(´・ω・`) ホムンクルスは生きるようです
678 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/08/21(木) 21:27:19 ID:Qo48Hvr20












15 ホムンクルスと城郭の結末

679 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/08/21(木) 21:32:41 ID:Qo48Hvr20



ひねり出したような声は本当に僕のものだったのか。
それに返すかのように、両手を横に広げながら近寄ってくる。
馴れ馴れしい動作は昔と変わらない。
  _
( ゚∀゚) 「久しぶりだなぁ……クールちゃん、ブーンくん……それにショボンよぉ……。
      いや、ショボンはこの前会ってんな」

(´・ω・`) 「あぁ……顔を見るのは、全く久しぶりだよ……ジョルジュ」

僕の頸椎にナイフを差し込んだ男は誰だったのか、今わかった。
深い緑色のローブが、机の蝋燭の明かりに照らされて浮かび上がる。

この可能性を考えなかったわけではない。
だが、想定する意味はないと無意識化で感じていたのだろう。
敵に錬金術師の集団がいるのならば、そこにジョルジュがいたとしても対策はほとんど変わらないからだ。

680 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/08/21(木) 21:34:22 ID:Qo48Hvr20

それでも、実際に顔を合わせることになると手に汗がにじんでくる。

僕が生み出した四人の不老不死者達。
人ならざる存在であるホムンクルス。

全く同時に生み出したこの三人は、長い年月を経て散り散りになった。

クールとブーンは自分達の意思で、己の求めるものを得るために。


だが、ジョルジュは違う。

僕は…………彼を追い出した。


  _
( ゚∀゚) 「あの日のことは一度も忘れたことがねぇ……ショボン。
      血がつながってないとはいえ、生みの親に捨てられたんだからよぉ」

681 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/08/21(木) 21:43:37 ID:Qo48Hvr20

川#゚ -゚) 「ふざけるなッ! お前……自分のしたことを忘れたとは言わせないぞ……!」
  _
( ゚∀゚) 「あぁ? まだ根に持ってんのかよ……何百年前の話だ?
      いや……人のことは言えねぇか……」


僕が彼らを生み出した時、それぞれの性格に極々小さな"偏り"を与えた。
生み出したホムンクルス達が、感情の「違い」を理解しやすいように。
自らと異なる存在である他者を認識しやすいように。


ブーンには"楽しさ"を

──── ブーンと共に過ごすことが、僕らの寛ぎとなるように


クールには"哀しみ"を

──── クールを支えてあげることが、僕らの繋がりとなるように


ジョルジュには"怒り"を

──── ジョルジュと話し合うことが、僕らの節制となるように

682 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/08/21(木) 21:44:25 ID:Qo48Hvr20


それは、ふつうの人間より、ほんの少しだけ、本人次第で無くなるほどの小さな差だった。
それと同時に、彼らにとって、全てが"与えられたモノ"とならないよう、
何物にも代えがたい"個"の意思には、不必要な改変を加えなかった。

言うなれば、彼らの精神は"二卵性双生児"のようなものだ。
全く同じタイミングで生まれたが、微妙な素材の差により、体格や性格に違いができた。
理想通りの性格と見た目のホムンクルスを生み出すことは、僕にはできないし、やるつもりもない。

彼ら自身が、生まれた瞬間に己のことを理解し、
僕の与えた"偏り"を自らの道として選んでくれた。

そして僕は、彼らと「喜び」を持って暮らしていこうと、そう決めた。



だが、全てうまくはいかなかった。
彼の……ジョルジュの知識欲は強すぎ、その怒りを抑制することをよしとせず、
思うがままに行動していた。

683 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/08/21(木) 21:49:17 ID:Qo48Hvr20

最初はしつこく教えを請うだけだった……。
そのうち僕に隠れて、幾度も生体実験をするようになった。
時に自分の体を使い、時に野生の生物を使い。


ついにその事件は起こった。

彼は人体実験に手を出し……それを知った僕は彼を見捨てた。
激しく雪の降る日に……ブーンとクールを連れだし彼の前から姿を消した。
共に生活することで、これ以上、僕の知識が知られるのを恐れたからだ。

完全なホムンクルスを生み出す方法は、永久に失われるべきなのだから。
一時の寂しさに負けたとはいえ、それ以後の数百年それだけは頑なに守ってきた。

不老不死の錬金術が世の中に溢れていないところをみると、あの男もまた知識を隠しているのだろう。

  _
( ゚∀゚) 「ネールラントから帰ってみれば……まぁ珍しい顔ぶれじゃねぇか。
      ついでに挨拶でもと思って寄ってみたんだがよ。全然攻め切れてねぇな……あいつら」

(#´・ω・`) 「あの狂戦士達は……お前がやったのか?」

685 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/08/21(木) 21:52:13 ID:Qo48Hvr20

  _
( ゚∀゚) 「ん〜? や、薬を作ったのはオレじゃねぇよ。ある程度意見はしたけどなぁ……。
      結局あんなできそこないだ。ほんとは意識も知能もそのままにする予定だったんだぜ?
      嫌がる兵士に薬を無理やり与えなきゃいけなくなっちまったのは、まぁ予定が狂ったな」

(#^ω^) 「ジョルジュ……セント領主家、ネールラント、今回の事態はお前が主犯かお!?」

  _
( ゚∀゚) 「まぁ、半分くらいはな。ほんとお前らみてる世界がせめぇ……。
      一生そうやって地べたはいつくばってろ」

(#´・ω・`) 「どういうことだっ!?」
  _
( ゚∀゚) 「くひひっ……自分で考えな。そうだ、面白いものを見せてやるよ」

そう言って、何かを飲み込んだジョルジュ。

数秒の後に、突然蹲って苦しみ始めた。
骨が歪み、皮膚が裂ける音と共に、ジョルジュの輪郭が内側から弾けて変化していく。

686 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/08/21(木) 21:56:11 ID:Qo48Hvr20

  _
(  ∀ ) 「ぐぅぅぅ…………」



(;´・ω・`) 川;゚ -゚) (; ^ω^) 「!?」






   _
彡 ゚∀゚ミ 「ルルルルルゥ……。セイゼイ……ムダニ……アガケ」
 


それは人間の大きさをした獣だった。
毛は頭部にしか生えておらず、皮膚は内から破れ血管が浮き出ている。
膨れ上がった両足と両手の筋肉は、四足歩行の獣そのものだ。

牙は無く、爪も小さい。
それでも、それは間違いなく"狼"だった。

687 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/08/21(木) 21:59:31 ID:Qo48Hvr20

ジョルジュであった狼は高く強く吠えると、僕らを置き去りにし白泡雲の中をまっすぐ突っ切っていった。

(; ^ω^) 「なんなんだお……あれ……」

(;´・ω・`) 「何かを飲み込んでいたようにも見えたが」

川;゚ -゚) 「あれについては今考えても仕方ないだろう。
      予想はできるが、その先には何があるのかわからない。
      セントショルジアト城に行くんなら、どうせすぐに会うことになるさ」

わからないことの対策なんてうてやしない。
実際に対峙するときになってから考えればいいだろう。

(; ^ω^) 「その時まで放っておいても大丈夫かお?」

(´・ω・`) 「問題ないな。彼たった一人で出来ることは、そう多くはない。
       そんなことより、だ。確認するぞ、ブーン。
       目的は十三代書庫番とモララルドの救出。
       そして侵略戦争の終結だ」

688 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/08/21(木) 22:05:57 ID:Qo48Hvr20

( ^ω^) 「わかってるお」

川 ゚ -゚) 「っと、忘れていた。これを用意してきたんだ。
      道中で役に立つかもしれない。持って行ってくれ」

渡された二つの袋には錬金術を用いた品が複数個入っていた。
夢宿り木の白液果、星藻、手のひらサイズの小型ナイフ、強靭な細い糸、矢と弓。
あまりにも準備万端なそれらは、あらかじめ用意されていたとしか思えない。

いや、用意していたのだろうな。
クールのことだ。おそらく、ネールラント戦で用いようとしていたものの一部だろう。
どれも錬金術によって強化されている。

川 ゚ -゚) 「効能はこれだ」

渡された小さな紙切れを一読してから返す。
一言二言の説明しかなかったが、それで十分だ。

川 ゚ -゚) 「……頼んだぞ」

(´・ω・`) 「ああ」

( ^ω^) 「任せるお!」

690 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/08/21(木) 22:22:01 ID:Qo48Hvr20

川 ゚ -゚) 「グラント王侯領、そしてクナド、オラトの両国にはすぐに知らせを送る。
      同盟の話は私がやっておくから心配しないでくれ」

(´・ω・`) 「ハートクラフトという大男がオラト側国境にいる。
       彼も力を貸してくれるはずだ」

川 ゚ -゚) 「わかった。あまり無茶はするなよ」

片手をあげてクールに応え、僕らは北を目指して馬を走らせた。
右手には白雲の海が闇夜に揺らいでいる。


急ごう。モララルドと書庫番が心配だ。



・  ・  ・  ・  ・  ・

691 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/08/21(木) 22:25:45 ID:Qo48Hvr20


(´・ω・`) 「何人いる……?」

( -ω^) 「んー待ってくれお……ひーふー……二十二……だと思うお」

長い筒を片目で覗きながら、ブーンは答える。
どうやら彼が作り出したらしい特殊な望遠機器だと聞いたが、
この朝靄の中で、本当に遥か向こうまで見えてるのだろうか……。

(´・ω・`) 「多いな……が、まぁ無理な数じゃあないか……。
       動きが速そうなのは?」

( -ω^) 「どういうのが該当するお?」

(´・ω・`) 「脚部に極端に筋力が偏っている狂戦士を探してくれ」

( -ω^) 「んー」

何度か望遠機器を左右に往復させるブーン。

( -ω^) 「十六……だお」

……一六人は多すぎる。
城の警護に普通の軍隊を置いていない理由がこれか。

693 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/08/21(木) 22:28:43 ID:Qo48Hvr20

確かに、あれらならお互いのフォローにもすぐ迎えるし、
鈍重なパワー型と比べ、広域の防備に適している。

おそらく、城内には腕力強化型がいるんじゃないだろうか。
狭い場所でこそ、彼らはその本領を発揮できる。

(; ^ω^) 「これ……きつくないかお?」

(´・ω・`) 「ちょっと考えさせてくれ……」

この中をまっすぐ向かうのは無理ではないが……ほぼ不可能か。
全員を相手にしなきゃいけないだろうし、勝てたとしてもその後はよろしくないだろう。

相手は僕らの存在に気づくだろうし、記録を抹消し逃避を図るか、
軍隊を用いて相対するかどちらかだろう。

ホムンクルスは不死ではあるが、弱点は少なくない。
物量に支えられた長期戦になれば、いずれは追い詰められてしまう。

( ^ω^) 「城の場所が厄介だお……」

695 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/08/21(木) 22:34:15 ID:Qo48Hvr20

僕らは城のちょうど西南西、生い茂った草の中に並んで転がっていた。
ここから先には、ごろごろと大きな岩がいくつもある荒れ地になっている。
隠れる場所は多いが、慎重を期す越したことはない。

馬は少し離れたところで、杭に繋いで置いてきた。
万が一も考え、強く引っ張れば紐はほどけるようにしてある。

城に至る道は、僕らが隠れている場所から見える、まっすぐのびている道だけだ。
それは海に近づくにつれてだんだんと細くなっていく。

セントショルジアト城は、海の上に突出した崖にあるせいで、
見晴らしは良く、忍び込むことは難しそうだが……。


(´・ω・`) 「まぁ、待て……いい案がある」

( ^ω^) 「いい案?」

(´・ω・`) 「ああ、僕らにしかできない秘密の道だ。
       取りあえずついてこい」

696 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/08/21(木) 22:36:15 ID:Qo48Hvr20

ゆっくりと起き上がり、全身の砂を落とす。
荷物の中から、クールにもらった細くて丈夫な糸を取り出した。

( ^ω^) 「?」

(´・ω・`) 「これを腕に結んでみてくれ」

ブーンに一端を渡し、絡まないように注意を払いながらもう一端を自分に結んだ。
その間も海に向かって歩くのをやめない。
何事かと考えながら、ブーンは後ろについてくる。

崖の端まで来ると、激しく打ち付ける波の音が足元から聞こえる。

この辺の下はもう海になっている。
長い年月をかけて、抉られるように絶壁が削れているからだ。

( ^ω^) 「で、どうするんだお?」

(´・ω・`) 「悪いな……」

とりあえず形だけでも誤っておく。
そうして崖に向かって、ブーンを蹴り飛ばした。

697 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/08/21(木) 22:37:41 ID:Qo48Hvr20









「あああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ..............」






叫び声は次第に小さくなっていき、海に落ちる音に消えた。

10秒ちょうど数え終わった頃、下から叫び声が聞こえてきた。
温厚なブーンにしては相当怒っている。

……当たり前だが。

698 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/08/21(木) 22:43:49 ID:Qo48Hvr20

(´・ω・`) 「あ、回復した?」

ここから見える海面には大小さまざまな岩がとげのように突き出ており、とても無事では済まない。
ブーンの服もあちこちが破けていた。

(#^ω^) 「ショボオオオォォォンン!!!!」

(´・ω・`) 「落ちつけよ、そこから城の下あたりを見てくれ。
       僕の感が外れてなければ、なにか錬金術に関係しそうなものがあるはずだ」

ブーンの声にかき消されないように叫び返す。
これだけの距離があれば、城の周りを護っている強化兵たちには、聞こえないだろう。

(#^ω^) 「……ちょっと待つお」

望遠機器を取り出して城の方を向くブーン。

(#^ω^) 「あったお……。何があるかまではわからないけど、
        確実に錬金術が施されてる岩壁が見えるお」

(´・ω・`) 「予想通りだな。今に僕もそっちに行くさ。
       糸はほどかずに持っとけよ」

深呼吸して、一息に飛び込んだ。
風を切る高揚感と、落下していく恐怖がぐるぐると混ざり合い、何を考えているのか分からなくなる。


気づいた時には、少し大きめの岩の上に寝ていた。

700 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/08/21(木) 22:55:54 ID:Qo48Hvr20

(#^ω^) 「ちゃんと説明してくれお」

(´・ω・`) 「ん……ああ……この場所は上からは見えない。絶好の侵入経路だろ?」

( ^ω^) 「……そういうのは先に言ってくれたらよかったのにお」

(´・ω・`) 「先に言ったら飛び降りたか?」

いくら回復するとはいえ、痛いものは痛い。
自分を褒めるわけではないが、これだけの高さを飛び込むのは、
いくらホムンクルスとはいえ覚悟がいる。

(; ^ω^) 「飛び込んだお……たぶん……」

(´・ω・`) 「まぁいい、行くぞ」

波の勢いは強い。泳いで行くのにしても、油断していたらすぐに沖合まで引っ張られてしまう。
僕とブーンは何かあった時のために、片方が海を泳ぎ、もう片方は岩で待つことにした。
泳いでいる方が溺れれば、もう片方が引っ張ることで救うことができる。

交互に泳ぎ、セントショルジアト城の足元に近づいていく。
城の裏はすぐに崖になっていて、見張りはいなかった。
崖の下にも敵の姿は見えない。
それも当然だ。こんなところを通れるのは僕らをおいて他にいない。

702 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/08/21(木) 22:59:57 ID:Qo48Hvr20

(´・ω・`) 「侵入したら、ブーンはモララルドと十三代書庫番を探せ。僕は城主を探す。
    場合によっては……殺すしかないこともある。わかってくれ……」

(  -ω-) 「………………」

三人のホムンクルスの人間に対する気持ちの違いは、その性格に起因する。

"楽しさ"のブーンは人間を好み

"哀しみ"のクールは人間に無関心で

"怒り"のジョルジュは人間を嫌っていた。

僕とブーンの違いは、妥協をするかしないかだ。


…………僕は殺す。
その一人が、万人を超える他の人間の害悪となるならば、躊躇うことなく殺す。
その一人が、僕の知り合いを傷つけ苦しめるのなら、同じように傷つけたいと思う。


でもブーンは違う。

ブーンは殺さない。
人間が好きだからというだけではない。
殺さないことが、自分を人間としているための一線なのだから。

ホムンクルスでありながら、人間であろうとするブーン。
その彼自身の考え方を否定するつもりはないが、今回は傍観するわけにはいかない。

703 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/08/21(木) 23:11:50 ID:Qo48Hvr20

( ^ω^) 「…………その時になってみないと、どうもわからんお」

(´・ω・`) 「納得してもらうしかないよ。……さて、もう少しだ。行こうか」

それからはしばらく無言で進んだ。
交互に泳ぎ、岩の上で休み、目的地の真下に辿りつくまでそれほど時間はかからなかった。

朝方には晴れていた空だが、ゆっくりと僕らの立っている場所が影に覆われ始めた。
厚く、広く、黒い雲が流れてきている。

(´・ω・`) 「激しい雨が降りそうだな」

( ^ω^) 「そうなる前にとっとと解決するお」

(´・ω・`) 「ああ、そうだな」

( ^ω^) 「……で、どうやって登るんだお?」

僕らの目の間にあるのは90度を優に超える断崖絶壁。
何千年もかけて削られた岸壁は、荒々しくも滑らかで素手では登れそうにない。

704 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/08/21(木) 23:16:57 ID:Qo48Hvr20

(´・ω・`) 「んー……いやさ、予想が外れたと言うかなんというか」

( ^ω^) 「言い訳があるなら聞くお」

(´・ω・`) 「セントショルジアト城は防衛拠点としてはかなり不安定なんだ。
       狭まった岸壁の突出したところに立っている以上、
       正面から物量によって攻撃された場合、自分達に逃げる場所が無いからね」

民衆の暴動でも起きようものなら、ひとたまりもないだろう。
この場所に城を建設した当時の王族が、それを考えなかったほどの馬鹿だとしても、
何世代もの間、はたしてそのままにしておくだろうか。

( ^ω^) 「つまり、抜け道があると?」

(´・ω・`) 「さっきブーンに確認してもらって、
       錬金術の仕掛けがあるとほとんど確信したんだけど……。
       もっとわかりやすいものだと少し甘く見てたかな」

城の足元に近づきながら探していたが、そのような場所は見当たらなかった。
逃げるための簡単な小道すらない。
錬金術の痕跡は所々にあるのだが、どれも抜け道を示唆しているものではなかった。


( ^ω^) 「ところでショボン……これ見つからなかったらどうなるお?」

(´・ω・`) 「来た時みたいに戻って、崖が低くなるところまでひたすら泳がないとね……」

(; ^ω^) 「冗談じゃねーお……」

705 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/08/21(木) 23:19:58 ID:Qo48Hvr20

本当に冗談じゃない。
この辺一帯は全て崖になっていて、とてもじゃないが登れないだろう。
崖が低くなるのは数キロ以上も先だ。
その労力を考えると気が遠くなる。

( ^ω^) 「水面の下はどうだお?」

(´・ω・`) 「そこに抜け道があったとして、どうやって逃げだす気だ?」

( ^ω^) 「干潮の時に……」

(´・ω・`) 「その時しか逃げれない逃げ道を作る意味はないだろ」

いや……そうか。
今はほとんど干潮に近い時間のはずだ。
壁面に残る海水の痕はそれを示している。

潮の満ち引きに関係なく、脱出経路がふさがれず、
なおかつ侵入者に見つかりにくいのは……。

(´・ω・`) 「ふむ……」

自分の身長二つ三つ分くらいか。
上を見上げると、自然に削られた岸壁としては不自然な場所があった。

錬金術師の僕らにしか気づけないような小さなものだが、間違いない。

706 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/08/21(木) 23:26:11 ID:Qo48Hvr20

( ^ω^) 「あそこに扉っぽいものには、どうやって入るんだお?」

(´・ω・`) 「登れるか?」

( ^ω^) 「無理だお」

そうだろうな……。かといってあそこから階段が下りてくるとは思えない。
それではここに隠し扉がありますと言っているようなものだからだ。

おそらく扉の向こうに縄梯子のようなものがあるはずだ。

(´・ω・`) 「仕方ない……多少手荒ではあるが」

袋から"青色砥粉"を取り出し、剣にかける。
刀身が青白く光り始めたのを確認し、岩壁を刺し貫く。
そこを支点として、クールに借りた双剣をさらに上に突き立てる。
こんな用途に使ってしまったことは心の中で謝ればいいか……。

三つの足場を利用して、扉と思しき場所に手が届いた。
クールの刀を足場にして岩壁にもたれ、最初に刺した刀をブーンに投げてもらうことで、
なんとか扉へのアプローチをする。

707 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/08/21(木) 23:28:13 ID:Qo48Hvr20

( ^ω^) 「体が重くて登れんのだけど……」

(´・ω・`) 「痩せろよ……」

( ^ω^) 「この体型は愛嬌があるって女の子に好かれるんだお」

扉のちょうど真ん中あたりに刀を突き刺した。
壁を貫通した感触から、中に空間があることは間違いない。

(´・ω・`) 「さて、どうしたものか」

普通に切り開けてもいいが、何が仕掛けられているかわかったもんじゃない。
木っ端微塵になることに抵抗はないが、敵に見つかりたくはない。

( ^ω^) 「ショボーン! 横から開けるのはどうだお?」

横から岩壁を掘っていくのは、青色砥粉の消費が激し過ぎる。
城内での戦闘も考えると、あまり無駄遣いはしたくない。

( ^ω^) 「しょうがない……これでも使えお」

708 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/08/21(木) 23:33:13 ID:Qo48Hvr20

ブーンの背負っていた長槍が、僕のすぐ真横に突き刺さった。
軽く投げただけに見えたが、堅い岩壁に突き刺さるのは鍛冶錬金術の効能か。

( ^ω^) 「それの鍛冶錬金術は"溶解"だお。
       速度や質量というエネルギーを溶かすことに変換するお」

(´・ω・`) 「随分また……」

ただの人間相手にするには凶悪過ぎる武器だ。
今回のような人外を相手にするのでさえ、躊躇うほどに。

( ^ω^) 「まぁ、その説明は今度するお。
        結局ただの副産物でできちゃっただけだし、生体には効かないお」

(´・ω・`) 「……何のために作ったのかわかった気がするよ」

おおよそ、碌でもない目的のために作ったのだろうが、
役に立つものであることにかわりはない。

扉の中心にブーンの槍を使って風穴を開ける。
そこから星藻を流し込み、中の様子を確認した。
狭い通路が光に照らされて浮かび上がる。

(´・ω・`) 「よし、なにも仕掛けられてないみたいだ。少し待ってろ」

709 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/08/21(木) 23:37:15 ID:Qo48Hvr20

扉の隙間に青色砥粉をかけた剣を差し込み、なぞるように動かす。
何度か往復した後蹴飛ばすと、ゆっくりと奥に倒れた

奥にまっすぐ進み、少し行ったところで左に曲がる。
そこには小舟と縄梯子が丁寧に折りたたんであった。
縄梯子の強度を確認して、下に蹴り飛ばす。

(´・ω・`) 「登ってこい」

( ^ω^) 「助かったお」

(´・ω・`) 「もし何かあったら……これでモララルドと書庫番を連れて逃げてくれ」

( ^ω^) 「……わかったお」

明かりもない足元を手さぐりで奥に進む。
星藻を使って照らすのもいいが、どこからか見られているかわからない。
通路は人間が通れるだけのギリギリの広さしかなく、
何十年も使われた様子は無い。

710 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/08/21(木) 23:40:50 ID:Qo48Hvr20

(´・ω・`) 「誰もいなそうだ」

(; ^ω^) 「ふぅっ……」

(´・ω・`) 「流石に運動不足じゃないか?」

(; ^ω^) 「ブーンは……インテリア系だお。
        室内に……こもって研究……してるのが……ブーンのやり方だお」

(´・ω・`) 「そんなことはどうでもいい。遅れずについてこい」

息を荒げているブーンを引き連れ、通路の奥へ進む。
どこに繋がっているかわからないため、何が起きても対応できるように、
両手にはクールから預かった双剣を抜き身で構えていた。

つづら折りになっていて、上り坂になっている通路は、しばらくして広い空間に出た。

申し訳程度の明かりで照らされていて、いくつもの穴がここに繋がっている。
それぞれが城内の主要な箇所につながっているのだろう。

(; ^ω^) 「……困ったお」

(´・ω・`) 「どれがどこに繋がっているのか見当もつかないな」

713 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/08/21(木) 23:52:00 ID:Qo48Hvr20

穴の大きさは全て同じで、その数は全部で9個もある。
モララルドと書庫番が城内のどこにいるのかもわからないし、
全ての通路をしらみつぶしに探す意味はない。

( ^ω^) 「別行動するお」

(´・ω・`) 「ああ、そうしようか」

( ^ω^) 「一人で大丈夫かお?」

城内で実際に相手になるのは、ジョルジュぐらいだろう。
教会で会った錬金術師たちが戦えるとは思えない。
王を見つけて捕えるくらいなら、うまくいくはずだ。

( ^ω^) 「……気をつけるお」

(´・ω・`) 「ブーンもね」

僕は来た道のすぐ隣にある通路に入った。
方向的にはここが玉座の裏に通じている可能性が一番高い。
玉座はエントランスやダンスホールのさらに奥に設けるのが普通だからな。

715 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/08/21(木) 23:52:50 ID:Qo48Hvr20

(´・ω・`) (ブーン……モララルドと書庫番を頼むぞ……)

モララルドと書庫番が捕まってからもうかなりの時間が経過している。
ひどい扱いを受けていなければいいのだが……。

通路は階段になっていて、真っ直ぐ上にのびていた。
登りきった先にあったのは錆びついた小さな扉。

耳を澄ませてみるが、向こう側から物音は聞こえない。
扉をゆっくりと押すと、金属が悲鳴を上げながら開く。

(´・ω・`) (……うるさいな)

諦めて青色砥粉で接続部の金具を破壊し、部屋に出た。
木枠の扉は元のように抜け道にはめ込んでおく。

そこは物置のような小さな部屋で、いくつかの木箱が重ねておいてあるだけだった。
床は湿っていて、歩くたびに小さな音が跳ねる。

(´・ω・`) (何もない……はずれか)

城内の見取り図すらない状況では、下手に動くわけにはいかない。
まずは城の構造を知らなければ。

716 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/08/21(木) 23:53:58 ID:Qo48Hvr20

木箱の中身には乾燥させた食糧や調味料、金貨、そして短剣などの武器が入っていた。
逃げる時には、ここに置いてある最低限の必需品を持って逃げるのか。
食糧の状態も良く、定期的に入れ替えが行われていると予想できる。

(´・ω・`) (随分と周到なことだ……)

攻城されることを想定していたのか、それとも普段から入れ替えをしているのか。
少しだけ食べ物を拝借し、部屋を出る。
どうやら突きあたりにある部屋らしく、薄暗い廊下には人影はない。

(´・ω・`) (これじゃ動きづらいことこの上ないな……)

話声や物音が聞こえないと言うことは、城の中でもはずれにあるということか。
もしくは戦争の準備をしているせいで城内にほとんど人がいないのか。

最悪、狂戦士達しかいないという可能性もあるな。
廊下の角に背をつけて奥を覗くが、そこにも誰もいない。
一本道がひたすら続いており、近くには全く部屋が無い。

(´・ω・`) (……騒がしいな)

三つ目の角を左に曲がったところで上の方から騒ぎが聞こえてきた。
ブーンが見つかったのだろうか、剣戟の音が響く。

717 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/08/21(木) 23:57:48 ID:Qo48Hvr20

(´・ω・`) (あー……ブーン……頑張れよ……)


「侵入者だッ」


「捕まえろ!!」


「殺せ! 殺せ!」


乱暴な叫び声が聞こえるが、普通に話していると言うことは、ただの兵士だろう。
その程度であればブーンは別に苦労はしない。

(´・ω・`) 「おかげでこっちの仕事がやりやすくなるな」

ブーンが目立てば城内の兵はそちらに注目する。
よもやもう一人が侵入しているなんて考えに至る者は、ごく少数だろう。

ドタバタと足元での騒ぎは収まる気配が無い。
手間取っていると言うよりは、逃げていると言った感じだが……。

719 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/08/22(金) 00:06:14 ID:.Qy3EogM0

(´・ω・`) 「上を目指すのがいいか」

城の基本的な構造は時代によってほとんど統一されているが、
王室の位置などはどの時代でも変わらず、高いところにある。
このセントショルジアト城も例外ではないだろう。

奥に進んでいき、階段はすぐに見つかった。
どうやら僕が今まで通ってきた通路も普段は隠されているのだろう。
三十二段の階段を登りきって、その先にある扉は、厳重にふさがれていた。

(´・ω・`) (……誰かいるな)

明らかな金属音はおそらく鎧の継ぎ目の擦れる音。
荒い息遣いが漏れ聞こえる。
話声こそしないもののこの奥に誰かがいるのは確実だ。

耳を扉に寄せ、中の様子を探る。獣のような低い唸り声が、雷のように響いている。
人間にはあり得ない何かを引きずる音が、部屋の中を往復するように動いていた。

(´・ω・`) (狂戦士か……)

その数はおそらく一体。
足音から察するに体の大きさは僕の二倍以上はあるだろう。

(´・ω・`) (ん…………?)

部屋の中の足音が突然止まった。
疑問に思う間もなく、爆発音と共に、一瞬意識が途切れた。

720 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/08/22(金) 00:06:58 ID:.Qy3EogM0


(;´メω-`) 「ぐっ……あああああっ…………」



何が起きたのか理解したのは、全身を襲った激痛が収まってからだった。
粉々になった木製のドアと、その向こうに立つ巨大な化け物。
神話に語られるような姿をしたそいつは、巨大な瞳で僕を見下ろしていた。

闘牛のような太く短い二本の角。
熊のように太く毛深い両腕。

(;´・ω・`) 「っ……」

721 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/08/22(金) 00:10:31 ID:.Qy3EogM0

背骨が折れた衝撃か、体を持ち上げる力が出ない。
両の腕には僕の身長ほどもある巨大な拳。
上半身は筋肉の鎧の上を、さらに鎖帷子で覆っている。



「ヴァアアアアアアア」



あらゆる部位が人間としての原形をとどめていない。
異常に発達した耳と目……鼻はほとんど頭に埋もれてしまっている。

立って歩くことすらままならないのか、両足は地面に投げ出されている。

(;´・ω・`) 「なんてことを……」

自我なんてないのだろう。
ただ、物音と動きに対して反応するだけの化け物。

現に僕が吹き飛ばされたまま動かないでいると、もう興味を失っている。
この部屋に、誰も近づかないこの場所に隠されていたのか。

錬金術での度重なる肉体改造で、完全に精神が崩壊してしまっている。

727 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2014/08/22(金) 22:20:06 ID:.Qy3EogM0


(´-ω-`) 「…………」

壁から這い出た時に、細かい瓦礫が音を立てて落ちる。
それに化け物が反応する。

もはや僕が彼に何をしてやれることはない。
ただの障害物として、排除するのみ。


「グゥオオォオオオオオオオ」


殴りかかってきた右拳に刀を突き刺す。
だが、それを気にも留めず、壁にたたきつけられた。

(メ´・ω `) 「ごふっ……」

今の一撃で内臓が潰れて、肋骨が砕けたか。
あまりの威力に意識が飛びかかったが、握った柄は離さない。
剣が折れなかったのは行幸。

肌の硬度は人間とさして変わらない。
骨は想像よりもずっと柔らかいようだ。
これなら、青色砥粉を使うまでもない。

728 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/08/22(金) 22:24:59 ID:.Qy3EogM0


(#´・ω・`) 「はあああああああああああああああああああああっ!」

化け物が手を引いた時に隙間ができる。
潰れた内蔵の回復は待たずに、手の上に飛び乗った。

右手に持った刀を下に向けて化け物の腕から肩まで切り裂く。
だが、もはや痛みすらないのか、化け物は動きを緩めない。

傷からは白い泡が吹き出しながら、自己修復をしている。

(;´・ω・`) 「ぐっ……」

左拳に跳ね飛ばされた。
蠅を払うかのような単調な動きだが、重く、動きは速い。
図体の大きさがあるにも拘らず、だ。

両肩だけは筋肉の質と量が違うのか。

(メ´・ω・`) 「ッ痛……」

729 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/08/22(金) 22:31:34 ID:.Qy3EogM0

一撃で致命的な破壊を与えるか、それとも……。

両手で腰から抜いたのはクールの双剣。
肉も骨も全てを断ち切らない、断絶の剣。

(´・ω・`) 「こいつは……一味違うぞ」



言ってもどうせわかりはしない。


「グコォォォォ」


両腕を用いた破壊的な、だけど単純な殴打のみ。
こいつが閉じ込められていた理由はそれだ。
機動力もなければ、協調性も、戦略を理解する脳みそもない。

こんなものは、山で落ちてくる岩石と変わらない。
ただの自然災害だ。ホムンクルスに対する戦略的価値は、ゼロに等しい。

731 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/08/22(金) 22:39:02 ID:.Qy3EogM0

再び振り下ろされる拳。
先程と全く同じ軌跡を描くその攻撃を、紙一重で避け、手首に深々と刀を突き刺す。

左拳での攻撃を右拳を飛び越えることで避ける。
その際に突き刺したままの剣を体に合わせて引き、
右手首の上半分をえぐり取るように刃を動かした。

(´・ω・`) 「安らかに眠れ」

右手に力が入らなくなった化け物は、自重を支えきれず前に倒れこむ。
腕に飛び乗り首を二度、両手の剣を交互に振って大きく切った。

起き上がろうともがく間に、背中から心臓に至るまで、剣を二本とも根元まで差し込んだ。
数秒後、化け物は動きを完全に止めた。

(´・ω・`) 「……死んでるわけじゃなさそうだな」

心臓の鼓動は完全に止まっているようだが、"死"そのものではないのか、
体には温もりが消えず残っている。

(´・ω・`) 「よくわからない武器だ……」

素直な感想が口から出る。
誰かが答えてくれるわけではない。

732 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/08/22(金) 22:43:13 ID:.Qy3EogM0

心臓を貫いたような感触は腕に残っているのに、破壊が為されたわけではない。
これが錬金術で治せるらしいが……。
恐ろしいほどに複雑な錬金術だろうな。
この時代に存在している錬金術師がこれほどのものを錬成できるとは思えない。

(´-ω-`) 「ふぅ……まぁいいか……」

これだけ騒いだのに人一人来ない。
それだけ普段から騒がしい場所なのだろうか。

もしくは誰も近づきたくないだけかもしれないが。
そもそもこいつを倒されることは想定されてないだろう。

傷だらけの鋼鉄の扉は、やはり反対側から抑えられていた。

(´・ω・`) 「これは……錬金術か」

青色砥粉を使用しても、おそらく弾かれるであろう程の硬度。
錬金術でなければこのようなものは作れない。

(´・ω・`) 「さて、どうするか……」

来た道を除けば、この部屋にある出入り口は鉄の扉だけ。
無理やりこじ開けることもできないわけではないが、相当な時間かかりそうだ。

733 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/08/22(金) 22:44:35 ID:.Qy3EogM0

ここに来るまでに分かれ道はひとつもなかった。
最初の地下広間まで戻るか、別の道を探すかのどちらか。
確実なのは地下広間まで戻る選択肢だろうが……。

(´・ω・`) 「ん……?」

ふと、部屋の構造が気になった。
何かが引っかかる。
部屋自体は化け物がある程度暴れられるように、決して狭くない。

食事は……?

排泄は……?

そうだ。部屋があまりにも綺麗すぎる。
いや……傷やひびや汚れはあちこちについている。だが、生活痕が無い。
化け物であっても素体が人間であれば、最低限の食事や排泄は必要だ。

それに……どうやってこの巨体をこの場所に閉じ込めた……?

壁の強度も、扉ほどではないにせよ相当なものだ。
僕が通ってきた木製の扉は破壊されたが、その枠は小さなヒビが入るだけにとどまっている。
鋼鉄の扉も、半壊している扉も、どちらも化け物が通るには明らかに小さすぎる。
この巨体は、それら以外の場所から運ばれた……。

734 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/08/22(金) 22:47:15 ID:.Qy3EogM0


(´・ω・`) 「上か……」


違和感を感じたのは部屋の広さ。
四方の幅に比べて、天井がずっと高い。
それに、足元が若干傾いていることに気づいた。

鋼の剣に青色砥粉を振り、高く放り投げる。
甲高い音がして、恐らくは隠蔽用の錬金術が壊れた。


現れたのは格子の填められた大きな窓。
あそこから"餌"が投げ入れられ、水を流すことで汚れを落としていたのか。
となると今まで歩いてきた場所はかなり汚かったわけか…………。

まぁいい。

この化け物は上の窓から落とされた。
つまり上の部屋はどこか別の場所に通じているわけだ。

問題はどうやって上まで登るか……か。

735 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/08/22(金) 22:53:00 ID:.Qy3EogM0

ジャンプした程度じゃ到底届かないし、持っているもので使えそうなのは細い糸くらいか。

(´・ω・`) 「あー……」

あまりよくない方法を思いついた。
だけど躊躇っている時間がもったいない。

横に倒れたままの化け物の肩の骨を一つ切り落とす。
真ん中に穴をあけたそれを糸に結び、

(´・ω・`) 「よっと」

天井の格子に向かって投げ、三回目でひっかけることに成功した。
軽く引っ張ると、鉄格子が外れ、梯子が下りてくる。

(;´・ω・`) 「ふぅ…………」

梯子を登ってきたのは殺風景な小部屋。
武骨な木製の扉があるだけだ。
天井までは随分高かったが、今はどのくらいの高さだろうか。
登りきったところで、休憩をしようと、腰を下ろした瞬間、目の前の扉が開いた。


「飯を持ってき……誰だっ!?」

(;´・ω・`) 「っ!」

脱力していたせいで、動作が遅れる。
腰に下げた剣を抜く前に、首元に冷たい金属が当たっていた。

736 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/08/22(金) 22:56:34 ID:.Qy3EogM0

鍔は細かい銀の装飾がなされ、よく手入れされている。
城内ではそれなりの階級の人間だろう。

なにより狂戦士化していないということがその証明だ。

「何者だ?どうしてここにいる……モール殺したのは……お前か?」

下で倒れている化け物のことを言っているのだろう。
青年の顔から血の気が引いていく。

(´・ω・`) 「あれはなんだ……」

「あれじゃない……モールって名前があった」

(#´・ω・`) 「名前? あんな化け物を閉じ込めてペットにでもしたつもりか!
        あれの元になったのは人間だぞ!」

「知ってるさ! ……知ってる。どこからか連れてこられた子供だった……・。
 だから、こうして誰も与えたがらない食事を持ってきてるんだろうが。
 いや……そんなことはお前に関係ない。お前は一体誰だ? なぜここにいる?」

心臓が止まったかと思った。
それとは逆に、全身は一際強くなった血流を感じる。

737 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/08/22(金) 22:58:18 ID:.Qy3EogM0

(;´・ω・`) 「子供の名前は?」

「は?」

(#´・ω・`) 「下の化け物になった子供の名前を聞いている」

「知らん……質問しているのは俺の方だ」

喉元に押しつけられた刃に、少し力が入ったのを感じる。
正直、切られるのは別にかまわないが……。

(´-ω-`) 「……錬金術師のショボンだ」

「ショボン……悪いが牢まで来てもらう。先程も鼠が入り込んだようだからな。
 今この国は戦争中だ。盗みに入るのにはタイミングが悪かったな」

(´-ω-`) 「……知ってるよ」

「なっ?」

僅かに切っ先が緩んだ刀を右手で掴み、思いっきり引く。
青年はバランスを崩し、僕の指先から血が飛び散った。

(´・ω・`) 「君の主のところまで案内してくれるか?」

738 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/08/22(金) 23:03:21 ID:.Qy3EogM0

立場は逆転した。
前のめりになって両手をついている青年に、
左手で抜いた僕の剣が当たる。


「ッ…………」

(´・ω・`) 「君に用はない。が、城の中が全く分からなくて苦心していたところなんだ」

「断る。賊に教えることはない」

下にいる怪物の存在が僕に倒されたことを知っていても、頷かないか。
若者にしては見上げた忠誠心だ。

(´・ω・`) 「君を殺すことに躊躇いはない。玉座への道を教えろと言っている」

冷酷に聞こえるように、可能な限り冷めた目で青年を見つめる。
殺すつもりなど毛頭ないけれど、こうでも言わなければ言うことはきかないだろう。

「………………せ」

(´・ω・`) 「なに?」

「殺すなら殺せ。俺はセント領主様に忠誠を誓った。あの人が今何をしているかは知っている。
 知っているが、それがどんな事であろうと俺は領主様についていくだけだ」

739 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/08/22(金) 23:07:50 ID:.Qy3EogM0

(´・ω・`) 「……………」

(´-ω-`) 「はぁ………わかった。もういい。君には聞かない」

ここまで脅しても無駄なら、もうやめだ。
自力で玉座を探しても、そこまで大した手間にはならないだろう。
殺意を収めて剣を鞘にしまった。

腰が抜けたのか、青年は口を開けたまま放心状態になっている。

(´・ω・`) 「どいてくれ」

声をかけたことで立ち直ったのか、青年は、僕を睨みつけ扉を背にしたまま動かない。
僕の指の怪我が治っていることにはまだ気づいていないのか、
それともただ強情なだけの馬鹿なのか。


僕に剣を向けたまま動かない。

740 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/08/22(金) 23:11:05 ID:.Qy3EogM0


「行かせるわけにはいかな(#´・ω・`) 「黙れ」

(´・ω・`) 「君がセント領主のことをどう思おうが関係ない。
       重要なのはセント領主家が錬金術を悪用して、戦争を始めたということだけだ」

「それがどうし……」

(´・ω・`) 「君たちのやっている研究は危険すぎるんだよ。
       無茶な実験で自分達だけ勝手に滅びるんなら、残念だとは思うけど手出しはしない。
       他国を攻め、赤の他人を犠牲にし、無関係の人間を殺す。
       それは許せない」

「許せない?神になったつもりかよ!」


ゆっくりと右手を開いて見せた。
刀身を握って、引っ張った手を。
それは、傷つき、血が流れているはずの手。


「!」


(´・ω・`) 「確かに僕は神じゃない。僕にこの戦争を止める権利はないかもしれない。
       だけど、僕の意思で止めに来た。
       君達に捕まった知り合いのために、多くの人が暮らすこの地方の人のために」

741 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/08/22(金) 23:13:43 ID:.Qy3EogM0

「化け……物……」

(´・ω・`) 「久しぶりに言われて実感したよ。どんなに似ていても、やっぱり僕は人間じゃない。
       だけど……いや、だからこそ、人間を守りたいと思うんだよ……かけがえのない命をね……。
       どいてくれるか?」

青年にもう抵抗する気力は残っていないようだった。
腰を落として屈み、俯いたまま動かない。

それは"肯定"ではないだろう。
だからと言って通るのを躊躇ったりはしない。

(´・ω・`) 「……セント領主だって、できれば殺したくはない。
       何事もないまま話が終わることを望んでいるよ」

間違いなくそう簡単には終わらないだろうが、せめてもの慰めの言葉として置いていく。

(´・ω・`) (…………ふぅ)

扉の先は同じような部屋。
ただし、その部屋の床に格子は無かったが。

狭く曲がった廊下といくつかの扉を通って、僕は現在地をやっと理解した。
先程まで騒がしかったはずの城内は、いつの間にか不気味なほど静まりかえっている。

742 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/08/22(金) 23:16:09 ID:.Qy3EogM0


────────── エントランス。


巨大なシャンデリアに飾られた豪華な場所──だったのだろう。


趣味の悪い白銀の鎧が無数に並ぶ大広間には、
まるで台風が過ぎ去ったあとかのように荒れていた。

いくつかの鎧は無残に溶け、砕けたまま放置されている。
高級そうな真っ赤な絨毯は所々破れ、散らばっていた。

僕が出てきたのはエントランスに繋がる二階通路の一番端、
扉は大きな絵で覆われていて、こちら側に至る道を隠していた。

(´・ω・`) (ブーンか……)

鎧の溶け方は尋常じゃない。
これだけの破壊を容易く行うことができるのは、ブーンの長槍くらいだろう。

なぜか敵の姿はなく、人の気配すら感じない。
人通りの多いエントランスを無人にして、
なおかつ罠を仕掛けるメリットは少ないが……。

僕らの襲撃が想定外のものだったとしても、
ブーンが見つかった後ですら警戒されていないのはおかしい。

743 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/08/22(金) 23:19:19 ID:.Qy3EogM0


エントランスから二階に伸びた幅広の階段は三叉にわかれている。
二つはこの二階の両側に、一番大きな真ん中の一つは三階へ。

そこにある両開き扉は、金属製で派手な彫刻に飾られている。
あれだけの鋼鉄を加工するには相当の技術がいるはずだが、
セント領主家が製鉄技術に優れているという話は聞いていない。

それならば、錬金術で加工したものだろう。

なにか仕掛けがあると考えた方がいいだろうな。

覚悟を決めて、二階から階段を中央に向かう。
三階へあがるための一歩目を踏み出した時、部屋の中で一つの音がなった。




そちらに振り向いたときにはもう、遅かった。


飛んできた"何か"が僕の腹を貫き、縫い付けるかのごとく階段に突き刺っていた。

744 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/08/22(金) 23:23:22 ID:.Qy3EogM0



(メ;´・ω・`) 「ぐうぅぅうぅ…………」



「来ると思ってたぜぇ、ショボン。ブーンくんには逃げられちまったけどな」


無理に体をひねって声の方に向く。
腹の傷は拡がったそばから回復する。
真後ろ、一階のど真ん中にジョルジュは立っていた。

(;´・ω・`) 「なっ……!?」

隠れる場所など何一つなかったし、人の気配は感じなかった。
錬金術を用いて隠れていたのなら、少しはそれを感じてもおかしくないはずだ。
  _
( ゚∀゚) 「驚いてるな。待ってたかいがあったぜ」

クールの前で会った時とは違う。
明らかに戦闘用の装備で固めていた。

返り血だろうか。
黒ずんだぼろ布のようなローブを被り、投擲用の細い槍が彼の周りに突き刺さっている。
僕の腹を貫いているのと全く同じものだ。

745 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/08/22(金) 23:25:40 ID:.Qy3EogM0


青色砥粉を振った剣で、槍の真ん中を切り落とし磔から抜け出す。
ジョルジュは邪魔をすることなく、ただ見ていただけだった。

(´・ω・`) 「どうして人間を庇う?」

ジョルジュにとって人間はただの研究対象でしかなかったはずだ。
少なくとも僕らと別れるまでは。
あれから数えられないほどの年月が過ぎたが、それがジョルジュを変えたとは思えない。

だから問うた。
重要なことでないのならわざわざ隠しはしない、と思う。
  _
( ゚∀゚) 「ちょっとした時間稼ぎだよ。頼まれたんでな」

(´・ω・`) 「は?」
  _
( ゚∀゚) 「もうすぐなんだと。オレの目標はある程度達成されてる。
      錬金術師の爺の目的が終わったら、オレがこの地の問題は全部綺麗に片づける。
      それでいいじゃねぇか」

746 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/08/22(金) 23:29:46 ID:.Qy3EogM0

(´・ω・`) 「……お前の言う"片づける"の意味は、僕の考えとは真逆だと思うが?」
  _
( ゚∀゚) 「そうだろうな、人間嫌いのオレと人間好きのショボンじゃあ、
      何をやっても結果は逆になるだろうさ」

つまり、ジョルジュはこう言いたいわけだ。
"研究が終われば、この地を滅ぼす"と。

(´・ω・`) 「黙って見過ごすわけにはいかないのは、言わなくてもわかるだろ?」
  _
( ゚∀゚) 「…………まぁ、そうなるか。いいよ、昔の恨みもあるし、無理やり黙らせるまで……よっ!」

言葉の終わりと同時に、槍の一本を地面から抜くジョルジュ。
投げられた槍の速度は、想像の範疇から外れていた。

(;´・ω・`) 「っ!」

なんとか飛来した槍を跳ね上げる。
槍は天井に突き刺さったまま、落ちてこない。
  _
( ゚∀゚) 「最軽量の金属で作った投げ槍だ。反応できさえすれば弾かれちまうのは問題だがな」

(;´・ω・`) 「鍛冶錬金術は……そんなに簡単なもんじゃないだろ……」

747 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/08/22(金) 23:35:35 ID:.Qy3EogM0
  _
( ゚∀゚) 「ショボンも持ってるじゃねぇか。腰のそれ、だろ?
      どっちの技術が上か試してみるか?」

僕のはただの借り物であって、理論の欠片も知らないんだがな。
他に鍛冶錬金術を使ってる人間は一人しか見たことが無いし、
ハートクラフトの腕前が全体でどれほどなのかはわからない。

これだってどれほどの効果があるのか……。
だけど今はこれに頼るしかない。
  _
( ゚∀゚) 「いくぜっ」

一気に距離を詰めてきたジョルジュの武器は、赤と青で対照的な装飾をされたダガーナイフ。
形こそ一般的なものと大差ないが、先ほどの自信から、
相当な効果を有しているであろうことは想像に難くない。

(;´・ω・`) 「っ!」

クールから預かった双剣を抜く。
青色砥粉は戦闘中に幾度も使うことはできないし、
双剣はホムンクルスにも一定の効果があることは間違いない。

748 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/08/22(金) 23:37:23 ID:.Qy3EogM0

初撃でジョルジュの右ダガーと僕の左剣が交差した。
ぶつけた側はそのままに逆の手を振りおろす。

三、四、五回と剣戟が続く。
質量で勝っているはずにも拘らず、同じように弾かれる。
  _
( ゚∀゚) 「このくらいで驚くなよ。見た目以上に重いんだぜ」


一瞬の後に交差した剣。
僕の右剣はジョルジュの頬を裂き、ダガーは僕の腕を掠った。

(メ´・ω・`) 「!?」

切られた右手の異常な痛みに、思わず数歩飛び下がる。
電気で痺れかたように、指が動かない。
ジョルジュは槍の刺さっている場所にまで戻っていた。
  _
( ゚∀゚) 「面白ぇだろ?」

腕の傷は紫色に変化していた。
まるで凍傷でも起こしたかのように。

斬られたのは青色のダガーか……。

(´・ω・`) 「冷凍剣とでも言えばいいのか?」
  _
( ゚∀゚) 「名前はつけてねぇよ。まぁそういうこった」

749 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/08/22(金) 23:38:34 ID:.Qy3EogM0

つまり反対側の左手に持っている赤のダガーの効能は、熱か。
ブーンの"溶解する槍"のように速度や質量を使っているようには見えない。

ということは、ダガー自体に氷と炎の力が内蔵されている可能性が高いな。

(´・ω・`) 「器用な武器だな」
  _
( ゚∀゚) 「そっちもな。ショボンのそれ、欲しいぜ。再生力を削り取る剣か。
      それは俺にはまだ作れねぇな……」

回復がわずかに遅い頬の傷を抑えながら言った。
とはいえ、数秒もすれば跡形もなくなる。

武器の性能ではこちらの方が優秀のようだが……。
  _
( ゚∀゚) 「ほっ! とっ!」

間をあければ、二本、三本の槍が連続して飛んでくる。
右手、左手と順に使って弾く。

750 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/08/22(金) 23:41:39 ID:.Qy3EogM0

(;´・ω・`) 「くそっ」

腰に結んだ小型のナイフが唯一の投擲武器だが、確実に当てる自信はない。
だが、この武器では致命傷を与えることはできない。
  _
( ゚∀゚) 「こいつも改良の余地ありだな」

最後の一本をジョルジュが構えた。
一か八か。

(´・ω・`) 「ふっ!」 

両手の双剣をその場に突き刺し、十枚の小型のナイフを投げた。
ジョルジュの槍に三枚のナイフが弾かれ、一枚だけが腕に突き刺さった。
残りはバラバラの方向に飛んでいく。
慣れない投擲は、しかしおもったよりうまくいった。

  _
( ゚∀゚) 「普通のナイフ……じゃねぇけど……毒でもない……か。
      一体何のつもりだったんだ?」

(メ´ ω・`) 「ごほっ……」 

こんな短期間で二回も串刺しにされるとはね。
だけど…………。

751 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/08/22(金) 23:42:53 ID:.Qy3EogM0
  _
( ゚∀゚) 「さっきの光る粉も見せてほしいんだ。もっかい使ってくれよ」

たった数度剣を交わしただけでわかった。

僕らの勝負はつきそうにない。
それはジョルジュもよくわかっていたようだ。

かといって、説得でジョルジュが諦める可能性は当然ゼロだ。。
  _
( ゚∀゚) 「もう諦めたのか?」

(´・ω・`) 「僕は扉の向こうに通してもらわないと困るんだ」
  _
( ゚∀゚) 「それなら、全てが終わるまで戦い続けるか。
      それもまた面白ぇかもな」

(´・ω・`) 「…………」
  _
( ゚∀゚) 「お互いに手詰まりだな。ま、オレは膠着状態の方が望ましいが……。
      あぁ、心配しなくていい。別に部下を集めようなんて思っちゃいねぇ。
      あいつらには、ここには来るなと、くぎを刺しておいたからな」

752 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/08/22(金) 23:44:06 ID:.Qy3EogM0

(´・ω・`) 「お気づかいどうも」
  _
( ゚∀゚) 「ただこうして立ってるだけじゃ暇だな。昔の話でもしようか
      俺がお前に捨てられた後の話だ、ショボン」

唐突にジョルジュは話し始めた。
本当にただの暇つぶしかもしれないし、僕に言いたいことがあったのかもしれない。
ダガーは両の手に握ったまま、警戒を緩めた様子はない。
  _
( ゚∀゚) 「オレが捨たれたという事実にはすぐ気付いたさ。
      帰った家には人の声もなく、温かさの欠片すらなかった。
      いずれこうなるであろうことは予想してたが、それよりは早かったな。
      体も頭も大人そのものだ。一人で生きていくのに不便なことはそうなかったぜ」

(´・ω・`) 「ペラペラしゃべってると舌をかむぞ」

  _
( ゚∀゚) 「何を言って……!」

音も立てずに天井から落ちてきたのは、巨大なガラスの塊。
シャンデリアと呼ばれる吊り下げ型の照明器具。
  _
(  ∀ ) 「ぎっ……」

それがジョルジュを頭から押しつぶし、意識を奪う。
全身の骨が砕かれ、真っ赤な血液と肉片が飛び散る。

が、それも一瞬ですぐにジョルジュの体は再生を始める。
無残に破壊された人体が再生するのを見るのは、気持ちいものではないな。

753 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/08/22(金) 23:46:40 ID:.Qy3EogM0


ジョルジュの握っていた青いダガーを脊髄に叩き込んで、楔のように地面に打ち込んだ。
それはいとも容易く喉を貫通し、刀身が床にまで達する。

(´・ω・`) 「しばらくそのままでいてもらうよ」

これですぐには動けない。
再生しようにも、ダガーの冷凍能力がそれを阻害する。

能力の原理はわからないが、温度を奪う"何か"がダガーに用いられているに違いない。
それが反応しなくなるまで、……どのくらいかかるかわからないが、時間稼ぎにはなる。

(´・ω・`) 「さて、行くか」

幅広の階段を三階まで真っ直ぐ登る。
鉄の扉は、押すだけで簡単に開いた。

大きな音を立てて、ゆっくりと動く。
城内にいる兵士達は、まだ現れない。

それがジョルジュのせいなのか、それとも他に理由があってなのかは分からないが。


「ああ、やっぱりきたか。ジョルジュから話は聞いていたよ」

754 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/08/22(金) 23:49:38 ID:.Qy3EogM0


大部屋は玉座までの赤い絨毯があるだけの質素なもの。
金銀宝石の装飾は一つもなく、武器を携えた兵士もいない。
そこには狂戦士達の姿も見えなかった。

たった二人。

寂れた玉座に腰掛け、ローブを目深に被った男と

薄汚れたローブを着た錬金術師の男。

明かりの落ちた部屋で、僕は二人に出迎えられた。
まるで、旧友に対するそれのように。

僕が何をしに来たか、それを知らないはずなどない。
稲光が不気味に部屋を照らす。

数秒の後に爆音。
静かな王室を揺るがすかのように響く。





天気は……ついに崩れたようだ。

755 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/08/22(金) 23:52:35 ID:.Qy3EogM0

(’e’) 「お久しぶりですね、ホムンクルスの青年」

そんなことはまるで意に介さないかのように、かつて見た錬金術師の男は言った。
その男が片手をあげると、玉座の間の入り口が上から降りてきた鉄格子で閉ざされた。

(´・ω・`) 「僕が来るのはわかってたと?」

逃げ道はふさがれたが、ほかに仕掛けがあるようにも思えない。
少なくとも、この部屋の中には。

(’e’) 「ジョルジュという錬金術師も意外と使えませんね
     あれほど大見得を切って出て行ったのに。
      ……まぁいいでしょう、十分な研究結果は得ることができました」

(´・ω・`) 「話し合いで解決できるとは思っていないが……。
        ……軍を撤退させろ。錬金術による人体強化の研究もやめてもらおう」

(’e’) 「あなた自身がわかっているようですが、それにこたえるつもりはありませんよ。
     我々の研究は既に佳境に入っています。
     錬金術による究極の生物を作り出すという、ね」

756 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/08/22(金) 23:53:32 ID:.Qy3EogM0

(´・ω・`) (究極の生物……?)

何らかの違和感を感じる。
なぜジョルジュは兵を使わなかった……?
時間稼ぎをするならば、自らが相手するよりもずっと効率がいい。

究極の生物。
ジョルジュは本当にそんなものを目指していただろうか。

(´・ω・`) 「話が見えないな」

(’e’) 「これから死ぬあなたには関係の無い話です。
     ですが、そうですね。私達の当初の目的はホムンクルスを作り出すことでした。
     この案を持ってきたのはジョルジュと言う錬金術師。およそ30年ほど前のことでしょうか。

三十年前か……。
僕がまだ南方にいたころだ。

757 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/08/22(金) 23:55:05 ID:.Qy3EogM0

(’e’) 「ジョルジュは未だホムンクルスに拘っているようですが、
     私たちは早々に見切りをつけました。不老不死は……あまりにも遠すぎました」

(´・ω・`) 「そうだろうな。ホムンクルスがそんな簡単に生み出せるわけが無い」

(’e’) 「……あなたに言われるとなんとも憤りを感じますが……まぁいいでしょう。
     後でゆっくりと聞かせてもらいます」



何の能力もない普通の剣を鞘から抜き、構える。
今はジョルジュのことなど関係ない。

目の前の相手を何とかするのが先だ。

(’e’) 「ふふふ……ホムンクルスは記憶力が弱いのですか?」

男が取り出したのは液体の入った小瓶。
黒い靄がその中でゆらゆらと揺れている。

(´・ω・`) 「……」

758 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/08/22(金) 23:56:44 ID:.Qy3EogM0

(’e’) 「あなたが以前受けた薬を改良したものです。
     その効果は身をもって体感していただきましょう」

指の間からするりと落ちた小瓶は、小さな音を立てて割れた。
黒い靄は空気と反応したのか、白い霧のようになって玉座の間を一瞬で埋め尽くす。
錬金術師の男も、玉座に座っていたローブの男も、見えなくなった。

(;´・ω・`) 「っ!」

咄嗟に両眼を覆う。
だが、その行動には意味が無かった。

(’e’) 「前回は液体でしたから、直接相手の眼球に作用させる必要がありました。
     ですが、今回は気体ですから防ぐことはできません」

向こうからはこちらの姿は見えているのだろうか。

(;´-ω-`) 「そう、みたい、だな……」

(’e’) 「ふふふ……強がっていられるのも今のうちです。
    前回のように上下左右反転させるような遊びではありません。
    あなたのもがき苦しむさまが見えないのは残念ですがね」

確かにその通りだった。
世界が、吐き気を催すほどにうねっている。

759 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/08/22(金) 23:58:37 ID:.Qy3EogM0

(;´・ω-`) 「うぐぐ……」

いびつな迷路に迷い込んだような視界と、頭の中を直接混ぜられるかのような頭痛。
煙の向こうから男の声がくぐもって聞こえる。

(’e’) 「っと、ホムンクルスの再生力を甘く見てはいけませんね。
    すぐにとどめを刺してあげましょう」


足音がゆっくりと近づいてくる。
相手からは僕の姿が完璧にとらえられていない。
それなら……


(´ ω `) 「……考えていたさ」

(’e’) 「は?」

(´-ω・`) 「ホムンクルスである僕を封じ込める方法を考えているだろうことは。
       それが五感を揺るがすものであるだろうということは」

760 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/08/23(土) 00:03:12 ID:rx7LRW/M0

(’e’) 「……強がりを! 現にあなたは何も対策が打ててはいないではないですか!」

五感に作用する錬金術は強力だ。
それぞれに影響を与える方法は無数にあり、生半可な対策では意味が無い。
なおかつ、攻撃を受けた後に対処することは不可能に近い。

逆に自らの術に対する防御は容易い。
この錬金術師も、座して待つ男も、なんらかの対抗手段を用いているはずだ。

(´・ω・`) 「だけど簡単だ。本当に簡単なことなんだ」

(;’e’) 「うっ!???」

男がうめき声をあげる。
どうやらうまくいったらしい。

知識において錬金術師が、いやホムンクルスが劣ることなどありえない。
無数にある原因に対処することよりも、なお簡易な手段。
より強力な効果で上書きしてしまうこと。

(´・ω・`) 「……夢宿り木の白液果。あなたも錬金術師の端くれなら、知っているんじゃないか。
       強力な睡眠作用を持つこの素材は、
       特定の条件で摂取することで非常に強力な、精神や神経の働きを落ち着ける薬にもなる」

761 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/08/23(土) 00:08:22 ID:rx7LRW/M0


即ちそれは、多量の塩分と同時摂取すること。
城の地下で見つけた食糧庫には、大量の保存食が蓄えられていた。
その中にはもちろん、人間の生活に最も重要な塩もあった。

(;’e’) 「いつの間に……」

(´・ω・`) 「自分達が影響を受けないのなら、視界をふさいでしまったのは明らかな失敗だな。
       そして、今、あなたの首に巻きついているのは、ただの糸じゃない」

視界が正常に落ち着いてすぐ、僕は矢を射た。
一本目の矢に結び付けられている糸は、地面に垂らしたままにしておく。
部屋全体に蔓延する煙で、男の目は足元にむかない。

そして、錬金術師が糸を踏み越えたのを確認して、二の矢を男の左奥、天井に向けて放つ。
二つ目の矢に糸は固定せず、穴に通しておくだけでよかった。
手元に残った糸を引けば、即席の首吊り仕掛けになる。

(;’e’) 「はっ……はぁっ……い……息が……」

(´・ω・`) 「このまま強く引けば、あなたの首を落とすことも容易い」

(;’e’) 「た、頼む……たす……け」

(´・ω・`) 「自分勝手に多くの人の命を奪い、これからも同じようにしようとしている。
       そんな男を野放しにしておくほど、僕は楽観主義じゃあない」

762 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/08/23(土) 00:09:32 ID:rx7LRW/M0

ほんの少し、指の力を強めた。
首を吊るされた錬金術師は、すぐに意識を失った。

その時はじめて、玉座に座った男が口を開いたように思う。
もしかしたら、ずっと前からつぶやいていたのかもしれないが、
少なくとも、内容がはっきりと聞き取れたのはその時が最初だった。


「無事……私の……息子……彼は……あれは……元気……無事……」


一つ一つの言葉を、ゆっくりと吐き出していく。
その羅列から、その男が誰なのかがすぐに察しがついた。

(´・ω・`) 「モララルドの……父君ですか?」

「モララルド……元気……モララル、ド……そう……モラ……」

会話は成立しない。
彼は、ただ、人の存在を感じて言葉を紡いでるだけだった。

763 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/08/23(土) 00:10:14 ID:rx7LRW/M0

(´・ω・`) 「……帰りましょう、モララルドが心配しています」

肩にそっと手をかけた瞬間



(´・ω・`) 「…………え?」



その男は、真っ赤な血の塊を吐き出し、それ以上何かを口にすることはなかった。
ゆっくりと、人形が倒れるかのように、椅子から転がり落ちる。


真っ赤な血に汚れた僕は、聞き慣れた声に名前を呼ばれて振り返る。
部屋の入り口、その鉄格子の向こうに十三代目らしき女性を背負ったブーンがいた。

そして、僕のすぐ後ろに一人立っていたのは、少年。

764 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/08/23(土) 00:12:14 ID:rx7LRW/M0


(;・ー・) 「…………父……さ……ん……?」


問いかけに答えるものはいない。


(; ー ) 「…………」


少年は、ゆっくりと歩み寄る。
最後にあった時から変わり果てているであろう、父の骸に。

765 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/08/23(土) 00:13:33 ID:rx7LRW/M0








(#^ω^) 「ショボン!! 後ろだお!!!!」



ブーンの叫び声で現実に引き戻される。
だが、遅かった。


意識を取り戻した錬金術師の持った刀が、僕を貫いていた。
腹から、喉まで、引き裂かれる。

回復を待ってはくれない。
膝をついた僕は、襟を捕まれはるか後方へと投げられたのだろう。

全身に激しい衝撃を受け、窓ガラスを枠ごと破壊しながら。
身体が止まったのは、バルコニーの欄干にぶつかったからか。

(´ ω `)  「ぐ……ふっ……」

766 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/08/23(土) 00:18:42 ID:rx7LRW/M0


(’e’) 「おお、なんと非常な。罪のない男を殺すなど」



……何を言っている?


(’e’) 「やはりホムンクルス。人間とは異なる化け物。
     退治せねばなるまい」



……僕は何もしていない

反論をしようにも、引き裂かれた喉から息が漏れるだけだった。
冷たい雨が、体の芯まで染み込んでくる。


(’e’) 「捉えるのはあっちのトロそうなほうだけでいいか。
     いざとなればジョルジュを利用しても構わないしな」


(’e’) 「さらばだ、ホムンクルスよ」



視界が真っ白に染まり、世界を揺らすような雷鳴が轟いた。
身体は浮遊感を得て、意識は遠ざかっていく。





宙に投げ出された僕が最後に見たのは、光なき双眸で冷たく見下ろしている少年の姿だった。

767 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2014/08/23(土) 00:19:57 ID:rx7LRW/M0











15 ホムンクルスと城郭の結末  End


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