゚)「うわあ、なにさアノ人。いきなりテンションが振り切れちゃってるよ? てか二重のカギ括弧多っ!」

( ^ω^)「まあともかく、どうやら僕を指名してるみたいだし行ってみるお。皆は下がってて」


ブーンは更に前に一歩進み、『オレンジ』と相対する。


ξ゚听)ξ「ブーン!」


ツンが不安げにブーンの名前を呼んだ。
あの『オレンジ』とかいう少年は、これまでに二人が行ってきた幾多の仕事の一つにも現れなかった、異質な存在だ。
ブーンの強さは知っている。しかし相手も常人とはかけ離れた超人。あの爆発をマトモに受けてしまえば、いくらブーンでも只では済まない。

もしかしたら死んでしまうのかもしれないのでは……。漠然とした恐怖がツンの心を支配しつつあった。

90 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/01/21(土) 23:17:38.69 ID:doDjixvW0
そんなツンに対して、ブーンは優しく笑う。


( ^ω^)「大丈夫。いつものように、肉体労働は僕に任せるお、ツン」


振り上げた拳は必勝の契約。
彼女が後ろで見守ってくれているからこそ、どんな戦場でも自分は強くいられるんだと、ブーンは思っていた。



更に前に三歩。場がブーンと『オレンジ』、二人だけのモノへと変化する。


( ・□・)「あはっ、あははは……。恋人との最後の会話、楽しめたかい逃亡者?」

( ^ω^)「まさか。これを最後にするつもりなんて毛頭無いお」


向こうからの話に、取り敢えず言葉を返しておくブーン。
しかしいつでも奇襲されてもいいように、もしくは奇襲できるように、体の重心を前に傾けておく。


( ^ω^)+「それにしても、随分と僕を気にかけているおね? 何? 僕のファン? サイン書こうか?」

( ・□・)「あはっ、調子に乗るなよゴキブリ野郎。単に君を殺したらね……、ポイントが高いんだよ」

92 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/01/21(土) 23:19:54.41 ID:doDjixvW0
   ゴキブリ…
( ´ω`)「ポイント?」

( ・□・)「だってそうだろう? 君は旧『COLOR's』で三番目に強かった。そんな君をボクが殺せば、ボクの評価は急上昇だ。
       ハハ……しかも君は組織から抜け出した裏切り者……。踏み台にするにはうってつけの存在だと、自分で思わないかい?」

   ゴキブリ…
( ´ω`)「ああ、そういう……」

( ・□・)「そんな訳で」


『オレンジ』は、もう何個目になるか判らない『螺巻果実』を一つ取り出し、ブーンにもよく見えるように掌に置いた。


( ´ω`)「ゴキ……んお?」

( ・□・)「来て早々に悪いけど、君は死ね」


『オレンジ』はそのまま『螺巻果実』を乗せてあった腕を勢いよく掲げ、『螺巻果実』を上に投げる。
それは天井近くの位置まで来ると起爆。天井を破壊し、これまでよりも更に多くの煙幕を発生させた。

そこにいる者全員の視界が灰色に染まった。その隙をついて、『オレンジ』は音を殺して動き出す。

94 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/01/21(土) 23:23:32.36 ID:doDjixvW0
( ・□・) (真正面からやり合うのはちょっと危険だからね)


『オレンジ』は走りながら一つの爆弾を手に取る。


( ・□・) (それ、後方にも爆発を一回させておけ。そっちに意識を向けてなよ?)


それを投げる。一秒後に爆発。
誰かの驚声が上がる。


( ・□・) (さっき『銅』と同時に現れた女。奴を利用する)


『オレンジ』の脚はブーン、ではなくツンへ向かっている。
あの女を押さえれば、甘い性格をしていそうな『銅』は無力化できるだろう。
『銅』さえ制すれば残りは烏合の衆だ。勝利へのビジョンが鮮明に見えている『オレンジ』の口角は上がっていた。


( ・□・) (は、あはははっ。これで磐石だ!)


走る。
一メートル先も見えない今の状況だが、女の位置は事前に把握している。

96 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/01/21(土) 23:25:10.62 ID:doDjixvW0
この先を抜ければ、ホラ、そこにはあの女の顔が―――。





ξ゚凵i^ω^ )





(;・□・)「なっ!」


しかし、そこにはブーンが居た。
ツンの前に立ち、盾として彼女の姿を隠す。その褐色の双眼は『オレンジ』の顔をしっかりと補足していた。


( ^ω^)「BINGO! 悪党が考えることなんて大体いつも一緒だお」

(メ・□・)「ぎゃっ!」


ブーンは右の拳を『オレンジ』の鼻っ柱に叩きつける。
不意をつかれた『オレンジ』は、防ぐ間も無く殴り飛ばされてしまった。

97 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/01/21(土) 23:28:00.13 ID:doDjixvW0
(;・□・) (く、クソっ、読まれてた?)


二、三メートル飛ばされつつも、すぐに体制を整えた『オレンジ』は懐に両手を突っ込む。


( ・□・) (だけどまだ視界は開けていない! 今爆弾をバラ撒けば全てに対応することは出来ない!)


工場内は未だ煙が晴れていない。『オレンジ』の姿も、爆弾も、まず視認できない。


( *・□・)「あ、あははっ、爆殺、爆殺だ―――」


手に持った二つの爆弾を十数個に増やす。そして即座にそれらを振り撒こうとした、次の瞬間。





煙幕に、横一線の切れ目が走る。

98 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/01/21(土) 23:30:31.41 ID:doDjixvW0
( ・□・)「へ」


次いで、突風。
持続時間の短い束の間の強風は、舞い上がっていた煙を一息で無にし、その場全員の視界をクリアにさせた。


(;・□・)「なああ!?」


一面が開けた、その中央に居たのはブーン。彼は右脚を横に振り抜いた後の体勢のままでいた。
その格好から読み取ると、どうやら彼は蹴り一発で煙幕を切り開いたらしい。


(;・□・) (に、人間業じゃないっ……!)


『オレンジ』は無意識的に一歩後ろに下がっていた。
『COLOR's』第三位。知識として取り入れていたブーンの強さは、現実のそれの足元にも及んでいなかった事を『オレンジ』は理解した。

100 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/01/21(土) 23:32:18.24 ID:doDjixvW0
言葉を失っていた『オレンジ』に、ブーンが声をかける。


( ^ω^)「……アンタ、もしかして実戦は初めてかお?」

(;・□・)「な、何を」

( ^ω^)「動きが単純、ムダも多い、オマケに心構えもなっちゃいない。とどのつまり……弱いお」

( ・□・)「!」


青ざめていた『オレンジ』の顔が赤く染まっていく。
彼は理解したのだ。自分は今、目の前の男から呆れられている事を。


( ^ω^)「アンタ……ホントに『COLOR's』?」


そしてこの台詞が『オレンジ』の自尊心の起爆剤となる。


(#・□・)「バカにっ……、今ボクをバカにしたなっ!! オマエっ! この『ブーン=オレンジブロッサム』に向かって―――!」

101 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/01/21(土) 23:34:40.80 ID:doDjixvW0





( ^ω^)「黙れお」





(;・□・)「ッッ!!?」


その一言で、『オレンジ』の怒気が消えた。
いや、正しくは上書きされたのだ。彼が抱いていた嫉妬心や自尊心といったモノよりも深く重い、ブーンの怒りによって。


(#^ω^)「アンタは一番手を出しちゃいけない人を狙った……。それだけで、アンタの末路は確定したお」

102 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/01/21(土) 23:36:45.36 ID:doDjixvW0
(;・□・)「う……、ぁあ……」


ブーンが一歩前に出る。それに合わせて『オレンジ』が一歩下がる。

更にブーンが一歩。『オレンジ』は二歩。


(;・□・)「あ、あ、待……!」


『オレンジ』は完全に飲まれている。
身を覆う恐怖。息が吐けない。一秒先の自分の安全が保証されない。
机上では決して測ることの出来ない、前線の焦燥感と孤立感。



「待った」は、効かない。

104 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/01/21(土) 23:38:58.51 ID:doDjixvW0
(#^ω^)「そして!」


もう一歩前に出るブーン。
肉薄する脅威に『オレンジ』の心は耐えきれず。


(;・□・)「ぅああああぁぁあああああ!!! 来るなぁぁぁぁあああ!!!!」


抱えていた数多の爆弾を、悪夢から逃れるべく投げつけた。


(#^ω^)「追加で許せない事がもうひとつ!」


しかしブーンは引かない。
一つでも当たれば死。しかもそれらが散乱している空間に、躊躇うことなく片脚を踏み出し―――。

105 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/01/21(土) 23:41:29.65 ID:doDjixvW0





(#^ω^)「アンタ、僕と名前とか色とか被りすぎ―――」    (・□・;)





                                (・□・;) 三(ω^# )「―――なんだおぉぉぉぉ!!!!」





その『一歩』で、爆弾をすべて蹴り飛ばし、ブーンは『オレンジ』の背後についた―――!

108 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/01/21(土) 23:44:06.59 ID:doDjixvW0
(;・□・)「へぇっ!?」

(#^ω^)「『Dream Drive』!」


その動きはまさしく刹那。
爆風よりも速く、声さえも追い抜いて走るブーンの姿を、『オレンジ』が眼で追える筈もなく。


(#^ω^)「sHYYYYA!!」


あまりにも無防備な『オレンジ』の顔面をブーンの右の上段蹴りが真芯に捉え、彼を水平に吹き飛ばした。





( ^ω^)「Tut-tut. Too slow, bomber?」
       (遅すぎるぜ、爆弾魔?)






111 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/01/21(土) 23:46:41.00 ID:doDjixvW0
ブーンに蹴られた『オレンジ』の体はキリモミ回転をしながら宙を舞い、兄者の真ん前に力なく墜落した。


(;´_ゝ`)「うおっ、こっち来た! どうしよう……あ、そうだ。挨拶まだ返してなかった! はじめまして、流石兄者です!」

(´<_`;)「いや兄者、だから初対面じゃないっtこのタイミングで自己紹介なの!?」


突然の事態にテンパる兄者は、行き遅れた発言をする。
その声に反応したのか、うつ伏せで倒れている『オレンジ』からくぐもった声が返ってきた。


「……………く」

( ´_ゝ`)「ん?」


なんだろう、と思った兄者は『オレンジ』の近くに耳を寄せ、


(#メメ ゚□ ナ)「がぅうああああ!!!!」

(;´_ゝ`)「うわああああ!! 吃驚した! また耳痛いぃ!!」


もはや言葉が成立していない雄叫びを上げながら、『オレンジ』は荒々しく体を起こした。

112 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/01/21(土) 23:51:13.87 ID:doDjixvW0
(#メメ ゚□ ナ)「ふーっ! ふーっ!」


ブーンの強烈な蹴りをマトモに受けた『オレンジ』の顔は見るも無惨な有り様となっていた。
しかも彼は激昂しているらしく、瞼は大きく開かれ、眼球は血走っている。
そのため今の『オレンジ』の表情は、般若の写しかと思えるほどの形相と化していた。


(;´_ゝ`)「お、弟者ァ! これはアレか? 噂の『仲間になりたそうにこちらをみている』状態ですか!?」

(´<_`;)「どうみても敵意MAXです本当にありがとうございました」

(#メメ ゚□ ナ)「ご、ごうなっだらお前ら全員道連れにじでやるぅぁぁあ!!」


そう叫ぶと『オレンジ』は爆弾の山を作り出す。
そのまま爆発すれば、いの一番に自分が消し飛んでしまうが、現状の彼にとってそのような事は些末なモノらしい。


(;´_ゝ`)「バンザイアタックwwww ちょwwwおちけつwwww つーか顔ヒドスwwwww」

(;^ω^)「しまったお!」


最悪の事態を止めるためにブーンが駆け寄ろうとする。
しかし、いくらブーンが神速を誇っているとはいえ、あまりにもスタートが遅れ過ぎた。
『オレンジ』は既に仕込んでいる。後はもう、息を吐くのと同じように起爆ができる。

114 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/01/21(土) 23:53:10.62 ID:doDjixvW0
(#メメ ゚□ ナ)「ふーっ! ふーっ!」


ブーンの強烈な蹴りをマトモに受けた『オレンジ』の顔は見るも無惨な有り様となっていた。
しかも彼は激昂しているらしく、瞼は大きく開かれ、眼球は血走っている。
そのため今の『オレンジ』の表情は、般若の写しかと思えるほどの形相と化していた。


(;´_ゝ`)「お、弟者ァ! これはアレか? 噂の『仲間になりたそうにこちらをみている』状態ですか!?」

(´<_`;)「どうみても敵意MAXです本当にありがとうございました」

(#メメ ゚□ ナ)「ご、ごうなっだらお前ら全員道連れにじでやるぅぁぁあ!!」


そう叫ぶと『オレンジ』は爆弾の山を作り出す。
そのまま爆発すれば、いの一番に自分が消し飛んでしまうが、現状の彼にとってそのような事は些末なモノらしい。


(;´_ゝ`)「バンザイアタックwwww ちょwwwおちけつwwww つーか顔ヒドスwwwww」

(;^ω^)「しまったお!」


最悪の事態を止めるためにブーンが駆け寄ろうとする。
しかし、いくらブーンが神速を誇っているとはいえ、あまりにもスタートが遅れ過ぎた。
『オレンジ』は既に仕込んでいる。後はもう、息を吐くのと同じように起爆ができる。

116 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/01/21(土) 23:55:07.26 ID:doDjixvW0
―――だが、起爆は成功しなかった。


阻止したのは、


(;´_ゝ`)「うお!?」


兄者ではなく、


(;^ω^)「お?」


ブーンでもない、







(メ゚∋ナ)「…………」


クックル。

兄者の『FMV』から飛び出した、まだ傷の癒えていない彼こそが、
右拳を降り下ろし『オレンジ』の頭を床に叩きつけて、大爆発を阻止したのであった。

118 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/01/21(土) 23:57:50.78 ID:doDjixvW0
(メ゚∋ナ)「…………」


クックルが拳を引く。『オレンジ』の頭部は床のコンクリートに埋没していた。
完全に失神してしまったのだろう。『オレンジ』は再び起き上がることは無かった。


(´<_`;)「く、クックル? 命令してないのに……自力で現界にやって来れたっていうのか? 一体どうやって……」


弟者は有り得ないという顔でクックルを見ていた。
それもその筈だ。こうやって現実に存在しているから判りにくいが、クックルはあくまでもプログラムであるのだ。
つまり、人間の指示・操作なしに勝手に動くことなど出来る訳がない。

眉間に皺を寄せ、厳しい表情で考え込む弟者。
しかし、そんな彼の肩を叩く手が。兄者だ。


( ´_ゝ`)「……弟者、違うぜ?」

(´<_` )「兄者?」


後ろから声を掛けられた弟者が振り返ると、そこには満足そうに笑っている兄の姿があった。


( ´_ゝ`)「クックルを見てみろよ」


兄者が顎で指し示す。弟者は要領を得ないまま、もう一度クックルを見た。

119 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/01/22(日) 00:02:20.16 ID:VOx9tAib0
(メ゚∋ナ)「…………」

(´<_` )「あ……」


そこには、胸を張って自分達を見ているクックルの姿があった。
表情には出さない。だけども彼の体からは誇りが確かに溢れている。



そう。我が主人らの命を脅かした賊を、この拳で止めることが出来たという、誇りが。


( ´_ゝ`)「どうよ? こんな時は他に言わなくちゃいけない言葉がある。だろ?」

(´<_` )「……ああ、そうだな。兄者の言う通りだ」


弟者はようやく兄者が言いたいことを理解できた。同時に、些細なイレギュラーに目を奪われてしまった自分を恥じた。
きっと、クックルは自分達を護りたい一心で出てこれたのだ。まだ傷だらけでマトモに動かない体を無理に押して。

素直に、嬉しい。
弟者は奥から静かに込み上げてくる喜びを抑えきれず、微笑んだ。

122 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/01/22(日) 00:04:44.28 ID:VOx9tAib0
今すべきことは一つ。
讃えよう。我らが家族の無償の勇気を。





( ´_ゝ`)b「「流石だな、クックル」」d(´<_` )



(メ゚∋゚)b





天を向く三本の親指は、絆だ。
今までも、そしてこれからもずっと、切れることのない―――絆。



――――――――――――――――――――
――――――――――
―――――

123 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/01/22(日) 00:07:36.43 ID:VOx9tAib0












さて、それでは今一度現状を振り返り、確認してみよう。













124 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/01/22(日) 00:08:48.99 ID:VOx9tAib0



ジョルジュを降した。


『No』の大群を退けた。


は瀬川は冥府へ堕ちた。


『オレンジ』を沈黙させた。







ギコ達の敵は、残り二人。



125 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/01/22(日) 00:10:26.25 ID:VOx9tAib0



川#゚ -゚)
            ミ゚Д゚,,彡





一人は、クーと交戦中の『フサギコ=ビッグガンゴールド』。







そして、もう一人は―――。



――――――――――――――――――――
――――――――――
―――――

127 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/01/22(日) 00:11:50.30 ID:VOx9tAib0



およそ、四十畳ほどの広さの部屋に、三人。

状況は、二対一に別れての、戦闘。





(゚、゚トソン





一人で戦っているのは、涼しい顔をしている女性。均整の取れたその顔に、傷は一切見受けられない。

彼女の名は『トソン=ホワイトルシアン』。倒すべき、もう一人の敵。




そして、対峙しているのは―――。



131 名前: ◆KrvshEaXS2 投稿日:2012/01/22(日) 00:15:01.73 ID:VOx9tAib0



ノハ;ナ听)「はぁっ……、はぁっ……
!」

(;・∀・) (……………………強い!)


全身を己の血で汚し、肩で息をするヒートと、相手に付け入ることが出来ないでいるモララーがいた。

戦況は圧倒的であった。二人は、一方的にトソンに蹂躙されていた。


ヒートは、弱くない。
むしろ平均的な『COLOR's』を優に越す実力を持っている。



では何故、この状況に至ってしまったのか。それを知るには、時間を少し遡る必要がある―――。





第16話 おわり

   →第17話へ続く?


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