(´・ω・`) ホムンクルスは生きるようです
595 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/11/29(木) 22:16:58 ID:wkn7qhfA0












14 ホムンクルスと深夜の邂逅

596 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/11/29(木) 22:17:42 ID:wkn7qhfA0

日夜馬を駆けさせ、途中の村で馬を交換し、また走ると日々が続いた。
本来なら五日かかる道を、たった三日の強行軍でクルラシア国内に辿り着く。

グラント王侯領との国境には、低い柵が長々と続いている。
繰り返された領土戦の末、暫定的にひかれたものが今でも残っているからだ。
沈む夕日に照らされて柵の影は長くのびていた。

これなら期限には間に合う。
そう信じるだけの時間的余裕はできていたが、それでも不安は拭えなかった。

そしてそれは、見事に的中する。
国内最東端にある村から、村人たちが長い列を作って西に向かっていた。
村の中では男達が鎧を着て集まっている。

(;´・ω・`) 「なぜ……」

僕らはこれからクルラシア自治国と同盟を結ぶ予定なのだ。
セント領主家の侵略準備の話を知っていたとは思えない。

狂戦士たちを生み出す実験は、クナドよりさらに東の教会で行われていたし、
例えその話がクルラシアに入ってきていたとしても、それがセント領主家とは繋がらないはずだ。

597 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/11/29(木) 22:19:18 ID:wkn7qhfA0

だけど国内が未だ荒れているクルラシア国に、他国を攻めるだけの力があるとは思えない。

〔 !゚ U゚!〕 「ふむ……聞いてみればいい」

僕らは進行方向を曲げ、村の中に入っていく。
兵士たちは僕らに驚き、武器を構えたが、
ハートクラフトは躊躇うことなく、武装した住人に話しかけた。

〔 !゚ U゚!〕 「なぜ戦の準備をしている?」

「……旅の人か? クルラシアは現在、自治領になっているのは知っているだろう?
 昔この領土を治めていた君主が今再び攻めてこようとしているらしい」

〔 !゚ U゚!〕 「以前の王家は滅んだと言う風に聞いているが」

「息子が一人、逃げのびて生きていたようだ。
 そして西の国と手を組み、この地方の再統治を目指している」

クルラシアのさらに西と言えば、ネールラントか。
領土の広さでいえば同じくらいであるが、兵の錬度は桁違いなはず。
寄せ集めの軍隊では対抗できないだろう。

(´-ω-`) 「……このタイミングか」

598 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/11/29(木) 22:20:36 ID:wkn7qhfA0

悪い、とも良い、とも言えない。
一つは、クルラシア国が西側と向き合うために、背後の安全を確保する必要がある。
そのために、僕らの目指している同盟は比較的容易に受けてもらえるだろう。

だが、西側に戦力を割くため、セント領主家の攻略に兵を十分に出せない。
さらにもし万が一、クルラシア全土がネールラントの支配下になってしまえば、
この地が一気に混乱に陥ってしまう。

領土拡大を目指すグラント、ネールラントの二国が正面からぶつかれば、
大量の血が流れることは免れない。
それに加えて、セント領主家と言う曲者までいる。

そうなってしまえば、大陸北部全土に戦火が広がってしまう。

どこかで……小さな戦いの内に止めなければ……。

〔 !゚ U゚!〕 「まずは同盟を結ぶのが先決だ、青年。
        議会はどこに居を構えている?」

「西に三日と少しほど道を行ったところにある都市に、議会場がある」

〔 !゚ U゚!〕 「そうか、助かった」

599 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/11/29(木) 22:21:40 ID:wkn7qhfA0

三日……か。
今からではどう考えても間に合わない。

(´・ω・`) (どうすればいい……。いっそのこと、了承の旨だけをオラト、グラント両国に送るか……?)

失敗すれば、両国の信頼を失い、大戦争を引き起こす引き金になる。
だが、このままでは何もできずに終わってしまう。

〔 !゚ U゚!〕 「苦しいな……協力は得られないだろうが、同盟は結べるはずだ。
       後はどうやって議会の決定と思わせるか……」

(´・ω・`) 「議会の決定だと何か印でもあるんですか?」

〔 !゚ U゚!〕 「認証印がある。それがなければグラント王も信じてはくれないだろうな」

認証印だけが別の地にあるとは考えづらい。
複数個存在しているだろうが、所持しているのは各代表くらいだろうか。

各地にいる代表が一人一個持っていればことはすぐに済むのはずだったのだが……。
それだけ大事なものがいくつもあるわけがない。
代表の内でも限られた人間しか持っていないだろう。

600 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/11/29(木) 22:23:09 ID:wkn7qhfA0

(;´・ω・`) 「どうしましょうか」

〔 !゚ U゚!〕 「この地区の代表を探そう。代表の宿舎が近くにあるはずだ」

戦争の準備で忙しいとはいえ、代表が直接前線で戦うとは考えにくい。
どちらかと言うと、兵糧や防衛戦略など、指揮系統の役目を果たすのが普通だ。
それならば、どこかの建物にいる可能性が高い。

〔 !゚ U゚!〕 「すまない、この地区の代表はどこにいるのだろうか?」

再び住民を捕まえて話しかける。
酷く迷惑そうにしていたが、質問には答えてくれた。

「……今は代表会議に出発している。今頃は議会場にいるのではないだろうか」

〔 !゚ U゚!〕 「……何度も済まない」

「他に質問は? 何度も声を掛けられては迷惑だ……」

〔 !゚ U゚!〕 「ああ、ありがとう」

601 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/11/29(木) 22:25:09 ID:wkn7qhfA0

男は走り去って行った。
結局、ここには同盟を結べるほどの人物がいないとこだけがわかった。

(´・ω・`) 「期限は……厳しいですね……」

〔 !゚ U゚!〕 「ああ……」

(´・ω・`) 「とりあえず、グラント王に便りを送り、議会場に向かうしかないように思えますが……」

僅かな可能性に縋るしかない。
王の気まぐれで、期限が延びる可能性に。

〔 !゚ U゚!〕 「まだ一日の余裕がある。すぐに手紙を書く必要はない……が、どうするか」

しばしの無言の後、覚悟を決めたかのようにハートクラフトは口を開いた。

〔 !゚ U゚!〕 「別行動をしよう」

(´・ω・`) 「別行動……ですか?」

〔 !゚ U゚!〕 「ショボンはこのまま議会場に向かえ。
        拙者は引き返し、オラト国境で犠牲を最低限に抑えながら時間を稼ぐ」

602 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/11/29(木) 22:26:33 ID:wkn7qhfA0

確かにクルラシアとの同盟は他の二国と違い、
ハートクラフトの信頼に頼る必要はない。

余程のことが無い限り、僕でもすんなりと結べるはずだ。

(;´・ω・`) 「危険すぎます」

だが、一旦戦争が始まってしまえば、
仮に同盟成立の書を届けたとしてもグラント国が手を引くかどうかはわからないし、
オラト国が同盟に加盟したままでいてくれるかも不明だ。

〔 !゚ U゚!〕 「それしか手が無いだろう。他に案があるなら聞くが」

(´-ω-`) 「…………」

ハートクラフトの言うとおりだ。
他に方法はない。
それでセント領主家の周りの混乱は最低限で防げるはずだ。

(´・ω・`) 「では……ネールラントはどうしましょうか」

〔 !゚ U゚!〕 「それは……うむ……」

603 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/11/29(木) 22:27:29 ID:wkn7qhfA0

クルラシア自治区だけではどう考えても対抗できない。
侵略を完遂させるのにひと月もいらないだろう。

〔 !゚ U゚!〕 「……それはショボン、任せる」

(;´・ω・`) 「え?」

〔 !゚ U゚!〕 「ああ、それとな。これを持っていけ」

手渡されたのは見た目に反してやけに重たい革袋。
口紐をほどくと、中には銀色の粉が入っていた。

(´・ω・`) 「これは……?」

〔 !゚ U゚!〕 「青色砥粉っていってな……拙者が考えた即興鍛冶錬金術だ」

(´・ω・`) 「即興……?」

〔 !゚ U゚!〕 「剣に付着すると、青色砥粉の場合、その鋭さを極限まで高めてくれる。
        その分、剣の寿命も縮まるから多用はできないがな」

604 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/11/29(木) 22:28:49 ID:wkn7qhfA0

(´・ω・`) 「ありがとうございます」

〔 !゚ U゚!〕 「ではっ! 良い案がでたら連絡をよこそう!」

それだけ言うとハートクラフトは来た道を引き返し始めた。
腰に革袋を結んでいた僕が声をかける間もなく、夜の中に消えて行った。

(;´・ω・`)「嘘だろ……?」

後に残された僕は考えることも忘れ立ち尽くしていた。
数分後、おそらくそのくらいだろうとは思うが、
我に返り、今後のことについて計画を立てる。

(´・ω・`) (まずは、クルラシアを同盟に引き込むことだ。
       可能ならば、戦力を割いてほしいところだが、おそらく不可能だろう)

目指すべき議会場はこのまま西に向かったところにある。
正確な場所は聞いていないが、道沿いというなら簡単だ。

605 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/11/29(木) 22:30:11 ID:wkn7qhfA0

(´・ω・`) 「行くか……」

気持ちを入れなおし、馬の頭を西に向ける。
うっすらと見える道を頼りに、議会場を目指す。

ただひたすらにまっすぐに続いている道だ。
途中、細い道が幾つも枝分かれしては闇向こうに消えて行く。

これらは小さな集落に続いているものだ。
こういう道を見ると寄り道をしてしまいたくなるが、今はその気持ちを抑える。

(´・ω・`) (ん……?)

ずっと静かだった世界に、小さな音が生まれた。
前に進むごとに、それはだんだん大きくなってくる。

(´・ω・`) 「水の音……」

セント領主家とクルラシア自治区を区切っているザクス川だ。
海からほぼ真南に伸びているそれは、グラント王侯領とセント領主家の境界付近で南西へと曲がっていく。
それに今ぶつかったところだろう。

606 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/11/29(木) 22:31:15 ID:wkn7qhfA0

道が整備されているように、重厚な橋が向こう岸へ延びていた。
流れは急で水量は多い。

先日の雨は、南の方でかなりふったのだろう。

(´・ω・`) 「そろそろ休むかい?」

橋を渡ってさらに数時間ほど走った。
跨っている馬の吐息が荒くなり、動きが少し遅くなってきていた。

話しかけてもこたえてはくれないけど、速度を緩め飛び降りると
安堵したかのように体を震わせた。

道の端で休憩していると、何回か早馬が駆けて行くのが見えた。
広大な領土の戦力を結集するための連絡をとっているところだろうか。

彼らの馬は普通の馬と違い速く走ることに長けている。
体力もあり、二周りほどサイズも大きいのだが、
大抵の国が連絡用に数頭所持しているだけで、個人で所有しているものは見たことが無い。

おそらくは錬金術でないかと疑っているが、調べる機会は今のところ持てていない。

(´・ω・`) 「…………さて、行こうか」

607 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/11/29(木) 22:33:14 ID:wkn7qhfA0

嫌な考えが浮かんでは消えて行くが、それを振り払って立ち上がる。
草を食んでいた馬を呼び戻し、さらに西を目指した。



・  ・  ・  ・  ・  ・



クルラシア領内に入ってからさらに二日目の夜が明け、
いくつかの村を横目に通り過ぎたころ、一際大きな集落が見えてきた。
そこは幾重もの石壁に囲まれた大都市で、アルグラントに匹敵するだけの大きさがあった。
外側には綺麗に区画整備された畑が広がっている。

(´・ω・`) 「ついたか……」

初めて訪れるそこは、都市全体が立体的な迷路のように特徴的な構造をしていた。
中心部に向かって段々に高くなっているで、一番高いところに見える大きな建物が議会場だろう。
薄く広がった丸い屋根は、門をくぐる前のここからでもよく見える。

夜通し走り続けたせいか、かなりの疲労感を感じるが休んでる暇はない。
すぐにでも代表たちと同盟の協議に入らなければ。

608 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/11/29(木) 22:34:54 ID:wkn7qhfA0

各地の代表が集まるだけのことはあり、町の外にはそれなりの人数が警備に当てられていた。

僕は隠れることもなく、堂々と道を歩いていく。
すぐに兵が来て、槍を向けて取り囲まれる。

「何者だ?」

(´・ω・`) 「……クナド領主国、オラト領主国、グラント王侯領からの使いです。
       クルラシア自治区の代表者たちに危急のお伝えがあってきました」

「今は代表会議中であるため、余所者を入れることはできない」

(´・ω・`) 「この地方の今後にかかわる重要な問題です。クナド領主様からの親書もあります」

旅行用に携帯している袋から取り出したのは、ハートクラフトから預かっていた親書。
王印が見えるように掲げる。

「……確認させてもらう。しばらく待て」

隊長らしき男の合図で、何人かが町の中に向かって走っていた。
指揮系統もできたばかりなのだろうか。
親書の確認で手間取るとは思ってもいなかった。

609 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/11/29(木) 22:36:45 ID:wkn7qhfA0

これでは騎士教会の力を借りても、ネールラントに勝つのはかなり難しいのではないだろうか。

「我が国はネールラントの侵略に抵抗するために厳戒態勢が敷かれている。
 すまないが、もうしばらくここで待ってていてほしい」

(´・ω・`) 「出来るだけ早く頼みます」

「仮に許可が下りたとしても何人か見張りをつけることになる。
 先日来た旅の男が町の中で騒ぎを起こしたのでな。悪く思わないでくれ」

(´・ω・`) 「構いませんよ」

いつの時代であろうと他人に迷惑をかける人間はいるものだ。
一人のせいでその他大勢が損をする。
腹立たしくはあるがどうすることもできない。

(´・ω・`) 「何があったんですか?」

「町の娘を妙な術で誑かしてな。今は牢に繋いでいる。
 本人は無罪だとわめいているが、大代表様がお決めになられることだ」

(´・ω・`) 「なるほど……」

610 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/11/29(木) 22:40:04 ID:wkn7qhfA0

そういった輩は望んで旅をしているのではなく、
自国で罪を犯し、国を追い出されて旅人となって仕方なくといったことが多い。

旅をするのは大変だ。
食糧や寝床の確保、旅の資金を手に入れること。
体力や精神力だって並み以上になければならない。

どれ一つ能力に欠けても、道中で行き倒れてしまうだろう。

しかし、旅先でも同じようなことを繰り返すとは……。

「戻ってきたようだ」

青年が息を整えながらこちらまで走ってくる。
随分しんどそうだが、議会場までの距離はそう遠くないはずだ。

連絡役すら適当に選ばれてるのだろうか。
クルラシアの今後が心配になってくる。

「今お会いすることはできないようですが、夜でしたら可能とのことです。
 何人か、護衛をつけてお迎えしろと」

「わかった。待たせてすまない。窮屈だとは思うが、何人かと行動を共にしてもらう。
 彼らに町を案内させよう」

(´・ω・`) 「ありがとうございます」

611 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/11/29(木) 22:42:12 ID:wkn7qhfA0

町の中には入れるようだが、夜まで待たないとダメか……。
だけど、状況は悪くない。
これなら今日中に協定が結べるだろう。
帰りには国家専用の駿馬を使わせてもらえば、グラント王侯領への連絡はギリギリ間に合いそうだ。

男達に連れられて、町の中に入った。
この国独特の家並びが僕を出迎える。

(´・ω・`) 「どうしてこんな複雑な建設方法をしているのですか?」

「戦争になった時に大群に攻め込めないよう、主要な道路と言うものを作らない構造なんです。
 こちらは地の利を生かしたゲリラ戦法と、高所からの狙撃ができるからです」

細い道を右に左に曲がっては、少しずつ中心に近づいていく。
一人で歩いていれば、すぐに迷子になるなるだろう。

「夜まで宿で待たれますか?」

(´・ω・`) 「いや……」

立体的に作られた構造の町は、歩いているだけでも楽しそうだ。
日が落ちるまではまだだいぶ時間がある。宿に泊まって待つのではもったいない。

(´・ω・`) 「議会場はもとは王城だったのですか?」

612 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/11/29(木) 22:43:50 ID:wkn7qhfA0

町の中からはたまにしか見えないが、歩いているといくつかの尖塔が立っていることに気づいた。
ただの議会場であれば、そのような飾りをつける必要はない。

「ええ。二十数年前まで王族が住んでいました。
 今では各地の代表の滞在中の拠り所として、
 そして民の憩いの場として利用されています」

(´・ω・`) 「なるほど……」

「議会場には入れませんが、庭園でしたらご案内できますよ?」

庭園に興味が無いわけではないが、それよりもやることがある。
町の中を少し歩いただけで観光は十分だ。

夜までの時間を無駄にしないためにも、今後の戦略を立てないと。

(´・ω・`) 「うーん……それもいいんだけど……尖塔には登れますか?
       あと、この辺の地図、戦力図が欲しいのですが」

「戦力図……ですか? それは旅の方には見せられないと思うのですが……。
 尖塔でしたら登れますよ。東西南北の四つの内どれがいいでしょうか」

(´・ω・`) 「それでしたら、地図を。それから西の尖塔でお願いします」

613 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/11/29(木) 22:45:13 ID:wkn7qhfA0

この町はクルラシア全体で見ても東側に位置している。
尖塔に上ったところでネールラントが見えるわけではないけれど、
この向こうに敵がいる、そういった意識は無駄ではないと思う。

セント領主家に対抗するための案は考えつくしたが、想定外の事態が進行していた。
対策を打たなければ、戦況は全部ひっくり返る。
ネールラントに対抗するための手段、セント領主家包囲網に必要な騎士、軍隊の最低数、
クルラシア自治区の戦力計算、錬金術の効果予測、敵進行予想ルート。

為すべきことは多い。

(´・ω・`) 「では、よろしく頼みます」

護衛のうち一人が地図を取りに行き、残りの二人と僕は尖塔に向かった。
階段を上ったり下りたりしながらも、ゆっくりと目的地に近づいていく。

余所者の僕からすると、やはり遠回りをしているようにも感じるけど、
これが最短ルートなんだろうな。
やっと尖塔の足元に辿りつき、狭い入り口をくぐって中に入る。

足場の不安定な螺旋状の長い階段を上り、頂上に出た。
縁に柵がしてあるだけで、開放的な空間になっている。

614 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/11/29(木) 22:46:43 ID:wkn7qhfA0

真ん中に円形の机が置かれ、その周りには椅子が六脚。
おそらくは、夜会用であろう燭台が、机の中心と天井を支える四つの支柱を飾っている。

(´・ω・`) 「地図を机の上に広げてください」

先程別れた一人が複数の紙の束を持って階段を上ってくるのを待ち、
燭台を隅に避けて机いっぱいに資料を広げてもらった。
最も大きな一枚はクルラシアの領土図。

クルラシア自治区中心部"議会場"と呼ばれているようだが、
ここを中心にクルラシア全土、そして一部隣国の集落が綿密に書き込まれている。

各地の人口データが書き込まれた小さい紙を手に、対応する場に駒を置いていく。
兵士の数と人口は大抵の場合において比例している。
これで大まかな戦力は把握できた。

(´・ω・`) 「かなり手の込んだ地図ですね」

615 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/11/29(木) 22:48:20 ID:wkn7qhfA0

地形が驚くほど精密に描かれている。
ここまで細かいのなら、正確性を疑う必要はなさそうだ。

「ええ、大代表が自ら製作されたものです。今後必要になるだろうから、と」

(´・ω・`) 「……随分、先見の明が御有りの様ですね。これに書き込みはしてもいいですか?」

「はい、写本は数多くありますので、こちらは差し上げます」

この辺りの地域の騎士総数はいくらだったか……。
クナド領主家に百余名、オラト領主家に同数。
グラント王侯領に三百ほど、セント領主家にはいなかったはずだ。

クルラシア自治区に五百ほど、全部でおよそ千と少しか。
地図に覚えている限りの人数と配置を書き込んでいく。

(´・ω・`) (全員を招集している時間はおそらくないな……)

セント領主家包囲網では騎士教会の協力は仰げるだろうが、
ネールラントの侵略に対する防衛はどうだろう。

616 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/11/29(木) 22:50:21 ID:wkn7qhfA0

騎士教会は国家間の争いには関与しないように決められている。
一つの国についてしまえば、その国が無くなった時に同時に消滅してしまう恐れがあるからだ。

このあたりのような田舎の地方では、安全維持のために派遣されているため、
その場合、彼らは国を守るために一定の力を貸してくれることにはなっているが……。

期待できない戦力を考えるのはよそう。
今ある力で何とか持ちこたえる方法を考えないと……。


(´・ω・`) (防衛ラインを引くならここか)

クルラシア領内を縦断するもう一つのセーン川、ザクス川に比べて水量が少ない分、幅が広い。
流水は錬金術を拡散させるのに便利だし、セーン川の西側の地は急な上り坂になっている。
遙か昔に作られた城壁も未だ残っているようだし、防衛拠点として申し分ない。
寡兵でもそれなりに持ちこたえられるはずだ。

さて……ここまではこの国の人間によって考えられているはずだ。

同じ土台にたったところで、僕がすべき、僕ができることを考える。
つまりは錬金術による作戦の提言。

617 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/11/29(木) 22:52:55 ID:wkn7qhfA0

煙幕などによる侵攻の妨害や、派手な効果を持つものによる陽動、脅し。
直接被害を与えるものでなければ、騎士教会も錬金術の使用も大目に見てくれるだろう。

(´・ω・`) 「戦争に参加できる錬金術師はどのくらいいますか?」

ダメ元で聞いてみる。
国に仕えている錬金術師は、そういない。
自由な研究を妨げられることもあるし、今回みたいに戦争に協力しなければならないからだ。
だからこそ、その情報は秘匿されていてしかるべきだ。

「すいません……」

(´・ω・`) 「ああ、いや大丈夫です」

その反面、安定した収入を得られる。
クルラシアほどの大国であれば、全くいないということはないだろう。

さて、クルラシア自治区のことはこのくらいか。

セント領主家の方はどうするかな………。

千人規模の騎士教会軍は左右挟撃させるしかない。
グラント王侯領正規軍と連携がとれるはずもないし、四国の騎士を集めるには時間がない。
東側はハートクラフトとその傭兵に騎士を足せば持ちこたえられるはずだ。西側が手薄になるかもしれないが……。

618 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/11/29(木) 22:54:46 ID:wkn7qhfA0

(´・ω・`) (…………)

ふと、心の隅に引っかかるものがあった。
単純だからこそ、今まで忘れていたこと。

このタイミングでのネールラント進行。ただの偶然だろうか。
もし、セント領主家がネールラントと組んでいたらどうなる……?

ハートクラフトの実力はセント領内にも届いているはずだ。
少なくとも教会に出てきてたレベルの狂戦士達であれば、彼には及ばない。

となると、どうする?

619 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/11/29(木) 22:56:31 ID:wkn7qhfA0








        「きっ!急襲────ッ?!」

620 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/11/29(木) 22:58:04 ID:wkn7qhfA0

けたたましく鳴り響く鐘は時間を告げる音ではない。
周りにいた男達の顔がひきつることで確信した。

(#´・ω・`) 「……どっちから!?」

周りにいる護衛達の顔色は一瞬で真っ青に染まった。
それだけの意味が、この鐘には込められている。

「……り……両方……です」

(;´・ω・`) 「くっ……」

どうしてセント領主家だけを見てしまっていたのか……。
なぜ挟撃の可能性を考えられなかった……。

自分を責めるその問いには決して答えが出ないことはもう知っている。
ホムンクルスであっても全てを知り、予測することなんてできやしない。

なら、今出来ることはなんだ?

621 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/11/29(木) 23:00:02 ID:wkn7qhfA0

まずは東側の敵を受け止めることが急務だ。
クルラシアの兵では狂戦士達を受け止められない。

(;´・ω・`) 「僕は東の戦線に行く。代表会議に少しだけ時間をもらってくれ!」

「ですが……っ!」

階段を飛び降りながら叫ぶ。
この期に及んで見張りの兵も突然の状況に迷っているようだが、
彼の答えが出るまで待っている余裕はない。

(#´・ω・`) 「悪いが……もう四の五を言ってられる状況じゃない」

彼らを置き去りにして、議会場に向けて直線距離を走った。
屋根の上を跳び、着地の衝撃で両足の骨を何度か折りながら。
逃げ惑う市民に逆行し、議会場の扉を蹴り開けた。

「誰だっ!?」

驚く代表達とその同行者達。横にいた私兵に武器を向けられるが、構っているだけ時間の無駄だ。

恐らくは大代表であろう、上座に座ったローブの女の前に親書を叩きつけた。

深く被ったローブのせいで顔は見えない。
だが、かなり驚いていることは仕草でわかった。

622 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/11/29(木) 23:03:37 ID:wkn7qhfA0

(#´・ω・`) 「これに返答を、可能な限り早く。それじゃ、失礼する」

無礼と罵る声を背中に受けて、議会場を飛び出した。
町の外に至る道は簡単だ。中心部が一番高くなっている構造故に、
行きたい方向に向かって飛び降りていくだけだ。

(メ´・ω・`) 「っ…………」


最後の屋根を飛び降りて、無理矢理着地した。
肋骨が何本か内蔵に突き刺さったようだが、大したことはない。
幸い見張りは僕には気づいてないし、誰も騒いでいない。

厩舎に繋いでいた馬を解いて戦線へと駆けた。
このまま飛ばせば、日が落ち切る前には戦場に着くはずだ。



・  ・  ・  ・  ・  ・

623 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/11/29(木) 23:04:57 ID:wkn7qhfA0

(´・ω・`) 「ふぅっ…………」

向かってくるのは数体。どれも完成した錬金術による強化兵士だろう。
僕の存在に気づいていても、むやみに飛びかかって来る者は一人としていない。

赤く照らされた戦場には、百を超える死骸が横たわっていた。
その姿は様々で、兵装を身に纏った若者から、老婆のものまで、
全て深く傷つけられていた。

僅かに残り抵抗していた兵士達も、満身創痍で一人、また一人やられていく。

(#´・ω・`) 「生きている者はいったん下がれ!」

援軍を期待した彼らの目は一瞬で絶望に変わった。
僕の一言でタガが外れたのか、武器を捨てて逃げ始めた。

(´・ω・`) 「5、6……7体か」

正直、一般の軍隊でなくてよかった。
そう思いながら剣を抜き、刀身に腰の粉末をかけた。
鋼の鈍色が、ゆっくりと青白い光に変化していく。

その効果が一体どれほどのものなのか、剣を振るうまでは考えてすらいなかった。

624 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/11/29(木) 23:06:44 ID:wkn7qhfA0

(#´・ω・`) 「行くぞっ!」

七体の兵の目標が僕に変わったのを感じる。それに怯むことなく敵兵の中心に飛び込んだ。

最初に狙ったのは、もっとも鈍重そうな狂戦士。
両腕に強化が行われている力だけを振り回すタイプだ。

その硬い胸板をやすやすと引き裂き、心臓を一撃で貫いた。

「ギィァ?」

(;´・ω・`) 「え?」

戦闘中だと言うのに一瞬だけ動きが止まってしまう。
後ろからの接近を感じ、驚いている脳をそのまま置いて行動に移した。
胸板を足場に空中で後ろに回転し、飛びかかってきた、二体目の頭を叩き割った。

(#´・ω・`) 「残り5ッ!」

他の者は今までとは違う相手に力任せの突撃をやめる。

625 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/11/29(木) 23:08:36 ID:wkn7qhfA0

そのおかげもあって僕はハートクラフトがくれた”青色砥粉”の威力を理解した。
驚くべきその性能を。

一呼吸の間があって二匹が同時に襲いかかってくる。
前方右から、後方左から。

(´・ω・`) 「無駄だよ」

左後ろからの斬撃を避けず、右前の化け物の両足を落とし、低くなった首をはねた。
背中に激痛が走るが、それを無視して強引に体を動かす。

(メ´・ω・`) 「っぅ……」

体に入ったままの腕の形をした刃を反転しながら跳ね上げるように切り飛ばし、
一歩前に出て胸を横に切り裂く。

(´・ω・`) 「さぁ……後3だ」

肩に刺さったままの刃を抜いて放る。

626 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/11/29(木) 23:10:35 ID:wkn7qhfA0

「グギギギギg……」

未だ実力差が理解できない狂戦士が一匹。それ真正面から斬り殺し、残り二。

一歩僕が進むごとに、残った二匹は二歩下がる。

(´・ω・`) 「退け」

話しかけた言葉の意味がわかるかどうかは知らない。
だが狂戦士はジリジリと後ろに下がり、背を向けて逃げ始めた。

(;´-ω-`) 「……ふぅっ」

うまくいった。

引き下がった二匹はどちらも速度重視の狂戦士だ。
同時に相手にするのは厳しい。
無理に戦うよりは、それなりの装備を整えてからにしたかった。
それに、これで時間稼ぎの役割は十分に果たしただろう。

627 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/11/29(木) 23:12:45 ID:wkn7qhfA0

(´-ω-`) 「無茶苦茶だ……」

たった七匹。
いくら状況が悪かったとはいえ、これだけ圧倒的なものか。

東に見える空には複数の黒い煙が立ち上っている。
その数およそ五つ。もう暗くなってきてるのもあり、遠くまで見通せない。
最低でもそれだけの村が襲われたってことになる。

「おい、あんた……軍の人間……じゃねぇよな?」

(´・ω・`) 「それよりも……こいつらは……」

「あんたすげぇな……村の兵士たちがまったくかなわなかったのに……」

「その剣には魔法でもかかってんのかンね?」

「いやぁー強いなぁ……どこの国の人だい?」

気づけば、生き残った男達が集まってきていた。
皆ボロボロだが、ある程度の元気は取り戻している。
矢継ぎ早に話しかけられ質問する間を与えてもらえない。

628 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/11/29(木) 23:14:41 ID:wkn7qhfA0

仕方が無いので適当な受け答えをしつつ、後のことを考える。
先に逃げた村人たちを追わせるべきか、それともこの場の防衛にするべきか。
先程と同数の敵が、僕の戦い方を学習していれば今回ほどうまくはいかない。

(´・ω・`) 「……増援はどのくらいで届くと思う?」

「わからんが……夜が明けるころには無理だ。
 戦争の準備すらまともにできていなかったのだからな……」

だとすると、西側、ネールラント側もかなりまずいことになっているかもしれない。
こちらの第一陣は何とか退けたようだが、例の狂戦士はあとどのくらいいるのだろうか。
仮に数百人規模でいるのだとすれば、正直歯が立たない。

だが、それだけいるのなら先程の様な攻め方はしてこないはずだ。
最前線で敵戦力を蹴散らし、被害を拡大させ混乱させる。
次に人間との混合部隊による物資の回収や、残党処理など。

(´・ω・`) 「……気を抜くな。……次が来る」

開けた穴を通るのは速い方がいい。
時間をかければかけるほど相手の防衛体制が整うのだから。

629 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/11/29(木) 23:16:01 ID:wkn7qhfA0

(´・ω・`) (つまり……この夜に第二陣は進行してくるはずだ。
       逃げ帰った二匹で嫌でも察しが付くはずだ。この先に奴らを殺せる敵がいると。
       それで少しでも侵略速度に遅れが出てくれればいいが……)

「次が来るとは?」

(´・ω・`) 「……ああいうことだ」

僕の指さす先に引っ張られるように顔を動かす男達。
そこに揺らめく小さな炎がいくつも浮かび上がる。
綺麗な列を作りながら、加速度的に増えていく。


「うわぁぁぁぁ」


「に、逃げろっ!」

630 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/11/29(木) 23:18:05 ID:wkn7qhfA0








「逃げるな!!!!!!」

631 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/11/29(木) 23:20:03 ID:wkn7qhfA0


戦場に凛と響き渡る、夜の闇の冷たさにも負けない澄んだ声。
逃げようとしていた兵士たちは皆、立ち止り声のした方を向く。

「大代表!」

「クルラシア様!」

その場にいる誰もが驚いていた。
クルラシア自治区の代表を纏める存在に。

最前線に来るはずの無いはずのその姿に。

だけど……その場で一番驚いたのは僕だと断言できる。
数百年の人生の中でさえ何度もない。





川 ゚ -゚) 「久しいな……ショボン」

632 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/11/29(木) 23:21:02 ID:wkn7qhfA0




(´・ω・`) 「………………クール?」



川 ゚ -゚) 「話は後にしてもらえるか?」

(´・ω・`) 「そうしよう」

敵の大群はすぐそこまで来ている。
錬金術師でもある彼女が来たのは想定外だが、それでも焼け石に水か。

川 ゚ -゚) 「ショボン! 手伝ってくれ!」

彼女の馬に結ばれた二つの瓶。
後ろには十頭を超える馬がそれぞれ限界いっぱいまで同じような瓶を抱えている。

(´・ω・`) 「白泡雲かっ!」

それだけの液体が必要かつ、今この場でできる対策。
その答えはそう沢山はない。

633 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/11/29(木) 23:23:04 ID:wkn7qhfA0

川 ゚ -゚) 「皆、下がれ……」

そう言われ、男達は敵の軍隊と距離をとるようになだらかな斜面を走っていく。
それを見届けた後、僕らはこの辺りで最も土地が沈んでいるところで立ち止った。

(´・ω・`) 「準備がいいな……」

川 ゚ -゚) 「伊達に長生きはしていないさ」

瓶に入った白濁色のゼリー状の物質は、特殊な素材と反応することで、
一瞬にしてその体積を何万倍にもする。
その様相はさながら地上にある雲のようになるため、白泡雲と呼ばれている。

瓶を一か所に集め、叩き割っていく。
瓶に使われている素材について聞きたいこともあるが、そんなのは後だ。

(´・ω・`) 「僕がやる。下がって」

川 ゚ -゚) 「任せる」

634 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/11/29(木) 23:25:39 ID:wkn7qhfA0

投げてよこされた袋に入ってるのは、弾力草の花弁の粉末と膨張草の茎の粉末を混ぜたものだろう。
クールと味方の兵士たちが十分に距離をとったのを確認してから、それを白泡雲に振りかけた。

瞬きする間もなく視界が真っ白に染まり、圧倒的弾力を全身に感じる。
すぐに立っていられなくなり、白泡雲に押されながら地面を転がっていた。

激しい嘔吐感に襲われながらも、ぐるぐると世界が回転しているのを感じる。
平衡感覚すら回復する体でなければ、とっくに吐瀉物にまみれてるだろう。

(´ ω `) 「はぁっ……はぁっ……っうぷ……」

体感にして数分、実際には数十秒の出来事からやっと解放される。
ゆっくりと立ち上がり、耳を澄ます。

金属のぶつかる音に向かって、雲の中を走っていく。
何度か躓き転びながらも、雲の外に出ることができた。

川 ゚ -゚) 「御苦労様」

剣と柄を打ち鳴らして居場所を知らせていたクールは、その動作をやめた。
服に張り付いた白泡雲を振り落とし、問う。

(´・ω・`) 「ああ、それで……君がここにいる理由を話してもらおうか」

川 ゚ -゚) 「向こうに場所を用意してある」

635 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/11/29(木) 23:28:44 ID:wkn7qhfA0

振りかえると、白い雲の向こうで敵の軍隊が往生しているのが見える。
白泡雲は水分の蒸発で姿を小さくしていく。
二、三日すれば進行可能な大きさまで縮まるはずだ。

もしくは、左右どちらかに迂回する方法もあるが……。

川 ゚ -゚) 「両端にも最低限の準備はしてある。二日もあれば本軍が間に合うはず」

(´・ω・`) 「そうか、君がいうのならそうだろうな」

大きな蝋燭が机の真ん中に一本だけ灯っている簡素なテーブルに案内された。
炎は時折吹く風にゆったりと揺らめきながら、もう一人の男を照らしていた。

(´・ω・`) 「……」

僕らに気づいた男は立ち上がって間抜けなにやけ顔を見せた。

( ^ω^) 「びっくりしたお?」

(´・ω・`) 「ブーン、お前か……。久しぶりの再会を祝してる時間くらいはあるか。
       取りあえずどうしてこうなったのか現状を説明してくれ」

636 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/11/29(木) 23:29:58 ID:wkn7qhfA0

用意されていた椅子に座る。
ちなみに、クールの椅子はなぜか肘掛け付きの豪華な椅子だったが、
ブーンのは木を組んだだけの粗末なものだった。僕のはその中間くらいか。
そんなことは気にしてないのか最初に話し始めたのはブーンだ。

( ^ω^) 「ショボンと別れた後、僕はセント領主家に直接向かったんだお。
       どんな状態にあるか見ておこうと思って。
       城の防備は全然甘かったお。少し様子を見るつもりでかなり近づいたんだけど……
       人間じゃない化け物に襲われたんだお」

(´・ω・`) 「……錬金術で肉体改造された兵士達か」

( ^ω^) 「そうだお……。たった数人だったけど、とても僕の装備じゃ突破できないと思ったから……。
       そのまま領地を突っ切ってクルラシアまで来たんだお。
       ショボンがどこにいるかは分からなかったけど、セント領主家の位置を考えると、
       周辺国家で同盟を結ぶのがいいと、そう考えるはずだからだお」

一人で何とかしようと思っていたんだが……ハートクラフトのおかげだな、こうして会えたのは。
ブーンの協力は期待してたけど、直接出てくるのは予想外だった。

637 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/11/29(木) 23:32:24 ID:wkn7qhfA0

川 ゚ -゚) 「私がネールラントに対する防衛網を構築していた時、つまらない知らせが入った。
      町の少女にいたずらしていた旅の錬金術師を捕まえたとな」

(´・ω・`) 「…………」

(; ^ω^) 「…………」

こんな状況にもなって普段と全く行動が変わらないとはむしろ恐れ入る。
それこそが時間の流れないホムンクルスであること、なのかもしれないが……。

( ^ω^) 「それは誇張だお! 甘い飴をあげて話をしてただけだお!」

川 ゚ -゚) 「で、錬金術師なら協力を頼もうと会いにいった結果がこれだった。
      それなりに驚いたよ」

( ^ω^) 「ブーンの方が驚いたお。死にたがりのクールがまさか領主の真似事してるなんて」

川 ゚ -゚) 「ふん……」

最後にクールと会ったのは砂漠でのことだったか。
それからどうなったのかは一切知らなかったし、正直生きているとは思わなかった。

(´・ω・`) 「クルラシアとは……そういうことか」

638 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/11/29(木) 23:34:25 ID:wkn7qhfA0

川 ゚ -゚) 「君と別れてから、私はやっぱり死ぬ方法を探し続けているよ。
      今でもね。ただ……旅の道中で旧セダンタ王国を通り過ぎた時、
      色々とあってな」

( ^ω^) 「男……?」

ニヤニヤしてるブーンは後で二、三回死ぬだろうが僕には関係ない。
この感じは懐かしいような、嬉しいような。
あと一人そろえば、昔みたいに過ごせるだろうか。

(´-ω-`) (いや……)

心の中で自問自答する。
どうせ数年もすれば新鮮味も薄れ、またばらばらになるだろな。
それに、あいつはもう……。

川 ゚ -゚) 「さて」

遥か昔の思い出を偲んでいるうちに、ブーンが復活した。
かなり話がそれたので本筋に戻す。

(´・ω・`) 「それで、ネールラントとの戦線はどうなってる?」

川 ゚ -゚) 「そちらは問題ない。地図を見ていたそうだが、おおむね君の予想通りだ。
      既に侵攻に対しては準備していたからな」

639 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/11/29(木) 23:36:01 ID:wkn7qhfA0

( ^ω^) 「さすがクールだお」

そうだな。
他国でいきなり少女に手を出す奴とは違う。

( ^ω^) 「ぐぅ……」

(´・ω・`) 「どのくらい持ち堪えられる?」

川 ゚ -゚) 「持ち堪える? その必要はない。
      追い返して見せるさ、と言いたいところだが……。
      セント領主家とネールラントの挟撃はかなりやっかいだ。
      両方の戦線を支えるだけの戦力も物資もない」

(´・ω・`) 「グラントとクナド、オラトの三国ですぐにセント領主家への共同攻略を開始させる」

グラント王侯領の正規軍は強力だが、すぐには進撃できないだろうな。
クナド、オラトの兵とハートクラフト、騎士を主力にしてセント領主家の戦力を東に集めるしかない。

左右両端に兵を振ったところで、南のグラントが一気にセントショルジアトを襲撃する。

640 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/11/29(木) 23:38:02 ID:wkn7qhfA0

( ^ω^) 「待つお。本城周辺の敵はさっきショボンが戦った兵士だったお。
       グラント軍で叶うかお?」

川 ゚ -゚) 「こちらもセント領主家の兵をどこまで受け止められるか……。
      既に軍の多くは西側の対ネールラント戦に集結させてある」

(´・ω・`) 「……よし、わかった。
       僕はブーンとセントショルジアト城に向かう。僕らだったら例の兵士と戦える。
       できるだけ早く行きたい理由もあるしね」

モララルドが連れ去られてから相当の日数が立つ。
出来るのなら、今すぐにでも助けに行きたい。

(; ^ω^) 「え……? 僕もかお?」

川 ゚ -゚) 「こちらの戦線はもって七日だ。それまでに頼むぞ」

(´・ω・`) 「全部終わったら、なんで君がこんなことしてるのか教えてくれよ」

川 ゚ -゚) 「ああ……。それと……これを持っていけ」

クールは両腰に着けていた一対の双剣を机に並べた。
長さは掌から肘までくらいであり、施されている装飾は寸分たがわず同じものだ。

641 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/11/29(木) 23:39:49 ID:wkn7qhfA0

(´・ω・`) 「これは……?」

川 ゚ -゚) 「私の知り合いが譲ってくれたものだ。君に貸しておく。後で返してくれ。
      それなりには役に立つ」

一目見るだけでは何の変哲もない双剣だ。
おそらくは鍛冶錬金術だろうが、妙な雰囲気を感じる。
鞘から出した刃は触れるだけで切れそうな鋭利さを持ちながら、それ対する危機感と言うものを感じない。

川 ゚ -゚) 「この剣で切られた傷の痛みは感じず、血も出ない。
      人間相手にはまぁ、さしたる効果もないが、失血死やショック死を防げる分、
      君にはちょうどいいだろう?」

そう言われても、やはり鍛冶錬金術を人間に使うのは躊躇われる。

川 ゚ -゚) 「それにな、この剣による傷は単純な医療錬金術で回復可能だ。
      ただし、その度合いは傷を受けてからの時間経過による」

心臓を貫いた場合の一週間ほどが最低回復ラインだと彼女は言う。
両手両足程度なら、おそらく半年ほどは持つ、と。

(´・ω・`) 「それなら……受け取っておくことにするよ」

642 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/11/29(木) 23:41:41 ID:wkn7qhfA0

人を殺すための錬金術じゃなく、人を生かすための錬金術。
これなら断ることもないか。
何かしらの役に立つかもしれない。

川 ゚ -゚) 「本来はホムンクルスのような再生系の相手を想定したものだ。
      ……私たちホムンクルスに”痛み”がある理由を考えたことは?」

彼女は問うてくる。

(´・ω・`) 「……”痛み”を受けることが他者の”痛み”を知ることになり、
       より人間に近しい存在となることができるからだと考えている」

( ^ω^) 「”痛み”は快楽のもとだお。僕らは嫌でも長生きをするために、
       その生に快楽が無くてはならない。”痛み”は楽しい人生のために重要なファクターなんだお」

川 ゚ -゚) 「私たちが”痛み”を感じるのはなぜか。
      ”痛み”こそが再生のための鍵になっているんじゃないか。それが私の得た答えだった」

彼女は自らの腕を片方の剣で切り落とした。
腕の無い不快感に顔を曇らせるのもわずか、再生する腕を見せながら説明を続ける。

643 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/11/29(木) 23:44:36 ID:wkn7qhfA0

川 ゚ -゚) 「まぁ、結果は駄目だった。再生にかかる時間は倍以上だが、どの道元通りになる。
      ”痛み”は私たちの再生を担う一端でしかなかった」

クールの腕が生えてくるのにかかった時間は確かに長い。
僕らの……ホムンクルスの再生速度よりはずっと遅い。

川 ゚ -゚) 「この剣の鍛冶錬金術は【痛みを与えず、傷を与えず、生体を破壊し、その治癒を阻害する】ことだ。
      この剣でホムンクルスは殺せない。
      が、それ以外の再生力が高いだけの生き物には有効だ」

再生力を削ぐことができる剣。
痛みを与えず、必要であれば治すことが可能である剣。
これからの戦いにこれほど有用な武器はない。

(´・ω・`) 「……ありがとう」

( ^ω^) 「僕には何かないのかお?」

川 ゚ -゚) 「勿論ある。これを持っていけ」

ブーンに手渡ししたのは木製の四角い容器。
隅から一本の紐が垂れている。

644 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/11/29(木) 23:45:45 ID:wkn7qhfA0

( ^ω^) 「これは……?」

川 ゚ -゚) 「爆弾だ。いざという時に使え。ひもを引っ張ったら爆発する」

(; ^ω^) 「自爆しろってことかお!?」

ホムンクルスにその武器はある意味最強装備だ。
ただ一つ、複数個持ち運べないと言う難点を除いては。

(´・ω・`) 「それじゃ、僕らは行くよ」

白泡雲を避けるために北上してから東進しなきゃいけない。
距離だけでいえばそれほど時間がかかるとは思えないけど、
道中で何があるかわからない。

川 ゚ -゚) 「ああ、気をつけてくれ」

一対の双剣を両腰に結び付け、席を立った。
ブーンは大事そうに爆弾を袋にしまっている。
それはそうだろう。不用意な扱いで爆発させられては堪らない。

645 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/11/29(木) 23:49:50 ID:wkn7qhfA0

立ち上がった僕らは別れの言葉を告げようとしたが、そこに何者かの声が割り込んだ。





「ん〜! 珍しい顔ぶれだねぇ!」





その声は闇の向こうから聞こえてきた。

僕は預かった双剣をすぐに抜く。
ブーンは背負った長槍を構え、クールは腰の長剣に手をかけた。

相変わらず……人を馬鹿にしたようなしゃべり方をする。




(´・ω・`) 「……ジョルジュ」

646 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/11/29(木) 23:51:04 ID:wkn7qhfA0












14 ホムンクルスと深夜の邂逅  End


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