ここは解決屋『シルバー&ブラック』本社のようです
5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/30(木) 23:13:02.38 ID:xCl3qmVUO



『AAB計画』―――。
人を『異人』へと変える禁忌の実験。
それにしぃが巻き込まれようとしている。


(,,・д・)「……続きを頼む。具体的にはどのように『人でなくなる』のか」


はやる気持ちを押さえ込み、俺はフサギコに継続を促す。


ミ,,・д・彡「ああ。細かい事は俺も知らんし、言っても大して意味が無い。要点と結論だけ話す」


コクリと首を縦に振る。
フサギコは「では」と話を始めた。


ミ,,・д・彡「人間の脳には様々な働きをもたらす細胞が混在している。
      体を動かしたり、物体を目で捉えたり、思考したりするのは脳細胞からの指示によってのモノだ」

ミ,,・д・彡「だが膨大な種類の細胞があるからといっても、無論出来ないものは出来ない。
      火を道具も無しに放出したり、瞬間移動したり、
      などと指示をする細胞は人間の脳には存在しない」

6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/30(木) 23:15:15.58 ID:xCl3qmVUO
ミ,,・д・彡「そんなモノは無いのだが、では

      『もしも火を放出せよ、という指示をする脳細胞があったら』

      ……この計画のコンセプトはここだ」

(,,・д・)「ちょ、ちょっとタンマ!」


慌てて話を遮る。余りに突飛な展開についていけなくなりだしたのだ。


(,,・д・)「じゃあアレか!? もしもそんなのがあったら人は自由に炎が操れるとでも言うのか!?」

ミ,,・д・彡「かもしれないな」

(,,・д・)「バカな、有り得ねえよそんなマンガみてーな話なんてよぉ!」

ミ,,・д・彡「有り得ない、か……」


フサギコは俺の至極真っ当な反論に、至って真面目な顔で言葉を返す。


ミ,,・д・彡「何故有り得ないのだ?」

9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/30(木) 23:17:35.40 ID:xCl3qmVUO
(,,・д・)「何故って……、常識だジョーシキ!」

ミ,,・д・彡「……ふむ、そうだな。では問うが、例えば『言葉を発する事』と『火を発する事』。
      この二つの違いは何だ? 何故人間は前者が出来て後者が出来ない?」

(,,・д・)「いやいや、それが普通だろ。ドラゴンじゃあるまいし」

ミ,,・д・彡「そう、そこだ」

(,,・д・)「はあ?」

ミ,,・д・彡「人間は言葉を話せて当たり前だ。何故ならそういう体の構造をしているからだ。
      同様に龍は火を吹く事が出来ると言われている。そういう存在だからな。
      龍なんて空想上の生物じゃないか、という事は今は置いておこう」

ミ,,・д・彡「では、もしも人間が火を発する事ができる体の構造をしていたら。
      人間は火を自在に操る事が出来るのでは無いか?
      言葉を話すように、ごく当たり前の事として」

(,,・д・)「…………」


フサギコの言い分はもっともだ。確かに正しい見解にも見える。

10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/30(木) 23:19:43.83 ID:xCl3qmVUO
だが―――


(,,・д・)「それでも、無理だ。人間の体はそんな簡単にイジれるモンじゃないだろ?」


やっぱり不可能だと俺は思った。
生物学とかそういった心得は俺は持たないが、
その計画は明らかに不自然なモノだというのは判る。

森にペットボトルを捨てても、それはいつまでも残る。自然は、不自然を取り込まない。

フサギコはあくまでも否定する俺の顔をじっと見ていたが、やがて口を開く。


ミ,,・д・彡「―――だろうな」


その言葉はちょっと意外だった。


(,,・д・)「オイオイ、さっきまで熱心に語っておきながらそれかよ?」

ミ,,・д・彡「俺とてこの計画に全般的に信頼を置けるほど愚かではない。画期的なモノだとは思うがな。
      それにいくら理論が完璧だったとしても、実際にそれを受けるのは人間だ。
      失敗も充分に有り得る。……いや、失敗する確率の方が遥かに高いだろう」

12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/30(木) 23:22:16.80 ID:xCl3qmVUO
(,,・д・)「失敗……」


そうだ。肝心な部分はそんなところでは無い。俺にとって一番重要なのは……。


(,,・д・)「―――しぃ。しぃはその計画の手術を受けるんだな?」

ミ,,・д・彡「……そこまでは俺も知らないが、お前が問いただした
      研究員の話からすると、まず間違いないだろう」

(,,・д・)「…………」


しぃが、しぃがその実験の被験者となる。成功率が限り無く低い、無謀ともいえる実験の。


(,,・д・)「もし、失敗したら……」

ミ,,・д・彡「――――」


フサギコは何も言わなかった。
でも、俺もフサギコに尋ねはしたものの、実はちゃんと判っていた。

脳に異物を注入する。そんなどう見ても危険な行為、失敗すればタダで済むはずが無い。



当然、命が危険に晒される―――!

14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/30(木) 23:24:41.48 ID:xCl3qmVUO
(,,・д・)「―――っ!!」


いても立ってもいられなくなった俺はすぐにしぃの元へ向かおうと地を蹴る。
だがフサギコを瞬時に俺の左腕を掴み、足を止める。


(#・д・)「何しやがる! 邪魔すんなっ!」

ミ,,・д・彡「愚行をしようとする弟を止めたのだ!
      今、貴様が行おうとしている事がいったい何なのか、貴様自身理解しているのか!」

(#・д・)「言われなくても! しぃを助ける!」

ミ,,・д・彡「それが愚かなんだ! 貴様が行ったところで何が出来る!
      突撃して、しぃを救って、ここから脱走するとでも言うのか!? 思い上がるな!」

(#・д・)「ッ!」


俺は体を捻り、回転力を加えた右の膝をフサギコの左わき腹に刺そうとする。
が、それはフサギコの左肘によって難なく阻止された。


(;・д・)「くっ!」

ミ,,・д・彡「落ち着け」


フサギコのゆったりとした声が俺の耳に入った。

15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/30(木) 23:26:06.60 ID:xCl3qmVUO
ミ,,・д・彡「行ったところで確実にお前は捕らえられる。そのまま処罰されるかもしれない」

(,, д )「―――っ」


…………。


ミ,,・д・彡「それは無駄死にだ。自分の命をこんなところで散らすな」

(,, д )「…………」


フサギコの右腕の力が収まる。俺の力が弱まってきたからだろう。


ミ,,・д・彡「判ったか?」



(,, д )「――っ―ら……」

ミ,,・д・彡「うん?」

16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/30(木) 23:28:02.98 ID:xCl3qmVUO
                                                          .




(#・д・)「だったら! しぃは無駄死にしてもいいって言うのか!?
     しぃはこんなところで死ねっていうのか!?
     認めない! 許さない! フザけるなよっ! しぃは死なせない!」

(#・д・)「俺が、絶対に死なせないっっ!!!」


フサギコの右手首の内側に一本拳を叩き込む。


ミ,,・д・彡「つうっ!?」


掴まれていた左腕が解放された。
すぐさまフサギコに背を向け、全速力で駆け抜ける。

後ろでフサギコが何やら叫んでいるが、今の俺には聞こえない。
ただしぃを救う事だけを考えて、走った。

18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/30(木) 23:30:09.86 ID:xCl3qmVUO
(,,・д・)(『AAB計画』は脳の実験。なら、しぃは『脳開研』にいるはず!)


『脳開研』とは『特殊脳開発研究所』の略だ。
脳に関連する研究所はそこしかないので、確率はかなり高い。

走る。ひたすら走る。
もう頭の中には、ただ『しぃを助ける』という六文字だけしかなかった。

走って、走って、ガムシャラに走って、そして俺はついに渇望していたその後ろ姿を視界に捉える。

間違い無い。しぃだ。


(;・д・)「しぃぃぃぃぃぃぃいいいいい!!!!」


叫ぶ。俺の声がしぃに届くように。
しぃはこちらに気付いて振り向き、驚きの表情を見せている。

しぃに近付く為、なお走る。
すると、俺としぃの間に割って入る白い影が。
その白い影―――しぃを取り囲んでいた研究員たち―――は俺を止めようと手を伸ばしてきた。


(#・д・)「じゃあまあだあああああああああっっ!!!!」


目の前の研究員二人を殴り飛ばす。
後ろから被さるように襲ってきた奴には回し蹴りを見舞う。

20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/30(木) 23:32:03.59 ID:xCl3qmVUO
(,,・д・)「しぃ!」


止まった足を再び前に投げ出す。
早く。早くその愛らしい体を俺の腕の中に。


(#・д・)「しぃぃい!!」

(;*゚ー゚)「ギコくんっ……!」


右手を思いっきり前に伸ばす。少しでも早く。少しでも近付く為に。

しぃはすぐ近くに。

あと五メートル。
三メートル。
一メートル七十センチ。
一メートル。
八十センチ。
五十センチ。
三十センチ。
十五センチ。
八センチ。
五センチ。



       捕まえ―――!

21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/30(木) 23:35:05.45 ID:xCl3qmVUO
                                                          .


―――全身がビクリと跳ね上がる。俺の体が地面に吸い寄せられる。


(,, д )「かっ―――!?」


伸ばした右手が虚空を掴む。視界が徐々に暗さを増していく。

うつ伏せになる体。倒れたときの衝撃も、床の冷たさも、今の俺には感じ取る事が出来ない。

既に朦朧としていたが、無意識的に俺は顔を上に向ける。



―――しぃが今にも泣きそうな顔で、俺を見ている。

……あぁ、俺だ。俺がしぃを悲しませたんだ。俺がしぃをこんな顔にさせたんだ。



ごめん。
ごめんな、しぃ―――。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
――――――――――――――――――――
―――――――

23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/30(木) 23:37:04.02 ID:xCl3qmVUO



…………。



(,,-д-)「――――ぅ」

(,,・д・)「…………」


目を開く。

暗い。
光を発するモノが無く、ほとんど何も見えない。
体が一瞬だけ震えた。肌寒い。


(,,・д・)「オレは……?」


なぜこんなよく判らないところにいるんだろう?
はて、と理由を考えて―――

26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/30(木) 23:39:02.29 ID:xCl3qmVUO
(;・д・)「ッッッ―――!!」


思い出した。
しぃを救おうとして、失敗した事を。

とっさに立ち上がろうとして、体に力を入れるが。


(;・д・)「つっ! お……」


全身が強張る。じんわりとした痛みの波紋が心臓から四肢へと波立っていった。


(,,・д・)「ってて……。電撃、かな……」


痛みの理由に回答を出す。恐らく俺はスタンガンのようなモノにやられたのだろう。


(,,・д・)「…………」

(,,・д・)「はぁ……」


少しだけ持ち上げた腰を地面に降ろす。同時に深いため息。

改めて周りを見てみる事にした。

27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/30(木) 23:41:44.27 ID:xCl3qmVUO
基本的にどこを向いても暗闇だが、光が部屋に射し込んでいるところが一ヶ所ある。
そこはどうやら扉らしい。金属で出来た頑丈そうな扉の上部に、
鉄格子が小窓のように取り付けられている。
光はその鉄格子の外側から入り込んでいた。

次第に目が慣れてきて、部屋全体がぼんやりと見えてきた。
部屋はおよそ八畳程度、コンクリートの床の上には茣蓙(ござ)が敷いてある。
そして三つのあるモノを除いて部屋には他に何もなかった。

部屋に合ったもの。
一つは便器。一つは薄汚い毛布。
そしてもう一つは壁からぶら下がっていた、手枷が先端についている鎖だ。

これらを確認し、取り敢えず思った事は。


(,,・д・)「まんま牢屋だよなあ……」


牢屋。罪人を閉じ込める檻。
実物は見た事が無いが、この部屋を見れば誰もが俺と同じ意見と相成るだろう。


(,,・д・)「犯罪者……。まあ奴らから見ればオレはどう見ても犯罪者なんだろうなぁ」


研究員への暴行。大事な実験の被験者であるしぃを奪おうとした事。
奴らが俺を牢に入れるのも全くもって納得だ。

29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/30(木) 23:44:39.93 ID:xCl3qmVUO
(,,・д・)「となると、この先オレを待ち受けているモノは『処罰』かよっ……!」


不味い。
そりゃもちろんしぃを助けに行こうと決めた時、こうなる事を塵にも考えなかった訳では無い。
訳では無いのだが、その時の俺は「しぃを助けなくては」という思いでいっぱいになっていた。

とは言え別に先程の行動を悔いてはいない。
ベストな行動では無かったかもしれないが、間違った行動ではない事は確かだからだ。

しかしこのままおめおめと処罰を受け入れる気には到底なれない。
何とかここから抜け出さなくてはいけない。
そして今度こそしぃを連れ出さなくては……。



そう思い、俺は唯一の出入口であろう扉の前に立つ。
改めてじっくりと見たが、ノブらしきものは見当たらない。
手動ではなく電気で開閉するタイプなのだろうか。
まあ当然と言えば当然か。こんな重そうな扉、開けるだけで重労働だ。

一応押してみる。当たり前だが開かない。
腰を深く落とし、体全体の力を動員して両手で押してみる。びくともしない。
一ミリも動く気配が無い扉にイラついて拳を叩きつけようかとも思ったが、
どうせ痛いだけなので止めておいた。

31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/30(木) 23:46:39.25 ID:xCl3qmVUO
(,,・д・)「チッ、やっぱここは駄目か。他に何かねーのか? 都合のいい壁の裂け目とか」


扉は諦め、部屋の壁をくまなく探しだそうとする。
が、その時、鉄格子の向こう側から音が聞こえた。捜索を止め、音に集中する。

足音だ。しかもこちらに近付いている。
コツコツと廊下を歩く音が部屋に入り込み、反響する。


(,,・д・)(やべっ、まさかもう処罰か……!?)


息を殺して来訪者を待つ。心臓の音が足音をかき消すほどうるさく鼓動する。

足音は扉の前で止まった。扉一枚隔てた向こう側に人の気配を感じる。


(,,・д・)(いや、しかし待てよ? これは脱出のチャンスなんじゃないか?
     足音は一人分だったし、それなら訳なくブッ飛ばせる)


そうだ。内側から開かないのであれば外から開けてもらえばいい。
可能性が見えた事により興奮する体を抑えつつ、相手の出方を静かに待った。

33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/30(木) 23:49:09.15 ID:xCl3qmVUO
そしてしばらくの沈黙の後、とうとう向こう側から声が発せられる。




「ギコくん……」


だが、その声は予想外のモノだった。それは低く冷たい大人の声などではなく―――


(;・д・)「しぃ!? しぃなのか!?」

「うん、わたし……」


無垢な少女の、ただし今にも消え去りそうな、しぃの声だった。


(;・д・)「しぃ! しぃ……なんでこんなトコに……!?
     ってああ、そんな事はどうでもいい! しぃ、無事か!? 体は!? 平気か!?」


決壊したダムの水のように言葉が頭に溢れかえり、上手く口を動かす事が出来ない。

34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/30(木) 23:51:07.40 ID:xCl3qmVUO
(;・д・)「ご、ごめん! ちょっとタンマ!」

「え? う、うん」


暴れる心臓を落ち着かせるために二回、深呼吸をした。
一回目で心臓を抑え、二回目で頭の中をクリアにする。


(,,・д・)「……ん、よし。落ち着いた。ごめん、パニクっちゃって」

「あ、ううん。私の方こそごめんなさい。なんだか驚かせちゃったみたいで」

(,,・д・)「うん……」

「――――――」


沈黙。
さっきまではあんなに言葉で溺れそうだったのに、今はそれを音に出来ない。
しぃも黙っている。俺と同じ事を考えているのだろうか。

でも、話さなきゃ。この空間はそんなに居心地の悪いモノでも無いけれど。
多分、残された時間はそんなに多くない。

36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/30(木) 23:53:13.30 ID:xCl3qmVUO
(,,・д・)「―――しぃ。しぃは、自分が今から何をするのか、知ってる?」

「…………うん」


慎重に言葉を選ぶ。しぃが研究員から本当の事を聞かされていない可能性があるから。
だから『何をされるか』ではなく『何をするのか』と聞いた。
でもしぃの思い詰めた声からすると、真相はちゃんと知っているようだ。

知っている事は良い事なのだろうか。それとも知らない方が幸せなのだろうか。判らない。


(,,・д・)「……いつ、始まる?」


実験まであとどの位の猶予があるのか。これも重要な要因だ。


「……もう、十分後には始まるよ」

(;・д・)「!!」


十分―――!
時間が無いのは理解していたが、まさかそれほどとは思わなかった。
もはや脱出のチャンスはほとんど無い。
と、いうよりしぃがこの場にいる今こそ、ラストチャンスだと言えるだろう。

37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/30(木) 23:55:03.08 ID:xCl3qmVUO
(,,・д・)「しぃ。俺をどうにかしてここから出す事は出来ないか?」


ギリギリしぃに聞こえる程度に抑えた声で問いかける。


「出て……どうするの?」

(,,・д・)「どうするって、もちろんしぃを連れてここから外に逃げ出す」

「外……」

(,,・д・)「そうだ、外だよ」

「外に出て、それから?」

(,,・д・)「それから? そうだな……。しぃの実家か、それともオレの故郷に帰ろう」

(,,・д・)「何だったら二人でどこか全然知らないところに行くのもいい。
     オレたちはまだ子供だし、色々辛い事もあるだろうけど……」

(,,・д・)「二人なら、オレとしぃの二人ならきっと、どんな場所でも生きていける」

(,,・д・)「笑って暮らす事が出来る筈なんだ」

39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/30(木) 23:57:26.12 ID:xCl3qmVUO
(,,・д・)「二人で小さな小屋に住んで、裏には畑とか作って……。
     そうだ、猫とかも飼おう。きっと、楽しいよ」

(,,・д・)「だから―――」


……胸が痛い。
俺が理想を紡げば紡ぐほど、心を締め付ける鎖が増えていく。
その未来はとても楽しい筈なのに。俺は何故こんなにも……



悲しいのだろう―――?




(,,・д・)「…………」


言葉が止まる。
迷妄は修正を促す。
時の流れは俺の切願を引いていき、

40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/30(木) 23:59:09.50 ID:xCl3qmVUO
「……うん、楽しそうだね」




返すモノは




「……でも」




冷淡無情な




「無理、だよ」




彼女の言葉―――

42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/31(金) 00:01:09.94 ID:Lh3BeUgpO
(,,・д・)「……どうして」


俺は消え入りそうな声を吐き出す。
間抜けな質問だ。理由なんて、当然俺も知っているのに。


「無理だよ。私はキミをここから出してあげる事は出来ないし、
 もし抜け出せてもこの廊下の先には私を待つ大勢の大人の人達がいるもの。
 そんなところに出たら、今度こそダメ。ギコ君殺されちゃうよ?」

(,,・д・)「っ……、でも……!」


知っている癖に食い下がる。ワガママを撒き散らす。


(,,・д・)「どうせここにいてもそれは同じ―――」

「大丈夫」


上擦る俺の声に、しぃのひんやりとした言葉が覆い被さる。


「そのままじっとしていれば大丈夫だよ」

(,,・д・)「……なんでそんな事が判るんだよ?」

「私がお願いしたの。実験に私の体を使っていいから、ギコ君を処罰しないでって」

43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/31(金) 00:03:05.14 ID:Lh3BeUgpO
(,, д )「     ッ!」




この世から、消えてしまいたいと思った。



助けようとした子に逆に助けられるなんて。
今この瞬間ほど、自分が情けなく、呪ってしまいたいと感じた事はなかった。


(,, д )「…………」

「…………」


二人の間には、鉄の扉と静寂。
話さない。俺も、しぃも話さない。
離れたくない。しぃのそばから離れたくない。

だけれど時計の針は止まらず、戻らず。
ルールには逆らわず、願いを聞きとげず、流れ、邁進し。


「―――私、もう、行かなきゃ」


訪れるタイムリミット。離別の時。

44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/31(金) 00:05:07.14 ID:Lh3BeUgpO
「じゃあ……」


しぃが扉に背を向け、その場から去ろうとする。


(,,・д・)「あっ……」


とっさに右腕を伸ばす。だがその手が届く事があるはずもない。

このまま見送るだけなのか?
何か残す事は出来ないのか?
自分の服をまさぐってみる。すると、ズボンの左ポケットに
何か小さく硬質なモノがあるのを感じ取った。


(,,・д・)「これ……っ! しぃ! ちょっと待って!」


俺はその硬質な何かを掴み取り、鉄格子の隙間に投げ入れた。
その何かは廊下に飛び出し、カンカンカンと音を立てて落ちた。

しぃはそれに気付き、拾い上げて、


「これ……指輪?」


と、俺に聞いてきた。

46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/31(金) 00:07:07.80 ID:Lh3BeUgpO
指輪。
何故俺がそんなモノを持っていたのか。
言うまでもない事だが、ここに指輪を売るような施設など無い。
第一お金なんて与えられていないので売店そのものがない。

この指輪は俺が研究所からくすねてきたモノだ。
特に装飾など施されていないシンプルな銀色の指輪。
しぃにプレゼントしようと思って少し前に盗ったのだが、
いざ渡そうとするとどうにも照れ臭かったので渡せずにいたのだ。


(,,・д・)「それ、やるよ。御守りだと思って、貰ってくれないか?」

「うわぁ……キレイだね、これ。どこから拾ってきたの?」

(;・д・)「え? ははは、ま、まあ細かい事はいいじゃん。
     気に入ったみたいで良かったよ。指にはめてみてくれよ」

「うん。……ぶかぶか」

(;・д・)「あ、あら?」

「大人の人用だね、これ」


しまった。そこまで考えていなかった、と俺はうなだれる。

47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/31(金) 00:09:15.08 ID:Lh3BeUgpO
「でも、ありがとう」


しぃの柔らかい声が聞こえる。顔は見えないけれど、笑っているのが判る。


「今はサイズが合わないけど……、大人になったら、ピッタリになるのかなぁ?」

(,,・д・)「…………」


……思いを飲み込んで、言葉を作る。


(,,・д・)「ああ、きっと、きっとちょうどいい感じになるよ。だから―――」


笑う。向こうからも、こちらの顔は見えないだろうが、


(,,^д^)「だから、帰ってこいよ、しぃ。また、一緒に話そう」


笑顔で送り出したいから。俺は笑った。

49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/31(金) 00:11:06.79 ID:Lh3BeUgpO
「……うん! じゃあ、またね」


しぃは歩き出す。今度こそ俺の元から離れていく。
遠くで扉が閉まる音がして、そして周りは最初と同じ様に、無になった。


(,,・д・)「…………」


笑顔を消す。
俺の笑顔は伝わっていたのだろうか。
伝わっていたとして、それでしぃを元気づけられただろうか。

……それとも、全部判った上で笑ってくれたのだろうか。

俺の笑顔は、作り物だったという事を。
悲しみを隠すために覆われた、道化の仮面を。しぃは気付いただろうか。


(,,・д・)「また、会おう、か……」


ギチッ、と右拳を堅く握り、


(#・д・)「ッ!!」


扉に力任せに叩きつける。

50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/31(金) 00:13:05.05 ID:Lh3BeUgpO
けたたましい音が響くが、扉は少しも変形はしていない。
右手から血が吹き出る。槍か何かに突き刺されたかのような痛みが走る。

扉に背を預け、座り込む。


(,,・д・)「後は神頼みかよ……。チクショウ……」


普段祈りもしない神にすがる。
これほど滑稽で情けない話も無いだろうが、それでもせざるを得ない。



ああ神様。
どうかしぃを無事に帰らせてあげてくれ。



悲しい希望。
思いは船に乗り、向こう岸を目指す。
ただしその船は泥で出来ていた。

淡い切望。
沈む船頭。

思いは重しになり、船は崩れていく……。

52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/31(金) 00:15:02.31 ID:Lh3BeUgpO



「出ろ。だが、くれぐれも妙な気を起こすなよ」


そんな声が聞こえたのと同時に、目の前が光で溢れ出した。
顔を上げると一人の研究員が。左手には警棒のようなモノを握っている。

いつの間にこの男は扉の前まで来ていたのだろうか。ずっと俯いていたので気がつかなかった。

そう言えば、しぃと別れてどのくらい時間が経過したのだろう。

三十分?
三時間?
それとも一日は経ったのだろうか。この部屋は時計が無いから判らない。

いずれにせよ、俺がこの牢から出されるという事は。


(,,・д・)「実験は終わったんだな?」

「早く立ち上がり、ここから出ろ。そして私の指示通りに歩け」


俺はゆっくりと立ち上がり、男の前に立つ。

53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/31(金) 00:17:31.23 ID:Lh3BeUgpO
「私の前を歩け。行き先は私が指示する」


男の言う通りに前に出る。俺は背を向けたまま、尋ねる。


(,,・д・)「しぃは……どうなった?」


後ろで男が面倒だと言わんばかりの溜め息をつく音が聞こえる。




「実験は失敗だ。さっさと歩け」



(,,・д・)




ノイズが走ったかのように、視界が一瞬だけ暗転した。

55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/31(金) 00:19:11.92 ID:Lh3BeUgpO
(,, д )「実験が、どうなったか、なんてオレ、は聞いてい、ない……。
     しぃが、……しぃがどうなったか、を、オレは、聞いて、いるんだっ……!」


声が少し震えている。上手く呼吸が出来ず、変なところで息継ぎをしてしまう。


「失敗だと言っている。早く歩け」


警棒の先で背中を押される。俺はヨロヨロと前に二、三歩踏み出した。


(,, д )


この時の俺は、何を考えていただろうか。はっきりと思い出せない。
ただ酷く吐き気を催していたのは覚えている。

57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/31(金) 00:21:48.41 ID:Lh3BeUgpO
(,, д )「…………。……オレは」

(,, д )「オレは今から、どこに連れていかれる……?」

「貴様には実験の被験者になってもらう。お前も知っている、例の実験だ」

(,, д )「…………」


「そうか、俺も受けるのか」と、何故か妙にすっきりと受け入れられた。

しぃはコイツらに俺には手を出さないようにと言っていたらしいが、
どうせ俺らを道具としか見ない奴らだ。体のいい詭弁でやり過ごすのだろう。



俺は疲れていた。
存在しない神に届かぬ願いを語るのも。
しぃのいない生を過ごす事も。
最早、どうでもよかった。
それ程までに、しぃは俺の全てだった。

そして今、俺はしぃと同じ道を辿ろうとしている。

悪くないかな、と思った。女々しい考え方だが、後を追うという意味ではこれ以上のモノは無い。

俺はそんな綺麗な終わり方に感謝し、全てを流れに任せることにした。

59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/31(金) 00:24:02.91 ID:Lh3BeUgpO
ところで、今回の実験は俺一人では無かった。
俺の他にもう一人……。そう、フサギコも被験者として選ばれた。

実験の準備段階、調整中に一度だけアイツの姿を見た。
アイツはこんな時にも胸を張って堂々としていた。

しぃの結果は知っているだろうに、どうして僅かな不安の影も見せないのだろう。
少し疑問に思ったが、すぐにそんな考えを消し去った。

どうせもうすぐ終わるから。



そして俺は被験台の上で横になる。目を閉じ、意識を手放す。
せめて、あの頃の―――しぃと笑い合っていたあの頃の夢を見ながら逝けたらいいな、と。



そう、思いながら眠る。

閉じた目から、一粒の涙が零れ落ち、台に敷かれた白いシーツに染みを作った。



―――――――――――――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――
―――――――

61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/31(金) 00:26:03.01 ID:Lh3BeUgpO



目が覚め、俺はしばし呆然とその場に佇む。

ここは何処だ?
天国?
そんな訳ない。ここはどう見てもさっきの手術室だ。
じゃあ何で俺は生きているんだ?

頭の中でぐるぐると疑問が湧いて混ぜられていく。
そんな解答のでない自己問答を続ける俺の元に一人の研究員が部屋のドアを開けてやって来る。
男は顔に薄く笑みを貼り付けている。


「おめでとう。実験は成功だ。しばらくそのまま休んでいたまえ」


それだけを言うと男は退室していった。
後に残るのは阿呆みたいに口を開けて、今はもうそこにいない男を見続ける俺だけだった。


(,,・д・)「……………………は?」

63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/31(金) 00:28:20.24 ID:Lh3BeUgpO
待て。
今、奴はなんて言った?
成功?
成功って何が?
え、実験が成功したのか?
いや違う。
違うだろ?
違うに決まってるだろ。

だってオレは……。
しぃがいなくなって……。
だからオレも……。



オ、レ、モ……



(,, д )「……う、お、お、お、お、お、、、、、あ」



(,, д )「ああ」



何かが頭の中から消えた。

死んでしまった。この瞬間から、『俺』は死んでしまったんだ。

65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/31(金) 00:30:11.49 ID:Lh3BeUgpO



それから。
あの実験に成功してしまった俺は、他の子供達とは次元の違う力を手に入れた。

因みにフサギコも実験に成功していた。
どうやら成功した理由は俺ら兄弟の体質に強く関連していたようだった。

つまりは『AAB計画』とは始めから俺らの為だけのモノであったのだ。
それなのに何故しぃがその実験を受けたのか。

……結局のところ、しぃは本当の意味での『実験体』だったのだ。
俺らという本番を円滑に進める為の『予行演習』。
生成された新薬の効果を試す為の『モルモット』。

それがしぃだった。



…………。



そんなしぃの屍を背に、俺とフサギコは絶対不可侵の頂点に立つ。

66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/31(金) 00:32:03.12 ID:Lh3BeUgpO
実験から三年後、いよいよ組織のスポンサーであるVIPコーポレーションの為に働き出す。
見た目はまだまだ幼さが残るものの、そこらの大人が束になっても相手にすらならない。
それが例え訓練された軍隊であろうとも、俺らを止める事が出来る者などいなかった。

確実に任務をこなし、本社の利益を増やしていく。



駒。
実験が成功したその時から、俺は心を閉ざした。
心を閉じ、思考を封じ、目を伏せて機械のように上からの指示に従った。

自己を持つ事が耐えられなかった。
持ってしまったら彼女を思い出してしまうから。またあのような悲しみを刻んでしまうから。
それが嫌だから、考える事を止めた。

フサギコはそんな俺を見ても何も言わなかった。
褒める事も、諫める事もしなかった。



更に時は進み、任務を遂行し始めてから七年。
己の中の『自分』を殺し続けてから、数えて十年の月日が流れる。

68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/31(金) 00:34:36.92 ID:Lh3BeUgpO
俺の元に、新しい任務を伝える知らせが届く。
それは普段とは少し毛色の違う内容だった。


“○○市郊外にある倉庫に向かい、ターゲットを始末せよ”


簡単に言えばこんな内容。
この内容には二つほど奇妙な部位がある。

まず『○○市郊外にある倉庫』。
この倉庫、実はVIPコーポレーションが所有するモノであるのだ。

俺達の任務はその大部分が、他社の所有する資産や武力の制圧。
よって任務先は他社の土地になる事が多い。
だから、自社の所有地に向かうというのは変なのだ。

二つ目は『始末』。
『始末』とは要するに目標を消せ、という事だろうが、
今までの任務に『始末』と表されたのは無かった。
大抵は『制圧』とか『鎮圧』とかそんなところだ。

要は相手側に恐怖を与える事が出来ればそれで良かったので、殺す必要は無い。

だが今回は『始末』。何故か。


(,,ーДー)(……考えられるのは本社が開発していた機械の暴走。
     それなら、二つの疑問に理由がつく)

69 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/31(金) 00:37:55.94 ID:Lh3BeUgpO
(,,ーДー)(……まあ、どうでもいい、か。考えるだけ無駄だ。俺は任務を遂行するのみ……)

(,,ーДー)(……任務、か)

(,,ーДー)(身を挺して任務を遂行して、それが一体何になるんだというんだろう……?)

(,,ーДー)(…………)



(,,ーДー)(俺は、いつまで……)



(,,ーДー)(道を彷徨えばいいのだろう―――?)

71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/31(金) 00:40:04.53 ID:Lh3BeUgpO
憂いていた俺の背後に何者かが近付く気配がする。


(,,ーДー)「フサギコ」


俺は近付いてきたその男の名を呼びつつ振り返った。


ミ,,゚Д゚彡「…………」


そこには部屋が小さく見える程の体躯と威圧を兼ね備える黒髪の男、フサギコが立っていた。



余談だが、この頃のフサギコは常時金髪では無かった。

元々俺ら兄弟の髪と瞳の色は黒だった。
だが、あの実験で得た力を解放すると、俺の髪と瞳は銀色へ、フサギコは金色へと変化する。

何故変色するのか、どうして俺とフサギコで色が違うのか。それは判らない。
だがこれが理由で他の戦士たちも、力の解放により色を変えるように改造した。

で、もちろん非戦闘時には力の解放をせず、黒髪のままなんだが……



ともかく、フサギコは俺の元にやって来た。

72 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/31(金) 00:42:02.56 ID:Lh3BeUgpO
(,,ーДー)「……何か用か? 俺は今から新しい任務を果たしに行かなければならないんだが」


相変わらずの無口っぷりなので、俺の方から問い掛ける。


ミ,,゚Д゚彡「聞いていないのか? 今回のお前のその任務は俺と共同だという事を」

(,,ーДー)「え?」


共同。
俺とフサギコがペアとなれ、という事。
その知らせに新たな疑問が発生する。

『COLOR's』は基本群れない。単独でも充分な力を発揮するから。
時たま二人組を結成したりもするが、稀である。
精々お供に『No』を数体連れて行く位だ。

俺も誰かと組んで任務をこなした事など、過去数百の任務の中でも片手で数えられる程度にしか無い。

しかもペアを組むのが『COLOR's』内のトップ二人。これは異常とも言っていい。

任務の内容が余程の大規模なのか、それとも別の何かがあるのか。

74 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/31(金) 00:44:10.78 ID:Lh3BeUgpO
ミ,,゚Д゚彡「不思議か?」


不意にフサギコが俺の心を読んだかのような発言をする。
いや、コレは心を読んだと言うより、フサギコ自身も同じ疑問を感じていたのだろう。

だから、俺はこう答えた。


(,,ーДー)「―――いや。何も」


干渉しない。他人を引き離す否定の言葉。相手が実の兄だろうと、だ。


ミ,,゚Д゚彡「……そうか」


フサギコも特に表情は変えない。こちらをつついてこようとはしない。


ミ,,゚Д゚彡「では、行くとしよう」


背を向けて歩き出す。
俺はフサギコの背中を無言で追った。

75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/31(金) 00:46:13.60 ID:Lh3BeUgpO



(,,ーДー)「さて、着いたが……」


VIPコーポレーション第十二港倉庫群。
俺たちは指定の場所へと辿り着いた。

時刻は夕方。だが空は今にも雨が零れ出しそうな暗雲に覆われているので、夜の暗さと遜色ない。
街の明かりも届かないそこは、点滅している街灯のお陰でようやく辺りが視認できるといった様子だ。


(,,ーДー)「ターゲットは……何処だ?」


軽く見渡してみるが何も見つけられない。
探し回ってみるしか無いが、割と敷地が広い上に視界も不鮮明だ。
これでは探し出すのに骨が折れるだろう。

78 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/31(金) 00:52:20.10 ID:Lh3BeUgpO
(,,ーДー)(さて……。当てもなく闇雲に探し出すのは効率が悪いが―――)



(ーДー,,)「ッ!?」


どのように行動しようかと考えていた俺だったが、
急に近くで巨大な力の奔流を感じ取り、とっさに振り向く。


ミ,,゚Д゚彡「…………」


そこには金色の、力を解放しているフサギコの姿があった。

79 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/31(金) 00:54:02.72 ID:Lh3BeUgpO
(,,ーДー)「何を……」

ミ,,゚Д゚彡「気付かんのか? 近くに我々とは違う第三の、歪んだ力が存在しているのが」

(,,ーДー)「…………」


そう言われ、俺も倣って『銀』へと姿を変える。


(,,ーДー)「! コレは……」


力を出す事でようやく気付く。そう遠くない場所に奇妙な力がある事に。


ミ,,゚Д゚彡「行くぞ」


俺は頷き、フサギコと揃って力の先へと駆け出した。

81 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/31(金) 00:56:21.76 ID:Lh3BeUgpO
(,,ーДー)「!」


複雑に入り組んだ倉庫間の通路を曲がること三回、少し開けた場所に一つの影があるのを発見した。


( 川川「…………」


こちらに背を向けて立つソレは、俺が想像していたモノよりもずっと小さかった。

腰のあたりまで長くボサボサに伸びた黒髪。
白衣のような服。
枯れ枝のように細い手足に、服の白さにも劣らないほど病的に白い肌。

その全てが虚弱に見えるのに、しかしソレから発せられる異質なオーラが目の前の脅威を訴えてくる。


ミ,,゚Д゚彡「む……!」


ソレが動き出す。こちらの存在に気付いたようだ。ゆっくりと半回転し、俺たちと対面する。


川 ー 川「…………」


幽鬼の如く立ちすくむソレは、女性のようだった。
無造作に伸びた髪が顔の大部分を覆っている。
白衣のような服の前は開かれ、その間からやはり病的な肌が晒されていた。

83 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/31(金) 00:58:03.63 ID:Lh3BeUgpO
(,,ーДー)(気味が悪い……。早々に終わらせたいが、無闇に突っ込むのは危険だ。
     まずは相手をしっかりと観察しないといけない)


敵の出方を見る。こちらに気付き振り向いたのなら、
これから更に何らかのアクションを起こす可能性が高い。
それに即座に対応する為、指の動き一つすら見逃さぬよう凝視した。

その時、俺は彼女の左手の薬指に、白く光るモノを見つける。


(,,ーДー)(あれは、指輪か?)


ソレは銀色の、シンプルなデザインをした指輪で―――




(,,ーДー)




全身に、得も言われぬ衝撃が走る。

85 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/31(金) 01:00:56.48 ID:Lh3BeUgpO
(,,ーДー)



あれ―――?



(,,ーДー)



俺は―――



(,,ーДー)



あの指輪を、知っているんじゃないのか―――?



見る。指輪ではなくて、女性を。

88 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/31(金) 01:02:25.88 ID:Lh3BeUgpO
(,,ーДー)



古い、古い記憶。



(,,ーД゚)



あの時に置いてきた記憶。ただただ楽しかった当時の記憶が、



(,,゚Д゚)



今と、重なり出す。

91 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/31(金) 01:05:13.57 ID:Lh3BeUgpO
    《(* ー )》



川 ー 川



(;゚Д゚)「っっっ〜〜〜!!」





「『しぃ』っ!!!!」





一滴、二滴、三滴と水が落ちる。
そのすぐ後から、何億もの雨粒が一斉にアスファルトを叩き出した。




―――番外編(第零話)中編 終わり

   →後編へ続く?


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