(´・ω・`) ホムンクルスは生きるようです
66 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2015/02/08(日) 10:58:53 ID:fq.xzspY0












20 ホムンクルスと不在の代償

67 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/08(日) 11:02:54 ID:fq.xzspY0


遡ること二十一年前、僕が城から落ちた後のこと──



◇ ◇ ◇ ◇ ◇

69 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/08(日) 11:04:59 ID:fq.xzspY0

モララルドは欄干が崩れたバルコニーの上で、雨に打たれながら動かなかった。
ブーンは二人を連れて脱出しようと試みるが、その時になって衛兵達が集まってくる。

人並みの力しかなく、二人も抱えて逃げ切れないというブーンの判断は誰にも責められない。
書庫番を背負ったまま侵入経路から脱出し、逃走用の小舟で荒れた海を逃げる二人。
天候のせいもあり追手が来ることもなく、無事に逃げ切ったブーンが向かったのはクルラシア自治区。

クールと再会して、事の顛末を話す。
ショボンが行方不明になって、モララルドを置いて来ざるを得なかった状況。
二人が出した結論は、捜索よりも先に少ない犠牲のうちに戦争を早期で終わらせるということだった。

侵略してきたセント領主家に対する戦略を決め、そのまま別れたブーンとクール。
ブーンは書庫番を隠れ里に送り、ワタナベクスに護衛をつけるように依頼する。
彼女は快く受け入れ、その後すぐにクナドに向かう。

クナドにたどり着いた時、その付近には何度目かの侵略の痕があった。
そのすべてを撃退していたのがハートクラフトとその傭兵団。
そして派遣されてきた騎士教会の重装騎士。
クナド兵に加え、二つの勢力がセント領主家の侵攻を押しとどめていた。

70 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2015/02/08(日) 11:06:23 ID:fq.xzspY0

片方は、地域単位で組織されている騎士教会所属の騎士。
教会は有事の際に騎士を派遣し荒事に対応させる。
その数は地域によって異なるが、練度が高く並みの常備兵程度では相手にならない。

そしてもう片方は、一人一人が強力な錬金術製の武器を持ち、己が技術を磨いた屈強な男達。
彼らは恐るべき実力を持ちながらも、一人を除き決して単騎では戦わず、
連携することでその力を何倍にも大きくする。


───  天嵐傭兵団


嵐のように戦場を駆け回る姿を見て、人々はいつしかそう呼ぶようになっていた。
如何に人外の兵といえども、彼らに阻まれクナド領主国を侵略できないでいた。

だが、優勢だった状況は、突如としてひっくり返った。

グラント王侯領で起きた内乱。
そして、突然のオラト領への侵攻。

71 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/08(日) 11:10:37 ID:fq.xzspY0

原因は、内乱によりグラント王が殺されたことにあった。
混乱した指揮系統を握ったのは、グラント王侯領で実質二番目の権力を持つ参謀位にいた男。
彼は同盟国であるはずのオラト領に攻撃を開始し、瞬く間にオラト領主国の主要地に迫った。

時を同じくしてセント領主国との戦線に現れたのはそれまでと異なる兵士。
人間としてのカタチをほとんど保っておらず、粘度の高い液体が大部分を構成する何か。
もはや生き物とも呼べないそれらは、錬金術に対して高い耐性を持っていた。

速度は遅く、攻撃方法もほとんどないが、前線の兵士たちはその耐久力と数に苦しめられる。
天嵐傭兵団でさえ、一体が動かなくなるまで数時間の攻撃を要した。

ゆっくりと、だが確実に押し下げられていく戦線。
オラト領主家の方もまた限界に近かった。

ある晩の会議。
誰も語らず、ただ戦況の悪化を嘆いているだけの集い。
事態を好転させる案はなく、誰もが絶望に打ちひしがれている中、ハートクラフトは一つの提案をする。

72 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2015/02/08(日) 11:11:53 ID:fq.xzspY0

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「拙者がグラント王侯領の相手をしよう。それでオラト兵の力を借りることができる。
        傭兵団はブーンの指示に従い、セント領主家との戦線を押し返せ」

「なっ! 一人では不可能です!」

「なぜオラトの防衛に向かわれるのですか……」

「心衛門殿、我々傭兵団の力をなぜ?」

(; ^ω^) 「大軍を一人で相手にできるわけがないお!」

憤る者、嘆く者、問う者、止める者……。
いくつもの反応が生まれ、しかしその場にいた全員がハートクラフトの提案を断った。
現実的ではなく、また達成手出来るとは思えない策。

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「聞いてほしい。このままではジリ貧であり、全てを失ってしまう。
        通常の兵であっても、セント領主国の泥人形を葬ることができよう?」

(; ^ω^) 「でも、オラトに攻めてきているのは千人どころじゃないお!」

73 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/08(日) 11:13:39 ID:fq.xzspY0

増強され続けていく戦力。
それはグラント王侯領の頭を潰さない限り終わりはしない。

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「一騎当千、拙者の天嵐傭兵団は強者しかいない。
       その団長をやっているのは伊達や酔狂ではないと皆知っているだろう」

「だが、心衛門さん。あなたがいなくてどうやって戦えばいい」

「そうだ、俺たちはアンタを信じて戦ってきた。今更余所者の下にはつけない」

視線がブーンに集まった。
その意味は、不審。その一言に尽きる。
何の前触れもなく現れ、自分達の長と対等な関係を築いた男。

どうやら共通の知り合いがいるらしいことはわかったが、それ以外はすべて謎に包まれている。
ブーン自身も話してよいこととそうでないことの区別がつかず、彼らとの付き合いを最低限にしていた。
そのせいで生まれてしまった溝。

信頼できるかと問われれば、その答えは否。

74 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/08(日) 11:14:53 ID:fq.xzspY0

(*゚ー゚) 「それなら私がやりましょう」

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「しぃ!?」

名乗りを上げたのは、その場に似つかわしくない一人の少女。
ただ無言で、用意されていた椅子に座っていただけの少女は、凛とした声で告げた。
その響きに戦争に対する絶望や、未知に対する恐怖はない。

(*゚ー゚) 「天嵐傭兵団の皆様。皆様の団長は期待を裏切るような人でしょうか?
      皆様の団長は嘘をつかれるような人でしょうか?」

大勢に向かって問いかける。
応えるものはなくとも、その答えははっきりと共有された。

(*゚ー゚) 「私は、私の師匠を信じています」

「そうか、そうだよな……」

「俺らの団長は、俺らの団長だ!」

「人間相手に負けるわけがないですよね」

(*゚ー゚) 「必ず、戻ってきてくださいね」

75 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/08(日) 11:15:48 ID:fq.xzspY0

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「しぃ、無理はするな。二週間で必ず帰ってくる」

(*゚ー゚) 「それまで、こちら側の戦線はお任せください。
      ブーンさんも協力してくれます」

( ^ω^) 「しぃちゃんを護るためならなんだってするお!
       それに、帰って来た時には戦争が終わってるかもしれないお?」

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「頼もしいな」

小さく笑ったハートクラフトは、その場にいた全員と酒を酌み交わした。

その日のうちに、闇夜に紛れハートクラフトはクナドを出ていった。
彼が持ちうる最高の武具に身を固め、たった一人でこの窮地を打ち破るために。
信じる仲間たちが待つ地を護るために。

76 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/08(日) 11:16:48 ID:fq.xzspY0

翌日、ブーン達もまたセント領主家に対抗するために装備を固めて集まった。
敵の数は依然として増加している。
天嵐傭兵団と教会騎士、ブーン、そしてクナド兵達は死力を尽くして敵を打ち倒していく。

数日が過ぎ、拮抗した戦線を崩したのは、オラト戦線を維持していた防衛戦力の加入。
オラト兵達は既に疲労していたが、武器を下げる者は一人もいない。
千を超える数の力を利用し、泥状の敵を一匹ずつ葬っていく。

( ^ω^) 「みんな、いったんここで様子を見るお!」

一週間と数日で平原はクナド・オラト両国が完全に制圧した。
失われた人数は多く、生き残った兵達がその亡骸を丁重に埋葬する。
木の棒や石を置いただけの簡単な墓所を作り、死者を弔った。

(*゚ -゚) 「師匠は無事でしょうか……」

不安そうにつぶやくしぃ。
彼女は錬金術師の師としてだけではなく、
父親のようにハートクラフト慕っていたことはブーンも知っていた。

77 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/08(日) 11:18:13 ID:fq.xzspY0

( ^ω^) 「きっと大丈夫だお」

ハートクラフトからの便りはなかった。
それが何よりもしぃを恐れさせ、ブーンを焦らせる。


待てども待てども彼は姿を現さなかった。


約束の二週間を過ぎても、音沙汰はない。

オラト南端で起きていたことを彼らが知るのは、そのさらに一月後の大雨の日。

その間セント領主家は完全に沈黙を保っており、小さな諍いさえ起きなかった。
傭兵団の前に現れたのは、グラント王侯領の使者と名乗る男。
汚れたローブと疲れ果てた馬を見れば、五日前から続く長い雨の間、
休まず駆けてきたことは明白であった。

「こちらにいらっしゃる代表の方にお話があります」

78 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/08(日) 11:20:02 ID:fq.xzspY0

(*゚ -゚) 「代表は私です」

「あなたがしぃさんでお間違いないですか?」

使者は驚いた顔をするが、すぐに取り繕う。

「大切な、伝言があります」

( ^ω^) 「まぁとりあえず座ってくれお、しぃちゃんも」

立ったままではしんどかろうと、ブーンは椅子を用意した。
二人は無言のまま座る。
先に静寂を破ったのは使者の方であった。

「ハートクラフト氏は現在、グラント王侯領の地下牢に幽閉されております」

(; ^ω^) 「!?」

(*゚ー゚) 「お師匠様は無事なのですか?」

79 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/08(日) 11:21:51 ID:fq.xzspY0

「ええ、重傷を負っていましたが、順調に回復しています」

男の表情が僅かに曇ったのをブーンは見逃さなかった。
無事、とは言い難い状況なのだろうと理解したうえで沈黙を選ぶ。

「彼はオラト国境の兵士を全て無力化した後、グラント領に攻めてきた、との報告を受けました。
 参謀位は焦り、さらなる増援を向かわせましたが、彼の前には時間稼ぎにしかならなかったのです。
 そのまま王城内に侵入され、瞬く間に参謀位の首を刎ね落としました」

(*゚ー゚) 「……」

「満身創痍の彼はその場から動くことはなく、おとなしく捕まりました。
 後でわかったことですが、この参謀位はセント領主家と通じていたようです。
 我々は、国の方針を決めるのに長いこと話し合う時間が必要でした。
 ご報告が遅れたのはそのためです」

( ^ω^) 「で、どういうふうに纏まったんだお?」

「我々は以前の関係を望みます。貴国に多大な御迷惑をおかけしたことは深く陳謝いたします。
 大変、申し訳ございませんでした」

80 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/08(日) 11:23:16 ID:fq.xzspY0

言葉の通り、椅子から立ち上がり直角になるほど腰を曲げる。

「貴国が被った損害は全て我が国が負担し、今後も友好な関係を築くために出来ることであれば、
 そちらの条件を可能な限りのませていただく所存です」

果たして、男が言ったことは大国にしてはあまりに不利な条件。
ブーンの顔を窺うしぃに対し、彼は言葉でもって応えた。

( ^ω^) 「正直に言うと、そこまで悪い条件をそのままのむとは思えないお。
        こちらとしては、何かあるのではと勘繰ってしまうお」

「…………我が国は現在、王という存在を失い、非常に不安定な立場にあります。
 宗教上、次の王を簡単に据えるというわけにもいきません」

( ^ω^) 「だから手を結んで、一時の安定を手に入れると?
        その後にまた裏切るのかお?」

「参謀位が死んだあと、セント領主家から謎の兵が数体攻めてきました。
 我々が一体のこれに対するためには、百を超える犠牲が必要になるのです。
 貴国であれば、対抗策をお持ちであると、ハートクラフト氏から聞きました。
 その力を貸していただくために、私は来たのです」

81 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/08(日) 11:24:28 ID:fq.xzspY0

随分とうまい話だ、と思う。
力を貸したところで、それを操る術を持たねば何の意味もなく、
裏切られたときに余計な戦力を与えてしまうことにもなる。

(*゚ー゚) 「わかりました」

( ^ω^) 「いいのかお?」

(*゚ー゚) 「セント領主家に勝つには、グラントの力が必要ですよね?」

戦力的に見ても、グラント王侯領の力は無視することはできず、
ここで協定が破綻して、再び背後を狙われるのを避けるのが最優先。
しぃと同じ結論にブーンは至っていたが、彼女がそれを承諾するかは半々だとよんでいた。

( ^ω^) 「条件は、即時ハートクラフトを解放すること、対セント領主家を明確にすること、
       今後、クナド・オラト両国に対して不必要な干渉をせぬこと、そのために
       グラント側にて国境線上に城壁を築くこと。国境戦の犠牲なった者の家族に厚い補償をすること。
       こんなもんかお?」

82 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/08(日) 11:25:20 ID:fq.xzspY0

(*゚ー゚) 「クナド様とオラト様に相談はしなくていいでしょうか」

( ^ω^) 「はっきりいって、二人のコンセンサスを得るのは難しいお。
        攻められたオラトには戦死者も出てるだろうし、簡単な条件では収まらないと思うお」

「両名様には既に私が話しております。御二人ともが今あなたがおっしゃったことを言っておりました」

(*゚ー゚) 「それなら、その条件でお願いします」

(; ^ω^) 「仕事が早いお……まぁ、それでハートクラフトはいつ頃戻ってこれるんだお?
        彼が戻ってこないと、セント兵に対する武器は貸すことができないお」

「存じております。故に、あと二週間後には彼が戻ってくることになるでしょう。
 その時に、彼と再度お伺いすることにします」

( ^ω^) 「わかったお」

(*゚ー゚) 「今夜は冷えます、どうぞ暖かくしていってください」

83 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/08(日) 11:27:31 ID:fq.xzspY0

しぃは簡易暖炉の火を強くするため、薪を放り込んだ。
炎は煉瓦の淵を舐めるほどに大きくなる。
両手を温もりに委ねていた男は、しばらくして立ち上がった。
可能な限り早く帰るのだと、しぃとブーンの静止を聞かず、闇夜の中に駆けていった。

何が起きたのか興味津々の一般兵と傭兵団達。
彼らに質問に答えるために、二人は遅くまで寝ることができなかった。



・  ・  ・  ・  ・  ・



使者が訪れてからちょうど二週間後、一台の馬車がクナドに到着した。
降りてきたのは大柄な男。誰もが彼の帰りを喜ぶつもりで集まっていたが、皆声をかける事を躊躇う。
なぜなら、男の左腕は根元から失われていたからだ。

84 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/08(日) 11:29:53 ID:fq.xzspY0

(*;ー;) 「お師匠様ッ……!」

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「しぃか、無事で何よりだ」

(; ^ω^) 「ハートクラフト、左腕は……」

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「迷惑をかけたな、ブーン。話したいことがいくつかある。工房の中に入ろう。
        みんな、色々と聞きたいことはあるだろうが、少し待ってくれ。
        もう少し後で、野営地に向かう」

あまりにも今までと変わらない様子に、二人とも面喰ってしまう。
その衝撃も冷めやらぬうちに、ハートクラフトは工房に入っていく。
傭兵団の男達は沈痛な面持ちで俯き、それぞれが野宿するテントに戻っていく。

後を追って入った工房の中では、ハートクラフトが既に椅子に座っていた。
ブーンは椅子に腰かけ、しぃはすぐに紅茶を用意する。
湯気を上げる暖かいカップが机に三つ並んでから、ハートクラフトは語り始めた。

85 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/08(日) 11:33:15 ID:fq.xzspY0

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「あれは解毒方法さえ知っていれば対して怖くはない」

( ^ω^) 「その、なんだお、しゅてん、いばらき、っていうのは?」

事情の呑み込めないブーンだけが置いてきぼりにされていた。
ハートクラフトが応える前に、しぃが二振りの武器について早口で説明する。
普段冷静な彼女が興奮するのは、決まって師であるハートクラフトの錬金術に関する時だけだ。

(*゚ー゚) 「≪朱天≫と≪荊姫≫。
      師匠が生み出した数多の鍛冶錬金術の中で、最も優れた三本のうちの二本です。
      朱天は大薙刀で、傷や衝撃を与えた敵に対して酔わせることができます。
      荊姫は小太刀で、かすり傷程度でさえ一週間から二週間で発病させ、
      適切な処置を施さなければ死に至ります」

( ^ω^) 「酔わす……?」

〔; !゚ Ⅱ゚!〕 「拙者のとっておきなのだが……今更隠すまでのこともなかろう。
        補足するならば、朱天は酒を大量に呑んだ後のように酩酊させることができるということだ。
        当然、真面に武器をふるうことすらできない。相手を出来る限り傷つけないための武器。
        逆に荊姫は相手を確実に殺すための武器。
        その場ですぐに効く様な強力な毒ではすぐに武器の性質を見破られてしまう。
        だからこそ、後で発症するようにしてある」

86 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/08(日) 11:35:43 ID:fq.xzspY0

(; ^ω^) 「えげつないお……」

(*゚ー゚) 「ついでいうと、これらの三本はもとは一本の刀だったのです。
     折れてしまった刀をお師匠様が錬金術で鍛えなおしたのです」

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「この三本だけは、拙者の純粋な実力ではないのだから、あまり誇れるものではないがな」

ハートクラフトが謙遜することさえお構いなしに、しぃはさらに続けようとする。
このまま話をさせていれば鍛冶錬金術の根幹である技術を聞けるかもしれない。
そう密かに期待していたブーンだが、当然師匠の静止が入った。

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「しぃ、喋りすぎだ」

(;゚ー゚) 「っ……すいません。お師匠様」

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「やれやれ……武器を手に取って戦うということは、命を奪うということだ。
        その点はブーンも理解しているだろう?」

87 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/08(日) 11:37:26 ID:fq.xzspY0

ブーンは無言で答える。
彼には敵だから殺す、といった論理は存在しない。
人間の犠牲は敵味方問わず少なくするのが最良。
そのために自己犠牲を受け入れることが彼の考え方だからだ。
それは、ホムンクルスであるからこその行為。

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「で、何の話だったか……。そうか、拙者はオラトの包囲網を突破した後、グラントに向かった。
        そこからの話は聞いていると思うが」

( ^ω^) 「腕の傷はどこでやられたんだお……?」

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「これか、これはグラント王城で裏切り者を追い詰めた時にやられた」


体の動きに合わせて袖が揺れる。
腕を生えさせることは錬金術では難しい。
それは本人もよくわかっていることであった。

だからこそ、ハートクラフトは軽く受け流す。
二人がいらぬ悲観しないように。

88 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/08(日) 11:38:19 ID:fq.xzspY0

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「首を刎ねた血が腕にかかってな、どうやら錬金術が仕組まれていたようだ」

(; ^ω^) 「生きた人間の血に……」

そんなことをすれば、普通は生きていけない。
人間の体ほど繊細で複雑な存在など、他に類を見ないほどである。
治療を行う錬金術師の少なさからも、それは明白。

身体中に廻る血液に毒物を仕込むには、人体禁術の深い知識が必要となる。
それを行えるということは、セント領主家が十分に禁術の知識を有していることの証明ともいえた。

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「何が起きるかわからなかったが、どうにも嫌な予感がしてな。
        痺れるような痛みもあって、すぐに腕を切り落としたわけだ」

(;゚ー゚) 「お師匠様……」

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「賭けだったが、なんとか生き残れた。
        さて、戻ってきてそうそうだが、セント領主家はこのまま放っておくには危険すぎる。
        可能な限り早く制圧しなければならない」

89 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/08(日) 11:40:42 ID:fq.xzspY0

(*゚ー゚) 「では、明日からセント領主家に攻め入りますか?」

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「無論、そのつもりだが、ブーンはどう思う?」

この場において最も錬金術に詳しいのはブーンで間違いはなく、
ハートクラフトは意見を仰いだ。

( ^ω^) 「錬金術のレベルは間違いなく危険水準まで来てるお。
       泥形みたいな生物を生み出して戦争に運用し始めてるお?
       次は何が起こるかもう予想できないお……」

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「今後どんな錬金生物が襲ってくるかわからないってことか」

( ^ω^) 「だけど……何も知らずに戦ってる普通の人を殺すのは、やめてほしいお」

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「そんな生温い戦が出来る段階ではない。わかっていると思うが?」

( -ω-) 「……。……僕は、僕のやり方を貫くお」

それがブーンにできる最大限の譲歩であった。

90 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/08(日) 11:43:27 ID:fq.xzspY0

人を殺すな。

どれだけの無茶を言っているのか、ブーン自身もよく理解していた。
ただそれでも、押し通さなければならない信念があった。

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「邪魔するのであれば、たとえ人間であろうとも容赦はしない」

奇しくも、ショボンが告げた言葉と重なる。
ブーンは何も答えず、ただ視線を逸らした。

(*゚ー゚) 「では、お師匠様」

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「ああ、明日からセント領主家に侵攻する。
        拙者はこれから傭兵団の皆と話をするが、二人はどうする?」

(*゚ー゚) 「私はついていきます!」

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「部屋の中は好きに使ってくれ。先に寝ててもらっても構わない」

( ^ω^) 「僕は夜風に当たってくるお」

91 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/08(日) 11:44:24 ID:fq.xzspY0

そう言い残して、先にブーンは出ていく。
ハートクラフトはしぃと二人、傭兵団に説明するために彼らの野営地に赴いた。



・  ・  ・  ・  ・  ・



緑の平原を静かな風が吹き抜ける。
集まった男達は各々に分かれて並び、それぞれが三種の装備で身を固めていた。


〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「準備はいいか!!」

92 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/08(日) 11:46:07 ID:fq.xzspY0


平原に響き渡った大男の声。
片腕を失ってもなお、その覇気に一切陰りは見えない。
それに応えるのはその場にいた全ての兵。
戦う理由はそれぞれにあることを承知の上で、肩を並べ戦うことを決意した男達。



         「「「「我らが国のために!!!」」」」


大事なものを命を賭して守ると決めた覚悟。
彼らは自らの国を滅ぼさんとする敵に立ち向かう。
例え敵が異形であろうとも、命が危険にさらされようとも、彼らが退くことはない。
退くことは即ち、愛する者達を失うことに等しいからだ。

それは、最も数が多いクナド、オラトの兵士達。
どちらも黒を基調とした、軽量装備。
体を動かしやすいように関節部は保護されていない。

薄い金属で製作された鎧は、錬金術による強化を受けている。
そのため、並みの装備より強度が高く軽い。
彼らは誇りである両家の旗をイメージした外套で全身を覆っていた。
クナド領主家は横一列、オラト領主家は縦一列の白線が、
マントを羽織った真っ黒な背中で存在感を示している。

93 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/08(日) 11:50:30 ID:fq.xzspY0



          「「「「秩序のために!!!」」」」


平和の担い手として、身を捧げた意志。
彼らは世界の秩序を乱そうする敵に立ち向かう。
例え敵が異形であろうとも、命が危険にさらされようとも、彼らが退くことはない。
退くことは即ち、正義の名のもとに戦う資格を失うことに等しいからだ。

それは全く同じ防具、全く同じ武具の騎士達。
白で統一された、重量装備。
堅牢で重厚な鎧に身を固めながらも、敏捷に動けるだけの鍛錬をしていた。

その立居住まいは、対する者に威圧感を、見守る者に安心感を与える。
我らこそが平和の担い手であると、正しきを振りかざす集団。
騎士協会という大組織から、今回の件を解決するために派遣されてきた八百余人の騎士。
戦うからには負けることが許されない、正義の象徴たる民衆の味方。
武器はどちらも白の長剣と長槍。護るために受けた傷だらけ盾を構えて彼らは並び立つ。

94 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/08(日) 11:52:27 ID:fq.xzspY0



          「「「「我らが団長ために!!!」」」」


戦わなければ生き残れなかった人生。
彼らは金を得るために雇われて立ち向かう。
例え敵が異形であろうとも、命が危険にさらされようとも、彼らが退くことはない。
退くことは即ち、生きる術を失うことに等しいからだ。

それは各々が扱いやすい戦装束に身を固めた傭兵達。
剣、槍、斧、刀、並ぶ武器だけでも数十種類以上。
身寄りもなく、一人きりで戦ってきた男達がやっと手に入れた仲間と共に武器を取る。

生れた村を失った男がいた。愛する人を奪われた男がいた。
親に捨てられた男がいた。彼らは最初、誰しもが一人だった。
傭兵として戦い、数多の戦場を生き抜いているうちに既知となった彼らは、やがて一人のリーダーの下に集まる。
互いに刃を交え、命を奪い合ったことを忘れ、一人の男に惹かれた者達。
彼らは傭兵団を死に場所とし、誇れる仲間と肩を並べて戦う。

95 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/08(日) 11:54:08 ID:fq.xzspY0


〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「セント領主家は、錬金術を悪用し、多くの人間を苦しめた。
        これ以上の犠牲が出る前に、止めなければならない。
        そのために、力を貸してほしい。
        行くぞ! ついて来い! 可能な限り早く、セント領主家を制圧する!」

ハートクラフトの檄に、集まった男達が武器を高く掲げて応えた。
平原を揺らすような大音量の雄叫び。そして始まる大軍の行進。
セント領主家制圧戦争の火蓋が切って落とされた。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇

96 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/08(日) 11:55:17 ID:fq.xzspY0

( ^ω^) 「戦いは厳しかったお。
       強化兵士達は相変わらず強力だったし、大軍錬金術と思しきものが振り撒かれたし……。
       それでも、何とかセントショルジアト城にまで追い詰めたお」

それまでずっと話していたブーンはその言葉を最後に、深く嘆息した。
ただ単に長話で疲れたのか、それとも話すことを躊躇したのか判別がつかない。
俯き沈黙する様子は、結末すらも暗示しているかのようで先を急かさずにはいられなかった。
その隣でしぃは相変わらず無言のまま、時たま思い出したかのように紅茶を口に運ぶ。

(´・ω・`) 「追い詰めた、か……」

( ^ω^) 「……戦争は終わったと、ショボンは聞いてるおね?」

(´・ω・`) 「ああ、何人かにしか聞いてないけれど、
       今は立ち入り禁止区域になってて騎士が街道を封鎖してた」

( ^ω^) 「ここに来るときはどうやって来たお?」

(´・ω・`) 「セント領主家の外側を回るように、領地内も少しは通ったけど、概ね扇状に遠回りして来たよ」

97 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/08(日) 11:56:06 ID:fq.xzspY0

( ^ω^) 「それなら、あれは見てないおね」

ブーンは立ち上がり、一つの小瓶を取り出す。
しっかりと蓋をされた瓶の中には、白く蠢く柔らかそうなものが入っていた。
机の上に置かれた瓶が、時たま揺れるのはそのせいだ。

( ^ω^) 「なんだとおもうお?」

(´-ω・`) 「錬金生物……いや、植物の方が近いか?」

見た目は肉々しいが、その動きに意志があるとは思えない。
ただ見えない壁にぶつかる動作を延々と繰り返している。
なにより、不定形のそれは生物であればどんなに小さくとも最低限必要な器官が、
存在していないようにも見える。

( ^ω^) 「僕らは≪白壁≫と呼んでるお。
       これがセントショルジアト城を囲んでいて、
       僕らは近づくことすらできなくなったのが今から十数年前。
       制圧戦争が始まってすぐのことだったお」

98 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/08(日) 11:56:57 ID:fq.xzspY0

あの立地でどうやって戦っているのかと思えば、壁を作って世界と隔離させただけか。
それが当時セント領主がとれる最善手だったのだろう。
ただ、十年近くも攻め落とせないとなれば、それはただの一時凌ぎではなかったということ。

(;´・ω・`) 「見た目以上に難解な問題点があるってことか」

斬ってもきれないか、斬っても再生するのどちらかだろうが。
僕の予想は、良くないほうに裏切られた。

( ^ω^) 「白壁は、人間を取り込むんだお」

(;´・ω・`) 「え?」

( ^ω^) 「見ててくれお」

ブーンは小瓶のふたを開け、小さな干し肉の欠片を放り込んだ。
白いぶよぶよは瞬時に肉に飛びかかり、その全体を体で覆ってしまう。
ものの数秒で、干し肉は存在を消滅させられ、白い塊は一回り大きく成長した。

99 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/08(日) 11:57:53 ID:fq.xzspY0

(;´・ω・`) 「これは……」

(; ^ω^) 「金属や鉱石以外は何でも取り込むんだお……」

ブーンの話によると人間がものを食べて消化するようなプロセスが行われているらしい。
取り込んだものは白壁そのものになってしまう、と。

( ^ω^) 「僕らホムンクルスですら存在を保てるかどうかわからないお」

(´・ω・`) 「それで十数年もの休戦状態ってことね。
       なら、ハートクラフトは一体……?」

( -ω-) 「ハートクラフトは……制圧戦争の最後、白い壁が出来て数年経った頃、
       姿をくらませたお。僕らの間じゃあ、白壁に飲み込まれたんじゃないかって」

長いこと口を閉ざしていたしぃがそれを否定する。

(*゚ー゚) 「師匠ならそんなことは有りえません。何か理由があって隠れているだけなのかと」

100 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/08(日) 11:58:53 ID:fq.xzspY0

(´・ω・`) 「だけど、あれから二十年。僕らと別れた時だって若くはなかった」

寿命という人間の期限で考えれば、贔屓目に見ても長くはない。

(*゚ー゚) 「師匠は時々、短絡的に物事を起こすことが有りました。
     鍛冶錬金術にしてもそうです。よく失敗しては笑って済ませていました」

これだお、とブーンが肩を竦ませるのが見える。
それには気づかず、しぃの話は続く。

(*゚ー゚) 「なにせ朱天・荊姫・夢現、この三本を一つも持たずに出ていったのですから……」

それが白壁に挑むことだったかもしれないということは、黙っておいたほうがよさそうだ。
長く続きそうな話を区切るために、質問で口を挟む。

(´・ω・`) 「その後ろに飾ってある三本か」

(*゚ー゚) 「夢現はもはやその力を発揮できませんが……他の二本は使えます」

(´・ω・`) 「夢現が使えない?」

101 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/08(日) 12:00:02 ID:fq.xzspY0

初めてハートクラフトと会ったときに彼が持っていた刀。
その鍛冶錬金術に驚いたことを覚えている。

(*゚ー゚) 「この三本は東国の古い一本の刀から作られました。朱天、荊姫はその刃から、
      夢現はその柄から師匠が創り出しました。
      師匠曰く、元になった刀のおかげでこれ程強力なものが作れた、と」

(´・ω・`) 「だけど、そんな昔の刀に錬金術が施されてるわけがない」

(*゚ー゚) 「ええ。ですから、私も師匠が謙遜していったのだと思っています。
      それでですね、夢現が使えないのは中にある毒素が切れてしまったからです」

(´・ω・`) 「毒素?」

夢現は見えない、存在しない刃で、痛みを与える武器だと彼は言っていた。
鍛冶錬金術の知識が乏しかった僕は、それが相当に難しいことだろうと思いつつも、
その言葉の通りに信じていた。

( ^ω^) 「僕も知って驚いたお。要は発想の転換だお」

102 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/08(日) 12:00:57 ID:fq.xzspY0

どうやらブーンはもうその秘密を知っているらしい。
にやにやしながら話を聞いているのは、僕が驚くことを期待しているのだろうか。

(*゚ー゚) 「三本の刀の秘密は毒にあります。
      夢現には即効性の毒、朱天には持続性の毒、荊姫には遅効性の毒、
      それぞれが仕込まれています」

成程、それなら納得もできる。
存在しない痛みを与える刀など、今になって思えば明らかに錬金術の範疇を超えていた。
よくよく考えれば、会って間もない人間に、自分の秘密を全て明かすわけがない。

(*゚ー゚) 「それで、朱天と荊姫は時間で毒素を生成するのですが、
      夢現だけは師匠が調合した毒を仕込む必要があったのです」

(´・ω・`) 「それで、使えない、か」

( ^ω^) 「どのみち扱いの難しい武器だから、限られた条件でしか使えないお」

103 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/08(日) 12:01:49 ID:fq.xzspY0

若干不機嫌に見えるのは気のせいではない。
僕の反応が薄かったのが気にくわないのだろうか。
こいつの感情表現は本当に人間らしい。

(*゚ー゚) 「そうですね。それはさておき、ショボンさんに聞きたいのは、白壁の突破方法です。
      私たちもいろいろ試してみましたが、どうにもうまくいかず……」

( ^ω^) 「クールに相談したら、ショボンの双剣が効果的かもって言われたんだお。
       だけど……」

ブーンの視線は僕の腰にむいていた。
そこにあるのは、剣の残骸。
刃はほとんど失われ、柄と珠のみが残されている。

(;´・ω・`) 「クルラシアに向かっている途中にある生物に出会った。
       群れで襲ってきたその生物を斬った剣は全部こうなっちゃってね……
       とりあえず使わないようにはしてたんだけど、返り血がついてたのか」

104 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/08(日) 12:04:16 ID:fq.xzspY0

若干不機嫌に見えるのは気のせいではない。
僕の反応が薄かったのが気にくわないのだろうか。
こいつの感情表現は本当に人間らしい。

(*゚ー゚) 「そうですね。それはさておき、ショボンさんに聞きたいのは、白壁の突破方法です。
      私たちもいろいろ試してみましたが、どうにもうまくいかず……」

( ^ω^) 「クールに相談したら、ショボンの双剣が効果的かもって言われたんだお。
       だけど……」

ブーンの視線は僕の腰にむいていた。
そこにあるのは、剣の残骸。
刃はほとんど失われ、柄と珠のみが残されている。

(;´・ω・`) 「クルラシアに向かっている途中にある生物に出会った。
       群れで襲ってきたその生物を斬った剣は全部こうなっちゃってね……
       とりあえず使わないようにはしてたんだけど、返り血がついてたのか」

105 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/08(日) 12:07:03 ID:fq.xzspY0

( ^ω^) 「それはセント領主家の実験生物だと思うお。
       傭兵団の人達が周りの国境でも見つけては排除してるけど、なかなか減らないんだお」

(*゚ー゚) 「セント領内の生態系は錬金術の濫用により崩壊してしまっています。
      動植物はほとんどの種類が少なからず影響を受け、人が暮らすのも難しい区域があると……」

(´・ω・`) 「双剣が役に立つかどうかもクールの憶測だよな。とりあえず、白壁とやらを見に行きたい」

( ^ω^) 「それじゃあ、明日準備して向かうお」



・  ・  ・  ・  ・  ・



(;´・ω・`) 「これか……」

目の間に立ちはだかるのは、白い壁。
梯子でも立て掛けないと越えられない高さがありながら、
表面が風で波打つほどにはやわらかいようだ。

106 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/08(日) 12:09:59 ID:fq.xzspY0

( ^ω^) 「壊せるかお?」

これ以上近づくな、とブーンの静止がかかる。
手を伸ばしてもギリギリ届かないくらいの距離。
あまり近くに寄ると、壁の一部が触手のように伸びて人を捕まえるらしい。
試しに投げてみた干し肉の塊は、飲み込まれて消えていった。

(´・ω・`) 「こんなでかい物をどうやって作ったのか……」

小瓶に入っていた一部分を思い出す。
帰巣本能のようなものがあるのかは疑わしいが、切り離しても再び一部になるという。
切り取っては金属の箱に閉じ込めていても、壁の質量はほとんど減らない。

( ^ω^) 「ショボンでも思いつかないかお?」

(´・ω・`) 「正直に言うと、クールの双剣ならもしかしたらとは思う。
       それ以外の解決策は……ありったけの火薬で吹き飛ばしてみるか」

(; ^ω^) 「や、やめろお。そんなことすれば飛び散った破片が何しでかすかわかったもんじゃねーお」

107 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/08(日) 12:10:49 ID:fq.xzspY0

白壁の存在自体に対する無知が大胆な行動を抑制し、
研究されないような自己再生を有している。
敵ながら見事な錬金術だ。

(´・ω・`) 「一回やってみれば意外とうまくいくかもしれないよ?」

(; ^ω^) 「せめて錬金術の分解用や溶解用の薬品をかける事から始めてくれお」

(´・ω・`) 「でも、すぐにできるようなものはやってるだろ?」

二十年もブーンが手をこまねいていたとは思わない。
出来ることはあらかた試してしまっているだろう。

(´-ω-`) 「うーん……」

観察していると、白壁の絶妙な特性が分かってくる。
石を投げてぶつけると、大きくへこむことで衝撃を逃す。
厚さはどのくらいあるのかわからないが、鋭い武器なら貫通することもできるだろう。

109 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/08(日) 12:12:10 ID:fq.xzspY0

液体に近い物体に再生できないほどのダメージを与えるのは難しく、
仮に壁を貫通させるなら、人が通れるだけの幅と高さがある金属の筒を通すのがいい。
だが、そんなものを作るだけの技術力はない。

ならば、白壁を存在させている核を破壊するか。
城壁のような白壁には、必ず本体があるはずだ。
でなければ、再生することも本体を維持していることにも説明ができない。

問題は、その核がどこにあるか。
壁の中に埋め込んである可能性は低い。
柔らかい壁の中に埋め込む危険性は敵も理解しているはずだ。 

( ^ω^) 「壁の裏側は、たぶん何もないお」

(´・ω・`) 「調べたのか?」

伊達に長生きしているわけではなく、ブーンはとっくに同じ結論にたどりつき、
多くの手段を試してみたことだろう。

110 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/08(日) 12:13:22 ID:fq.xzspY0

( ^ω^) 「高さのある移動式の建物で向こう側を覗いてみたお」

(´・ω・`) 「そのまま向こう側に橋を渡すことはできないのか?」

( ^ω^) 「当然、邪魔が入るお。監視してるやつがいるんだお」

(´・ω・`) 「それなら、地下か」

( ^ω^) 「やっぱそう思うお?」

核が存在するとすれば、白壁の下、その足元に埋まっているとするのが妥当だろう。
後は壊す方法だけだ。

(´・ω・`) 「……やっぱりここら一帯吹き飛ばす?」

(#^ω^) 「その発想やめろお!」

とはいえ、それしか方法が見つからないのも事実。
稀代の錬金術師が二人もいながら、解決策が見つからないとは全く。
衰えないはずのホムンクルスだけど、長く眠っていたせいで少々鈍ったかな。

111 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/08(日) 12:14:14 ID:fq.xzspY0


「非凡な錬金術師が二人もいて、手も足も出ないとはな」


(;´・ω・`)(; ^ω^)「!?」


川 ゚ -゚) 「久しぶりだな、ショボン」

艶やかな黒髪は肩にかかり、その声はよく響く。
動きやすそうな服装は汚れているが、当人は気にしていないだろう。

(´・ω・`) 「クール! メッセージだけ残してどこに行ってたんだ?」

川 ゚ -゚) 「何、ちょっと所用でな。その剣……やっぱりな」

(;´・ω・`) 「借り物なのに悪かった」

川 ゚ -゚) 「いや、長く海に沈んでいれば、錬金術が失われてしまっていると予想していた。
      思ったとおりだったよ」

112 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/08(日) 12:15:12 ID:fq.xzspY0

(´・ω・`) 「そのために出ていたのか?」

姿かたちが変わらないホムンクルスは、それ故に国を長く治めることができない。
クールは後の者に政を任せ国を離れたのは知っていたが、その理由まではわからなかった。

川 ゚ -゚) 「ああ、ブーンから手紙をもらった時に、な。
      まぁ、結局十年以上かかってしまったが……」

( ^ω^) 「どこに行ってたんだお?」

川 ゚ -゚) 「向こうではゲメーロス洞窟と呼ばれている場所。クルラシアから遥か西側に向かった先にある。
       いろいろあって時間がかかってしまったが、数年前に領内に戻ってきた」

(;´・ω・`) 「え!?」

それなら、僕はわざわざ代表者達に話を聞く必要がなかったのではないか。
それでは彼らも報われなかろうが、その目的のためにだけ生きているわけでもなかろう。

113 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/08(日) 12:16:05 ID:fq.xzspY0

川 ゚ -゚) 「伝言を頼んでいたことをすっかり忘れていてな、ショボンが戻って来た時のために準備をしていたんだ。
       数年間かけてやっと創り出した」

クールが背負っていた荷物の中から、大きな金属製の箱が出される。
渡された箱の中には液体がたっぷり入っているようで、ずいぶんと重たい。

川 ゚ -゚) 「剣を渡してくれ」

(´・ω・`) 「はい」

腰から取り外し、クールに渡す。
彼女はその鍔に当たる部分から、二つの珠を取り外した。
その瞬間、音もなく残っていた柄と鍔は小さな粒となって風に流れていく。

(; ^ω^) 「どういうことだお?」

川 ゚ -゚) 「古代錬金術、二人とも知っているだろう?」

(´・ω・`) 「ああ……」

( ^ω^) 「聞いたことあるくらいだお。たしか、現代の技術では作れない錬金術の産物だお?」

114 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/08(日) 12:17:58 ID:fq.xzspY0

古代錬金術に関する情報は少なく、実際に目にするのはこれが二回目になる。
最初の一回は記憶として与えられたものであり、僕自身の経験ではない。
古代錬金術に触れるのは、これが人生で初めてだ。

川 ゚ -゚) 「これらの珠はゲメーロス洞窟に封印されていたと聞いていた。
      もう片方は私が訪れた時にはなくてね、その場所を探すのにこれだけの年数がかかったんだ」

刀についていた二つの珠はいずれも半球であり、
二つをくっつけると痕も残さず完全にくっついた。

(´・ω・`)( ^ω^) 「!」

燃える様な真っ赤な珠。
もう一つは、クールが荷物の中から取り出した冷たい真っ青な珠。

二つの珠は、お互いの存在を確かめるように何度も何度も明滅する。
一際強く輝いた後、それ以上光ることはなかった。
代わりに、珠のから溢れたかのような二つの光が空に浮かぶ。
珠の色を写し取ったかのような赤と青。

115 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/08(日) 12:19:02 ID:fq.xzspY0

それは暫くして、一つの形を作った。
赤子よりも小さく、人型なのに耳がついている。
おまけに宙に浮いていると来れば、古代錬金術は何でもありか。

赤いほうが叫びながら青いほうに飛びついた。

( ;_ゝ;) 「おおおおおお、会いたかったぞオトジャっ!
       変な女に捕まるわ、話しかけても無視されるわ、海に落とされて長いこと沈められるわ。
       その果て体の一部は溶かされるわ」

(´<_` ) 「時にアニジャ、落ち着け。俺がいない間に起きたことを全部説明してくれたようだが、彼らが困っている」

(#´_ゝ`) 「ん? 出たな、妖怪不死身おっぱい! お前のせいでさんざ……ぶげぇ」

(;´・ω・`) (殴った……)

(; ^ω^) (殴ったお……)

116 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/08(日) 12:20:00 ID:fq.xzspY0

苛立ちを隠さないクールは珍しい。
普段は何が起きようと我関せずの仏頂面で通すからだ。

( ;_ゝ;) 「オトジャあああああ……」

(´<_` ) 「アニジャが悪い。失礼、我々は何が起きているの十分に理解していない。
       説明してもらっても?」

どうやら二体の生き物は兄弟関係にあるらしい。
一番状況に詳しいブーンが二体に説明し、その間僕とクールは黙って聞いていた。

(´<_` ) 「して、アニジャ。我らの約束はよもや忘れてはいまいな?」

( ´_ゝ`) 「ん? 約束?」

(´<_` ) 「」

弟側があきれた表情を浮かべる。
残念なことだが、僕には彼の気持ちがよく分かった。

( ^ω^) 「?」

117 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2015/02/08(日) 12:20:40 ID:fq.xzspY0

失礼、中途ながら所用で外出いたす……

125 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2015/02/08(日) 22:21:56 ID:fq.xzspY0

再開致す

126 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/08(日) 22:22:46 ID:fq.xzspY0

元凶である男は素知らぬふり。いや、もしかしたら、本当に全く気付いてないのかもしれない。

(´<_` ) 「まぁいいさ。それで御三方、どうやら我々兄弟の力が必要らしいな」

(メ)´_ゝ`) 「力を貸してやらんこともない、そのおっぱぐぇふ」

今度は言い切る前に殴ったクール。
どうやら兄側には真面目な雰囲気というものが伝わらないらしい。

(;´・ω・`) 「そもそもあなた方はいったい何者なのですか?」

錬金術で様々な現象を引き起こしてきた僕ですら、全く知らない存在。
人ではなく、物語に出てくる精霊や妖精(認めたくはないが)に近いように思える。


(´<_` ) 「すべてを説明することはできないが、アニジャと引き合わせてくれた礼程度には語ろうか」

( ´_ゝ`) 「俺らはサスガ兄弟。俺が兄のアントニーノ・ジュエロウ・サスガ。アニジャと昔から呼ばれている」

(´<_` ) 「俺が弟のオットリーノ・ジュエロウ・サスガ。オトジャと呼んでくれたら構わない」

川 ゚ -゚) 「その姿は何だ?」

127 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/08(日) 22:23:53 ID:fq.xzspY0

(´<_` ) 「我々は古代錬金術の番人がうちの一つ。そのために魂の結晶化を受けた身だ。
        我々が護るのは ≪濫觴の双珠≫ 万物の根源となる二つで一つの珠」

古代錬金術の力というものは人智を超えている。
確かに悪用すれば一国一城の主程度なら労せずしてなれるだろう。
だが番人がいるなどという話は、全く聞いたことがない。
それはブーンとクールも同じのようだ。

(´<_` ) 「今の話、疑うべきことはないと判断した。
       クール、この壁を突破するべく我々の力を必要とするのだな」

川 ゚ -゚) 「ああ」

(´<_` ) 「では、その力を貸し与えよう。
       以前アニジャを用いていたようだが、あくまでも我々は力単体でしかなく、
       使う者の技量には関与しないことを忘れるなよ。奪われぬよう心して使え」

( ´_ゝ`) 「成形銀と素材が必要になるぞ」

川 ゚ -゚) 「銀も素材も出来うる限り用意してきた。だけど万全を期したい」

128 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/08(日) 22:24:35 ID:fq.xzspY0

( ^ω^) 「なら、クナドにある研究室を使うといいお」

結局、アニジャとオトジャの存在は教えてもらえなかった。
魂の結晶化という言葉の意味は欠片も理解できない。

(´・ω・`) (まぁいいさ。力を貸してくれるというのだから、ありがたく受取ろう。
       白壁の突破方法に困っていた僕らには渡りに船なのだし……)

僕らはいったんクナド領主国に引き返すことにした。
壁を破れたのなら、攻め落とすだけの戦力も必要になるし、
取り敢えず様子を見来ただけであって準備も足りていない。

セントショルジアト城が一体どうなっているのか。
それは突破してみてからじゃないとわからない。
出来るる限りの対策を立てておこう。
決して二の轍を踏まないように。



・  ・  ・  ・  ・  ・

129 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/08(日) 22:25:33 ID:fq.xzspY0


アニジャとオトジャによって完成された斧槍は両手で振り回すのがやっとなほど重く、
人の身の丈ほどもあり、全体が深い緑色に発光している。
先端には二枚の扇状の斧刃が有り、それぞれ赤と青の双珠が輝く。

( ´_ゝ`) 「あの程度の白壁なら一撃だな」

(´<_` ) 「アニジャ、白壁は再生するから核を狙わなければならない。
       壊せたとしてもすぐに再生するぞ」

(´・ω・`) 「それについては考えがある。
       破片の再生速度や再生箇所から本体の大体の場所が予測できるはずだから」

川 ゚ -゚) 「そういう細かいのはショボンに任せるとして、私たちは編成と作戦でも考えるとしよう」

( ´_ゝ`) 「手伝おうか?」

川 ゚ -゚) 「結構」


( ´_ゝ`) 「」

130 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/08(日) 22:26:25 ID:fq.xzspY0

(; ^ω^) 「容赦ねーお……」

クールの恐ろしさを一番よく知っているブーンですらぼやくほどの一撃必殺。
慣れていないアニジャには随分ダメージが大きいようだ。

(´<_` ) 「我々は後方待機しておくさ。下手に混乱を招いてもよくないしな」

川 ゚ -゚) 「助かるよ」

( ^ω^) 「んじゃ、こっちで相談でもするかお」

二人が席をはずし、僕は精霊もどきと地図を見て白壁の核を探すことにした。
夜は更けていき、丁度核の予測が経った時に二人が戻って来た。
机に広げられた地図に書き込まれているのはいくつかの侵攻ルート。
各陣形と指揮する軍隊が事細かに書き込まれている。
罠や敵の出現の予測、その対処方法までかなり細かに想定されていた。

ブーンは普段本気を出さないが、こういう時には頼りになる。
データの分析や行動予測が得意だからな。

準備は整った。
後は陽が昇るのを待つだけだ。

131 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2015/02/08(日) 22:27:35 ID:fq.xzspY0













20 ホムンクルスと不在の代償  End


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