ここは解決屋『シルバー&ブラック』本社のようです
- 7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/12(木) 21:07:59.77 ID:mFuWDEe4O
- ※
从 ゚∀从「ん、もう大丈夫だよ。じきに目を覚ますでしょ」
診療室から出て来たハインは、両手を高く上げ大きく背伸びをするとソファーに腰掛け、
既に座っていたギコやクーと向かい合った。
川 ゚ -゚)「そうか、良かった。ハインがそう言うのなら安心できる」
从 ゚∀从「嬉しいこと言ってくれるねぇ」
(*゚∀゚)「お疲れねーちゃん! はいコーヒー!」
从 ゚∀从「お、ありがとね! つー」
ハインはつーから受け取ったコーヒーに二回、口をつけると
カップをテーブルに置いて話し始めた。
- 8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/12(木) 21:10:06.83 ID:mFuWDEe4O
- 从 ゚∀从「しかしアンタ達がイキナリ喚く女の子を連れてきた時は何の犯罪かと思ったよ」
(,,゚Д゚)「アホか。どこをどう見たらそうなるんだ」
从 ゚∀从「ああそうね。ギコ一人だったら警察に突き出していたけど、
クーも一緒なら何も問題無いわ」
(#゚Д゚)「ああ!? テメエそりゃどういう事だ!
クーも「確かに」みたいな顔して頷いてんじゃねぇよ!!」
从 ゚∀从「ほらほら、患者が隣の部屋で寝てんだから大声出さない」
(,,゚Д゚)「ぬぐぐ」
悔しいから言い返したいのだが、正論なので泣く泣くギコは握った拳を解いて湯呑みを持った。
川 ゚ -゚)「ではさっそく聞きたいんだが、いいか?」
从 ゚∀从「いいよぅん」
川 ゚ -゚)「彼女はいったいどうして急に苦しみだしたんだ?」
- 10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/12(木) 21:12:14.01 ID:mFuWDEe4O
- 从 ゚∀从「ストレートねー」
ハインは伸ばしていた背中を後ろに倒し、ソファーに深く腰掛ける。
軽く天井を見上げて三回まばたきをすると、
从 ゚∀从「つー。あの子の様子、見てきてくれない? 意識が戻ったら私を呼んでね」
(*゚∀゚)「オッケー!」
こう、つーに告げた。
つーは元気よく返事すると、駆け足で隣の部屋に移動する。
ハインはそんなつーの姿を微笑みながら見送った。
从 ゚∀从「さて」
一口コーヒーをすすり、再び背筋を伸ばして前を見る。
ギコとクーはただ黙って、ハインが語り始めるのを待つ。
時計の秒針が一周と四分の一ほど回った時、
从 ゚∀从「……あの子は操られていた、っていうのは知ってるよね?」
ハインは真剣な顔に切り替え、二人に尋ねた。
- 13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/12(木) 21:15:00.80 ID:mFuWDEe4O
- (,,゚Д゚)「ああ、知ってるが……それが?」
从 ゚∀从「生身の人間をいいように操る。言葉にすれば簡単なように見えるけど、
実際はアナタ達が思っている以上に複雑な事だよ」
コーヒーを口に含み一息つけた後、ハインは言葉を続ける。
从 ゚∀从「人を意のままに操ろうとしたら、最初に邪魔になるのはその人の人格ね。
まずはそれを封じ込める事から始まる」
川 ゚ -゚)「具体的にはどのように?」
从 ゚∀从「脳に直接プロテクトをかける。プロテクトって言っても保護する目的じゃない。
単に本来の自我が出てこれないように覆い尽くすだけだよ」
从 ゚∀从「と言ってもコレなら大して問題も無い。要はスリープしているだけだし」
(,,゚Д゚)「すると問題なのは……」
从 ゚∀从「彼女の自我を封じた上で、更に別の思考回路を上乗せした。
コレがあの子の苦しみを生み出した原因ね」
- 17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/12(木) 21:17:17.87 ID:mFuWDEe4O
- 从 ゚∀从「当たり前の事だけど、普通の人は一つの自我しか持たない」
川 ゚ -゚)「いわゆる多重人格と呼ばれる人たちは?」
从 ゚∀从「それも特別なケースだが……、そうだねぇ、彼らはちゃんと棲み分けが出来ているから」
川 ゚ -゚)「棲み分け、とは?」
从 ゚∀从「例えるなら一つの頭の中に仕切りを立てて小部屋を作っているって感じだよ。
人格が三つなら三部屋、十なら十部屋ね。
でも、玄関はたった一つだけ。だから表には一つの人格しか出てこれないの」
(,,゚Д゚)「ショボンもそうなってる訳か」
从 ゚∀从「アレは……どうだろう? まあいいや、話を戻そう」
从 ゚∀从「で、あの子に植え付けられた思考回路のせいであの子は苦しんだんだ」
川 ゚ -゚)「ん? さっきの話を聞けば大丈夫なんじゃないのか?
主人格にはプロテクトが施されているんだし、
擬似的な多重人格の形成とも言えると思うが?」
从 ゚∀从「ところがそうはいかないの。理由はその人工の思考回路のシステムにある」
从 ゚∀从「この回路は、あの子の自我にアクセスする事で稼働しているんだ」
- 20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/12(木) 21:20:01.56 ID:mFuWDEe4O
- (,,゚Д゚)「えーと……、どゆこと?」
从 ゚∀从「つまり移植した人工回路はそれ単体で動いている訳じゃなくて、
あの子の自我の一部を利用しているって事。
こうすると、自立型の人工回路以上の複雑な思考が可能になるの。
現にあの子の動き、いつかの『No』とかいう人形よりも良かったでしょう?」
川 ゚ -゚)「確かに……。裏をかかれたのも複数あった」
从 ゚∀从「ただし問題もある。『意識の混合』ね。
本来の自我を借りる事でプロテクトに穴が開き、
裏に追いやったそれが表に出て来て混ざってしまう。これは非常に危険な現象なんだよ」
川 ゚ -゚)「要するにそれが原因で……」
从 ゚∀从「ああ。機械で出来たものと生身の肉体は水と油の関係だ。
決して混ざり合わない。……クーなら判るだろう?」
川 ゚ -゚)「……ああ。よく、判るよ」
从 ゚∀从「しかも混合場所は繊細な脳と来たもんだ。一歩間違えれば脳死、よくて植物状態さ」
- 23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/12(木) 21:23:01.36 ID:mFuWDEe4O
- 川 ゚ -゚)「……外道な事を。は瀬川という男は人を使い捨て程度にしか見てないのか……っ!」
从 ゚∀从「まだ肉体強化されていたから良かったよ。普通の人間なら持ちこたえられない。
だからこそこんな方法を取ったのかも知れないけれど―――って、ギコ?」
ハインがふと、妙な気配を察してギコを見る。
(#゚Д゚)「…………」
彼は怒りを露わにしていた。
ハインからしてみれば、ギコはいつでも飄々としている軽い男だ、という印象だ。
だから目に見えて激怒している彼のその姿に少々の驚きを感じていた。
(#゚Д゚)「まだ、やろうってのか……」
俯き加減で小さく、しかし万丈の怒りを込めて言葉を続ける。
(#゚Д゚)「その下らねえ思想が『アイツ』の全てを奪ったというのに。
まだ、まだ奴らは同じ事を繰り返すってのかよ……っ!」
- 25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/12(木) 21:25:23.12 ID:mFuWDEe4O
- 川 ゚ -゚)「ギコ……」
(#゚Д゚)「反吐が出る……。奴らのやり方は……っ!」
どんな言葉をかけるべきなのか迷うクーは、
しかし自分の懐から電子音が鳴り出した事にハッとする。
川 ゚ -゚)「っと、私の携帯か。…………はい、私だ」
『あ、クーさんですか!? 僕ですモララーです!』
川 ゚ -゚)「どうした? 何やら慌てているみたいだが」
(;・∀・)『は、はい! 実は会社にメールが届きまして……。送り主は『COLOR's』です!』
川 ゚ -゚)「! 次が来たか」
(;・∀・)『はい。向こうは場所を指定しています。指定先は―――』
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
川 ゚ -゚)「―――ああ、判った。君はショボンのところに行ってくれ。
道中は気をつけろよ。ではな」
クーは携帯を折り畳み、ギコに今あった電話の内容を話した。
- 28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/12(木) 21:28:06.46 ID:mFuWDEe4O
- (,,゚Д゚)「……はっ、ちょうどいい。
ソイツをボコって、ついでにアジトの場所を吐いてもらおう。それで終わりだ」
川 ゚ -゚)「ギコ、もしもまた相手が―――」
(,,゚Д゚)「わーってる。操られていたら解放させてやるんだろ?
そこまで考えつかないほど頭に血は昇ってねーよ」
川 ゚ -゚)「なら良し、では行こう。ハイン、後は頼む」
从 ゚∀从「はいよ。頑張って行ってらっしゃいな」
扉を開け部屋を出て行く二人に、ハインは片手を振って見送った。
从 ゚∀从「やれやれ、慌ただしいなぁ」
少し温くなったコーヒーの残りを全て、喉に流し込む。
从 ゚∀从「しかしそれ故に浮き足気味かな。ちょっと胸騒ぎがするね……」
- 30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/12(木) 21:30:00.98 ID:mFuWDEe4O
- 「はて、どうしたものかね」とハインが腕を組んで目を瞑っていると、
「ねーちゃんねーちゃん! きてー!!」
つーがハインを呼ぶ声が隣の部屋から聞こえた。
从 ゚∀从「おっと。お姫様が目を覚ましたかしら?」
ハインが隣の部屋に通じるドアを開けると、
そこにはベットの上で身を起こしている少女の姿が。
- 32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/12(木) 21:32:05.97 ID:mFuWDEe4O
- 从 ゚∀从「やあ、お目覚めのようだね」
「ここ、は……」
从 ゚∀从「ここは私の診療所だよ。世話焼きな二人組が君を運んできてね」
「私……」
从 ゚∀从「ま、今はまだ頭の中も混乱しているでしょう。落ち着いて徐々に思い出せばいいよ」
「…………」
从 ゚∀从「っと、申し遅れていたね。私はこの診療所の医師を勤めている
ハインリッヒという者さ。気軽にハインと呼んでくれて構わないから」
「ハイン……」
从 ゚∀从「そう、ハインだ。で、もし良かったら君の名前も教えてくれないか?」
少女を安心させるスマイル(営業)を見せるハイン。
その顔につられるかのように、少女はゆっくりと声を出した。
「私……。私の、名前は―――」
- 34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/12(木) 21:34:02.29 ID:mFuWDEe4O
- .
(,,゚Д゚) ここは解決屋『シルバー&ブラック』本社のようです 川 ゚ -゚)
第十一話-a
「『ヒート』……。『ヒート=レッドハート』」
- 36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/12(木) 21:36:11.25 ID:mFuWDEe4O
- ※
〜○×ビル跡地内〜
(,,゚Д゚)「…………」
川 ゚ -゚)「…………」
ギコとクーは指定されたというビルの内部を無言で歩いていた。
普段ならたわいもないお喋りをしながら、が常なのでこの状態は珍しいと言える。
これはギコが未だ激昂の渦中にいる、という理由だけでは無かった。
ビル全体を覆う禍々しい障気。
そこにいるだけで不安になるような、あらゆる物陰から何万もの目で見られているような、
そんな気持ちにさせられる『何か』がどこを歩いても絶えずあった。
川 ゚ -゚)「……これは」
(,,゚Д゚)「ケッ、ちったあマシな奴が出て来てるじゃねえか……!」
歩く。
向かう先は判る。
この障気が、より濃くなっている方に行けばいいから。
- 38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/12(木) 21:38:03.04 ID:mFuWDEe4O
- 歩くこと数分。
二人はある扉の前で立ち止まった。
扉一枚隔てたその先に、吐き気を催すほど濃い障気が満ちているのを感じる。
間違い無く、敵はこの先にいるだろう。
(,,゚Д゚)「…………」
ギコは無言でドアノブに手をかける。
キィ、と軋んだ音を短く響かせて、扉は開いた。
川 ゚ -゚)「む?」
しかし、目の前には誰もいない。
不快な気配は相も変わらず全身に纏わりついているのだが―――
- 40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/12(木) 21:40:24.38 ID:mFuWDEe4O
- 「ヒィヤァッハァ!!!」
(,,゚Д゚)「!」
川 ゚ -゚)「上っ!?」
気付くが早いか、二人は前方へ身を投げるようにして転がる。
(,,゚Д゚)「奇襲かよ! セコい真似しやがっ―――!?」
_
( ゚∀゚)「ハハッ!」
着地し、いきなり襲ってきた奴の顔を見ようとしたギコに、
上から降ってきた男―――ジョルジュは間髪入れず迫る。
膝をつくギコの顔をサッカーボールに見立てて蹴り上げてきた。
(,,゚Д゚)「うおっ!」
歯を食いしばって体を後ろに反らす。その勢いで後転し、蹴りを躱す事に成功した。
- 42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/12(木) 21:43:19.32 ID:mFuWDEe4O
- その勢いのまま立ち上がる。
前を見るとジョルジュはこちらに殴りかかってくる寸前だった。
(,,゚Д゚)「ぅおらあっ!」
負けじとギコも拳を前に出して相手の拳とカチ合わせようと画策する。
が。
_
( ゚∀゚)「ヒャハッ!」
ジョルジュは出そうとしていた拳を無理やり引っ込めて、その場で屈む。
そして座ったまま反転。ギコに背を向け、アッパーカットの要領で足の裏を思い切り押し上げた。
ギコの体勢は、今となっては何も無い空間に拳を放とうとしている状態。
このまま体を流しては、ジョルジュの蹴りが直撃してしまう。
(,,゚Д゚)「くっ! ナメんなゴルァ!」
だから軌道を変える。
出した拳をこちらも無理やり下に持って行き、ジョルジュの足とカチ合わせた。
- 45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/12(木) 21:46:00.10 ID:mFuWDEe4O
- _
(;゚∀゚)「うおっ!」
(;゚Д゚)「ぐうっ!」
二人の足と拳が激突した瞬間、そこを中心として辺りに衝撃が走る。
ギコは後ろにたたらを踏み、ジョルジュは軽く地面を引きずった。
二人の距離は離れ、勝負はひとまずの区切りがつく。
_
( ゚∀゚)「ヒハハ……。いいなぁいいねぇ楽しいねぇ……! やっぱこうでなきゃあよぉ」
空いた隙間に滑り込むようにして、ジョルジュが言を発した。
表情は笑み。彼の口は裂けんばかりに開かれ、猛獣のような牙を覗かせている。
(,,゚Д゚)「ったく、不意打ちたぁ随分落ち着きが無ぇな。もっとゆとりを持ったらどうだ?」
_
( ゚∀゚)「驚いたか? だったら悪いなぁ。
でもよぉ、俺は面と向かってコンニチワ、ってキャラじゃなくてなぁ。
今さっきのは俺流の挨拶だと思ってくれよ」
(,,゚Д゚)「それは『挨拶』じゃなくて『お礼参り』って言うんだぜ」
- 47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/12(木) 21:48:20.52 ID:mFuWDEe4O
- _
( ゚∀゚)「好きなように解釈してくれよ。そんな事よりも楽しもうぜぇ」
(,,゚Д゚)「『楽しむ』だ? 一体何を楽しめばいいんだよ?」
_
( ゚∀゚)「そうだなぁ」
ジョルジュは大きく開いた口を曲げ、歪んだ笑顔を作る。
_
( ゚∀゚)「俺は殴る。お前らは抵抗する。でもやっぱり俺に殴られる」
_
( ゚∀゚)「そうだ、それが楽しい。俺が楽しい。
でもお前らは簡単に捕まっちゃあダメだ。逃げるウサギを捕まえるから楽しいんだ。
初めから死んだモン持ってこられても盛り上がらねぇんだよ」
_
( ゚∀゚)「ハハッ、でも結局は俺に捕まる。お前らは俺に捕まる。殴る。
そうだ、俺は殴るからお前らは泣きわめけ。許しを請え。
『もう殴らないで下さい』って鼻水垂らしながら懇願しろ。
そうしたら俺がまた殴ってやるから。ハハハッ」
_
( ゚∀゚)「殴る。殴る。陸に打ち上げられた魚みてぇにピクピク痙攣するまで殴る。
そのあとも殴る。トロトロした血が粘ついて糸を引くくらいまで殴る。殴る。殴る。
頭蓋骨が割れてピンクの脳みそがこぼれだして血とごちゃ混ぜになっても殴る。殴る。殴る。殴る。殴る」
_
( ゚∀゚)「そうだ、ヒヒッ、それでいこう。ハハ、タノシそうだな。いやタノシイに違いない。
ゼッテェ面白ェよ。なぁそう思うだろ。
愉しいよな? タノシイヨナァァァァアアアアアアアアアアア!!!??????」
- 49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/12(木) 21:51:02.58 ID:mFuWDEe4O
- 腹を抱えてジョルジュは笑う。
快楽に笑い、渇仰に笑い、狂気に笑う。
狂悖暴戻の思念がジョルジュを取り巻き、渦巻き、辺りを巻き込む。
もはや、それは『人』が保持するモノではなくなっていた。
(,,゚Д゚)「クー」
ギコがクーを呼ぶ。
顔は前を向き、目はジョルジュを睨んだまま。
(,,゚Д゚)「断言してもいい。アイツは操られちゃいねえ。根っからの屑野郎だっ……!」
クーはそんな彼の言葉に頷きを返す。
川 ゚ -゚)「ああ、私も同じ考えだ。
それに、奴はその存在そのものが危険すぎる。ここで潰すぞ……っ!」
(,,゚Д゚)「当然! そのつもりだっ!」
二人は前に踏み出した。
人の形をした、人の肉体を持った『紛い物』を裁く為に。
- 51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/12(木) 21:52:31.70 ID:mFuWDEe4O
- ※
(゚、゚トソン「―――始まったみたいですね」
ギコ達が戦闘を始めたフロアよりも数階上。
そこにトソンとフサギコの姿があった。
ミ,,-Д-彡「…………」
フサギコは瓦礫の上に腰掛け、背中を壁に預け、目を瞑っていた。
―――今はまだ動かなくていい。
無言で佇む彼の身は、しかしそう語っているようにトソンには見えた。
互いに、沈黙。
- 53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/12(木) 21:54:10.49 ID:mFuWDEe4O
- 静かな世界だ。
階下では凡人のレベルを遥かに越えた激しい戦闘が繰り広げられているだろうが、
彼女ら二人のところまでその音は届かない。
まるで世界が静止したかのような空間。
トソンはこの神秘的とも言える静寂な空間が、とても好きだった。
暫くの間それを堪能していたが、やがてトソンは口を開く。
(゚、゚トソン「―――少し、聞いても良いですか?」
ミ,,-Д-彡「…………何だ?」
(゚、゚トソン「どちらが、勝つと思います?」
気になっていた質問を投げる。
どちらが勝つのか、別にその事自体に興味がある訳では無い。
知りたいのは彼が、フサがどう勝敗を予想するか。その一点だけだ。
- 55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/12(木) 21:56:02.46 ID:mFuWDEe4O
- ミ,,-Д-彡「…………」
フサギコはすぐには答えない。
勝敗を決めあぐねているのか。
それとも他に何か思うところがあるのか。
そんな彼の背中を押すように、トソンは続けて話し出す。
(゚、゚トソン「かたや元No.2、しかし“力を解放しなくなった”『錆びた銀弾』と
天才・荒巻博士の秘蔵っ子である『ラスト・チャイルド』」
(゚、゚トソン「どちらもかなりの力を有していますが、
それでもあのジョルジュの能力を突破出来るかどうか……。
彼の『アレ』は反則じみていますから」
そこまで言って、トソンは話すのを止めた。
後はフサギコの考えを聞くだけ。彼が口を開くのをじっと待つ。
その後もフサギコは沈黙を続けたが、やがて
ミ,,-Д-彡「―――そうだな」
と、こぼすように言葉を吐いた。
- 57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/12(木) 21:58:01.55 ID:mFuWDEe4O
- 彼の口はそのまま止まらず、ゆっくりではあるが間断なく動き続ける。
ミ,,-Д-彡「確かにジョルジュは厄介な相手……。
そして奴を突破する事は―――」
一呼吸置いて、閉じていた目を開け、
ミ,,゚Д゚彡「『錆びた銀弾』と『ラスト・チャイルド』の二人には、出来ん」
(゚、゚トソン「……それはつまり、あの二人はジョルジュに負ける、と?」
ミ,,゚Д゚彡「ああ、その通りだ」
(゚、゚トソン「…………」
そこで会話は終わり、再びの無音が訪れる。
ミ,,-Д-彡
フサギコは、もう話す事は無いとでも言うように、また目を閉じてしまった。
- 59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/12(木) 22:01:02.10 ID:mFuWDEe4O
- (゚、゚トソン「…………」
トソンは先程のフサギコの言葉を頭の中で反芻させる。
(゚、゚トソン(『銀』と『黒』が負ける、ですか……)
意外だ、と思った。
実際の力量差はどうであれ、彼ら二人が負けるとフサギコは考えている、という事に驚いた。
何故疑問に思ったのかは自分でも上手く言えないが、ともかくトソンの予想とは外れていたのだ。
(゚、゚トソン(……ふう、まだまだですね)
まだ、彼を完全に理解するのは出来ないみたいだ。
(゚、゚トソン(まあ、着実に前に進む事が重要ですね)
そう気持ちを切り替え、そして階下の戦闘が終わった時、彼はどんな顔を見せるのかを考えて。
トソンは消音のオーケストラの第二楽章をしばし静聴する事にした。
- 62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/12(木) 22:04:45.50 ID:mFuWDEe4O
- ※
川 ゚ -゚)「せあっ!」
_
( ゚∀゚)「っ! ……とお!」
クーが繰り出したフック気味の左拳を、ジョルジュはしゃがんで紙一重で避ける。
そして両足で地面を蹴って後方へ跳び逃れた。
川 ゚ -゚)「どうした? 威勢が良いのは口だけか?」
距離が空いた機会を狙って、クーが挑発をかける。
_
( ゚∀゚)「ヘッ、二人掛かりでかかってきてる割には言うじゃねえか」
川 ゚ -゚)「ほう、では何だ、二人は卑怯だと言うのか? 正々堂々と1対1で勝負しろと?」
_
( ゚∀゚)「言ってねぇよ。俺にかかりゃ二人同時でようやく楽しめるってモンだ」
川 ゚ -゚)「では口では無く、体で証明してみろ!」
その言葉を合図として、クーは前に大きく踏み出していった。
- 64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/12(木) 22:07:00.71 ID:mFuWDEe4O
- 再度ジョルジュと交戦をを始める。
クーは激しく体を動かし続けながら、現状を冷静に分析する。
川 ゚ -゚)(確かに強い。私たち二人を相手に上手く立ち回っている)
川 ゚ -゚)(が、それだけ。このままでは私たちを打倒しえない)
川 ゚ -゚)(ただ、コイツは未だ無手。髪と目の色も変化していない。まだ手を隠しているのは確実)
川 ゚ -゚)(しかし……、武器を隠しているにしてもどこに仕舞ってあるんだ?
体を見た感じは何処にもそれらしき違和は無いが……。暗器の類か?)
川 ゚ -゚)(とにかく一挙一動見逃さず、いかなる手にも不意を突かれないようにしなくては)
クーはさざなみのような心を更に研ぎ澄まし、より深く集中した。
室内の空間に体が溶けてしまったような一体感が産まれる。
今なら部屋の隅で転がる小石一つにすら反応出来るだろう。
多分に過敏となった神経はジョルジュの行動の全てを見逃さない。
しかし次のジョルジュの発言により、その神経は面を食らい静止してしまった。
- 66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/12(木) 22:09:20.69 ID:mFuWDEe4O
- _
( ゚∀゚)「……はぁ〜あ。飽きちまったな。つまんねぇ」
ふとジョルジュが動きを止め、その場に棒立ちになり、
気にくわなそうな顔をしてそんな事を愚痴るように言った。
(,,゚Д゚)「…………あぁ?」
突拍子もないその発言に、ギコも鎖を持つ手を止めて唖然とした顔を作る。
_
( ゚∀゚)「つまんねぇ、って言ったんだよ。テメェらが顔を殴らせてくれねえから」
確かに、もう10分近くは戦っていたがクリーンヒットというのは双方に無かった。
体こそお互いに擦り傷などで所々服が破れているが、顔は綺麗なままだ。
(,,゚Д゚)「何言ってんだ。抵抗しろっつったのはお前だろうが?」
_
( ゚∀゚)「言ったけどよぉ、テメェらガチガチに固め過ぎなんだよ。
で、さっきも言ったとおり飽きちまったからよ……」
- 68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/12(木) 22:11:00.15 ID:mFuWDEe4O
- ジョルジュはその場で半回転。ギコとクーに背中を向け。
_
(゚ )「帰るわ。じゃあな」
一瞬で部屋から出て行った。
川 ゚ -゚)(なっ……)
(,,゚Д゚)「何だとォォォォオ!!?」
部屋には呆気にとられ口をポカンと開ける二人が残った。
川 ゚ -゚)(いったい何を考えて……、いや、これは罠?)
思考を巡らせ、ジョルジュの行動の意味を考えるクー。
- 70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/12(木) 22:13:15.72 ID:mFuWDEe4O
- しかし
(#゚Д゚)「バカが! 逃がすわけねーだろうが!!」
ギコは即座に部屋を飛び出し、ジョルジュの後を追いかけ出した。
川 ゚ -゚)「っ! こら待てギコ!」
だが待てと言われて待つ訳が無い。
仕方無くクーも廊下に走り出る。
少し前方にギコ。
そして廊下の一番奥、左に曲がって階段を駆け上ろうとするジョルジュの姿がチラリと見えた。
ジョルジュを捕まえようと走るギコの後ろをクーは追う。
川 ゚ -゚)「待たんかギコ! 奴は私たちを誘い出している可能性が高い! ここは一旦引くべきだ!」
(#゚Д゚)「そんなまどろっこしい事してられるか! 一気に追い込んで叩き潰すぞ!」
川 ゚ -゚)「ちょっと落ち着け! 罠を用意しているかも……!」
(#゚Д゚)「そんなモンまとめてぶっ壊してやる!」
- 73 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/12(木) 22:15:01.77 ID:mFuWDEe4O
- 川 ゚ -゚)(駄目だ。頭に血が昇ってて、まるで聞く耳を持たん)
そもそもここに来る前からギコの機嫌は悪かったのだ。
ジョルジュのふざけた行動により、今まで溜めてきた
ストレスや怒りなどが一気に爆発してしまったに違いない。
彼のこの激情はしばらく収まる事は無いだろう。
川 ゚ -゚)(私がなんとかカバーするしかないか……)
クーは軽く諦めの表情を作り、ギコについていった。
階段を三歩で駆け上がり。
窓に姿が映らないほどのスピードで廊下を走り抜け。
ジョルジュはある一つの部屋で歩を止めた。
- 75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/12(木) 22:18:01.05 ID:mFuWDEe4O
- 遅れる事五秒、ギコも室内に入り、数拍置いてクーも中に足を踏み入れた。
そこで二人はこちらに背中を向けて立っているジョルジュの姿を確認した。
(,,゚Д゚)「けっ、やっぱ逃げる気は無かったみてえだな。で、ここに何か用か?」
クーは室内を見渡してみる。
先程の戦闘に使用していた部屋とほぼ変わらない、何の変哲もない場所だ。
川 ゚ -゚)(何か隠しているのか……?)
用心に用心を重ねる。
相手の意図が掴めない以上、すぐにでも異変が発生してもおかしくない。
(,,゚Д゚)「おい、だんまりかよ。こちとらお前の鬼ごっこに付き合ってやったんだぜ?」
付き合ってやった、ねぇ。
間違い無く自分から勇んで突撃してただろう、とクーは心の中でツッコんでおいた。
- 77 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/12(木) 22:20:02.39 ID:mFuWDEe4O
- ( )「ヒハハ、悪ィなワザワザ足を運んでもらって」
ようやくジョルジュが口を開けた。ただし背中は向けたままである。
( )「いやなぁ、帰るってのは確かにジョークだったんだがよぉ」
( )「飽きた、ってのはマジなんだよ」
( )「こちとら早くテメエらの悲痛な顔が見たくてさぁ、ヒヒッ」
言葉を続ける。
( )「まぁそんなんだからさぁ……」
_
( ゚∀゚)「ちょぉっと本気だそうかなぁぁぁぁぁあ?」
振り向く。
同時に、ジョルジュは『灰』色へと変化した。
- 79 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/12(木) 22:22:08.02 ID:mFuWDEe4O
- (,,゚Д゚)「!」
強烈な障気が全身を叩きつける程に吹き荒れる。
彼の髪も、瞳も、どこまでも暗く濁った『灰』色に姿を変えた。
更に。
川 ゚ -゚)「アレは……?」
ジョルジュが前に向き直った事で、ようやく彼が手に何かを持っていたのに気付く。
球体。
灰色に塗りつぶされた、金属製の球体。
大きさはバレーボール程度。
色々な部品がツギハギとなって綺麗に球を形作った、といった感じだ。
精密機械のようにも、只のガラクタのようにも見える。
それがジョルジュの右の掌の上に乗せられていた。
- 82 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/12(木) 22:24:26.90 ID:mFuWDEe4O
- _
( ゚∀゚)「ヒヒ、気ぃになるかい、コレが?」
ジョルジュは愉快だと言わんばかりに笑い、球体を前に掲げてみせる。
_
( ゚∀゚)「コイツは俺の……、『ジョルジュ=クレイジィグレイ』の
虎の子、秘密兵器とも呼べるシロモノでよぉ……、クヒヒ」
_
( ゚∀゚)「あぁもちろん投げて使うとかそんな下らないモンじゃないぜぇ。
やっぱ直に殴らねぇと楽しくないからなぁ、ハハ、感触がなぁ……」
_
( ゚∀゚)「ま、説明すんのもダリぃな。実際に使ってやるから体で感じな」
そう言うと、ジョルジュはギコとクーに向けられていた目を自分の手元―――灰色の球体に移す。
すると、球体に変化が。
ジョルジュが手を加えていないにも関わらず、横方向に回転しだしたのだ。
機械が作動する時のような、低く鈍い音が小さく鳴り続けている。
ジョルジュがゆっくりと右手を下げる。
球体は重力に囚われる事無く、その場で浮遊し回転を続けていた。
- 84 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/12(木) 22:27:00.42 ID:mFuWDEe4O
- (,,゚Д゚)「なんだありゃあ……」
見た事の無い物体に、見た事の無い現象。
ギコとクーはその不思議な光景に目を奪われていたが。
(,,゚Д゚)「っ!」
ハッと我に帰る。
何を自分たちはボーっと突っ立っているのか。
アレが何かは判らないが、とにかく止めなければマズい事になるだろう。
何事かが起こる前に阻止しなくてはいけない。
そう思ったギコは前に飛び出す。
ほぼ同時にクーも前に出て、ジョルジュに接近しようと試みる。
_
( ゚∀゚)「ヒハッ! 残念! もう遅いぜぇぇぇぇぇえええ!!!」
ジョルジュは余裕の叫びを発した。
口をこれでもかと開け、極上の笑みを見せながら、右手を天にかざす。
_
( ゚∀゚)「さあお待ちかね! ショータイムの始まりだ! 俺の一方的な虐殺ショーのなぁぁ!!」
- 86 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/12(木) 22:29:02.95 ID:mFuWDEe4O
- 球体は回転の速度を徐々に上げる。
既にかなりのスピードが出ており、反動を抑えきれないのかガクガクと震えていた。
川 ゚ -゚)「そんな事―――」
(,,゚Д゚)「させるかよっ!!」
二人は走る。
あの変な球体を叩き落として起こるであろう『何か』を未然に防ぐ為に。
そして、後一歩で球体に手が届くというところで。
_
( ゚∀゚)「―――『発・動』♪」
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- 89 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/12(木) 22:31:34.40 ID:mFuWDEe4O
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( ゚∀゚)「『Clay-G Gray』」
そのジョルジュの声がギコとクーの足よりも速く。
彼らの耳に届くよりも速く。
二人の体は同時に地面のコンクリートへと叩き伏せられていた。
第十一話-a 終わり
→第十一話-bへ続く?
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