(´・ω・`) ホムンクルスは生きるようです
14 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2015/02/07(土) 21:17:38 ID:awgqSPE20












19 ホムンクルスと戦禍の傷跡

15 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/07(土) 21:20:31 ID:awgqSPE20

復興されつつある港町は、未だ瓦礫が残されている。
戦火の傷跡は凄まじく、いかに苛烈な戦いが行われたか容易に想像できた。

(´・ω・`) (単身乗り込むよりは、クルラシアに向かったほうがいいな)

港町からは元セント領主家とクルラシア自治区に道が続いている。
多少の準備はしてきたが、限られた素材と道具でできる範囲でしかない。
元セント領内への道は、武器を掲げた騎士たちによって封鎖されていた。

背の高い色黒の男と、槌という珍しい武器を持った太った男。
胸の紋章は騎士教会に属する証だ。

(´・ω・`) 「セント領主家には行けないのか?」

「何も知らないのか? セント領主家はもう滅びた」

「領内は今は荒れていて、疫病が流行っているという。近寄らないほうがいい」

二人の騎士は丁寧に教えてくれる。
僕が錬金術師だと知っていれば、これほど優しくはしてくれない。

16 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/07(土) 21:21:35 ID:awgqSPE20

(´・ω・`) 「セント領内に親類がいたのだが」

「そうか……。残念なことだが、君の親類は無事かどうかわからない。
 東側に住んでいたのであれば、クナド領主家かオラト領主家に、
 西側に住んでいたのであれば、クルラシア自治区に逃げ延びているかもしれないが……」

::(´ ω `):: 「そんな……」

出来るだけ悲痛な表情を浮かべるように努める。
多くの騎士は立場の弱い者に対した時、普段よりまして自ら騎士であろうとする。
目の前の二人も例外ではなかった。

「諦めるなよ、青年。今回の戦で周辺の国は無駄な被害を出さないように努めていた。
 親戚とやらが兵士でない限りは、きっと見つかるだろう」

(´・ω・`) 「ありがとう……取り敢えず、クルラシアに向かってみることにするよ」

17 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2015/02/07(土) 21:22:41 ID:awgqSPE20

「礼はいいさ。俺達は仕事をしているだけだからな」

(´・ω・`) 「それじゃ」

「ああ、気を付けてな」

「馬を買うお金があるなら、そうしたほうがいいぜ。
 なにせ戦争の後は、変な生き物がうろついてやがるからな」

変な生き物、か。
足を止めて振り向き問うと、わからない、という答えが返ってきた。
二人はここしばらくの間ずっと港町で見張りをしているらしく、
そういった情報は旅人から噂で聞く程度なのだと。

(´・ω・`) (馬を買う金はないよなぁ……)

島国の老人が用意してくれたのは、錬金術の素材とほんの少しの銀貨だけ。
見ず知らずの僕にくれただけでもありがたい話だが、数日の食費程度にしかならない。

船の中で見せてもらった地図からすると、クルラシア東端の村まで徒歩で五日。
以前クールやブーンと出会った都市までは、そこからさらに一週間以上かかるとみていた。

18 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2015/02/07(土) 21:25:08 ID:awgqSPE20

急ぐに越したことはないが、馬がないのだから仕方ない。
運が良ければ、途中で荷馬車に拾ってもらえるだろう。

(´・ω・`) (何か食べてから出発しよう)

船の中で出される食事は、干し肉や木の実など毎日同じ食材ばかりで飽きていたところだ。
どうせ海の上にいるのなら魚でも釣ってくれればよかったのだが、
旅客船には旅客船の決まり事があるらしい。

港町にはよくある、くたびれた酒場。
なんとはなしに惹かれるものがあり、中を覗くと多くの人でにぎわっていた。
酒を掲げている客には船で見た顔もいくつか見つけ、向こうもこちらに気付く。

一言二言挨拶を交わし、開いている席に座った。
忙しそうに走り回っている給仕の女性が、注文を取りに近づいて来る。
メニュー表は魚料理ばかりで、そのどれも魅力的なものだった。

「オーダーは決まったかい?」

(´・ω・`) 「塩焼き魚とミルクを」

「はいよ」

19 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/07(土) 21:26:33 ID:awgqSPE20

持っている資金の額を思い出し、一番安いものを注文する。
ここで全部使い切ってしまっては、後で困ろうというものだ。
それに、周りのテーブルに並ぶ料理を見ても、標準よりかなり量があるとみて間違いない。
港で働く男達が、仕事上がりに寄っていくからだろうか。

荒々しい勢いで机の上に大皿が置かれた。
愛想を配る余裕もないのか、すぐに女性は次の料理を運びに戻っていく。

(´・ω・`) 「大きいな……」

焼き魚の皮は焦げていないのに、中身はしっかりと火が通っており、
さくさくとふわふわの二つの食感が楽しめた。
少し辛いくらいの塩味は、疲れた体に活を与えてくれる。
肉厚で量も十分あり、腹は満たされた。

食後のミルクをゆっくり飲みながら、辺りを見回す。
逞しい男達が大樽からそれぞれのタンカードに並々と酒を注いでいる。
溢れんばかりのビールを一息で飲み切っていく。
毎日を海で仕事をする男たちは皆、豪快で酒に強い。

20 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/07(土) 21:27:15 ID:awgqSPE20

真っ赤になりながら歌う男がいれば、ほぼ全裸に近い恰好で踊っている者もいた。
明るく自由な空気は、戦争があったことすら思い起こさせない。

(´・ω・`) (これが彼らのやり方なのかもしれないな。
       悲しみをずっと抱えるのではなく、みんなで共有し、薄めててしまおうとすることが)

いつまでも油を売っているわけにもいかない。
なけなしの銀貨を支払い、店を出ようとすると、後ろから声がかけられた。

「旅の人かい? お兄さん」

(´・ω・`) 「ああ、そうだけど」

「へへっ、ちょいと勝負していこうや」

男が取り出したのは六面ダイス。
一から六までの点が書いてある一般的なもの。

体格や筋肉の質から漁師ではないと一目でわかった。
つまらない勝負で時間もお金も無駄にするつもりはなく、片手をあげて断る。

21 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2015/02/07(土) 21:29:01 ID:awgqSPE20

そっけない態度がおもしろくなかったのか、扉に手をかけた腕を捕まれた。
周りを囲むように数人が集まってくる。
賭博仲間だろうか、薄ら笑いは餌を見つけたといわんばかりだ。

(´・ω・`) 「すまないな、急ぐんだ」

「少しだけだ、いいじゃねぇか」

(´・ω・`) 「賭けるだけの金もない」

「腰にいいもの結んでんだろうが、あぁ?」

成程、この剣が目的か。
見た目程度の価値しかわからない奴に狙われるというのも腹が立つが仕方ない。
どうせ錬金術のことなど欠片も興味もないくせに、見る目だけはある。

脅せばいうことを聞くとでも思っているのだろうか。
次第に声が大きく、乱暴になってくる。
周りの男たちは囃し立てるだけで助けようとはしてくれない。

22 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2015/02/07(土) 21:32:00 ID:awgqSPE20

(´・ω・`) (斬るか……?)

面倒な相手故に、短絡的な発想をしてしまう。
刃傷沙汰になればさすがに困るし、どうやって逃げ出そうか考えていたところ、
横やりが挟まれた。

( ^ν^) 「待て待て、嫌がっている人間を無理に誘うなよ」

脅すくらいはしてやろうかと思い剣の柄に手をかけた時、遅すぎるぐらいの静止がかけられた。

( ^ν^) 「お前も、争い事は面倒だろう?
        俺が代わりに勝負してやるよ」

全身に泥や雑草をつけたまま一人座っていた男。
机の上のグラスから見るに相当な量の酒を飲んでいたようだが、酔っているようにはない。
視線でこちらに合図をしてくるほどには、冷静なようだ。

(´・ω・`) (剣を抜くなってことか……)

「あぁ? 関係ない奴は黙ってろや」

23 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2015/02/07(土) 21:33:00 ID:awgqSPE20

( ^ν^) 「俺が負けたらこいつの剣をやろう」

(;´・ω・`) 「は!?」

唐突のことに思わず声が出てしまう。
自分で賭けるならともかく、見ず知らずの他人の種銭にされてたまるものか。
抗議の声は、片手で遮られた。

( ^ν^) 「ま、黙って見てな」

「いいね、あんた。
 勝負の方法は五つのダイスを振って、
 揃った目の種類で勝負する」

( ^ν^) 「ルールは?」

「基本ルールだ」

( ^ν^) 「ふぅん・・・・・・いいよそれで。それじゃあ始めようか。
        悪いが仕掛けがあるかもしれない。俺は俺のダイスを使わせてもらうぜ?」

24 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2015/02/07(土) 21:34:12 ID:awgqSPE20

「確認はさせてもらうぞ」

( ^ν^) 「どーぞ」

止めに入る間もなく、短いやり取りののち勝負が始まった。
昔からあるダイス転がしのゲームだ。
ルール自体は僕ですら知っているが、やってみたことはない。

相手の集団は男が取り出したダイスを念入りに調べている。
どうやら怪しいところは見つけられなかったらしく、お互いが交互にダイスを振るゲームが始まった。

「はっ、いきなり調子がいいな。トリプルだ」

( ^ν^) 「ほーなかなか運がいいんだな」

「さっさと投げろ」

( ^ν^) 「んじゃ、お言葉に甘えて」

飄々と受け答えし、指先から五つのダイスをテーブルの上に転がした。
からからと軽い音を立て、ダイスは回る。

25 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/07(土) 21:35:51 ID:awgqSPE20

「!!!!」

( ^ν^) 「へっ、俺も運がいいみたいだな」

五つのうち、四つは同じ数字。
アナザーと呼ばれる上級手の一つ。

( ^ν^) 「さて、金貨五倍。基本ルールだろ?」

「……た、たまたまだろうが!」

( ^ν^) 「続けるぞ。早く投げな」

立場は逆転し、割り込んできた男が煽る。
ゲームが一セット終わった時、男たちは着の身着すらほとんど残っていないような状況だった。
逃げ帰っていった後、金貨を抱えた男に声をかける。

(;´・ω・`) 「あなたは……」

呆れた。
ギャンブルに勝ち、手に入れた金貨を見て気持ちの悪い笑みを浮かべているその姿ではなく、
白昼堂々と卑怯な手を使ったその度胸に。

26 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/07(土) 21:36:40 ID:awgqSPE20

( ^ν^) 「おっと、これがあんたの取り分だな」

差し出されたのは全体のおよそ三割くらいだろうか。
人の持ち物を勝手に賭けておいてこれでは、あまりにも少ない。

( ^ν^) 「不満かい?」

(´・ω・`) 「当然だ、半分くらいは欲しいものだね」

( ^ν^) 「あんたが賭けに勝ったわけじゃない。
           困っていたあんたの代わりに勝負した俺の実力のおかげだ。
           そのくらいが妥当だろ?」

代わりに、を強調する。
あくまで自分は人助けだということを。
別にお金が欲しいわけではないが、そのまま相手の言い分を鵜呑みにするのも癪に障る。

(´・ω・`) 「……さて、この世の中には様々な性質をもった物質が存在する。
       例えば透明な骨。例えば、熱伝導率が非常に高い液体」

27 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2015/02/07(土) 21:38:19 ID:awgqSPE20

( ^ν^) 「おっと、これがあんたの取り分だな」

差し出されたのは全体のおよそ三割くらいだろうか。
人の持ち物を勝手に賭けておいてこれでは、あまりにも少ない。

( ^ν^) 「不満かい?」

(´・ω・`) 「当然だ、半分くらいは欲しいものだね」

( ^ν^) 「あんたが賭けに勝ったわけじゃない。
        困っていたあんたの代わりに勝負した俺の実力のおかげだ。
        そのくらいが妥当だろ?」

代わりに、を強調する。
あくまで自分は人助けだということを。
別にお金が欲しいわけではないが、そのまま相手の言い分を鵜呑みにするのも癪に障る。

(´・ω・`) 「……さて、この世の中には様々な性質をもった物質が存在する。
       例えば透明な骨。例えば、熱伝導率が非常に高い液体」

28 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2015/02/07(土) 21:39:26 ID:awgqSPE20

出来るだけ大きな声で、酔った人間にも判別できるようにはっきりと言う。
すぐさま僕の意図に気付き、男は観念したかのように肩を掴んできた。

(; ^ν^) 「っち、そこまでだ。、話は分かった、外で続きだ」

すまし顔が僅かに曇ったのがわかる。
内心で舌を出しながら、後ろについて店を出た。
男は大通りから外れ、狭い道を歩いていく。

案内された先は一軒のぼろ家。
今にも崩れそうなほどあちこちに罅が入っていて、表面に蔓状の植物が張り付いている。
表通りと異なり、この付近にある家々は他もそう変わらない。

( ^ν^) 「あがってくれや、何も出せないがな」

(´・ω・`) 「手短にしてくれよ。さっきのもちょっとした悪戯心だ。
       別にお金の割合は今のまま構わないさ」

( ^ν^) 「はー……あんた錬金術師か?」

(´・ω・`) 「そうだ、そういうあなたも?」

( ^ν^) 「ニュー・サヴァレ。元王国錬金術師、かな」

29 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2015/02/07(土) 21:40:30 ID:awgqSPE20

(´・ω・`) 「元?」

( ^ν^) 「ここよりずっと遠い国で錬金術の研究をしてたがな、
       国に命令されたものだけを創る生活に嫌気がさして逃げ出してきた」

錬金術師は国家の繁栄に重要な役割を果たすため、大国には必ずお抱えの錬金術師がいる。
何人の錬金術師がいるかが国力を測る一種のバロメータにすらなっていた。
彼もまたその一人だったのだろう。

しかし、国家に所属する錬金術師は自由な研究を許されず、
場合によっては危険な研究を強制されることもある。

(´・ω・`) 「そのダイスは?」

( ^ν^) 「国を捨てる前に遊びで作ったものだ。こっちで生活するのに役に立ってるよ」

(´・ω・`) 「なかなか面白い仕組みだと思う。自分で考えたのか?」

( ^ν^) 「そうだが……あんたすごいな。なんで見ただけでさっきみたいなことが分かる?」

(´・ω・`) 「なんとなく、さ」

30 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/07(土) 21:43:57 ID:awgqSPE20

ダイスに仕掛けられていたのは複合錬金術。
特定の目的を果たすための錬金術をいくつか重ねて、一つの錬金術としてバランスをとっている。
複合錬金術はそれぞれの相性もあり、非常に難しい。

( ^ν^) 「大体はあんたの考えてる通りだ。
       ダイスは一面が極端に出やすいようになっている。 
       中には熱伝導率と熱拡散率の高い液体が満たしてあって、その中にはもう一つのダイスがある。
       後は手に少しだけ温度が高くなるような仕掛けをすればおしまいさ」

(´・ω・`) 「手で強く握れば、中の固体が一瞬だけ液体になり、上に来るであろう数字を変えることができる、と」

( ^ν^) 「多少コツはいるが、慣れれば簡単」

(´・ω・`) 「……普通に勝負してるようじゃ勝てないな」

( ^ν^) 「これは餞別だ。代わりに黙っていてくれよ?」

(´・ω・`) 「別にわざわざ話すことじゃないし、実物がなければ誰も信じないさ」

31 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2015/02/07(土) 21:44:50 ID:awgqSPE20

金貨を受け取り、懐に仕舞う。
これで勝ち分の半分くらいはもらった。

(´・ω・`) 「ほどほどにね」

( ^ν^) 「御忠告どーも」

錬金術師として有能なニューとはもう少し話していたくもあったが、
全てが終わってからまた訪ねてきても遅くはない。

家を出て、探すのは馬を売ってくれる相手。
金もある程度は手に入ったし、徒歩でクルラシアまで向かうこともない。
表通りまで戻ってくると、通りすがりの人に馬を売ってくれる人間が郊外にいることを教えてもらった。

港町の西側、低い壁が何重にも連なっている。
その多くは長い年月で崩れており、原形をとどめていない。
崩落した城壁の一部に杭を打ち、馬を繋いでいる。
足元には雑多な商品が拡げてあった。

(´・ω・`) 「馬を一頭買わせてもらいたい」

32 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/07(土) 21:45:53 ID:awgqSPE20

「はい、ついでにこっちの品なんかどうだね? 馬に与えると三日三晩寝ずに走れるよ!」

商人が持ち上げたのは、緑色のいかにも怪し気な粉末。
匂いを嗅ごうとすると、手で遮られた。

「危ないよ! 人間が長いこと嗅いだらトんじゃうからね」

(´・ω・`) 「そんなものを馬に嗅がせて長生きできるものか」

「そんなことはないよ」

熱心な商売人の話を聞いていてはきりがない。
馬一頭分の代金だけ支払い、手綱を預かる。
しつこく別の商品を進めてくるが、はっきりと断った。
錬金術は感じないが、危険な雰囲気をはらんだものばかり。

(´・ω・`) 「さて、行くか」

前足をあげて大きく嘶く。
その大きな背に飛び乗り、鞭を打った。

33 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2015/02/07(土) 21:47:08 ID:awgqSPE20

・  ・  ・  ・  ・  ・



(´-ω-`) 「はぁ……」

足元に拡がる血だまり。
普段はおおよそ凶暴性のない、野兎。ただ、今目の前にいるその姿は普通ではない。
両の耳は千切れ、その血で黒く染まっている。
両前足の小さな爪は鋭く、牙は口が閉じきらないほど大きい。

小動物は穏やかなはずの黄の目を狂気に染めて、涎を垂らし襲い掛かってきた。

二日前に手に入れた安価な剣は、すぐに役立たずになった。

(;´-ω・`) 「嘘だろ、おい。奇怪な生き物ってレベルを超えてる」

港町で忠告を受けた、謎の生物の情報。
嘘だと切り捨てることはなかったが、大したことはないと高をくくっていた。

34 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/07(土) 21:47:56 ID:awgqSPE20

港町を出発してからの馬の調子は良く、風を切るように走っていた。
異変を感じたのは二日目の夜。
休憩している間中ずっと馬が震えていた。
月に照らされた草原には僕らと植物の影しかなく、ただ寒さ故だと油断していた。

虫も寝静まる真夜中、それは突如として現れた。

一言でいうのなら、錬金生物。
ありとあらゆる特徴をその身に宿し、なお生を繋げるちぐはぐな命。
野兎の血液が内包していたのは、強力な酸。

右手の剣はただの鉄塊と化していた。
牙をむき出しにし、一直線に飛びかかってくる。
そこに迎撃されることによる、死、という恐怖はない。

もはや鈍器となったものを右手で振るう。
軽い音がして頭がい骨が砕けた。
眼は飛び出し、脳漿をまき散らしながらも未だ痙攣している。
生き物の枠を簡単にはみ出したそれは、容易に死ぬことすらできない。

35 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/07(土) 21:48:37 ID:awgqSPE20

(;´・ω・`) 「くっそ」

借り物である双剣を使っていいものか、悩んでいた。
鉄くずで殴ったところで、頭に当たらなければ致命傷になりえない。
クールの双剣であれば、錬金術による効果がなくとも、一撃で戦闘不能にまで追い込めるはずだ。

ただ、この凶暴な野兎と反応して、特殊な錬金術が完全に失われてしまっても困る。
通常は錬金術をある素材に定着させるとき、最終段階で表面をコーティングする。
他の錬金術や素材と相互干渉して、重要な根幹が失われてしまわないように。

コーティングは万能ではない。
反応するべき時はするし、逆に平気なものであればものともしない。

剣のような武器の場合、より多くの素材と接するため、強度の高い被覆が行われているとは思うが……。
現に数十年の月日を海中で過ごしたことにより、錬金術はほとんど失われてしまった。
考えながらも片手を動かす。
三つ、新たに動かなくなった。

そもそも、なぜ僕が襲われる。
謀ったかのように群れで現れる錬金野兎。

36 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/07(土) 21:49:19 ID:awgqSPE20

(;´・ω・`) (駆け抜けるか……?)

野兎の目的は僕に固定されていて、少し離れた馬が襲われる様子はない。
野性的な勘が、僕を同種族だと警戒させているのか。
十を超える眼は、視線を外さない。

じりじりと包囲網が狭められていく。
一匹ずつかかってくるようでは相手にならないと、ようやく理解したのか。

(´-ω・`) 「誰か操っているやつでもいるのかい。できれば教えてほしいんだけどね」

話しかけるも、帰ってくるのは無言。
獣と意思疎通などできるはずもないことはわかっている。

そもそも、他者を意のままに操るような高度な錬金術などは存在し得ない。
たった二十数年で生物の器官で最も複雑な脳の構造を解読できるわけがない。

だったら、この状況は何だろうな。

後ろから飛びかかってきた兎を蹴飛ばし、同時に前方からの一匹の頭を横薙ぎで叩き割った。

いくつかの仮説がたてられる。

37 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/07(土) 21:50:27 ID:awgqSPE20

一つ、ただ単純に道行く群れと遭遇しただけ。
この可能性は否定できないが、こんな危険な生物が多数いるのであれば、
警戒レベルはもっと高くなっているはずだ。
一般の人間や馬を襲うのであれば、すぐに餌食になる。

二つ、何者かに操られており、僕を襲うことを目的としている場合。
僕が相手の立場ならまず馬を狙う。
あしを奪っておいてから、本体を狙うのが定石。
ならば、この可能性は低い。

三つ、僕の存在に対して何らかの影響を受けている。
ホムンクルスではあるが、外見上も、中身も、基本構造や性質は人間と全く一緒だ。
ブーンやクールだって、最初から知っていなければ、不死だと気付くのは不可能。

単純な理由を並べ立ててみるが、その答えは自らに否定される。
ならば、逆説的に現状はもっと複雑だということ。

(´・ω・`) (二つかまたは複数の原因が合わさってるな)

円を描くような動きで、野兎を迎撃していく。
拳で、脚で、鉄で。
三重にも四重にも囲んでいた群れは、残すところ数匹となった。

38 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/07(土) 21:51:14 ID:awgqSPE20

一斉に飛びかかられていれば、もっと苦労したかもしれないが、
お互いの動きをフォローする動作は、結局ほとんど見られなかった。
おかげで傷一つ負うことなく対処できたわけだが。

この襲撃は腑に落ちない。
何もかもが不手際すぎる。

(´・ω・`) (……まぁ、時間の無駄か)

緊張した空気の中での二、三時間で体力を随分使ってしまった。
休もうにも見渡しのいい草原で、横になるのは抵抗がある。
襲われてすぐなら尚更だ。

(´・ω・`) 「行くぞ」

指を咥えて笛のような音を出す。
少し離れた所で怯えていた馬は、死体が散らばった円の手前で歩みを止めた。
待っていても仕方ないので、鞍に飛び乗る。
手綱を引けば、最初は綺麗な土の上だけを歩き、徐々に速度を上げていく。
まだ遠く西にあるクルラシア自治領を目指す。

交互に訪れる太陽と月の元を、休憩を挟みながら走り続けた。
あれ以降襲われることもなく、また奇妙な存在も見かけなかった。

39 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/07(土) 21:51:54 ID:awgqSPE20

(´・ω・`) 「そろそろだ、一回速度を落として」

優しく鬣をなでると、小さく応えた。
見えてきたのは、目の前を横切る長大な壁。
高さこそないものの、南北に大きく土地を分断している。

これが、恐らくクルラシア領内の防衛線。
セントショルジアト城に攻め込む前、僕とブーンがクールと別れた場所。
錬金術を用いて建造されたそれは、どこも補修の後だらけで無事なところがない。

火薬の類が使用されたような激しい前線だったことは見ればわかる。
丘陵のあちこちがはげ、削れ、穿たれていた。

(´-ω-`) 「……」

戦禍は想像以上に凄まじく、近くに人の姿は見えない。
セント領主家との戦争を終えていたとしても、当時の最前線であれば、
物見の役などがいてもおかしくないはずだが。

焼け跡となった戦場を探っていても何も見つけられない。

40 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2015/02/07(土) 21:53:04 ID:awgqSPE20

(´・ω・`) 「クールはどこにいるだろうか」

クルラシアの地図は一度見たことが有る程度。
自治区の心臓部は領内でも中心にある。
まずは戦争前にクールと出会った都市に向かってみるべきだろう。
そこで情報を得られるかもしれない。

二十年、姿の変わらないクールがひたすら国を纏め続けているとは考えづらい。
信頼できるものに任せ自分は陰に徹するか、もしかしたらもう国を離れているかもな。

もう一人は……一番付き合いが長いとはいえ、ブーンの考えることはよくわからい。
二十年、正直まだクールの方が僕を心配してくれていると思う。
いつでも連絡が取れるようなものがあればいいんだけどな。

僕らは不老であるがゆえに、ある一定期間でほとんど必ず住処を変える。
錬金術師同士で連絡を取る方法はあるが、個人ではなく居所に対してのみ可能であるため、
移住した後、その報告を逐一隠れ里の郵便屋に連絡していなければ意味がない。

もしクールがクルラシアをすでに離れていた場合、頼れるのは隠れ里くらいか。
今からそんなことを心配していても無駄だな。
まずはクルラシア自治区の都市に向かうとしよう。

41 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2015/02/07(土) 21:54:03 ID:awgqSPE20


・  ・  ・  ・  ・  ・



「クール様? かつての大代表のお方だが、それが?」

声をかけたのはこれで十人を超えた。
乞食、一般の住民、防衛兵や、高位の役職にありそうな者。
そのすべてがクールの名前を知っていた。
だが二つ目の質問に対する答えは様々。

無言で返すものもいれば、噂話を教えてくれる者もいた。

(´・ω・`) 「今はどこに?」

「誰も知らない。七年ほど前、突如として姿を消された。
 一時はどうなるかと思ったが、その後の各代表様を中心になんとかやってこれている」

七年前といえば、もう戦争は大方終わっていた頃だろう。
なぜ前置き無く姿を消したのか。

42 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2015/02/07(土) 22:08:46 ID:awgqSPE20

そういった状態にあっても国が揺らがなかったのは流石というべきか。
だけど面倒なことなった。

「僕が知っているのは、それだけだ」

(´・ω・`) 「どうも」

感謝を伝え、人ごみをくぐり中心部、つまり議会場に向かって歩く。
話を聞いてもらえるかはわからないが、その当時も代表をやっていたものがいれば、
何か教えてもらえるかもしれない。

都市部のどこからでも見える高い尖塔。それはかつてこの都市を訪れた時にはなかったもの。
その足元には、議会場と呼ばれる建造物が構えているはずだ。
昔は王族が住んでいたというその城は、現在では庶民の憩いの場としてその庭園を開放していた。

このような城が各地にあり、その管理をしている者は市民から選ばれた者。
彼らは≪代表≫と呼ばれ、クルラシア最大の都市、クレアコートで国の運営を行っている。

(´・ω・`) 「すまない、代表はいるか?」

43 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2015/02/07(土) 22:09:30 ID:awgqSPE20

「なんだお前は」

(´・ω・`) 「クールの……元大代表の知人だ。彼女の行方を捜しているのだが」

「……代表様に聞いて来る。ここで少々待て」

庭園は解放されているとはいえ、その扉の前には装備を整えた騎士が二人。
二人の門番のうち、一人が奥に入っていく。
許可が出るのを願ってただ待つしかない。

数十分と経たずに、騎士は戻ってきた。
代表の答えが不服だったのか不機嫌そうな表情をしている。

「入ってまっすぐ進め。突き当りの大扉が議会場につながっている。
 そこに代表様がいらっしゃるそうだ」

(´・ω・`) 「どうも」

脇をすり抜けて議会場へと入る。
なんで名前も知らない余所者を通さなければならないのか、と。
騎士はわざと不満が聞こえるように言ってくる。
彼の言い分はもっともだ。正直、通されたことに驚きすら感じる。

44 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2015/02/07(土) 22:10:20 ID:awgqSPE20

高級そうな絨毯を敷かれた廊下は長く続かなかった。
両開きの扉は、押すと簡単に開く。

「ようこそ、クルラシア自治国へ」

「客人、どうぞその席におかけください」

広大な部屋の中心には円形のテーブル。
それを囲むように幾重にも同心円状に座席が用意されている。
中心が最も低く、演劇のステージのように周囲が高くなっていた。

そこに座っていたのは三人の老人。
指示されたのは、中央テーブルに残る最後の空席。
椅子の間を通り、そこまでの階段を下りていく。

僕が席にかけた時、老人の一人が口を開いた。

「大代表の行方をお探しということですが」

「私たちは彼女から言付けを預かっています」

45 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/07(土) 22:11:11 ID:awgqSPE20

「腰に結んだ武器は、一時期クール様が身に着けておられたものと同じだ」

「なにより、彼女が行方不明になって十年越しに訪ねてきた男」

(´・ω・`) 「……あなた方が生きているうちに来れてよかったです」

「なに、一人は間に合わなかったがな」

「私らも君が間に合ってよかった」

「国の恩人である彼女のお願いを聞けなくなるほど残念なことはない」

人間に興味を持たないクールが、これほどまでに慕われている。
そのことに並々ならぬ驚きがあった。
彼女がこの地において行ったことのほとんどは知らないが、
今度会えた時に聞いてみるとするか。

(´・ω・`) 「クールの残した言葉とは?」

「四つある。万が一を考え、手紙には残されていない。知っているのも私たちだけだ。
 つまり、伝言のうち一つは既に失われてしまっている」

46 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/07(土) 22:12:03 ID:awgqSPE20

「私たちがこの言葉を後世に残すかどうかは任されていた。
 彼女は、この伝言が伝わろうと、伝わるまいと、数年のタイムラグがあるとはいえ、
 同じ結果になるだろうと言っていた」

「そして代表の中でもここ、クルラシア自治区東ブロックの私たちが知っているのは、
 あなたがクルラシアを訪れるとすれば、
 最初にここに来るだろうという彼女の予想があったからだ」

老人たちは話疲れたのか、一息入れる。
用意されていた水を三人ともが同時に飲む。
喉は乾いていなかったが、僕も彼らに合わせてグラスに口をつけた。

「ショボン、警告だ。銀の蛇はその活動範囲と組織を急激に肥大化させつつある。
 錬金術師の隠れ里に向かい、ワタナベクス達と対策を立てるべきだ」

「ショボン、セント領主家を完全に攻め落とすために、君に貸した双剣が必要だ。
 私はそれを完成させるための最後の欠片を手に入れに行ってくる」

「ショボン、ブーンは異国の剣士と共にいる。
 鍛冶錬金術がどうしても必要だと言っていた」


「「「  以上だ  」」」

47 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/07(土) 22:13:20 ID:awgqSPE20

三つの声が重なる。
残された伝言は、どれも取り留めのない物ばかり。
万が一他の人間に漏れても大丈夫なように。

ただ、幾つかの現状がわかった。
そして、これからするべきことも。

(´・ω・`) 「ありがとうございました」

「なに、私らはただ語っただけに過ぎない」

「建国の女傑に頼み事をされただけで満足」

「さらにそれを果たせたのだから、もはや何も言うことはない」 

重ねて礼を言い、議会場を後にした。
三人の代表はこれから忙しくなるだろう。
後身を選び、この都市を正しく導いていかねばならない。

48 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2015/02/07(土) 22:14:09 ID:awgqSPE20

そして治める側が変われば、市民も変わる。
どういう変化があるか楽しみではある。すべてを終わらせたのち、またここに集まろうか。
国の行く末を見ながら、思い出話に花を咲かせるのも悪くはないな。

だけど安心してそれを実現させるためにはまず、一つの問題を解決しなければならない。

出来るだけ早いブーンやクールとの再開。
必要なものが揃ったなら、モララルドが仕切っているというセント領主家を完全に解体し、
可能であるなら、銀の蛇の野望を阻止。
大陸の他の地でも同様に荒事を収め、今度こそ戦争や悲劇が起きる前に止める。

クールの残してくれた伝言は大雑把ではあったが、現状を知るには十分。


一つに、銀の蛇は何かよからぬ事を企んでいるらしいということ。
それは大陸に跨るほど大きな規模であるため、
他の錬金術師や騎士協会との連絡が必須であるようだ。

そして、その発端ともなったセント領主家を完全に叩くには、この双剣が必要だということ。

(´・ω・`) (困ったことになった……)

49 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/07(土) 22:14:54 ID:awgqSPE20

刀身は辛うじて繋がっているものの、人でも斬ろうものなら根元から折れてしまう。
痛みを与えず、再生を許さない錬金術の効果は、完全に失われてしまったようだが、
クールが必要だというのだから、この双剣には何らかの役割があるはずだ。

まぁいい。
今は考えても仕方のないことだし、クールの伝言にはまだ未完成だと取れる内容があった。
こちらはその可能性に賭けるしかない。

そしてブーンはハートクラフトのところにいるのか。
彼の工房ならクナド領主国にあった。
クールがこの地にいないとわかった今、僕がするべきはブーンと合流すること。
そして後始末をつけるための準備をしなければならない。
モララルドが今何を考えているのかはわからないが、行っている研究は止める。

それが僕にできる贖罪。
戦争を止められず、甚大な被害を出してしまったことに対する、僕の責任。

(´・ω・`) 「……大変だけど、次はクナドに向かうよ」

厩舎に預けておいた馬を自由にする。
その背に飛び乗り、かつて来た道を引き返す。
目指す先はクナド領主家。

50 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2015/02/07(土) 22:17:07 ID:awgqSPE20

・  ・  ・  ・  ・  ・



(´-ω-`) 「うーん……」

港町を経由し、そこから南にセント領主家とグラント王侯領の国境を目指した。
途中見えてきた王侯領側の要塞には、見張りが数人立っているだけ。
どうやら国内で揉め事が起きているというのも真実味を帯びてきた。

それよりも問題は、打ち捨てられた数々の屍。
その多くは弓で射抜かれており、腐乱して異臭を放っている。
比較的新しい物から、骨と化してしまっているものまで幅広く要塞の城門前に散乱していた。

(;´・ω・`) 「これもモララルドの研究なのか……?」

馬を下りて調べる気にはなれない。
錬金術の結果によるものは明らかであり、触れてしまうことで何らかの影響を受けてしまうことは避けたい。
よしんば僕はいいとして、もし病原体等を持ち運んでしまうと混乱を引き起こしてしまう。

51 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/07(土) 22:17:57 ID:awgqSPE20

高台に上った見張りが僕に気付いたようだが、合図は送ってこない。
通るなら好きに通れということだろうか。
妨害されないのはありがたいが、これでは要塞の意味ない。

死体に溢れた草原を駆け抜ける。
休む間もなく駆け、ついに両国国境を抜け、オラト領主家にたどり着いた。
後は北に向かえばクナド領主家に入る。

ハートクラフトの工房はクナドの領主が住む地にある。
あれから二十年、クナド領主はまだ存命なのだろうか。

人間の寿命は短く、細い。
たとえ若くとも明日を無事生きていけるかどうかはわからず、
老人であればなおさらだ。

幸いだったのは、クナドとオラト両国がセント領主家と接している付近では、
他の二つの国境と異なり、比較的落ち着いたままであったこと。

火薬が激しく爆発した風もなく、生体錬金術が施された動物たちが襲ってきた様子もない。
むしろ、戦争をしていたにしては綺麗すぎる気もするが。
もしかしたらハートクラフトがよくやってくれたのかもしれない。

52 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/07(土) 22:18:44 ID:awgqSPE20

さらに六日が経ち、夕焼けが大地を紅く染める頃、ようやく工房のある地にまで来ることができた。
途中、馬を失わなければここまで日数がかかることもなかっただろう。

別段時間に追われているわけではないが、やはり無駄にしたという思いはぬぐえない。
僕には無限の時間があるのに、どうしてこうも過ぎ行く時を気にするのか、自分でも不思議だ。
むしろ、時に対する気持ちが曖昧であることこそがホムンクルスであることではないのかと思うのだが……。

これだけ生きていても、まだわからないことだらけだ。
主人は僕にすべての知識を与えてくれたと言っていたが、
それは本当のことであり、嘘でもあるのだろう。
知識として持っていても、それを利用できなければ意味はない。

ともかく、主人が僕に対して隠し事をする必要があった。
今はそう考えておくだけでいいさ。
無駄なことをする人ではなかったのだから、そのうちに答えが出てくるはずだ。

(´・ω・`) 「さて、着いたな」

53 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/07(土) 22:19:29 ID:awgqSPE20

二十数年前と変わらず、人通りは多い。
時の流れによる景観の変化が目につく。
町自体は少し規模が大きくなり、外側に新しい建物がいくつか建設されていた。

ハートクラフトの工房に向かう道は、どうやら忘れていなかったようだ。
微かに見覚えのある通りを抜け、すぐに見つけることができた。

(´・ω・`) (二十年、か)

おそるおそるドアを叩く。
中から聞こえていた話し声が止み、軋む音を響かせながら、ゆっくりと扉が開く。
顔を覗かせたのは、女性。

(*゚ー゚) 「ショボン……さん!?」

驚き、声が出せていない女性はしかし、僕の名前を知っていた。

(;´・ω・`) 「え……と……」

(*゚ー゚) 「私です、しぃです! 覚えておいででしょうか?」

54 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/02/07(土) 22:20:26 ID:awgqSPE20

ハートクラフトの工房にいた一人の女弟子。
錬金術師の弟子に女の子がいること自体が稀で、当時は結構驚いたものだ。

(´・ω・`) 「ハートクラフトは?」

(*゚ -゚) 「…………」

「その話は僕からするお」

女性の後ろ、まるで自分の家にいるかのように出てきた男。
その明るい声に懐かしさすら感じる。

(´・ω・`) 「ブーンか」

( ^ω^) 「ショボン、無事でよかったお」

(*゚ー゚) 「どうぞ、中に入ってください」

55 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2015/02/07(土) 22:21:12 ID:awgqSPE20

案内された部屋の内装は、昔と比べるといくらかかわっているように見える。
錬金術の器具が増え、物の置き場がない。

それでも塵ひとつ無いほど綺麗に掃除されている。
ブーンが研究室をここまで清潔に保てるわけがない。
彼女が行っていることだろう。

( ^ω^) 「何から話したらいいかお?」

(´・ω・`) 「僕がいなかった間に起きたことを、全部」

( ^ω^) 「無駄な説明は省きたいお。ショボンはどこまで知ってるんだお?」

(´・ω・`) 「十年以上前に戦争はほとんど終結した。同盟国が勝ち今は落ち着いている。
       だけどセントショルジアト城にのみ残党が残っているということ。
       クルラシアにはクールがいなくて、何かを探しているということ。
       おまけに、不気味な錬金生物が領地内を闊歩していること、くらいかな」

今まで集めることができた情報は断片的なだけでなく、
信用できない者から教えてもらったことも含まれている。

幾つか否定されることが有るかもしれないと構えていたが、
ブーンの反応を見るに、どうやら嘘はなかったらしい。

( -ω-) 「順番に話させてくれお」

そう言って、ブーンは語り始めた。

56 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2015/02/07(土) 22:22:18 ID:awgqSPE20













19 ホムンクルスと戦禍の傷跡  End


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