(´・ω・`) ホムンクルスは生きるようです
284 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/15(火) 18:26:59 ID:fUqXUNps0








9 ホムンクルスは迷うようです

285 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/15(火) 18:29:53 ID:fUqXUNps0

鉱石の研究がしたくて、ある鉱山の町で働くことを決めた。
小さな町で、掘り出される鉱石の量は決して多くない。

それでもこの町に決めたのは、多彩な鉱石が取れると聞いたからだ。
一つの場所にいながらにして、いくつもの研究ができるのはありがたい。

鉱山に入らないこと、南の森に入らないこと。
二つの約束を条件に、村人たちは快く僕を迎えてくれた。

「ショボンさん、今日の分です」

(´・ω・`)「ああ、いつもご苦労様です」


夕方ごろになると、毎日村の代表が訪ねてくる。
運ばれてきたのは大小様々、色も形も全く異なる鉱石。
僕の仕事は価値の異なるものを別にし、適正な価格で販売できるようにすること。

286 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/15(火) 18:31:31 ID:fUqXUNps0

僕が来るまでは、全て一括で売っていたと言うのだから驚きだ。
中には非常に稀な鉱石もあるのに。


そのおかげもあって、村人たちの生活は目に見えて向上した。
僕もわりといい暮らしをさせてもらっている。

(´・ω・`)「今日はいつもよりいい石が採れてますね」

「そうですか、それはよかった」

(´・ω・`)「ふむ……」


一番多い鉄鉱石を別の入れ物に取り分ける。
そこからは細かい鉱石を全部分類していく。


金、銀は環境の変化に強いから、そのままでも問題ないが、
錬金術に使われる鉱石は、効力を保つのに特殊な処置が必要な物も多い。

287 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/15(火) 18:32:25 ID:fUqXUNps0

例えば、月光石。
これは可能な限り日の光が当たらない場所に保存する必要がある。

火石は水の中に入れて置かなければ危ない。

(´・ω・`)「……これは」

「どうしたんですか?」

薄緑色に発光する爪の先程度の小さな石。
あまりにも希少なため、その存在すら疑っている錬金術師もいる。

(´・ω・`)「時鉱」

僕ですら現物を見たのは二回目。


「じ……こう……?」

288 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/15(火) 18:33:22 ID:fUqXUNps0

(´・ω・`)「錬金術には必ず守らなければならない手順があります。
      その最も重要なファクターである、"時"をある程度操作できる貴重な石です

「はぁ……高いんでしょうか?」

(´・ω・`)「売れば人生を三度遊んで暮らせるでしょうね」

「!?」

(´・ω・`)「これを譲って……いや買わせてもらえないだろうか」

研究材料として欲しいというのもあった。
が、これほど貴重な物を売れば、村の知名度が上がりすぎてしまう恐れがある。

「村の者に相談してみないとわかりませんが……。
 ショボンさんでしたら皆、賛成するのではないでしょうか」

(´・ω・`)「聞いておいてくれると助かります」

「わかりました」

男は種類ごとに分けた鉱石を持って出て行った。

289 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/15(火) 18:35:13 ID:fUqXUNps0

(´・ω・`)(こんなに気がはやるのは久しぶりだな……)

時鉱に関しての研究はほとんど行われていない。

時を操るということ。
もしかしたら、そう思ってしまう。

無限の時を生きるホムンクルスに、作用することはできるのでは、と。

やりかけの研究も放置し、男が返ってくるのを待つ。

「ショボンさん、村の皆で話し合った結果、これは差し上げることにしました」

(´・ω・`)「いや、流石に……。すぐには払えないけれど、お金を払わせてもらいますよ」

「ショボンさんのおかげで、この村の暮らしはよくなりました。
 もしこの村に来ていただけなければ、私達は今も貧しい暮らしをしていたはずです。
 この村に価値をくださったのですから、そのお礼と言うことです」

(´・ω・`)「……ありがとう」

290 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/15(火) 18:36:31 ID:fUqXUNps0

「これからもよろしくお願いします」

(´・ω・`)「そうさせてもらいますね」

時鉱を受け取って試験管の中にしまい、純水を注ぐ。
確か、空気と触れていると小さくなっていく、とあったはずだ。

本当かどうかは知らないが、消えてなくなってしまっては余りにも惜しい。

「それでは、失礼します」

(´・ω・`)「皆に礼を伝えといてください」

自分で行くのが筋だろうが、今は研究室を離れる気にはなれなかった。
頭の中に浮かんでくるいくつものアイデア。
その中のどれを実行するべきか考える。

(´・ω・`)(実験に使うべきか、研究するべきか)

欠片は非常に小さい。
思い浮かんだアイデアをすべて実行することは、到底できないだろう。

291 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/15(火) 18:39:14 ID:fUqXUNps0

(´・ω・`)(今度は自分で掘ってもいいな)

時鉱みたいな鉱石が掘り出されるのであれば、採掘が難しい鉱石類があってもおかしくはない。

この村の鉱山は自然に空いた洞穴を奥まで進んだ先にある。
通常の横穴を掘り進めていく方式ではないため、大人でも自由に出入りできるのが特徴だ。

(´・ω・`)(……おかしい。これだけの好条件の鉱山がどうして誰にも狙われない?)

鉱山のある村はただでさえ盗賊や、強欲な領主の被害を受けやすい。
れがどうだ。
確かに利益が少ないとは言え、ここまで平和なものだろうか。

(´・ω・`)(……明日聞いてみればいいだろう)

残っていた鉱石群を仕分けしていく。
他に貴重な鉱石を見つけられなかったが、眠気が出てくるまでの丁度いい時間潰しにはなった。

実験中の器具の火を消し、時鉱の用途を考えながらうつらうつらしていた。


ガタン

292 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/15(火) 18:40:40 ID:fUqXUNps0


明け方に物音で目が覚めた。
視界のピントが合うまで、寝たふりを続ける。

(  )「どれだ……」

研究室を荒らしているのは村の若い男。
貪欲な目つきをした覇気のない姿が目に入り、よく覚えていた。

(  )「くそ……」

沢山の鉱石が並んだ棚を一つずつ調べていた。

(´・ω・`)「何を探してる?」

(;'A`)「ッ!?」

僕の声を聞くやいなや、逃げ去ろうとするが、素早く扉との間に立ちふさがる。

('A`)「出せよ。何やらとかいう鉱石」

293 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/15(火) 18:43:39 ID:fUqXUNps0

何かを取り出す動作が見えた。
僅かに光ったのはおそらく小型のナイフ。
家の中で、脅し目的だとすれば十分な効力がある。

相手が僕でなければ、だが。

(´・ω・`)「時鉱か。君が手に入れたところでどうする?」

('A`)「決まってる。売って親父の病を治す薬を買う」

(´・ω・`)「……。二つ、言いたいことがある」

(;'A`)「時鉱の場所だけ言えば十分だ」

彼は追いつめられているのが自分だと、よく理解しているはずだ。
額に流れる汗も、震える手も、怯えたような瞳も、彼の良心が呵責しているからだろう。

だから僕は言う。

(´・ω・`)「無駄なことはやめろ」

294 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/15(火) 18:46:26 ID:fUqXUNps0

(#'A`)「うるせぇっ!」

相当焦ってもいたのだろう。
緊迫した時間に耐えられなくなった彼は、ナイフを僕の胸に突き立てた。
温かい血液が心臓の律動に合わせて噴き出す。

(;'A`)「はぁっ…………っぁ……」

(´・ω・`)「たった二言で十分だったのに、君が手間を増やしたんだからな」

(;'A`)「なん……で……」

ゆっくりと後ずさりする青年。
その顔にはありありと恐怖が浮かんでいた。

(´・ω・`)「僕はホムンクルスだ」

(;'A`)「…………」

(´・ω・`)「分からないよな……。不老不死の化け物さ。
      人間に害為すことはないからそんなに、怯えるなよ」

295 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/15(火) 18:48:25 ID:fUqXUNps0

胸に刺さったままのナイフを投げ捨てる。
傷口は瞬時に治癒する。

(´・ω・`)「服が直らないのは欠点だな。今度はそういう錬金術を考えてみるかな……」


(;'A`)「ば、化け物っ!!」

やっと思考が追いついたのか、青年が反応を示す。

(´・ω・`)「自分で言っといてなんだけど、何度言われても慣れないなぁ」

化け物、か。
人間から見たらやっぱりそうなんだろう。

(´・ω・`)「それに、時鉱は売れないよ。高価すぎるんだ。使えるのは錬金術師だけだしね。
      長々と説明させたんだ。どうしてこんなことをしたのか、話を聞かせてもらうよ」

('A`)「…………」

(´・ω・`)「黙ってちゃ分からない。それに、僕は怒ってるわけでもない」

296 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/15(火) 18:51:35 ID:fUqXUNps0

('A`)「父親が……病気なんだ……」

震えた声。
その理由は、僕という人外の前にいるからというだけではないだろう。

(´・ω・`)「それはもう聞いた」

('A`)「治すために薬がいる。だけど高すぎて買えないんだ」

(´・ω・`)「なんだ、そんなことか」

(#'A`)「そんなことだとッ!」

最初から言ってくれればもっと話は簡単だったはずだ。
そう思うと、ついそっけない態度をとってしまった。

青年の怒りはもっともだ。

(´・ω・`)「家に連れていってくれ」

(#'A`)「その必要がどこにある! お前は医者じゃないはずだ!」

297 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/15(火) 18:55:12 ID:fUqXUNps0

(´・ω・`)「ああ、医者じゃない」

(#'A`)「それならっ!」

(´・ω・`)「僕が錬金術師だからだ」

とまぁ格好良くは決まらず、その後もしばらく説明に時を要した。
錬金術師にも研究分野があり、僕はほとんど一人で行うことができるということ。
特に人体へ影響を与える錬金術を得意としていることなどを聞かせた。

わかったようなわからないような顔をしながら、青年は家を出た。

(´・ω・`)(ついてこいってことか……)

無言で歩く青年の後を追う。

('A`)「ここだ」

(´・ω・`)「失礼します」

鉱山の入り口のすぐ近くに立っている一軒の小屋。
彼の話によると、採掘者を管理する仕事もしているようだ。

298 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/15(火) 18:55:57 ID:fUqXUNps0

(´・ω・`)「なぜ管理する必要が?」

('A`)「この洞穴には村人しか入ってはいけないことになってる。
    かつて三度近くの領主の兵士たちが洞穴に入っていき、三度とも全員が病で死んだ」

(´・ω・`)(なるほどね……)

('A`)「それ以来、父親が常に見張りをしているんだが、この前一人の男が無許可で入っていった。
    男を止めるために後を追った父親も病に苦しんでるわけだ」

(´・ω・`)「村人だけが入ったときは何もないのか?」

('A`)「何も」

ベッドに伏せっている男は体中に紫の斑点が浮かんでいる。
村人に特殊な抗体があると言うよりは、村人以外が入ったときに何かがあると見るべきだな。

(´・ω・`)「これは……鉱山毒の一種だ」

('A`)「治せるよな?」

(´・ω・`)「かなり進行しているが、幸い摂取量が少なそうだ。
      今から薬を調合しても十二分に間に合う」

299 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/15(火) 18:57:40 ID:fUqXUNps0

('A`)「調合……?」

(´・ω・`)「錬金術を行う、という言い方以外にも、
      薬品であれば調合、まじないであれば制作、いろんな表現がある」

('A`)「……よろしく頼……お願いします」

(´・ω・`)「ああ。すぐに帰って調合を始める。ここにいて父親を励ましてやれ」

彼を残し、研究所に戻ってきた。
青年の前ではああ言ったものの、猶予はそれほどない。
机の上を手で払い、じゃまな物は全て端にどける。

本来なら鉱毒の解毒には原因の鉱物を特定する作業が最初に必要とされるが、
今回の場合、幸いにしてその必要はない。
体中に紫の斑点が浮かびあがる症状を引き起こす物質。

300 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/15(火) 19:01:20 ID:fUqXUNps0


【紫珀】


様々な昆虫の死骸が高圧・高温に、長い年月さらされ続けることで出来上がる宝石の一種。
一度に大量に摂取すれば死に至る強毒性の鉱物だ。
ごく微量でも、高熱などの症状が出て立って歩くこともできなくなるほどの毒性を発揮する。

(´・ω・`)(だけど紫珀は粉末状態じゃなければ、人間が摂取するとは考え辛い。
      どうも嫌な予感がする……)

紫珀の毒を取り除くためには、例外を除いて非常に高価な薬が必要になる。
その例外が錬金術師だ。

保存してあった【兎草】を瓶から取り出し、鼻に沁みる匂いがでてくるまで擦り潰す。
これは簡単な毒物であれば解毒できるし、多様な地域で手に入るから使い勝手がよい。

複数の薬品を加えることで効果を最大限まで高めることができ、
その状態であれば紫珀の毒を解くことができる。

301 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/15(火) 19:02:32 ID:fUqXUNps0

最低限の時間で済むように、的確に加熱を加える。
通常は放置しているような時間も、そばに立ってひと時も目を離さない。

混ぜる方法も寸分の狂いなく行う。

(;´・ω・`)(よし、こんなものか)

透明な液体が入ったフラスコを持ち上げて、何度も左右に振る。
これで泡立たなければ、錬金術として成功している。

(´・ω・`)(……できた)

運ぶための小瓶に入れて蓋を閉め、先ほどの青年の家へと走った。

('A`)「……早かったな」

(´・ω・`)「ずっと起きてたのか?」

('A`)「…………ああ」

眼の下に隈ができていた。
心配で眠れなかったのだろう。

302 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/15(火) 19:03:26 ID:fUqXUNps0

集中して作業をしていたせいで気付かなかったが、
調合を始めてからすでに一日と少しが経過してた。

手に持っていた薬を何度かに分けて飲ませる。
険しかった顔はすぐに緩み、苦しむうめき声は静かな寝息に変わった。

('A`)「……ありがとう。どうお礼をすればいいか……」

(´・ω・`)「お礼、か。それなら頼みがあるんだが」

('A`)「何でも言ってくれ」

(´・ω・`)「鉱山の洞穴に入らせて欲しい」

('A`)「それは駄目だ」

どんな例外も存在しないかのように、
悩む間すら見せず、即座に断られた。

(´・ω・`)「……僕が死なない化け者だということは知っているはずだが」

('A`)「それでもだ。あの中は慣れない者が行くには危険すぎる。
    深さのわからない竪穴がそこらじゅうにあるし、道は迷路のように複雑だからだ」

303 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/15(火) 19:04:31 ID:fUqXUNps0

(´・ω・`)「……またしばらくしたら親父さんの容体を診に来る」

首を横に振る男の意思は固そうだ。
今は我慢して別の機会を待ったほうがいいだろう。
そう僕は判断し、一言だけ言い残して青年の家を後にした。



・  ・  ・  ・  ・  ・



家に帰ってから汚れた机の上を片付ける。
余分にできた薬を、一応小瓶に動かす。

夜の闇にまぎれて洞穴に忍び込もうかと思ったが、やめておいた。
それよりも有毒物質の話が気になり、ベッドに座り自問自答する。

答えの予測はできていたが、それをより確実にするために。

304 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/15(火) 19:05:23 ID:fUqXUNps0

(´・ω・`)(……鉱山で有毒物質が発生することは珍しくないが、しかし……)

話を聞くに、普段から常時漏れているというわけではないようだ。

人の出入りに反応する程度のことならよくあるだろう。
呼吸による酸素量の変化や、発汗による洞窟内の気温、湿度の変化。

つまり生き物それ自体に反応することは稀ではない。
だが、どうやって村人とそうでない人間を判断しているのか。

自然の仕組みがこうまで完璧に機能する確率は限りなくゼロに近い。

では人為だと仮定しよう。
錬金術だとどうか。
設置型の錬金術ではやはり、そこまで細かい差は判別できないと考えられる。

狩りに僕が作るとしたらどうだろう。
村人の服、話し声、探索ルートなどを引き金にするだろうが、
これだけでは完全な罠を仕掛けることはできない。

(´・ω・`)(……つまり)

残る選択肢は一つに限られた。

305 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/15(火) 19:08:58 ID:fUqXUNps0

(´・ω・`)(村人が意図的に毒を発生させている、と考えるのが自然だ)

おそらくはあの青年が独断で。
父親が関わっている可能性は低いだろう。

(´・ω・`)(……今なら看病で手が離せないだろうな)

あの薬さえ摂ってしまえば、命に別条はないはずだ。
元通りまで回復するには時間がかかるかもしれないが。

父親想いの青年には悪いけれど、錬金術師としての性分は止められない。

最小限の荷物( といっても、採取用試験管を数本程度もっただけだが )
を整え、ランプを片手に鉱山へ向かう。
狭い道を抜け、開けた先に青年の家が見えたところでランプに布をかぶせた。
曇り空ゆえに光はほとんどなく、手さぐりでゆっくりと進んでいく。

洞穴の中に入ったことを肌で感じ、灯りを戻す。

(´・ω・`)(……美しいな)

狭くなっている入口の内壁付近はランプの光を受け、雑多な色に輝いていた。
ここにも多くの資源が眠っているのだろうが、夜に入っていない村人は気付いてないのかもしれない。

306 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/15(火) 19:09:51 ID:fUqXUNps0

もしくは、むやみに入口を広げていないという可能性もある。
一度に多くの人間が入れないようにするのは、非常に賢いやり方だ。

仮に近くで戦争があったとしても、入り口を塞いでしまうだけで生き延びることができるだろう。

足音を殺すように奥へと進む。
枝分かれしている道を選ぶときは常に右側を選んで進んだ。

置き石や印による侵入痕を残すのはよくないと考えたからだ。

(´・ω・`)(……迷った)

何度目かの三叉路を右に曲がった時からおかしいとは思っていたんだ。
洞穴内は明らかに立体的な迷路構造になっていた。

壁や天井はどこも同じに見え、入り口がどちら側にあるかすらもわからない。
感覚的には若干低い所にいるだろうと予想できるだけだ。

(´・ω・`)(……どうするかな)

307 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/15(火) 19:11:08 ID:fUqXUNps0

翌日になって村人が採掘に来るのを待ってもいい。
だけど青年が村人に黙っていた場合、村の安全を守るためとはいえ、
少なくない人を殺した、という行動が明るみに出てしまう恐れがある。

それでは僕の望むところではない。


ゴリゴリ


(´・ω・`)(ん……?)

最初は自分の足音かと思ったが違う。
何かをすり潰すような音。
小さな明かりに照らされて輝く粉末が、僕に向かって流れてくる。

(´・ω・`)(見られてたのか……)

風下にいる僕は後ろの暗闇に逃げるしかなかった。
少々吸った程度ではどうもならないだろうが、大量に吸い込むとまずいかもしれない。

308 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/15(火) 19:12:38 ID:fUqXUNps0

踵を返して洞窟内を走る。

紫珀は水分に弱く、湿るとその毒性をほとんど発揮できない。
ひんやりとした洞窟内を長く漂うことはないはずだ。

(´・ω・`)「なっ!?」

歩きやすいようにある程度整えられていた足元の岩盤が、
急に水分を含む柔らかいものに変わった。

それに足を取られて、受け身も取れずに背中から倒れた。

(;´・ω・`)(っ……。水分……いきなりだな……)

手から離れて転がって行ったランプの灯は消えていた。
完全な暗闇の中では自分の掌も見えない。

(;´・ω・`)(まずったな……)

右手を壁につけながらゆっくりと歩く。
足元の土はどんどん柔らかくなっている。



('A`)「……」

309 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/15(火) 19:14:19 ID:fUqXUNps0


バリ、と嫌な音が響いた。
足元を見降ろす動作がゆっくりになる。

(´・ω・`)「……」

慎重に来た道を引き返そうとした時、
一際大きな音とともに、僕の体は重力にとらわれた。


(´・ω・`)「!?」


足場を失った僕は、微細な光に包まれるように落ちていく。
落ちながらにして、先ほどよりもこの地下世界のほうが"明るい"のだと気づく。

落下は一瞬だった。

大きな音を立てて僕が落ちたのは、地下水のたまり場のようなところ。
深さは腰ぐらいまであり、怪我は一つもなかった。

水を手で掬うと、星屑が浮いているようにも見える。

(´・ω・`)(光ってるのは……星藻か……)

310 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/15(火) 19:17:45 ID:fUqXUNps0

水分中の成分を使って発光する珍しい藻だ。
これのおかげで、今の状況が把握できる。

(#´・ω・`)「来るなっ!」

頭上で僅かに聞こえた水の音。
それ僕の声を聞いて動きを止めた。

声はよく響く。

返事はない。


(  )「……なんで入った」

上から降ってくる声は僕を非難する。
それは間違いなくあの青年のものだろう。

(´・ω・`)「……知らないものを知りたい。見えないものを見たい。
      錬金術師はそういう生き物だ……黙って入ったのは申し訳ないとは思ってるよ」

(  )「……あんたには感謝してるよ。でも……っ……!?」

声が途切れ、代わりに大きな水飛沫が上がった。
綺麗だと見とれる余裕はなかったが。

311 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/15(火) 19:21:04 ID:fUqXUNps0

(;´・ω・`)「おいっ!?」

青年の体を水面へと引き上げる。
その皮膚には小さな紫色の斑点が浮いていた。

(´・ω・`)「紫珀なんか削ったりするからだ」

(;'A`)「……風向きは……十分に……げほっ……げほっ……理解し……ていた」

(´・ω・`)「だからと言ってリスクが高すぎる」

(;'A`)「……はっ……俺の……命で村が……守れれば……安いもん……だろ」

(´・ω・`)「……絶対に助ける……」

(;'A`)「……無理だ……ろ……。俺ですら……ここを……知らない」

上に空いているはずの穴は見えない。
段差も梯子もなく、そこから戻るのは不可能だ。

ひとまず、水位の浅いところを探し、彼の身体を横にした。
全身水に浸かったおかげで、毒の浸食は進んでいないが、相当量吸い込んでいることが分かる。
可能な限り早く処置しなければ命が危ない。

312 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/15(火) 19:24:43 ID:fUqXUNps0

(´・ω・`)「本当にここはどこか知らないのか?」

( A )「……知ら……ない」

下に落ちたのだから、上に行くのが常識だろう。
それに、ここに水が溜まっているということは、
もし下に向かえる道があったとしても、ここより下は水没していると予測できる。

焦るな。
状況を整理すれば、脱出手段が思い浮かぶかもしれない。

僕と青年は上から落ちてきた。この場所にあるのは、水、星藻。
星藻は水中でしか生まれず、成長しても水中から出ることはない植物のはずだ。

辺りを見回しながら考える。

(´・ω・`)(ではなぜ、壁にまで星藻が群生している……?)

一部分ではなく、おそらく僕らが落ちてきた穴を除き、この空間全体に星藻はりついている。

この場所は全て水没していたのではないか。
壁に取り残された星藻は、上から滴るわずかな水分で生き残ってきたのだろう。
つまり、今のこの水位まで水が抜けた場所があるのではないかと推測できる。

それも、最近。
壁についた星藻の量の変化から、大きなひび割れによる大量排水が行われたのだと結論を出せる。

313 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/15(火) 19:25:49 ID:fUqXUNps0

(´・ω・`)「動くなよ」

そう言って壁沿いに空間内を歩く。
右手で壁を確かめながら。

(´・ω・`)「あった……」

歩き始めて数分でひび割れを見つけることが出来た。
中にも星藻がびっしりと張り付いており、光には不自由しない。

(´・ω・`)「行くぞ……」

('A`)「……置いて……行けよ」

青年は拒否したが、腕を持って立たせる。

(´・ω・`)「そうはいかない。君を巻き込んだのは僕の責任だ」

('A`)「…………」

ひび割れは予想以上に大きく、二人が並んで通る幅は十分にあった。
中にまで星藻が群生しており、灯りには不自由しない。

火の消えたランプの容器に星藻を詰め込んでいたが、今はその必要もなさそうだ。

314 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/15(火) 19:26:43 ID:fUqXUNps0

(´・ω・`)「……」

道は奥へと続いていた。
行き止まり出ないのはありがたいことだが、同時に懸念が一つ。

(´・ω・`)(下り、か……)

('A`)「どう……した……?」

考え込む顔を見られたのか、
苦しそうに呻きつつ男が尋てくる。

(´・ω・`)「上から落ちてきて、下に進んでいる。
      ……僕らが落ちる前にいたところは、村からどれくらいの高さにある?」

('A`)「……わか……らん……大人、ひとり分、ぐらい……だろ」

(´・ω・`)「ということは、すでに町の下か」

(´・ω・`)(僕の知る限り町の中に地下へ進む道はなかった……。
      これはまずい……)

ほとんど男を抱えるようにしながら、前に進みながら考える。
水は一体どこに流れて消えたのか。

315 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/15(火) 19:27:24 ID:fUqXUNps0

ここの標高が海面下であれば、水が残っているはず。
もしくは、地下のさらに大きな空洞につながっているかのどちらかだ。

このどちらかであれば、隣にいる彼は助けられない……。

(´・ω・`)(星藻もだいぶ減ってきたが……先に光があるな……)

数分前にいた所では壁中に張り付いていたが、今はまばらになってきている。
それでも暗闇にならないのは、横穴内を照らす明りがずっと前の方から来ているからだ。

鋭い岩があるかもしれず、常に足元と目の前に気を配るのを忘れない。

(´・ω・`)「……すごいな」

割れ目に入って小一時間ほど経っただろうか。

目の前が急に開けた。
少し前から、光を感じてはいたが、
二、三度角を曲がったことで、それらはより強烈に存在感を露わにする。

僕らが立っていたその場所は、足元が途切れていた。
目下にはドーム状の広大な空間が広がっていて、
大小異なる様々な鉱石が、天井から降り注ぐように生えている。

316 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/15(火) 19:28:40 ID:fUqXUNps0

僕らはその横壁にできた、細い裂け目から覗いているにすぎなかった。

下には群青色に輝く水面。
星藻の光が水に溶けている物質を反射しているのだろう。

(´・ω・`)「こんな場所が存在したなんて……」

あまりにも美しく、幻想的な光景に言葉を失う。
まだしばらく眺めていたかったが、男の苦しそうな息で現実に引き戻される。

(;´・ω・`)「まずいな……」

すでに意識はなく、体中の力が抜けている。
かなり危険な状態だ。

天井に見える鉱石の中に解毒成分を含むものはあるが、それには手が届かない。

(;´・ω・`)(どうする…………ん……?)

気のせいではない。
確認のために、何度も鼻をすする。

317 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/15(火) 19:30:03 ID:fUqXUNps0

(´・ω・`)(これは……)

微かな臭い。
僕以外の誰かであったら気付かないほど。

僅かに鼻に突く刺激臭。
肌がピリピリする感覚。
それらから、特に人体に作用する形式のものだと判断できる。

(´・ω・`)(錬金術痕か……?)

何千、何万回も試行を繰り返してきたからこそ。


近くの壁を叩きながら来た道を後戻りする。
音が変わったのは、一つ目の角を曲がってすぐの場所。

(´・ω・`)(ここだ……)

青年を壁にもたれかけさせ、両手を使って仕掛けを探す。
膝の高さに、丁度手を入れるように作られた穴があった。

隙間に手を入れてひくと、何かが噛みあう音がして壁が僅かに凹んだ。
壁全体に体重をかけると、ゆっくりと動いていく。

318 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/15(火) 19:45:09 ID:fUqXUNps0
壁を最後まで押し切ると、細い道が一本現れた。
先ほどよりも、より強い臭いがする。

(´・ω・`)(なんだここは……?)

星藻で照らすと、予想通り錬金術師の研究所だった。
蝋燭に火を点け、室内を見回す。

長いロープに結ばれた小さな容器。
小型の望遠鏡。
実験道具が幾種類もあった。

(´・ω・`)(……ここなら、もしかすると……)

錬金術師は様々な素材や物質を研究するため、
自身の研究所に強力な解毒薬を置いてあることが多い。

紫珀の毒を緩和することができる素材を、乱雑に並べられた試験管の中に見つけた。
臭いを嗅ぎ、僅かに舌につけ、二つの感覚でその液体を確認する。
見たところ、そこまで古くはない。

319 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/15(火) 19:46:15 ID:fUqXUNps0

(´・ω・`)「これを飲め」

予想と異なり、かなり効果の低いものだが、考えている暇はない。
青年の口を無理やり開け、流し込む。

('A`)「ごほっ……ごほっ……」

(´・ω・`)「大丈夫か?」

('A`)「……っほ……。おかげさまで……」

彼は目に涙を浮かべながら咽込んでいる。

(´・ω・`)「歩くぞ」

研究所から奥に向かって、道は伸びていた。

('A`)「あ……ああ」

一人で立ち上がることはできないにしても、男の顔色はずいぶん良くなっていた。
足元に散らばった資料を避けながら歩く。

(´・ω・`)(……また来ればいいか)

320 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/15(火) 19:47:22 ID:fUqXUNps0

気になるものは多くあったが、青年は完治したわけではない。
一時的に毒の効果を押し留めているだけで、時間がたてば先ほどのように動けなくなってしまう。

(´・ω・`)「……人の住んでた跡がある。おそらくは外に通じているはずだ」

('A`)「わかった……」

道は非常に狭く、二人並ぶのは困難だった。
仕方なく、青年には背にもたれかかるようにして歩いてもらう。

(´・ω・`)「頑張れ……もうすぐ外に出る……」

一時間近く上り坂を歩き続けた。
緑の臭い、日の光が僕らを迎えてくれる。

そこは村の近くにある森の中だった。
木の間から、高い鉱山が北側に見える。

村人達との約束を思い出す。

「鉱山」と「南の森」には絶対に入らないでください。

僕らの出てきた穴は、人工的に掘られたものには見えない。
おそらく最奥まで行った、ある錬金術師があの場所に気付いたのだろう。

321 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/15(火) 19:48:41 ID:fUqXUNps0

そして、村人たちに口止めか何かをし、不思議な場所を独占して研究していた。

(´・ω・`)(……だが、森に入らなくなったのはかなり昔のはずだ……
      研究室の状態と時代が合わない……)

気になる点はいくつかあったが、調べるのは後回しだ。

(´・ω・`)「村まではすぐだ。あと少し歩けるか?」

('A`)「ああ……」



・  ・  ・  ・  ・  ・



村にたどりついた僕は、青年に解毒薬を飲ませた。
そして家に送った後、再びこの穴の前に戻ってきていた。

322 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/15(火) 19:49:43 ID:fUqXUNps0

(´・ω・`)(……何を研究していたんだ?)

研究室の中に残っているのは走り書きされたメモや、僅かな試料。
それだけでは、何をしていたのか見当もつかない。

結局わかったのは、かなりやり手の錬金術師だということだけ。
それ以上の探索を諦め、僕はその場所を有効利用させてもらうことにした。

迷っている最中に見つけたあの場所は、
錬金術師の僕にとって非常に興味深い。

(´・ω・`)(新しい発見でもあればいいな……)

どうやら僕がこの村に滞在する期間は伸びそうだ。

323 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/15(火) 19:51:44 ID:fUqXUNps0









9 ホムンクルスは迷うようです  End


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