ここは解決屋『シルバー&ブラック』本社のようです
- 4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/18(木) 20:55:34.04 ID:vWch7K1qO
- ※
目が覚めると、そこは一面の闇だった。
(,,゚Д゚)「……ここ、は」
要領を得ない頭。
しかし次第に微睡んでいた意識は鋭くなっていき、やがて気付く。
「ああ、いつもの夢だ」、と。
夢の中で目覚め、夢の中で意識が覚醒するなどと可笑しな話だが、この夢に限っては例外だ。
なんせ今から再生されるシーンは過去に実際に起きた出来事。紛れもない現実だから。
過去何度も繰り返した夢。
あの瞬間から俺は決して拭い切れない罪を背負った。
ただ同時に、俺の心に突き刺さり折れることの無い信念が宿った。
- 5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/18(木) 20:58:07.46 ID:vWch7K1qO
- ―――闇の中に一点の光が現れる。
その光は次第に闇を飲み込んでいき、やがて闇と光が反転した。
真っ白となった視界。
すると間を置かずして、蜃気楼のようにぼんやりと何かが浮かび上がってきた。
どんどん明瞭となっていくそれは、どこかの室内の光景である事を知らせていた。
始まる。
俺の歩く道を確定させた過去が。
- 6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/18(木) 21:01:05.64 ID:vWch7K1qO
- そう。
俺の信念。
俺の道。
それは、生きること。
手に入れてしまった人外の力に溺れ、本能しかない獣のような。
あるいは自我を持たない機械のような。
そんな生き方では無く。
喜んだり。
怒ったり。
哀しんだり。
全部ひっくるめて楽しく日々を過ごす、感情を持った―――
- 8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/18(木) 21:04:03.83 ID:vWch7K1qO
- .
(,,゚Д゚) ここは解決屋『シルバー&ブラック』本社のようです 川 ゚ -゚)
外伝
第零話
early days side (,,゚Д゚)
「―――『人間』として」
- 9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/18(木) 21:07:15.25 ID:vWch7K1qO
- 俺が覚えている一番古い記憶。
その時点でもう既に、俺は白い研究所の中にいた。
だから、知らない。
俺はいつからここにいるのか。
どうしてここにいるのか。
……俺の親は、一体どんな人間だったのか。それさえも知らなかった。
俺も人の子だ。当然俺にも両親にあたる人物が存在していた筈だ。
しかし、覚えていない。
どんなに記憶を掘り起こしても親の顔なんか出てきやしない。
もちろん写真なんかも持ち合わせていないから八方ふさがり。知りようがなかったのだ。
- 10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/18(木) 21:10:14.53 ID:vWch7K1qO
- 誰がどう見てもガキだった当時の俺。
(,,・д・)
親と一緒に居るのが当たり前な時期に、抱きつくような相手もいなかった俺は、
(,,TдT)
ずっと泣いていた。
明くる日も、その次の日も、そのまた次の日も。
起きては泣き、泣きながら日中を過ごし、泣き疲れたら寝る。
そんな日々を過ごしていた。
- 13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/18(木) 21:13:03.63 ID:vWch7K1qO
- 親の事など覚えていない癖に、悲しい。寂しい。
理由など無い。悲しいから、寂しいから、ただひたすら泣いていた。
いくら泣いても親などやって来ない。
いくら泣いても内から溢れ出る涙は枯れやしない。
ただ、泣いていた。
泣く事で己の存在を保持していたのかもしれない。
そんな泣いてばかりいる俺に、「泣くな」と声をかける奴がいた。
ミ,,・д・彡
フサギコだ。
アイツはたまに俺に近付いてきては、いつも同じ言葉を置いていく。
ミ,,・д・彡「泣くな。男なら、泣くんじゃない」
- 15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/18(木) 21:16:10.44 ID:vWch7K1qO
- そうだ、コイツは昔からこんな奴だ。
コイツだって俺と2〜3歳くらいしか変わらないから、この頃は俺同様にガキだった筈だ。
なのにこの堂々とした無愛想面。
全く可愛げが無い。少しはガキらしく泣きわめいてみろってんだ。
勿論そんな優しさがまるでこもっていない言葉で俺が泣き止む訳も無く。
フサギコは気難しい顔をして俺に背を向ける。
一応その時にも既に俺は「フサギコは自分の実兄である」というのは理解していた筈だが、
フサギコに甘えるという事はしなかった。
血の繋がった唯一の家族とはいえ、フサギコに対して俺は恐怖に近い感情を抱いていたからだ。
ホントにあのクソ兄貴は『お兄ちゃん』失格だな。どうでもいいけど。
- 18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/18(木) 21:19:15.60 ID:vWch7K1qO
- そんな俺に対し、組織の連中はひたすら薬物の投下や脳波・身体のチェックを繰り返した。
当然その処置は俺だけではない。フサギコや、他の集められた子供達全員に施される。
その頃はまだ実技訓練などというものはなかった。
まだ俺達が幼すぎたというのもある。
だが一番の理由としては、『俺達の体を造り上げてからの方が効率が良い』との考えからだろう。
各々の自由時間なんて全然無い。施設内に遊具といったモノなんて当然無い。
そんな待遇を受けていた俺達。当たり前のように、そこには然るべき笑顔なんて一つも無かった。
皆一様に下を向き、口を閉じ、ただ海上に浮かぶ海藻のように流される。
そこに意思などは無く、有るのは諦めにも似た悲観だけだ。
まあフサギコの奴だけは胸を張って威風堂々としていたが。
(,,TдT)
俺も例に漏れず、うつむきながら泣いていた。
いや、泣いていたのは俺一人だった。
他の子供達は泣くことすらしない。空虚な目をしているだけだ。
- 20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/18(木) 21:22:14.39 ID:vWch7K1qO
- 俺が一番精神的にガキだったのだろうか。
それとも、俺だけがまだ諦めていなかったのだろうか。
親と共に過ごす、平穏だが幸せな日常を。
俺はこの場所が嫌いだった。
出来るのなら今すぐ飛び出して、こんなところ抜け出して、両親のところに帰りたい。
だが、それは不可能だ。ガキ一人で脱出できる訳が無いとも俺は思ってもいた。
他の子供達もそれが判っているから諦めているのだろう。
でも諦めきれなかった。それほどに、この場所が嫌だった。
そんな板挟みに苛まれていた俺の精神は、かなり磨耗していたことだろう。
その状態が続けば肉体にも影響し、床に伏せていたかもしれない。
でも、そんな満身創痍の俺を癒してくれた声があった。
それは、薬物投下の順番待ちの行列の中にいた俺の、すぐ後ろから。
- 22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/18(木) 21:25:17.01 ID:vWch7K1qO
- .
「―――ねえ、そこのキミ」
(*゚ー゚)「キミはどうして、ずっとないているの?」
それが彼女―――『しぃ』との出逢いだった。
- 24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/18(木) 21:28:15.25 ID:vWch7K1qO
- (,,TдT)「…………ぇ?」
俺は反射的に振り返る。
そこには淡く微笑んだ、眼の少し大きなショートカットの女の子がいた。
今、この子は俺に話しかけたのだろうか、と疑問に思った。
何せその時の俺に話しかけてくる奴と言えば、
研究員の大人達を除けばフサギコくらいのものだったからだ。
ここの子供達は他人に干渉しようとしない。それが無駄な事だと思ってしまっていたからだ。
他人に関与する余裕なんて無い。いつだって自分を護るのに精一杯だったから。
だから、見ず知らずの女の子から話しかけられたというのは俺にとって予期せぬ事態だった。
頭がついて行かず、彼女の顔を見たまま、ぼうっとしてしまう。
(*゚ー゚)「もうっ! 人がはなしかけてるのに知らんぷりしないでよ!」
俺が呆けて声を返さなかった事に腹を立てたのか、女の子は笑っていた顔を膨らませて不満顔になる。
(,,・д・)「ぇ、あ、ご、ごめんなさい」
これまた反射的に謝る。
涙は、いつの間にか自然と止まっていた。
- 26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/18(木) 21:31:02.41 ID:vWch7K1qO
- (*゚ー゚)「うむ、よろしい! ね、キミのおなまえはなんていうの?」
再び、笑みを浮かべる女の子。コロコロと表情が変わる、凄い子だなと思った。
(,,・д・)「え、えっと……、ギコ……」
しどろもどろに答える俺。完全に目の前の子に圧されていた。
(*゚ー゚)「ふうん。ギコ、ギコくんか。わたしはしぃ。よろしくね!」
(,,・д・)「あ、うん。よろしく……」
(*゚ー゚)「で、……」
しぃと名乗った女の子はぐいっと俺に顔を寄せてきた。……近い。
(*゚ー゚)「どーしてさっき、ないてたの?」
先程問い掛けた質問を再び問う。どうやら彼女にとっては心底疑問だったらしい。
- 30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/18(木) 21:34:07.41 ID:vWch7K1qO
- だがそんな彼女の疑問こそが、俺にとっての疑問だった。
(,,・д・)「……なんでって、きみはさみしくないの? かなしくないの?
おかあさんと会えないんだよ? おとうさんと会えないんだよ?」
思った事をそのまま口に出す。
でも、しぃはまだ不思議そうな顔をしている。
(*゚ー゚)「え? それはもちろんかなしいよ?」
(,,・д・)「だったら」
(*゚ー゚)「でも、だからって、ないていたらもっとかなしくなるでしょ?」
(,,・д・)「え―――?」
周りの空気が、世界が、止まったような気がした。
- 32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/18(木) 21:37:11.04 ID:vWch7K1qO
- (*゚ー゚)「かなしいからって、ないていたらもっとかなしくなるじゃない。
だったら、わらっていたほうがおとくだよ?」
(,,・д・)「…………」
俺はしぃの言葉を聞いて酷く感銘を受けた。なるほど、そういう考え方もあるのか、と。
でも。
(,,・д・)「でも、たのしくなんかないのに、ぼくわらえないよ」
(*゚ー゚)「うーん、じゃあさ、わたしとおともだちになろっか」
(,,・д・)「え」
(*゚ー゚)「だから、おともだち。おともだちならいっしょにおはなししたりしてたのしくなるでしょ?
それなら、わらえるでしょ?」
(,,・д・)「あ、う、」
本当にしぃは俺の思考の斜め上の発言をしてくる。
俺は度重なる予想外にパニクりだしていた。
- 33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/18(木) 21:40:11.83 ID:vWch7K1qO
- そんな、あたふたしている俺を見て、しぃは表情を暗くさせる。
(*゚ー゚)「それとも……、わたしとおともだちになるのは、イヤ?」
(,,・д・)「あ―――」
しぃの悲しげな顔。
それを見た俺はすぐに顔をブンブンと横に振る。
(,,・д・)「い、イヤじゃないよ!」
(*゚ー゚)「……ホント?」
(,,・д・)「ホントだよ!」
こっそりと頭をひねる。俺は何故なだめられた相手をなだめているのだろう。
(*゚ー゚)「よかった! じゃあ今日からおともだちだね!」
沈んだ顔から、ぱあっと花が咲いたよう。
本当に、愉快な子だった。
- 35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/18(木) 21:43:48.14 ID:vWch7K1qO
- だけど―――
(*゚ー゚)「じゃあ、これからよろしくね、ギコくん!」
健やかな初夏の太陽を思わせる、眩しいしぃの笑顔は―――
(,,・д・)「…………」
(,,・д・)「うん! こちらこそよろしく、しぃ!」
涙で水浸しになっていた俺の心を、瞬く間に乾かしてしまったんだ。
- 37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/18(木) 21:46:35.78 ID:vWch7K1qO
- その日から、世界が見違えた。
その日から、俺は涙を流さなくなった。
待遇が変わった訳では無い。相変わらず苦しい投薬は続けられている。
でも、そんなやつれた心はしぃと話せばすぐに吹き飛んでいった。
楽しかった。
しぃと話す事の一つ一つが。
俺達は個々人が分刻みのスケジュールで縛られているから、
しぃと会話できるのはごくまれであったけれど。
でもその瞬間に目一杯の密度を込めて会話をする。
話の内容なんて、たわいのない事だらけ。
それでも楽しい。それが楽しい。
しぃと話せる事それ自体が、俺の生きがいだったと言ってもよかっただろう。
しぃと話せるのだから、ここでの暮らしも悪くないのかもしれない。
そう思うようになりだした一日。
そんな一日を重ねていって、俺達は少し成長する。
- 38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/18(木) 21:49:10.42 ID:vWch7K1qO
- 体がある程度造られてきた俺達は、身体のトレーニングの実施に移行しだした。
その内容はもっぱら技術面に関する事だ。
十に満たない年齢でありながら既に大人の男性以上の力を有していたので、
筋力トレーニングは効率が悪い、という理由からだ。
それに伴い、自主訓練に振り当てられる時間も産まれた。
それはつまり個人が自由に使える時間が増えたという事。
しぃと会話できるチャンスも格段にアップしたという訳だ。
無論、一日中話してばっかりという事は出来ない。
一日のノルマもあるし、月に一回の実技試験をクリアしないといけないのでサボる訳にはいかない。
それらの規約を守らなかった場合、処罰が下される。
そしてその処罰とは、公表はされなかったものの、恐らく『死』である。
実際この頃になると、100人近くいた子供達が次第に数を減らしていた。
処罰を受け、消えていってしまったのだろう。
だから未だに縛られている事に変わりはないが、
それでも毎日トレーニングの休憩中になら話せる。
数日に一回が精々だった以前と比べれば、飛躍的な上昇だと言ってもいい。
そして俺としぃは今まで以上に話し合い、笑いあった。
ただ一つ不満だったのは、何故か俺ら二人の間にしばしフサギコも割り込んできていた事だ。
本当にさり気なく何やってんだあの馬鹿兄貴は。
- 39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/18(木) 21:52:07.69 ID:vWch7K1qO
- (,,・д・)「しぃ! 聞いてくれよ! オレ、さっきの合同演習で七人抜きしたんだぜ!」
(*゚ー゚)「えっ、凄いねギコくん! 私なんて初戦敗退だったよー」
しぃと会話し出すようになって、内気だった俺の性格は活発で能動的なそれへと180度変化した。
と言うより、元々の性格に戻った、という方が正しい。
親元から離れた事により押さえつけられていたものが、しぃと接する事で解き放たれたのだろう。
(,,・д・)「へへっ、スゴいだろ! でもしぃも気にするなよ。
しぃは知略戦に長けているんだからな。
面と向かっての一対一じゃ上手く立ち回れなかったんだろ」
(*゚ー゚)「うん……。ギコくんにそう言ってもらえたら、ちょっと自信出てきたかな? ありがと」
(,,・д・)「別に励ました訳じゃないよ。ホントの事だって」
(*゚ー゚)「ううん、それでもありがと。ギコくんは優しいね」
(,,・д・)「だからオレはホントの事……。ああっ、もう」
(*゚ー゚)「ふふ、テレなくていいのに」
しぃが俺の顔を見て笑う。俺は左手で頭をかきながら、笑う。
- 40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/18(木) 21:55:04.89 ID:vWch7K1qO
- (*゚ー゚)「でも、ギコくんは強いね。私達の中でも頭一つ飛び抜けているし」
確かに、俺は周りとは一線を画した力を持っていた。
特に無手での戦いでは無類の強さを誇っていた。
何故俺と他の子供達との差がついたのか。
理由は単純だ。戦いに対して積極的であるか、否か。
周りの子供達は、言ってみれば命令されているから訓練しているだけに過ぎない。
強くなるための訓練では無く、処罰を受けないための訓練だ。
そんな受動的な意志では、力は身に付いていっても+αは無い。
要は最低限の力があればよい。貪欲に求める事を彼らはしないのだ。
しかし俺は違った。
明確な自分の意志で、強さを渇望した。
どうして? 答えはさっきよりも単純だ。
そうだ。
俺は、しぃの前で良いところを見せたかった。
ただ、それだけだった。
- 42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/18(木) 21:58:05.23 ID:vWch7K1qO
- (*・д・)「へへへ、まあオレはこれしか無いからなっ!」
取り敢えずは、ほのかな俺の望みは満たされたようだ。
で、まぁ上機嫌になっていたんだが……
ミ,,・д・彡「ふん、あの程度で満足していては先が知れるぞ。ギコ」
出たよ超絶KY野郎が。
気難しい顔を引っ提げてトコトコ歩いて来やがった。
(*゚ー゚)「あ、フサくんこんにちは」
ミ,,・д・彡「ああ」
(#・д・)「ああ、じゃねーよ。マトモに挨拶も出来ねーのかこの野蛮人は」
(*゚ー゚)「ちょっとギコくん、また―――」
(,,・д・)「しぃはいいから」
- 45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/18(木) 22:01:03.42 ID:vWch7K1qO
- (,,・д・)「で、誰の力がまだまだだって?」
俺はしぃの前に立ち塞がり、頭一つ分程上にあるフサギコの顔を睨みつける。
性格が元に戻ってからは、フサギコに恐怖の意を抱く事は無くなっていた。
それどころか、いつも良い(悪い?)タイミングで
二人の蜜月な一時を邪魔してくるこの男に対し、嫌悪すら覚えていた。
ミ,,・д・彡「お前の事だ、ギコ。第一、自身の力を誇りたいのであれば、
せめて俺に勝ってからにするんだな」
(;・д・)「んなっ! あ、アレは……、そう! その前に七回バトってたから疲れてたんだよ!」
そう。先程の合同演習の事なんだが、実は八戦目の相手はこのフサギコだったのだ。
で、負けた。一撃で。
- 47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/18(木) 22:04:18.74 ID:vWch7K1qO
- ミ,,・д・彡「疲れていたのか?」
(;・д・)「そうだ! もし俺がベストコンディションだったのなら―――」
ミ,,・д・彡「ちなみに俺はお前とやる前に既に十九の試合を終えていたのだがな。
お前でちょうど二十連勝目だった」
(;・д・)「へあっ!?」
……とまあ、そういう訳で、このフサギコは周りとは頭一つどころか
体全体が抜き出て別のところに行っちまった強さを持っていた。
恵まれた体格を持たされたというのも理由の一つだが、
どうやらコイツは俺以上に強さを求める理由があったようだ。
それが何であるかは知らねーが。
ミ,,・д・彡「たかが七戦程度で疲れていては駄目だ。鍛え方が足りない」
(,,・д・)「……筋トレは体の成長を邪魔するらしーぞ?」
ミ,,・д・彡「そっちでは無い。無駄が多いから余分に疲れるんだ。
もっと効率良く、最小の動きで最大の結果を出すんだ」
- 48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/18(木) 22:07:09.41 ID:vWch7K1qO
- ……言ってる事は間違っちゃいないんだが、なんかムカつく。
ミ,,・д・彡「強くなれ、ギコ。俺達はもっと、上に行く」
その言葉を締めにして、フサギコは俺としぃから離れていった。
言いたい事だけ言って帰りやがった。どんだけ自己中なんだ。
(,,・皿・) ギリギリギリギリ
(*゚ー゚)「ギコくん、いつまでそんな顔してるの。もうフサくん見えなくなったよ?」
(,,・д・) ポンッ
(,,・д・)「まったく。何なんだアイツは」
(*゚ー゚)「ふふ、でも羨ましいなぁ」
(,,・д・)「羨ましい? って、何が?」
(*゚ー゚)「うん。私、一人っ子だから。
仲良さそうな二人を見てると、私もお姉ちゃんとか妹とか欲しかったなぁ、って」
- 49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/18(木) 22:10:00.91 ID:vWch7K1qO
- (,,・д・)
(,,・д・)「え?」
(*゚ー゚)「え?」
(,,・д・)「いや、仲良さそうって、誰と誰が?」
(*゚ー゚)「ギコくんとフサくんの事に決まってるじゃない」
(,,・д・)「え?」
(*゚ー゚)「え?」
(,,・д・)「…………」
(,,・д・)「ええええ?」
……うん、当時の俺はかなり混乱したな。
てゆーか今でも理解できん。
- 51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/18(木) 22:13:21.68 ID:vWch7K1qO
- (,,・д・)「いやいやいやいや、しぃ。今のやり取り見といて何でそう思えたんだ?」
(*゚ー゚)b ビシィイッッ!
(,,・д・)「うっわぁ、スッゴい良い笑顔で親指立てられた。
危うく謝りそうになった。オレ悪くないのに」
(*゚ー゚)「とっても仲良いよ? お互い照れ屋さんだから
意地を張り重ねちゃってケンカしてるように見えるけど」
(,,・д・)「有り得ない、有り得ないぞしぃ。間違いなく間違えてる」
(*゚ー゚)「ホントだって。フサくんだってギコくんの事心配してやってきてるし」
(,,・д・)「ないないないない有り得ない」
(*゚ー゚)「アリエール」
(,,・д・)「ありがとう。君と、アリエール。緑茶配合」
(*゚ー゚)「なにいってんのギコくん」
(,,・д・)「乗ってやったのにこの仕打ち。汚いなさすがしぃきたない」
(*゚ー゚)「カカッ。おれは怒った。有頂天(笑)」
- 54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/18(木) 22:16:06.88 ID:vWch7K1qO
- ⊃(,,>д<)⊂「あぁ……、俺の人生観が音を立てて崩壊していく……。まだ十にもなってないけど」
(*゚ー゚)「あ、ギコくんが頭抱えだした」
…………あああ。
過去の俺が物凄くヘコんでいるのを見ると、無性にやるせない。
ま、そんな事はどうでも良い。どうでも良いんだ。
どうでも良いから、
サッサと顔を上げて気付いてやれよ、俺。
(* ー )「…………」
- 62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/18(木) 22:36:28.38 ID:vWch7K1qO
- ⊃(,,>д<)⊂「ぁぁぁ…………」
(* ー )「…………」
(,,・д・)「………………んあ?」
(*゚ー゚)「ん? どうかした、ギコくん?」
(,,・д・)「え、あーいやー……。うん、ごめん、気のせい、かな?」
(*゚ー゚)「変なの。じゃあ私そろそろ行くね」
(,,・д・)「あ、うん。えっと、しぃも頑張れ、よ」
(*゚ー゚)「ありがと。ギコくんもねー」
しぃは俺に手を振りながら小走りで去っていく。
俺はそんな彼女の背中を見つつ頭を捻るも、それ以上は気にする事もなかった。
結局その時俺は気付けなかった。
彼女があの時不意に漏らした、悲痛な表情を。
太陽の光に照らされた公園にひっそりと浮かぶ僅かな影。
それを俺は、見落としてしまっていたのだ。
- 64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/18(木) 22:39:01.57 ID:vWch7K1qO
- その翌日、俺はしぃと出会う事は無かった。
ここ最近は毎日のように顔を合わせていたというのに。
「でもまあこんな日もあるか」
一抹の寂しさを感じつつ、その日は終わった。
更に翌日。
その日も会えなかった。疑問を感じた。
更にその翌日。
会えなかった。疑問は焦燥に変わった。
翌日。
しぃの姿を見なくなって四日目。その日も会えなかった。
焦燥は確信に変わった。
しぃの身に何か起こったのだ、と。
- 67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/18(木) 22:42:06.60 ID:vWch7K1qO
- (,,・д・)(しぃ……。一体何が……)
もしや処罰された?
いやまさか。しぃの力は全体から見ると並のレベルだった。
少なくとも『落第』する程では無い。
となると他の理由が……。ダメだ、判らない。
判らない事を考えていても埒があかない。
こういう場合は知ってる奴に聞くのが一番だ。
その辺を歩いていた適当な研究員を捕まえて問いただしてみた。
(,,・д・)「オイ、そこのアンタ」
声をかけられたのは自分だと気付いたその男は、煩わしそうな顔を隠す事も無くこちらに振り返る。
「……なんだ? 私は忙しいんだ。貴様もこんなところで無駄口叩いてないで体を鍛えていろ」
子供に対する発言とは思えない冷たさだが、ここの大人は大体こんな感じだ。
俺ら子供を研究材料のモルモット程度にしか思っていない。
予想内の応対だ。気にせず疑問をぶつける。
- 70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/18(木) 22:45:08.80 ID:vWch7K1qO
- (,,・д・)「しぃって名前の女の子がいただろう? あの子は今どうなっている?」
「……しぃ?」
不可解な内容だったのか、男は目を細め眉間に皺を寄せた。
だが、ふと何かを思い出したかのように
「あぁ」
と言い、
「『AAB計画』の子供の事か」
と言葉を続けた。
(,,・д・)「『AAB計画』……? 何だそれは? それにしぃは関係しているのか?」
初めて聞く単語だ。
それなのに何故、俺の心はこんなにざわつきだすのか。
- 72 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/18(木) 22:48:16.33 ID:vWch7K1qO
- 「っと、口が滑り過ぎたな。早く訓練に戻れ」
男は俺に背を向き、その場を去ろうとする。
(,,・д・)「あ、待て!」
俺はとっさに男の腕を掴み、足を止めさせる。
が、男はゆっくりとこちらを見ると、
「いい加減にしろ。これ以上無駄な行為を続けると貴様を処罰の対象にするぞ」
極めて冷徹な―――そう、子供が一人消える事などまるで意に介さないといった目で、俺を見た。
(,,・д・)「…………くっ」
手を離す。離さざるを得なかった。ここで意地になっても……分が悪い。
男は何も言わずにその場を去る。俺はその後ろ姿を見ることは無く、じっと下を向いていた。
- 75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/18(木) 22:51:01.88 ID:vWch7K1qO
- 考え直す。しぃについての情報を集めなければ。事態はキナ臭い方向へと進んでいる。
(,,・д・)(どうしよう……。他の研究員の奴らに聞いてもさっきのと変わらないだろうし……)
かといって他の奴に聞いてもしぃを知ってる奴なんて……。
(,,・д・)「あ」
いた。一人いた。
しかしこれは……。
(;・д・)「うう」
しかし背に腹は代えられない。
気が進まないものの、俺は足早に目的地点へ向かった。
- 76 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/18(木) 22:54:19.65 ID:vWch7K1qO
- ミ,,・д・彡「知らん」
(,,・д・)「もうホント役に立たねえよコイツ……」
という訳でしぃを知る最後の一人、フサギコの元へやってきたのだが……。
俺は今日ほどコイツの存在意義を疑った事は無い。
(#・д・)「何でだよ! 何で知らねえんだよ!」
ミ,,・д・彡「いや何でって」
(#・д・)「普通知ってるだろ話の流れから言って! 空気読め!」
ミ,,・д・彡「よく判らんが、物凄く理不尽な怒られ方をしているというのは理解できる」
(#・д・)「いーや判ってない! お前は何も判ってない! 王道の何たるかを判っていない!!」
ミ,,・д・彡「…………は?」
(#・д・)「いいかよく聞けこのデボラ野郎!
大概こういう時はお前はしぃの居場所を知ってて、
『報酬さえ払えばそこまで連れて行ってやろう』『しょうがねぇ、今回だけだぜ』
てな感じで一緒に乗り込む場面だろうが! 男ならビアンカ一択だこのムダ毛が!!」
ミ,,・д・彡「いやフローr」
(#・д・)「黙れっッ!!」
- 77 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/18(木) 22:57:03.25 ID:vWch7K1qO
- (,,・д・)「あーあーもういーよテメーに頼ったオレがバカだったよ時間返せやチクショー」
ミ,,・д・彡「なんなんだお前は」
フサギコが何も知らないというのなら、もうコイツと話す必要は無い。
俺は即座にそこから離れようとした。
ミ,,・д・彡「おい待て」
(,,・д・)「へーん誰が待つか。こちとら忙しいんでい。
しぃの居場所とか『AAB計画』とかゆーのを調べなきゃいけねーんだ」
スタスタと競歩並みのスピードで歩いていく。
しかし
ミ,,・д・彡「『AAB計画』? 確かに今『AAB計画』と言ったな?」
そのフサギコの言葉は俺の足を止めるには充分過ぎて、
(,,・д・)「知ってんのか? なら、それ教えろ」
次の瞬間には、俺はフサギコの目の前に立っていた。
- 78 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/18(木) 23:00:03.81 ID:vWch7K1qO
- ミ,,・д・彡「…………」
そんな俺を見て、奴は何か言いたげな様子だったが、
ミ,,・д・彡「……いいだろう。教えてやる」
深く目を閉じながら、了承の意を唱えた。
ミ,,・д・彡「いいか。『AAB計画』の『AAB』とは―――『Address the Artificial Brain』の略だ」
(,,・д・)「『Artificial』……っ!?」
……直訳すれば『人工の脳に書き換える』、という事。
ミ,,・д・彡「正式名称は『特質的擬似脳細胞配合計画』―――」
- 81 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/18(木) 23:03:21.77 ID:vWch7K1qO
- ミ,,・д・彡「人間という枠から抜け出し、人間が到達できない地点に立つ、言わば『異人』を造り出す計画」
ミ,,・д・彡「世界トップクラスの研究員が一同に集い、
その頭脳を結集させて生み出された、まさに―――」
「神をも恐れぬ、禁忌のプロジェクトだ」
番外編(第零話)前編 終わり
→中編に続く?
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