ここは解決屋『シルバー&ブラック』本社のようです
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10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/04/11(日) 21:55:02.37 ID:wvDewCHvO
-
※
(,,゚Д゚)「しぃ……っ」
この時の俺は、恐らく相当情けない顔をしていたのだろう。
見開いた両目。
ぽかんと丸を描く口。
白で一様に染め上げられた心。
彼女がそこにいたから。
居るはずの無い、しぃがそこにいたから。
何も考えられなかった。
本来なら浮かび上がってくる感情。
『歓喜』?
『疑問』?
『驚愕』?
『悲哀』?
そういったモノは一切無く。
俺の頭の中は、ただただ白かった。
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14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/04/11(日) 21:59:33.45 ID:wvDewCHvO
-
ミ,,゚Д゚彡「…………」
俺の隣でフサギコが息を呑む音がおぼろげに聞こえた。
(,,゚Д゚)「しぃ」
ミ,,゚Д゚彡「!」
誰もが立ち竦み、時が静止した空間。
そんな中で俺の足は一歩、二歩と前へ動く。
力無く放り出された足は、しかしそれでも確実に大地を噛みしめる。
速度は子供のかけっこにも劣るが、体は着実に近付いていく。
しぃの元へ。
(,,゚Д゚)「……っ」
俺は何をしているのだろう?
近付いてどうする?
声を掛けるのか?
何を話せばいい?
判らない。
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16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/04/11(日) 22:02:31.32 ID:wvDewCHvO
-
判らないが―――
(,,゚Д゚)「しぃ……!」
今はただ、君の近くに。
そう思ったから。
俺は走る。
ミ,,゚Д゚彡「バッ―――」
フサギコが走る俺の後ろで何か言おうとしている。
だが、そんなのはどうでもいい。
川 - 川
前しか見ない。
今の俺には、彼女しか映らない。
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18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/04/11(日) 22:05:56.79 ID:wvDewCHvO
-
そして彼女も。
そんな俺の思いに答えてくれるかのように、体を前に倒して、
ミ,,゚Д゚彡「馬鹿者っ!!」
一足跳びで俺の目前まで迫る。
視界は彼女の痩せ細った左手に覆われた。
(;゚Д゚)「〜〜〜〜っ!!」
目が抉り取られるその前に辛うじて反応できた俺は、全身の力を込めて右後ろに飛ぶ。
視覚を永久に無くす事は何とか防げたものの、
その指から完全に逃れる事は叶わず、俺の左肩で血が弾けた。
(;゚Д゚)「くっ! しぃ……!」
右手で肩の傷口を押さえ、片膝を着きながらも彼女を見る。
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20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/04/11(日) 22:09:18.45 ID:wvDewCHvO
-
川 - 川
しかし彼女は何も言わない。その顔に感情は浮かばない。
駆ける。
俺を、敵を行動不能へと陥れるために。
(;゚Д゚)「しぃ、止めろ! 俺だ、ギコだ! 俺が判らないのか!?」
有らん限りの大声で叫ぶ。だが、しぃのスピードは揺るがない。
(;゚Д゚)「クソッ!」
転がるように右へ飛ぶ。
そのすぐ後、俺がいた地点の空間ごとを切り裂くかのようにしぃが通り抜けた。
雷のようなしぃの猛攻は止まらない。
降雨によって出来た水たまりを、踏み込みで散布させつつ体の向きを転換。三度襲撃してくる。
(,,゚Д゚)「このっ……!」
俺は迎え撃とうと、足に力を入れて立ち上がった。
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23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/04/11(日) 22:12:29.46 ID:wvDewCHvO
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が。
(;゚Д゚)「!?」
体が重い。
ただ『立ち上がる』という動作にすら違和感を覚える程に。
どうして―――?
服が雨を吸って質量を増したから?
違う。このザマはそんなチャチな理由じゃない。
ならば、と考え。
すぐに思い当たる。
そう。俺は……
(,,゚Д゚)(立ちたく、ないのか)
(,,゚Д゚)(戦場に。しぃが『敵』として存在するこのフィールドに―――)
体が拒否している。
体は、アイツは倒すべきモノじゃないんだと知っているんだ。
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25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/04/11(日) 22:16:25.15 ID:wvDewCHvO
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しかし、そんな俺の思いなど存じぬとばかりに疾走してくるしぃ。
前に突き出された彼女の左手が、俺を喰い破ろうと猛っている。
(;゚Д゚)(ちぃっ!)
だけども今、俺の体は水銀の中を泳いでいるかのように鈍重だ。
しぃの突進を躱す事はできない。
ならば、と両腕を顔の前でクロスさせて防御の姿勢を取った。
しぃは既にすぐそこにいる。腕に力を込めて衝撃を迎えた。
だが、ここで急にしぃが右足を大きく前に出してブレーキを掛け、左に跳ぶ。
何事かと俺が思うそれよりも速く。
ミ,,゚Д゚彡
世界を染めるかの如く、視界の上から『金』髪のフサギコが降りてきた。
着地点のアスファルトに亀裂が走り、破片が散弾銃のように周囲に飛び散る。
(,,゚Д゚)「っ……!」
声を出せない俺を残して、フサギコはしぃ目掛けて跳躍した。
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28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/04/11(日) 22:20:29.68 ID:wvDewCHvO
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ミ,,゚Д゚彡「ぬおおっ!」
丸太のような右腕を、ラリアットのように横薙ぎに振るい抜く。
当たった部位が根こそぎ持って行かれそうなそれは、しかし紙一重のところでしぃに躱される。
攻撃後の隙を狙い、しぃはフサギコの背後に回って彼の首を断ち切ろうと手を走らせた。
だが、
ミ,,゚Д゚彡「ぜああっ!」
それを上回る速度で、フサギコが回転しつつ左腕を振った。
しぃは手を止め顔を後ろに引く事で、それを何とかやり過ごす。
(,,゚Д゚)「…………」
俺はそんな二人の闘いを離れた場所で見ていた。
(,,゚Д゚)「フサギコの野郎……、マジかよ……っ!」
本気だ。アイツは本気でしぃを殺す気だ。
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30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/04/11(日) 22:23:04.72 ID:wvDewCHvO
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容赦のないフサギコの拳。
アレをまともに受けてしまえば、華奢なしぃの体は簡単に崩れてしまうだろう。
そう、崩れてしまう。それを理解していて、俺は―――
(,,゚Д゚)(何故、ただこの場に突っ立っているだけなんだ―――?)
しぃはあの時に死んでしまったと思い込んでいたから、現実味が湧かないからか?
もしくは、あの子が実はしぃでは無く、よく似ているだけの赤の他人なのかもしれないから?
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32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/04/11(日) 22:27:54.21 ID:wvDewCHvO
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それとも
変わり果てた彼女の姿を、認めたくないからだろうか……?
胸を切り取られるような思いを俺が抱いているその間にも、しぃとフサギコの攻防は続いていた。
しぃは修羅のようなフサギコの猛攻から一旦距離を置くために、バックステップを選択する。
しかし、彼女の膝は着地と同時に折れ、その場にへたり込んでしまった。
すぐに立ち上がろうとするものの、どうやら下半身に力が入らないらしく、身を起こせずにいる。
恐らく先程のフサギコの裏拳が、彼女の顎先を僅かに捉えていたのだろう。
揺さぶられたしぃの脳は、自らの手足に命令を出せずにいた。
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34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/04/11(日) 22:30:56.47 ID:wvDewCHvO
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ミ,,゚Д゚彡「おおっ!」
そんな決定的な隙を逃す理由は無い。ここぞとばかりにフサギコは一気に詰め寄る。
奴は右腕を後ろに引き、力を溜める。次の攻撃でしぃの生を終わらせる為に。
しぃは動けない。動きたくても動けない。
俺は?
俺はどうなんだ?
動けない?
否。俺は動ける。
動きたくない?
……否。俺は―――
(,,゚Д゚)「止める……っ!」
思うよりも速く、俺はその身を『銀』に変えフサギコの正面に立つ。
しぃを背中に隠しつつ、奴の右を両の掌で受け止めた。
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37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/04/11(日) 22:34:17.78 ID:wvDewCHvO
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肉と肉の激しい衝突音。
次いで静寂。
先程しぃに抉られた左肩から血が吹き出す。
フサギコは右腕を突き出したまま、俺は奴の右拳を握り締めたまま、どちらも動かない。
やがて俺の耳に、いつの間にか聞こえなくなっていた雨の音が再び入り込んできた。
それと同時に、フサギコの口が開く。
ミ,,゚Д゚彡「何故止めた?」
その問いに答えを返す。
何を言うかはもう決まっている。
(,,゚Д゚)「『止めた』? 違ぇな」
俺は即座に振り向くと、俺の背中の肉を爆ぜ飛ばそうと伸ばしてきていたしぃの手を拳で弾いた。
奇襲に失敗したしぃは数歩分、俺から間を置く。
(,,゚Д゚)「『止める』んだ! しぃは俺が止める! 助けてみせるっ!」
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39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/04/11(日) 22:37:25.69 ID:wvDewCHvO
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目は前を、しぃを見つめる。
(,,゚Д゚)「テメェはそこで見ていろ! 手ェ出すんじゃねえぞ! 出したらブッ殺す!!」
左腕を横に出してフサギコを制する。それに対し、奴は俺の意を汲んだのか、
ミ,,゚Д゚彡「…………」
姿を『金』から元に戻し、無言のまま一歩下がった。
フサギコの戦意が無くなった事を気配で感じ取った俺は、改めてしぃに全意識を集中する。
しぃは俺の方を向いて幽鬼のように立ち尽くしている。
僅かに上げられた顎。瞳は濡れた髪に隠されて、こちらから確認する事は出来ない。
が、俺を視野に入れているのは間違いないだろう。
(,,゚Д゚)(止める……。しぃを救うんだ……っ!)
俺が覚悟を決めると、しぃが前に飛び出してきた。
それを見て、俺も前に出る。
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41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/04/11(日) 22:40:37.48 ID:wvDewCHvO
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(,,゚Д゚)(しぃを殴る事なんて出来ない。何とか傷付けずに無力化しないと……)
すり寄ったしぃの左手が俺の喉笛をかっ切らんと伸びてくる。
かなりのスピードだが、その動きは直線。体を横にするだけで比較的容易に躱す事が出来る。
(,,゚Д゚)(よし、後ろに回れた!)
通り過ぎたしぃの背中を追うようにして右手を差し出す。
しかし、
(;゚Д゚)「くっ」
しぃは身を翻して俺の手から逃れた。
そのまま彼女は一旦距離を置いたかと思いきや、またすぐさま詰め寄ってくる。
(,,゚Д゚)(駄目だ。避けてから捕まえる、じゃ間に合わない。
避けるのと同時に捕まえないと……!)
しぃは両手を横に広げながら、今度こそ俺を逃さないように攻めてきた。
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43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/04/11(日) 22:44:22.53 ID:wvDewCHvO
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(,,゚Д゚)(『回避』と『捕獲』―――。
同時にするには極限まで無駄を削ぎ落とした体捌きが必要!)
俺は足幅を広げ腰を落とし、どっしりとその場で構えた。
左手を前に突き出し、しぃを迎え撃つ。
(,,゚Д゚)「集中ッ!!」
言を発し、体を目覚めさせる。
皮膚に降り注ぐ雨の一粒一粒まで感知できるほどに神経を尖らせた。
川 - 川「 」
しぃの右腕が伸び、その手が俺の左手の外側を通り抜けようとした、その瞬間。
(,,゚Д゚)「ここだッ!」
左手を横にスライド。しぃの右手にピタリと接触させ、
そのまま彼女の腕を滑るように降下。
肘関節に手刀を叩き込み、地面に押し込むように下方へ手を持っていく。
バランスを崩したしぃの右半身がガクリと沈んだ。
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45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/04/11(日) 22:48:05.80 ID:wvDewCHvO
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それを確認した俺は左足を軸にして時計回りに反転。
しぃの背後に位置取り、更に腕を滑らせて、か細い彼女の手首を強く握りしめた。
(#゚Д゚)「ッッシャアァッ!!」
気合いの雄叫びと共に、腕を掴んだ手を一気に振り上げる。
すると。
(,,゚Д゚)(……よしっ!)
しぃの体が、まるで重力が反対になってしまったかのように浮かんでいく。
どうやら彼女がこちらに向かってきたベクトルも、上手く上に逃がす事が出来たようだ。
繋がれた腕を軸として、しぃがブランコのように回転し、やがて俺と彼女は一本の線になる。
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48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/04/11(日) 22:52:15.91 ID:wvDewCHvO
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そこから腕にひねりを加えてしぃを反転させ、
(,,゚Д゚)「っ、とォ」
もう一方の腕も掴み、彼女をゆっくり地に下ろした。
近距離で向かい合う俺としぃ。俺に何度も迫ったその手は、今や完全にロックしてある。
(,,゚Д゚)「捕まえたぞ」
川 - 川「」
しぃの腕に力が入る。何とか俺の束縛から逃れようと。
(,,゚Д゚)「……無駄だ」
だが、『銀』を解放している俺のパワーに敵うはずもない。
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50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/04/11(日) 22:55:41.34 ID:wvDewCHvO
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(,,゚Д゚)「…………」
俺は、力を緩めないように注意しながら、ジッとしぃの顔を見つめた。
川 - 川
その顔に、かつての面影など、無い。
(,,-Д-)「…………」
しぃをこんな風にしやがった奴らに対する怒りが沸々と湧いてきたが、
今はそれよりもしぃを元に戻す事を第一に考えないといけない。
どこか行く当てがある訳ではない。
だが彼女をこのままにしておく事なんて、出来ない。
(゚Д゚,,)「おい、フサギコ。その辺に縄とか、縛れそうなモノはねーか?」
両手が塞がっている俺は、仕方なしにフサギコに助けを求める。
立っている者はクソでも使え、だ。
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53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/04/11(日) 22:58:27.83 ID:wvDewCHvO
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ミ,,゚Д゚彡「…………」
奴は俺の言葉をまるで聞いちゃいないのか、
少しも動く素振りも見せず、ただ仏頂面を俺に向け、
ミ,,゚Д゚彡「馬鹿が」
と、唐突に喧嘩を大安売りしてきた。
(゚Д゚#)「あぁ!?」
当然、速攻で買い占める俺であったが、
(゚Д゚;)「っう!?」
生暖かい風のような、強大な力の奔流を正面から感じ取る。
総毛立つ程のそれの発生元を確かめる為に前を向き、
川 - 川「 、 、 ……!」
ようやく、しぃの異変に気付く。
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56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/04/11(日) 23:01:05.21 ID:wvDewCHvO
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彼女の内側から『何か』が溢れ出しそうになっている。
その『何か』とは、奇妙な既視感を覚える―――
(;゚Д゚)「こ、れは―――!」
酷く狼狽する俺の耳に届く冷厳な声。
ミ,,゚Д゚彡「つまり、だ」
フサギコは無慈悲なまでに俺に事実を叩きつける。
ミ,,゚Д゚彡「実験は完全に失敗した、と言う訳ではなかったという事だ」
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59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/04/11(日) 23:04:16.01 ID:wvDewCHvO
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川 ο 川「〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!」
彼女は吼える。
その力は極大にして絶対。
その力は獰猛にして暴虐。
そう、その力は―――
俺やフサギコと、“等質の異能”―――!
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61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/04/11(日) 23:07:02.19 ID:wvDewCHvO
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川 ο 川「〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!」
(;゚Д゚)「う、お、おおっ!!」
荒れ狂う竜巻を手中に収めているような感覚。
彼女の身体に似合わぬ異常な運動能力は、まさに異質から来ていた。
川 ο 川「!!」
(;゚Д゚)「うわっ!?」
突如、俺の顎下から、しぃの右足が一直線に振り上げられる。
それは薄皮一枚でどうにか躱しきった。
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63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/04/11(日) 23:10:05.55 ID:wvDewCHvO
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が。
(;゚Д゚)「! しまっ……」
その隙に手を振り解かれる。
自由の身となったしぃは、二メートルほど後退し、体勢を整え、
川 ο 川「〜〜!!!」
こちらに向かって飛んできた。
先程とは比べものにならない速度で。
(;゚Д゚)「くわっっ!!」
電光のようなスピードでしぃは俺の右側を通り過ぎる。
瞬間、右肩が服ごと刃物でバッサリと切られたかのように開き、
そして同時に血がほとばしった。
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65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/04/11(日) 23:13:05.18 ID:wvDewCHvO
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(;゚Д゚)(速い……っ!)
とっさに左手で傷口を押さえ、止血をしようとする。しかし
(;゚Д゚)「つうっっ!!」
間を置かず背後から攻撃された。
背中が熱い。
今度はしぃの姿を確認することすら出来なかった。
(#゚Д゚)「くっ……そっ!」
相手の良いようにやられている現状に腹が立つ。
(#゚Д゚)「あんま図に乗ってんじゃ……」
五感の全てを鋭敏にさせる。
例え目で追いきれなかったとしても、他の四感を用いて、捉える。
七時の方角から、来る―――!
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68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/04/11(日) 23:16:25.18 ID:wvDewCHvO
-
(#゚Д゚)「―――ねぇぞゴルァ!!!」
体を捻り、右拳を振るう。
しぃが、俺の拳に吸い込まれるように飛び出してくる。
俺の目が、彼女の顔を一瞬映す。
(*゚ー゚)
(,,゚Д゚)「!!」
拳が、止まった。
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71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/04/11(日) 23:19:51.90 ID:wvDewCHvO
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川 ο 川「〜〜〜〜!!」
駆ける閃光。
(;゚Д゚)「がっ……あああっ!!」
拳の先から腕全体に血が走る。
(;゚Д゚)(くっそ……、止まっちまった……。いや、止まる事が出来た……?)
思考が混乱している。
血を流しすぎたか。
(;゚Д゚)(このままじゃやられる。手加減できる相手じゃない)
(;゚Д゚)(でも俺は……。しぃを……)
判らない。
自分が何をしたらいいのか。
どうしたら万事解決にできるのか。
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73 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/04/11(日) 23:22:03.23 ID:wvDewCHvO
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(;゚Д゚)「ぐうぅっ!!」
しぃの凶行は止まない。
俺の命が少しずつ、少しずつ削られていく。
(;゚Д゚)「痛うっ!」
血が飛び散る。
(;゚Д゚)「っ!」
血が飛び散る。
(;゚Д゚)「 」
血が。
(;゚Д゚)
血。
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75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/04/11(日) 23:25:19.06 ID:wvDewCHvO
-
(; Д )
(,, Д )
(,, Д )
流れる、と言うより溢れる血。
水溜まりは血溜まり。
姿、塵屑。
(,, Д )(…………………………もう、)
そして意識も。
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77 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/04/11(日) 23:28:04.25 ID:wvDewCHvO
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(,, Д )(もう……)
頭に浮かび上がるのは、脆弱な思考。
(,, Д )(疲れちまったかなぁ……)
思い出す。十年前の事。
しぃがいなくなった、あの日の事を。
人を越えた力を手に入れた、あの日の事を。
(,, Д )(あの日……、元々俺は死ぬつもりだった)
(,, Д )(でも死ねなくて、そのままズルズルと生き長らえたけれど……)
(,, Д )(もう、どうでもよくなっちまったなぁ……)
死に体。
そろそろ命を繋ぎ止める紐も、ほつれが目立ってきた。
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79 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/04/11(日) 23:31:11.35 ID:wvDewCHvO
-
(,, Д )(結局、俺は、)
頭の中で霧が広がっていく。
(,, Д )(何のために―――)
微睡んでいく意識。
本当にこの体は限界が近いらしい。
頭を垂れる。
ぼんやりとした景色。
俺の血が雨で流されていく。
(,, Д )(もう、終わろう)
―――顔を上げる。
その行為に特に理由はない。
帰り道。何となくいつもとは違うルートを選ぶのと同様に。
俺はふと、前を見る。
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88 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/04/11(日) 23:38:44.07 ID:wvDewCHvO
-
川 ο 川
飛び込んでくる、しぃ。
(,,゚Д )
その濡れた黒髪で隠れていた瞳に。
(,,゚Д゚)「――――ッ」
雨とは別の、雫を。
確かに、見た。
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94 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/04/11(日) 23:41:43.52 ID:wvDewCHvO
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しぃの一撃を真正面から受ける。
(,, Д )「ガ――ッ――!!」
胸を刀で袈裟に斬られたかのように血が弾け飛ぶ。
(,, Д )「―――ぉ」
意識が散らばる。
目が裏返る。
血も、もう体内に残っていないんじゃないかという程に出した。
だが。
(#゚Д )「ぉおおおおおオッッ!!!」
倒れない。
倒れる訳にはいかない。
立ち続ける理由が出来てしまったから。
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96 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/04/11(日) 23:44:38.35 ID:wvDewCHvO
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川 ο 川
あれほど息をつかせずに攻めていた彼女の動きが止まる。
俺の闘気を本能的に感じ取ったのだろうか。
(,,゚Д )「―――しぃ」
……俺は、確かに見た。
あの瞬間、しぃは涙を流していた。
冷たい雨粒なんかじゃない。人間の心が宿った、温かい涙だ。
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98 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/04/11(日) 23:47:23.28 ID:wvDewCHvO
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(,,゚Д )「俺は……」
ギリ、と奥歯を噛みしめる。
(,,゚Д )「俺は、大馬鹿者だ……っ!」
見ていなかった。
俺は過去を振り返る事しかしていなかった。
過去のしぃしか見ていなかった。
今、俺の目の前にいる彼女を見ていなかった。
彼女も、紛れもなく『しぃ』であるというのに!
(,,゚Д )「認めたくなかった。拒絶していたんだな、俺は……」
言葉に宿るのは後悔の念。
(,,゚Д )「お前が変わってしまった事を。
昔のように話せなくなってしまった事を。
お前と笑い合うのも出来なくなってしまった事を!」
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102 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/04/11(日) 23:50:14.02 ID:wvDewCHvO
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(,,゚Д )「ガキだな、俺は。もうあの頃とは違うのに。10年、経ったのに、な」
一歩、前に踏み出す。
(,,゚Д )「しぃ、ごめん。俺はお前を見ていなかった。
お前が泣いている事に気がつかなかった。
お前の悲しみを判っていなかった」
更にもう一歩、二歩と進み、しぃに近付いていく。
川 ο 川「 ッ !」
俺が距離を詰める事で、彼女の体は再び臨戦態勢を取った。
しかしその行為は、彼女の意向から外れたところにあるものだと、俺は気付いている。
(,,゚Д )「判っているよ、しぃ。辛いんだよな。苦しいんだよな。
もう、こんな事、したくないんだよな」
進む。
彼女の臨戦態勢は前傾姿勢へと移行する。
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104 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/04/11(日) 23:53:04.12 ID:wvDewCHvO
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(,,゚Д )「だから」
更に、一歩。
同時に、しぃが立っていた地点が爆ぜる。
(,,゚Д )「俺が」
今までとは比較にならない程の速度で飛来するしぃ。
対する俺はその場から動かない。
ただ、ゆっくりと、語りかけるように言葉を紡ぐ。
(,,゚Д )「お前を―――」
-
107 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/04/11(日) 23:56:03.56 ID:wvDewCHvO
-
.
(,,゚Д )「止めてやる」
.
-
109 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/04/11(日) 23:59:19.71 ID:wvDewCHvO
-
.
優しく、
慈しむように、
俺は右腕で、
しぃの左胸を貫いた。
.
-
113 名前: ◆8m5UCy5/OE 投稿日:2010/04/12(月) 00:02:31.73 ID:UbH3ZPo2O
-
.
紅く濡れた右腕を引き抜く。
支えを失い、倒れようとしているしぃの体を、俺はそっと抱き締めた。
その体には、確かに熱が。
人の温かみがあった。
(,,゚Д )「……なぁ、しぃ」
(,,゚Д )「あの時……。俺としぃが初めて出会った時の事、覚えているか?」
囁くように声を出す。
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115 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/04/12(月) 00:05:08.79 ID:UbH3ZPo2O
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(,,゚Д )「俺が泣いていて、そこにお前が話しかけてきて……」
(,,゚Д )「泣きわめく事でしか生きていく方法がなかった俺を、お前は変えてくれて……」
(,,゚Д )「あの時から、俺は笑えるようになった。お前は俺の涙を、悲しみを取っちまったんだ」
それは対話か。それとも独白か。
あるいは、懺悔なのか。
(,,゚Д )「するとな、急に周りの景色が明るくなったんだ。パァーって。キラキラ、輝いて」
(,,゚Д )「ああ、世界って、こんなにキレイなんだなって、思ったよ」
徐々に彼女の熱が消えていく。
その赤い液体と共に流れていく。
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116 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/04/12(月) 00:08:13.84 ID:UbH3ZPo2O
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(,,゚Д )「しぃ、お前のおかげだ。お前がいたから、俺の世界は変わったんだ」
(,,゚Д )「だからさ……。お前に取られっぱなしじゃ、不公平だからさ」
(,,゚Д )「今度は、俺の番だよな」
その熱を少しでも漏らさないように、俺は彼女をきつく抱き締めた。
(,,゚Д )「だからさ、しぃ」
それでも、熱は逃げていって。
(,,゚Д )「俺が―――」
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118 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/04/12(月) 00:11:08.96 ID:UbH3ZPo2O
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(,,゚Д;)「俺が、泣くから」
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120 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/04/12(月) 00:14:12.92 ID:UbH3ZPo2O
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目から溢れるのは涙。
そこに感じるのは情。
(,,;Д;)「俺が、代わりに、泣くから」
零れた涙はしぃの背中に落ちる。
もう随分と冷えてしまった体を、その心を、溶かしてあげたい。
(,,;Д;)「あの時、しぃは俺の涙を取って、俺を笑顔にしてくれたから……っ」
言葉が詰まる。
しかし想いは止まらない。
(,,;Д;)「だからっ……。しぃ……!」
ありったけの感謝を。
それでも尽くせぬ、この激情を。
何もかもを一つに纏め上げて。
君に贈りたい。
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122 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/04/12(月) 00:17:06.91 ID:UbH3ZPo2O
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俺が取ってやる。
君の涙。
君の悲しみ。
君の嫌がる事、全部。
俺が全て取ってやるから。
俺が全て背負ってやるから。
(,,;Д;)「せめて、今だけは……っ」
俺が泣くから。
(,,;Д;)「笑って、眠ってくれ―――」
抱き締める。強く。
その感触、その重さを忘れないように。
一生涯、忘れないように。
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124 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/04/12(月) 00:21:20.78 ID:UbH3ZPo2O
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※
(,,゚Д゚)「…………」
過去の俺と、その俺に抱き締められるしぃを見て、今の俺は考える。
俺はこの事件以降、『銀』を解放する事はなくなった。
この力は人を超えた先に有るモノ。人の領域の外に有るモノだ。
俺は人ではなくなる事を、この事件を経て、強く拒絶するようになった。
それ故に周りからは『錆びた銀弾』などと影で呼ばれ、嘲笑されていたらしい。
しかし、そんなのはどうでもいい事だ。
大切なモノを護る為なら、いくら他人が笑おうが関係ないから。
だが、と俺は改めて過去を振り返り、思い直す。
力を使わなければ、俺は人であると言えるのだろうか。
逆に、人外の力を持っていたら、それは人ではないのだろうか。
違う。
そうではない、と今の俺は思う。
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127 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/04/12(月) 00:24:09.28 ID:UbH3ZPo2O
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人が人でいられるのは心。
他者を慈しみ、自己を信じる思想。
それが人を形成している。
しぃは人ではなくなってしまっていた。同じく、人とは思えない者たちの手によって。
しかし、しぃの心の奥底には、人のカケラが残っていた。
だから俺は、しぃを人として眠らせる事にしたんだ。
そう。
例え人の枠を越えた力であろうと。
それを扱う者が正しく『人間』であれば。
それならば大丈夫なのだと、思う。
もちろん、むやみやたらに力は使わない。
使うのは『人間』として生きる事を妨害された時。
自分が、あるいは大切な人が。
『人間』としての道を歩む事が困難になった時に。
俺は力を使えばいい。
例えそれが人からかけ離れた力であっても―――
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129 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/04/12(月) 00:27:03.02 ID:UbH3ZPo2O
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(,,゚Д゚)「ん……」
ふと、周りが淡く輝き始めだした。
ああ、夢も終わりなんだな、と理解する。
目が覚めたら、戦わなければいけない。
人を人として扱わない、は瀬川とやらをブッ飛ばしに行かねばなるまい。
フサギコとの闘いも免れないだろう。
しかし、俺はもう立ち止まらない。
俺は自らの足で進み、自らの手で決着をつけないといけないから。
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131 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/04/12(月) 00:30:17.86 ID:UbH3ZPo2O
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(,,゚Д゚)「……」
世界が光に包まれる最中、俺はしぃの顔を見る。
川 ー 川
彼女は笑っていた。
これは夢だ。
実際にあの時、しぃが笑っていたかどうかは定かではない。
俺の都合のいい願望に過ぎないのかもしれない。
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133 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/04/12(月) 00:33:38.68 ID:UbH3ZPo2O
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―――しかし、それでも。
(*゚ー゚)
その笑顔は、幼き頃の彼女と確かに同じだった。
それだけで、俺は救われて。
光はやがて全てのモノを飲み込み、俺もその輝きの中に溶けていった。
外伝 第零話
early days side (,,゚Д゚)
終わり
→第十二話に続く?
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