( ^ω^)ブーンはムゲンと戦うようです


1 名前: ◆eWZ4SQG3kA 投稿日:2012/09/02(日) 17:55:33.48 ID:BnDRMA/h0








一話 [Contact]





────Start.






4 名前: ◆eWZ4SQG3kA 投稿日:2012/09/02(日) 18:01:34.21 ID:BnDRMA/h0

( ^ω^)「ヴィップ国陸軍部隊所属、内藤ホライゾン伍長、只今到着致しました!」

やや広い執務室は、自分の声が良く響いた。
声が大きすぎたかと思うほどに。
向かい、横長のデスクをはさみ、対面する上官は右手を挙げ、

川 ゚ -゚)「うむ。伍長の到着を確認した」

自分の敬礼に合わせ、そう言った。

今回配属された部署の最高責任者は、スーツに身を包んだ美しい女性だった。
内心驚いたが、それを外に出せば彼女に失礼だ。
艶やかな長い黒髪を僅かに揺らし、彼女は姿勢を戻した。

川 ゚ -゚)「楽にしてくれ。長旅、ご苦労だったな」

( ^ω^)「恐縮であります」

彼女に従い、入隊時から徹底して叩きこまれた直立不動の姿勢を取る。

川 ゚ -゚)「いや、いいよ。足を開いて構わないし、腕を組んでも構わない」

今度は、驚きが表情にも現れたと自分でも認識した。
今までの部隊では、上官の前でそのような姿勢を取れば鉄拳が飛んでくる。
いくら上官がそう言っても、従うべきか躊躇してしまった。


5 名前: ◆eWZ4SQG3kA 投稿日:2012/09/02(日) 18:04:07.33 ID:BnDRMA/h0

川 ゚ -゚)「まぁ、伍長の戸惑いもわかるが、ここではそう固くならなくて良い」

( ^ω^)「……」

そうは言うが、彼女の口調、表情、姿勢が、場の緊張を緩ませなかった。
真っ直ぐに自分を射抜く瞳も相まって、相当のキャリアを感じさせられた。
女性である前に、目の前に居る人間は、ヴィップ軍の上官なのだ。

( ^ω^)「自分は、このままで」

川 ゚ -゚)「そうか。君がいいならそれでいい」

変わらぬ口調で言うと、手元に視線を落とした。
用意しておいたらしい、数枚の用紙をクリップでまとめたものを手に取り、読み上げる。

川 ゚ -゚)「内藤ホライゾン伍長。二十七歳。ヴィップ国陸軍部隊所属」

( ^ω^)「はい」

川 ゚ -゚)「再確認だが、間違いないな?」

( ^ω^)「間違いありません」

再び、視線を自分へ戻すと、

川 ゚ -゚)「ようこそ、対【ムゲン】特殊部隊へ。我が隊は君を歓迎する」


6 名前: ◆eWZ4SQG3kA 投稿日:2012/09/02(日) 18:05:54.88 ID:BnDRMA/h0

( ^ω^)「はっ! 全身全霊を込め部隊に尽力する所存です!」

川 ゚ -゚)「うむ。私はム特最高司令官、沙緒[すなお]クール。階級は一応、中佐だ」

( ^ω^)(……中佐?)

クールは多く見積もっても、自分より五つほど上、といったところだろう。
その若さに加え、女性という立場で中佐だという。異例の出世ではないだろうか。
しかし、自分が抱いた疑問はそこではなかった。

現在、我が国ヴィップで最重要危険因子とされているはずの【ムゲン】。
それに対抗する部隊の総司令が、中佐だという点に疑問を持ったのだ。
率直に述べると、低すぎる。

川 ゚ -゚)「まぁ、君が何を考えているのか、おおよその検討はつく」

川 ゚ -゚)「そしてそれは放置だ。階級など、何の意味も持たないことがじきにわかる」

( ^ω^)「……」

川 ゚ -゚)「では、君をもっと驚かせてやろう」

そこで初めて、クールは無表情を崩した。

笑ったのだ。
微笑だったが、自分には大きく表情が和らいだように感じられた。


8 名前: ◆eWZ4SQG3kA 投稿日:2012/09/02(日) 18:08:50.25 ID:BnDRMA/h0

川 ゚ -゚)「まず、君を本日付けでム特部隊の部隊長に任命する」

(;^ω^)「なっ!?」

川 ゚ -゚)「ム特部隊は君を含め総員十五名で構成されている」

(;^ω^)「十五!?」

川 ゚ -゚)「主要任務は【ムゲン】との戦闘、対象の殲滅。これは聞いているな?」

(;^ω^)「……はい」

川 ゚ -゚)「よろしい。通常任務についてだが、これは明日、追って通知する」

(;^ω^)「……」

川 ゚ -゚)「【ムゲン】は神出鬼没だ。出現の予兆などは一切確認できない。
     出現が確認されたら通常任務を放棄して出撃してもらう」

川 ゚ -゚)「全く出現しない日が多いが、時には日に二度以上出現する時もある」

川 ゚ -゚)「現時点でできる説明は以上だ。何か質問は?」

(;^ω^)「……」


9 名前: ◆eWZ4SQG3kA 投稿日:2012/09/02(日) 18:10:28.18 ID:BnDRMA/h0

質問はある。ありすぎる。
何から訊けばいいのかわからないほどに。

自分は階級こそ伍長だが、部隊長など経験したことがない。
班長程度なら経験はあるが、部隊長と班長では勝手が違いすぎる。

部隊長は現場の指揮を独断で行わなくてはならないのだ。
上官の指示通りに動けばいい班長とはわけが違う。
それをいきなりやれと言われ、戸惑うのは自分の甘えなのだろうか。

相手は人ではなく、【ムゲン】なのだ。
自分一人の場合でも、どう戦闘を行えばいいのかわからない。
それなのに一個小隊を率いて戦わなければならない。

更に、十五人という人数も少なすぎる。

軍内部だけでなく、政府が脅威であると認識している【ムゲン】に対し、
たったの十五人で対応しろと言うのは、些か不安どころの話ではなかった。

この人数では国はおろか、ム特があるこの都市ですら手が回らないことが明白だ。

一体、何を考えているのか。

疑問点を整理すれば、上層部への憤りを発奮するような言葉にたどり着いた。


10 名前: ◆eWZ4SQG3kA 投稿日:2012/09/02(日) 18:11:35.20 ID:BnDRMA/h0

川 ゚ -゚)「……質問はあるが、どれから訊けばいいのかわからない」

川 ゚ -゚)「また、このような質問はするべきではない、と言ったところだな」

見透かされていた。

川 ゚ -゚)「君の疑問はわかる。私自身、無茶な構成だと思うし、不安な面があることも否めない」

川 ゚ -゚)「しかし、私たちは軍人だ。命令に従う以外の選択はない」

クールは一呼吸の間を開けた。
眼光が少し、鋭くなった気がした。

川 ゚ -゚)「やるしか、ないんだ」

( ^ω^)「……」

川 ゚ -゚)「とは言っても、現時点では煮え切らないものだらけだろう」

川 ゚ -゚)「長旅の疲れもある。今日は休め」

( ^ω^)「……了解しました」

言い、クールはデスクの隅に設置されている通信機器のボタンを押す。
受話器は持ち上げない。内線通信だろう。


11 名前: ◆eWZ4SQG3kA 投稿日:2012/09/02(日) 18:13:13.18 ID:BnDRMA/h0

川 ゚ -゚)「私だ。これから新人を部屋まで案内してほしい」

言い終えると、通信機器に埋め込まれているスピーカーから返答があった。

『お任せ下さい! クー様のご命令とあればたとえほっk』

若い女の声だったが、言い終える前にクールは内線を切った。

川 ゚ -゚)「君の部屋に隊での正装も用意してある。着替えるといい。軍服では落ち着かないだろう」

( ^ω^)「恐縮です」

川 ゚ -゚)「その後は……そうだな……部署内を見て回るといい。
     これから同僚となる皆とも、コミュニケーションをとっておくことも重要だ」

( ^ω^)「はい」

川 ゚ -゚)「一応、皆任務中は君の部下という位置にはなるが、ここに軍の規律はほぼ存在しない」

川 ゚ -゚)「だから、君も楽にしていてくれればいい。我々もそうする」

( ^ω^)「了解しました」

川 ゚ -゚)「まぁ、最初は違和感だらけだろうが、そのうち慣れ────……」

以後、クールの言葉は自分をリラックスさせるもので並べられていった。


12 名前: ◆eWZ4SQG3kA 投稿日:2012/09/02(日) 18:14:57.20 ID:BnDRMA/h0

視界の端には窓がある。
なかなか大きい窓で、開ければ良い風が入るだろう。
その先には緑が広がっている。具体的に言えば、山だ。

ム特部隊基地本部は、街の外れに建設されていた。
人口百万人を超えるこの街にも、まだこのような土地が残っていたらしい。
市街地から遠いのは、近隣住民とのトラブルを避けるためだろう。

ただ、緊急出動の際は現場までのタイムロスが懸念される。
と思うのだが、自分はそのような問題を意見する立場にない。

そういえば、この基地の造りも他の基地とは少しばかり異質だと感じた。
正門に監視員はいないし、入ればすぐに演習場がある。
それなりの広さがあったが、他の基地と比べると見劣りするものだった。

十五人という人数を知り、そこの合点はいった。
演習所の左手側にはフェンスが張ってあった。何があるのかはわからない。
対面、奥には二階建ての建物があり、右手側にも同じような建物があった。

この執務室は、右手側の建物の二階、奥にあった。
奥行きはあまりなく、長い廊下の片側に同じ間取りの部屋が設置されている造りだ。
この造りは自分の記憶の中にあるものだった。

学校に、似ている。


13 名前: ◆eWZ4SQG3kA 投稿日:2012/09/02(日) 18:15:57.85 ID:BnDRMA/h0

今が早朝ということもあるのか、ここに来るまで基地内では誰とも出会わなかった。
事前に地図を受け取っていたから迷うことはなかったが。
ついさっき内線を受けた者は、自分の後に出勤してきたのだろうか。

これから共に戦う仲間たちとは、明日には顔を合わせているはずだ。
一日の通常任務をこなせば、少々の違和感は払拭されるだろう。

仲間といえば、早いうちに会っておきたい者たちが居る。
自分以外の【適正者】と────

ミセ*゚ー゚)リ「クー様! おはようございますっ!」

豪快に木製のドアを開ける音がした。
そう思った矢先に、彼女の大きな声が執務室に響いた。
自分の到着報告を大きく上回る声量に、少しばかり驚かされた。

川 ゚ -゚)「ああ、おはよう、ミセリ。ノックをしろといつも言っているだろう」

ミセ*゚ー゚)リ「クー様なら気配で察知できると思って!」

川 ゚ -゚)「お前がくると気配というか悪寒が走るが……まぁいい」

川 ゚ -゚)「内藤くん」

( ^ω^)「はい」


14 名前: ◆eWZ4SQG3kA 投稿日:2012/09/02(日) 18:16:57.69 ID:BnDRMA/h0

川 ゚ -゚)「この娘は中条[なかじょう]ミセリ。受付兼オペレーターだ」

ミセ*゚ー゚)リ「あなたが新任の内藤さん? よろしくお願いしますね」

( ^ω^)「内藤ホライゾン。階級は伍長です。よろしくお願いします」

川 ゚ -゚)「それじゃあミセリ、彼を自室に案内してやってくれ」

ミセ*゚ー゚)リ「わかりました! クー様のご命令とあれば、たとえ北極でもいってきます!」

川 ゚ -゚)「北極基地に異動希望だと上に伝えておこう。それと様はやめろ」

ミセ*゚ー゚)リ「クー様はクー様ですからやめられません! とまりません!」

川 ゚ -゚)「あー。わかったから行ってこい」

ミセ*゚ー゚)リ「はいっ! さ、内藤さんいきましょ」

( ^ω^)「はい。それでは、失礼します」

言い、敬礼。
クールは返したが、ミセリはしなかった。
上官の部屋から退室するというのに失礼だ、と思った。

そうして、ミセリと共に執務室を後にした。


16 名前: ◆eWZ4SQG3kA 投稿日:2012/09/02(日) 18:18:08.53 ID:BnDRMA/h0

部屋を出ると、長い廊下が続いている。
左手側には窓が続き、右手側には個室が続いている。
階段は更にその奥側にあった。

窓からは柔らかな光が注ぎ込んでいる。
穏やかな春が、確実に訪れていた。
しかし、ム特での任務は、決して穏やかなものではないだろう。

ミセ*゚ー゚)リ「えーと、寮は隣の建物になります」

ミセ*゚ー゚)リ「ちなみに女性寮は秘密の場所にあるので、探さないでくださいね」

( ^ω^)「はぁ」

隣とは、正門に立った時、正面に構えていた建物のことだろう。
二階建てが二棟、寮込みでこれとは、最低限の施設しかないのだろうか。
執務室がある棟だが、入り口から見ていった印象は同じような部屋が併設されていただけだった。

ミセ*゚ー゚)リ「そうそう。この棟は職員棟と呼ばれてます。寮があるのはまんま寮棟ですね」

と、ミセリが説明するが、位置関係さえ把握していれば呼び名はどうでもよかった。
それよりも、この機会を活用するべきだ。

( ^ω^)「中条さん」

ミセ*゚ー゚)リ「はい?」


17 名前: ◆eWZ4SQG3kA 投稿日:2012/09/02(日) 18:19:37.95 ID:BnDRMA/h0

( ^ω^)「いくつか質問したいのだけど、大丈夫ですか?」

ミセ*゚ー゚)リ「はい。私にわかることなら」

( ^ω^)「……他の隊員たちはどこに?」

ミセ*゚ー゚)リ「まだ寝ていると思います」

(;^ω^)「そ、そうですか」

腕の時計を見ると、午前7時を2分過ぎたところだった。
自分を除いた十四名の内二名しか起きていないとは、あまりにも緊張感に欠けている。
非常召集がかかれば起きてくるのかもしれないが。

ミセ*゚ー゚)リ「内藤さんはお休みになられましたか? 第八基地からは随分とかかったでしょう?」

( ^ω^)「移動中に仮眠をとっているので大丈夫です」

ミセ*゚ー゚)リ「ちゃんと寝なきゃだめですよー」

(;^ω^)「はぁ」

寝る間を惜しみ訓練、勉強をしろと教えられてきた自分にとって、ミセリの言葉は非常に緩い返しだった。
クールは、この隊において軍の規律はほぼ存在しないと言っていた。
フランクである、という意味で捉えたが、単にだらしないだけでは、いけない。


18 名前: ◆eWZ4SQG3kA 投稿日:2012/09/02(日) 18:21:52.45 ID:BnDRMA/h0

まだ口頭で、つまりは予定の段階だろうが、正式に隊長位に任命された時、
隊の規律を引き締めなければならないと、考えていた。

二年前までは考えられない思考だった。
杉浦の死から、自分は少し変わった気がする。

ミセ*゚ー゚)リ「あ、でも私と同じオペレーターのトソンは起きてるかもしれません」

( ^ω^)「なるほど」

ミセ*゚ー゚)リ「はい。今日、売店の納品があるので」

( ^ω^)「売店?」

ミセ*゚ー゚)リ「はい」

売店。購買部のような部署のことだろうか。
オペレーターが納品作業をしなければならないほど人手不足なのだろう。
自分の中で結論を出して、

( ^ω^)「中条さんと、その、トソンさんは」

ミセ*゚ー゚)リ「津村トソンです」


20 名前: ◆eWZ4SQG3kA 投稿日:2012/09/02(日) 18:25:55.66 ID:BnDRMA/h0

( ^ω^)「……中条さんと津村さんは、適性検査で適正有りと?」

ミセ*゚ー゚)リ「いえ、残念ながらなかったです」

執務室のある棟の、昇降口に着いた。
廊下の幅よりもやや広いスペースだが、軍施設と考えると狭い印象を受ける。
靴箱も、必要最低限の小さな物が置かれているだけだった。

スリッパを外履きに履き替えながら、続ける。

( ^ω^)「じゃあ、十四名の内何人が適正者なんですか?」

ミセ*゚ー゚)リ「今は……六人ですね。男の子四人と、女の子二人です」

予想よりも遥かに少ない。
しかも、男、ではなく、男の子、という言い回しはなんなのだろうか。
普通なら成人していない人間にしか使わない言葉だ。

ミセリはどう見ても二十代前半だ。その彼女の言い方からして、本人よりも年下なのはほぼ間違いない。
そして、クールも適正者でないことが、ミセリの発言から読み取れる。
ミセリのクールに対する態度を見るに、クールが含まれていれば彼女の名が登場しているはずだからだ。

ふと、適正者でない人間の選出理由が気になったが、今はどうでも良かった。

( ^ω^)「……適正者はどこに?」

ミセ*゚ー゚)リ「まだ寝てますよ。多分」


21 名前: ◆eWZ4SQG3kA 投稿日:2012/09/02(日) 18:27:54.26 ID:BnDRMA/h0

ミセ*゚ー゚)リ「あ、でも真面目な子は起きてるかな?」

( ^ω^)「できれば顔を合わせたいのですが」

ミセ*゚ー゚)リ「うーん……それは私にはちょっと……」

ミセ*゚ー゚)リ「クー様ならなんとかしてくれるかもしれません! きっと! クー様なら!」

( ^ω^)「……後で聞いてみます」

クールのことになると頭の螺子が外れるらしい。
この娘と会話する時は気をつけなければ、と思った。

歩みは進む。

ム特隊の基地施設は全てが新設だ。
改めて見ると、演習場は見事に整地されていた。
棟も太陽の光を浴びて、白く塗装されている壁が眩しいほどだ。

仮眠をとったものの、外に出れば初の暖かい日差しに迎えられ、少々の眠気を感じた。
できるものなら、固くないベッドで寝たいものだ。

しかし、休めとクールは言ったが、次々と生まれる疑問たちがそうさせてくれない。
寮棟に着く。外観も、昇降口も、職員棟似たような造りをされていた。
ミセリの興奮は収まっただろうか、昇降口に入った背を追い、話しかけようとした時だ。

ミセ*゚ー゚)リ「あ、おはようございます」


22 名前: ◆eWZ4SQG3kA 投稿日:2012/09/02(日) 18:30:23.80 ID:BnDRMA/h0

( ゚д゚)「ああ、おはよう。いや、俺はこれから寝るところだが」

知った顔がいた。
自分をこの基地へ送り届けてくれた男だった。

( ゚д゚)「……ん? 内藤じゃないか。到着報告は終わったのか?」

河内ミルナはこっちを見る。
暗がりではわからなかったが、あまり見られたくないと思わされる、鋭い目をしていた。

( ^ω^)「終わりました。河内さんは寝ていくんですか……ですか?」

癖が出そうになる。
もう一年以上、癖が出ることがなかったが、車内で不覚をとった後、うまく舌が動かなかった。
一度出たことで、意識してしまっているのだろう。

( ゚д゚)「寝ていく? …………あぁ」

眉をしかめた後に、合点がいった顔になると、

( ゚д゚)「俺は元々この隊の所属だ。これからよろしく頼む」

(;^ω^)「え、そ、そうなんですか?」

( ゚д゚)「そうとも。それと、妙な敬語はやめてくれ。車内の時のように普通でいい」


23 名前: ◆eWZ4SQG3kA 投稿日:2012/09/02(日) 18:32:35.81 ID:BnDRMA/h0

そう言えば、河内の一人称が私から俺に変わっている。
非任務時との区別をつけているということだろう。
軍人らしいのは、顔つきだけではないようだ。

ミセ*゚ー゚)リ「ミルナさんも長時間お疲れ様です」

( ゚д゚)「ありがとう。どうってことはないと思っていたが、少し疲れた。俺ももう年だな」

ミセ*゚ー゚)リ「そんな〜まだまだですよ〜」

(;^ω^)「……」

どうやら、河内も本当にム特隊の隊員のようだ。
ミセリとの会話は、顔見知りのそれだった。

驚いたが、彼も恐らく適正者ではないだろう。
彼女がミルナに対し、男の子などと呼ぶはずがなかった。

( ゚д゚)「ミセリは内藤の案内か?」

ミセ*゚ー゚)リ「はい。部屋まで」

( ゚д゚)「ついでだ。俺が引き継ごう」

ミセ*゚ー゚)リ「いいんですか?」

( ゚д゚)「ああ。少し聞きたいこともあるしな」


24 名前: ◆eWZ4SQG3kA 投稿日:2012/09/02(日) 18:33:35.31 ID:BnDRMA/h0

ミセ*゚ー゚)リ「それじゃあ、トソンを手伝わないといけないし、お願いしちゃいますね!」

( ゚д゚)「任された」

ミセ*゚ー゚)リ「内藤さんの部屋は二階の六号室です」

( ゚д゚)「一番奥の部屋だな。了解した」

ミセ*゚ー゚)リ「それでは!」

自分を置き去りにして話が進んでいた。
だが、ミルナの方が話しやすいから自分にとっても好都合だ。
ミセリは少し頭を下げると、職員棟に駆けていった。

( ゚д゚)「さて、行くか。と言ってもすぐ近くだが」

( ^ω^)「すまない。疲れてるのに」

( ゚д゚)「言うほどじゃないさ」

低く、よく通る声だった。
淡々と流れる言の葉が、心地良い。
やはり自分は、昔から女性が苦手だ。

寮棟の靴箱は職員棟のそれよりも、多少大きかった。
ミルナは手前の靴箱を開く。


26 名前: ◆eWZ4SQG3kA 投稿日:2012/09/02(日) 18:35:55.00 ID:BnDRMA/h0

( ゚д゚)「手前側の靴箱が男用だ。奥側は女が使う」

( ^ω^)「わかった」

( ゚д゚)「恐らく、部屋にお前の室内用シューズが用意されているだろう。服もな」

( ^ω^)「それは沙緒さんから聞いたよ」

( ゚д゚)「そうか」

やや、間を置き、

( ゚д゚)「どうだった? 沙緒は」

( ^ω^)「なにが?」

( ゚д゚)「いい女だっただろう」

( ^ω^)「まぁ、美人だと思う」

( ゚д゚)「ふむ……あまり興味がなさそうだな」

( ゚д゚)「それとも、青い尻の方が好みか?」

(;^ω^)「男に興味はねーよ」

( ゚д゚)「若い女のことだ」


27 名前: ◆eWZ4SQG3kA 投稿日:2012/09/02(日) 18:36:55.71 ID:BnDRMA/h0

(;^ω^)「……あー」

( ゚д゚)「……そうか。なるほど」

などと、一人で納得して、

( ゚д゚)「行こうか」

背を向けた。

(;^ω^)「ちょ、なんか言えって! 誤解されてる気がする!」

( ゚д゚)「安心しろ。俺は秘密主義者なんだ」

(;^ω^)「ちょっと! 河内!」

( ゚д゚)「ミルナでいい」

背を見せたまま歩きだして、そう言った。
弁解の余地はなさそうだ。
しかし、不快感はなかった。

ミルナに続いて、歩く。
少しだけ、懐かしい感じがした。


28 名前: ◆eWZ4SQG3kA 投稿日:2012/09/02(日) 18:40:23.55 ID:BnDRMA/h0




( ゚д゚)「……と、俺のことはそんな感じだ」

あてがわれた自室は、一人で暮らすには申し分ない広さがあった。
六畳ほどの洋室が二部屋と、シャワートイレ付きという豪華さだ。
今まで風呂が共同だったこともあり、贅沢すぎるのではと思うほどだった。

寝具も家具も、新たに購入する必要がないほど整っている。
今、ベッドに腰掛けているが、ちょっとしたホテルとなんら遜色がない。
よく眠れそうだが、朝起きられるだろうかが、少し心配だ。

ミルナは自分の向かい、小さなデスクにもたれかかっていた。
お互い、自己紹介を済ませていないということで、少しだけ話をしていた。

聞けば、ミルナは自分よりも一回りも年齢が上だという。
年上だ、とは感じていたが、予想よりも離れていたことに驚いた。
ミルナと言えば、自分はもっと年齢が上だと思っていたらしい。

ここに来る以前、ミルナも自分と同じように別部隊に所属していた。
例の適性検査を受け、この部隊に配属されたようだ。
聞いてみたが、やはり適正結果は『無シ』だったとのことだ。

それでも部隊異動があるということは、なにかしらの基準をクリアしているということだろう。
そもそも、有リと無シで何が違うのか、具体的なことについて自分は未だわかっていない。


29 名前: ◆eWZ4SQG3kA 投稿日:2012/09/02(日) 18:44:46.09 ID:BnDRMA/h0

( ^ω^)「適性検査……、についてだけど」

( ゚д゚)「あぁ」

( ^ω^)「適正有リ、ってことは……ムゲンと戦う素質がある、ってことだよな?」

( ゚д゚)「そういうことだな」

( ゚д゚)「俺にないものを、お前は持っている。ということだ」

( ^ω^)「……」

杉浦が同じ事を言っていた気がする。
このことを指していたのかは、もはや確かめようがなかった。

( ^ω^)「ミルナは」

( ゚д゚)「?」

( ^ω^)「いつぐらいからこの隊に?」

( ゚д゚)「半年だな。隊の結成当初から居る」

(;^ω^)「半年!? そんな前からあったのかお!?」

( ゚д゚)「……? そんなに驚くことか?」

(;^ω^)「いや、だって……」

30 名前: ◆eWZ4SQG3kA 投稿日:2012/09/02(日) 18:51:19.01 ID:BnDRMA/h0

(;^ω^)「車内で……」

────私も当然受けたが、【ムゲン】との戦闘適正を調べるものだったとは……な。

(;^ω^)「とか言ってて、めちゃくちゃ無関係ですみたいだったから……」

( ゚д゚)「あぁ、それは俺がお前に合わせて話していただけだ」

(;^ω^)「……」

( ゚д゚)「別に、嘘をつくつもりはなかったが、寡黙な奴から言葉を引き出すことに必死で、な」

(;^ω^)「……悪かったな」

( ゚д゚)「もうそんなイメージはないさ。俺もすまなかった」

調子が狂う。
ミルナから、杉浦に似たものを感じる。
口調も性格も全く異なる男なのに、何故だろうか。

迷いを振り払うように、質問を続けた。

( ^ω^)「半年、ってことは」

( ゚д゚)「?」

( ^ω^)「ムゲンとは、もう戦った、ってこと、か?」

31 名前: ◆eWZ4SQG3kA 投稿日:2012/09/02(日) 18:52:30.93 ID:BnDRMA/h0

( ゚д゚)「俺は戦ったことはない。というか、適正がなかったから戦えない」

( ゚д゚)「だが、ムゲンの発生は今までに何度もあった。当然、その都度殲滅している」

( ^ω^)「……!」

( ゚д゚)「適正者たちが、な」

( ^ω^)「……どうやって、戦うんだ……?」

( ゚д゚)「知らん」

(;^ω^)「……は?」

( ゚д゚)「俺にはわからん。適正者ではないからな」

(;^ω^)「そ、それでも、交戦の様子は見てるんじゃ?」

( ゚д゚)「わからん。適性がなければそれすらも視覚できないんだ」

(;^ω^)「……どういうこと?」

( ゚д゚)「……煙草、吸っていいか?」

こくりと頷くと、ミルナは椅子にまたがるように座り、煙草に火をつけた。
嫌いになったからやめた、というわけではないから、目の前で吸われても不快感はない。
二回、ゆっくりと煙を吐き出した後、ミルナは話し始めた。


32 名前: ◆eWZ4SQG3kA 投稿日:2012/09/02(日) 18:53:56.22 ID:BnDRMA/h0

( ゚д゚)「第八部隊の悲劇を知っているお前ならわかると思うが……。
    ムゲンは目に見える存在じゃない」

( ^ω^)「それはわかる。だから聞いてる」

( ゚д゚)「だからだ。交戦の様子も確認はできない」

( ^ω^)「でも、何度も殲滅したって……」

( ゚д゚)「そうだ。適正者たちの手で、な。
    俺たちは、あいつらが帰ってくるのを待っていただけさ。指を咥えてだ」

表情は変わらなかった。
ただ、煙草を吸う手が止まった。

ミルナは胸ポケットから携帯灰皿を取り出して、灰を落とす。
真面目な男だという印象を強くさせた。

( ゚д゚)「まぁ、お前の疑問もわかるさ」

(;^ω^)「……」

( ゚д゚)「俺がお前の立場だったら殴りかかってるところだ。真面目に話せ、とな」

(;^ω^)「いや、殴りはしないけど……状況が全くわからん……」


33 名前: ◆eWZ4SQG3kA 投稿日:2012/09/02(日) 18:55:45.09 ID:BnDRMA/h0

( ^ω^)「つまり、ミルナはサポートに徹している、ということ?」

( ゚д゚)「そうだな。非戦闘員だと思ってくれればいい」

(;^ω^)(その体格でかお……)

ミルナの体格は、一言で言えば屈強だ。
ひと目で軍人とわかる。そうでないとしても、なにかしら腕力が必要な職だと、きっと誰もが思うはずだ。
こんな男が非戦闘員だとは、とても信じられなかった。

( ゚д゚)「こう言うと終わりだが、実際戦ってみるのが一番早いと俺は思う」

(;^ω^)「そりゃそうだけど……前情報は必要だと思う」

( ゚д゚)「すまんが、ムゲンとの戦闘について俺から話せることはこれだけだ」

(;^ω^)「……そうか」

( ゚д゚)「餅は餅屋だ。こればかりは適正者に訊くしかないな」

( ^ω^)「……適正者……」

そうだ。
ミセリとの会話で、引っかかっていたことだ。

( ^ω^)「そうだ、適正者について────」


34 名前: ◆eWZ4SQG3kA 投稿日:2012/09/02(日) 18:57:29.58 ID:BnDRMA/h0

言いかけた時だった。
高い電子音が短い間隔で、定期的に鳴り出した。
音の出処は、ミルナだ。

( ゚д゚)「……やれやれ、クーが呼んでいるようだ」

( ^ω^)「クー……沙緒さんか」

ミルナがはめていた腕時計に手をやると、アラームのような呼出音は音を止めた。
自分のデスクの上にも、同じような腕時計が置いてある。
どうやら自分も、あれをつけなければならないようだ。

( ゚д゚)「あぁ。俺たちはクーと呼んでいる。ミセリも熱心に呼んでいただろう?」

( ^ω^)「そうだった」

( ゚д゚)「話の途中だが、俺はこれで失礼しよう。すまんな」

( ^ω^)「いや、ありがとう」

( ゚д゚)「そろそろあいつらも起きてくる頃だろう。男は皆この寮棟にいる。見回ってみるといい」

( ^ω^)「わかった」

すると、ミルナはそのまま真っすぐ部屋から出ていった。
屈強な男が一人抜けた部屋は、更に広く感じられた。


36 名前: ◆eWZ4SQG3kA 投稿日:2012/09/02(日) 18:59:39.25 ID:BnDRMA/h0

( ^ω^)「起きてくる……か」

軍に所属している人間に使われる言葉ではない。
起床時間は決まっていないのだろうか、と思い。
その通り、決まっていないのであろう、と思い直す。

規則として定められているのなら、全員起こされているはず。
まだ起床時間に達していないとしても、規律であれば『起こす』と言うはずだ。
やはりここは、自分が知るヴィップ軍とはどこか違う。

( ^ω^)(……行ってみるか)

立つ。そして、

( ^ω^)(これ……)

ベッドの上にはシーツと、掛け布団と、丁寧に折りたたんである服がある。
クールが着替えろと言っていた服のようだが。

手に取る。

(;^ω^)(ジャージ……?)

藍色の、お馴染みな白い二本線が走る、どこからどうみてもジャージ。
以前の隊に所属していた時、ジャージを寝巻きにしていた者はいた。
だが、勤務時間内にこんな格好で基地を徘徊していれば、鉄拳が飛んできただろう。


38 名前: ◆eWZ4SQG3kA 投稿日:2012/09/02(日) 19:00:46.52 ID:BnDRMA/h0

本当に規律は存在しないのか。
疑問に思いながらジャージに着替える。

( ^ω^)「……」

体が軽い。

ヾ( ^ω^)ゞ

動きやすい。

機能的であることは理解していたつもりだったが、長年軍服でいた自分にはまるで違う体のようだと錯覚してしまう。
これが狙いなのだろうか。意図は分からないが、上官の指示には従うことしか選択肢はない。
ミルナも付けていた腕時計をはめて、部屋を出る。



(´・ω・`)

( ^ω^)

(´・ω・`)「……」

自分と同じタイミングで、隣の部屋から一人の男が現れた。
目が合うと、彼は会釈をしたので、自分も会釈を返した。


39 名前: ◆eWZ4SQG3kA 投稿日:2012/09/02(日) 19:02:06.88 ID:BnDRMA/h0

( ^ω^)「おはようございます。自分は本日転属してきました内藤ホライゾンです」

その後に、自己紹介。
言い終えた後、男は驚いたような顔をしていた。
体は大きくない。とても軍人には見えないが、ここにいるということは関係者に間違いない。

(´・ω・`)「……おはようございます。白木[しらき]ショボンです」

自分よりも、高い声だった。
垂れ気味の目と、口調、声から受けた印象は、幼さだ。
未成年だろう。

( ^ω^)(…………)

────男の子四人と、女の子二人です。

ミセリの言葉だ。
この、白木ショボンと名乗った少年には、男の子という呼称に当てはまる。

もしや。

( ^ω^)「……白木、さん」

(´・ω・`)「はい?」

( ^ω^)「もしかして……適正者ですか?」


40 名前: ◆eWZ4SQG3kA 投稿日:2012/09/02(日) 19:03:11.89 ID:BnDRMA/h0

一瞬、きょとんとした表情をしてみせた。
その後、はっとした顔をして、


(´・ω・`)「多分、そうです」


そう言った。















一話 [Contact]




────END.


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