(´・ω・`) ホムンクルスは生きるようです
334 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/06/08(金) 22:57:34 ID:wzCO0IB60


錬金術師が集まって暮らす集落がある。
そこは、特別な錬金術が施されていることにより、一般の人は近付くことすらできない。
さらに秘密を護るため、何年かごとに移転している。

また新たな場所に移ったと風の噂で聞き、少し寄ってみることにしていた。
その道すがら、一つの村で僕はある少年と出会った。



ホムンクルスは生きるようです


      【戦争編】

335 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/06/08(金) 22:58:26 ID:wzCO0IB60










10 ホムンクルスと動乱の徴候

336 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/06/08(金) 23:02:34 ID:wzCO0IB60



( ・ー・) 「ねぇ! ちょっと待ってよ、旅のお兄さん」

(´・ω・`) 「ん?」

澄んだ湖に隣接する小さな村。
そこで食糧を補給するために、馬を下りて歩いていると、
いきなり後ろから声をかけられた。

振り返ってみれば、背丈は僕の半分ほどの少年が立っている。

田舎にしては身なりは裕福で、
領主直系、もしくはそれに類する立場の子と思われた。

それなら邪険に扱うと面倒があるかもしれない。
領主に嫌われれば、その土地の出入りが面倒になる。
そう思い最低限の応対だけですませようとした。

(´・ω・`) 「そうだけど、どうかしたの?」

( ・ー・) 「丁度暇なんだ、遊び相手になってよ」


見ず知らずの大人に良くそんなことが言えるものだと、少し感心した。

337 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/06/08(金) 23:04:06 ID:wzCO0IB60

(´・ω・`) 「悪いけど、僕は暇じゃないんだ。友達と遊べばいいじゃないか」

( ・ー・) 「……友達いないんだもの」

(;´・ω・`) 「……」

( ・ー・) 「友達いないよ!」

(´-ω-`) 「はぁ……繰り返さなくていいよ……」

この町に滞在する予定はない。
ちょっとした食料を手に入れれば、すぐに旅立つつもりだ。

(´・ω・`) 「……ちょっとおいで」

だから走って逃げてもいいのだが、やはり目立つ行動はしたくない。
それならば、と彼を手招きしてすぐ近くに見える湖まで並んで歩く。


( ・ー・) 「ねぇ、なんで旅をしてるの? 何歳? どこから来たの?」

ほんの少しの距離なのに質問が矢継ぎ早に飛んでくる。
何から答えようか考えてしまう。

338 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/06/08(金) 23:07:21 ID:wzCO0IB60

(´・ω・`) 「……研究をしてる」

少し悩んで口を開いた。

( ・ー・) 「何の?」

(´・ω・`) 「いろんなモノ。この世の全て」

( ・ー・) 「……そんなの、わかるわけないじゃん」

さっきまでの子供らしさをよそに、はっきりと断言する。
その視線には強い意志が見えた。

( ・ー・) 「世界に存在するものは、人間の寿命じゃ到底解き明かせないよね。
       数が多すぎるもん」

(´・ω・`) 「……そうかもしれない。それでも、僕は世界を旅する
       無限にある情報の中から、自分の知りたいことを見つけるために」

実際には僕には無限の時間があるのだから、もしかしたら可能かもしれない。
が、そんな例外中の例外を出す意味もなし。

(´・ω・`) (考え方のしっかりした子だな)

339 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/06/08(金) 23:08:24 ID:wzCO0IB60

金持ちの家の子供はたくさんの本を読んでいることが多いし、
知識はそれなりに持っているだろう。

でもこれは、子供が持つべき知識じゃないように思える。
世界の仕組みなんてものは、もっと大人になってから知ればいい。
まぁ、これは唯のつまらない感想だ。

( ・ー・) 「それで、何で湖の前まで来たの?」

(´・ω・`) 「ああ、それは……」

水辺の傍には三つ葉の小さな草が群生していて、さながら緑のカーペットの様だ。
葉は薄い緑色で水滴のような形をしており、茎の長さは大人の人差し指くらいほどしかない。

(´・ω・`) 「この草はふつう三つ葉のものだ。だけど、稀に四つ葉のものがあり、
       それを見つけると幸せになれる、という言い伝えが昔からある」

( ・ー・) 「……それを一緒に探すの?」

(´・ω・`) 「いや、違う。僕は忙しいと言ったよね。だからこれは勝負だ。
       僕がこの町を離れる前に四つ葉を見つけたら君の勝ち、少し一緒に遊んであげよう。
       そうでなければ、僕の勝ち。僕はこの村からすぐに出ていく」

(*・ー・) 「……わかった!」

340 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/06/08(金) 23:10:46 ID:wzCO0IB60

(´・ω・`) 「ああ、それと見つけたら、ここから見えるあの宿屋に来てくれ」

煙を立ち昇らせている大きな宿屋を指さす。
勿論泊まるつもりはなく、ただの時間稼ぎだ。

それに、どうせ見つけることは出来ないだろう。
本来三つ葉しか持たないこの雑草は、特殊な状況下でしか四つ葉にならない。

日当たりが悪く、水が汚いなど、生存環境が過酷であること。
それが条件となって生態を変化させる。

日が十分にあたり、広さもあり、水も綺麗で流れがないこの場所は、
湖の周りを全て探し続けても見つからないかもしれない。

(´・ω・`) (悪いね少年……)

(´・ω・`) 「それじゃ、頑張ってくれ」

(*・ー・) 「うん、また後でね」

立ち去る前に、一度だけ少年を振り返った。
彼は座り込んだまま湖を向き、足元の雑草を一つずつ探していない。
その光景を訝しがりながらも、僕は宿屋の方角へ歩き始めた。

341 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/06/08(金) 23:12:01 ID:wzCO0IB60

町の中心部に来てみると、あらゆるところに様々な装飾が施されていた。
広場には木の枝が整然と詰まれており、何らかの準備をしていることは間違いない。

(´・ω・`) (祭りか。この時期にやってるとは……ずいぶん珍しいな)

祭りといえばやはり収穫祭だろう。
秋にはどこの地域でも行われ、小さな村でもそれなりの盛り上がりを見せる。

夏にも当然祭りはあるが、やはり夏野菜の実るころだ。
初夏に行われる祭りなどめったにない。

「……旅の人かい? フェスタへようこそ」

忙しそうに準備する女性は、それだけ声をかけると去って行った。
家の軒下に均等に水の入った桶を並べているのは、この地域独特のやり方だろう。

(´・ω・`) 「フェスタ……か……」

342 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/06/08(金) 23:13:04 ID:wzCO0IB60

そういう行事をやっているなら、ただ通り過ぎるのももったいない。
急ぐ旅をしているわけではないし、少しくらい参加してもいいか。

用意から見ても今日が本番の様だし、長く続くものでもない。

と、自分の中で言い訳をするのは……やはり少年のことが気になっているからか。
見つからないはずの四つ葉を探し続けさせることが、
僕に似ているからかもしれない。

なんてことはない。
自分でそうさせておきながら少し後悔していた。

四つ葉を見つけて宿屋を尋ねた時、そこに僕がいないと知ったらどう思うだろうか。

(´・ω・`) (後で少しくらい遊んでやるか……)

お人よしだな、そう心の中で苦笑しながら中心部へ向かって歩いていく。

「よく来てくれたね」

「楽しんでいってくれ」

343 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/06/08(金) 23:14:02 ID:wzCO0IB60

すれ違う人たちはみな楽しそうに声をかけては通り過ぎていく。
僕は少し話を聞きたいのだが、誰も彼も忙くしていて話しかける余裕がない。

(´・ω・`) (どうするかなぁ……)

ふらふらと、彷徨うように歩いていた。
と、突然背中に衝撃を受けた。

(´・ω・`) 「……?」

重さを感じて振り向くと、何人もの子供たちが突っかかってきていた。

「旅の人っ!」

「お兄ちゃん、旅の話してー」

「どこから来たの? ねぇ、どこから来たの?」

次々と投げかけられる質問。
そのどれから答えようか考えていたら、子供たちの世話役であるらしき女性が出てきた。

「す、すいませんっ。ご迷惑をおかけしまして」

(´・ω・`) 「いえ、気にしないでください。
       こちらとしても少々聞きたい話がありますので、子供への話が終わった後にでも」

344 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/06/08(金) 23:16:47 ID:wzCO0IB60

「いいんでしょうか……?」

女性は遠慮するように逡巡していたが、やがて決心したように頭を下げた。

「よろしくお願いします」

こちらも応えるように頭を下げる。
子供たちは飛び上がりながら喜んでいた。

「何の話かなー?」

「ドラゴンがいいー」

そんなものと戦っていては命がいくつあっても足りないな。
もちろん、ストックは必要以上にあるわけだけど。

(´・ω・`) 「それなら、先ほどの少年も……」

「……えっと、」

彼女は少し困ったような顔をする。
それで、なんとなく事情を察した。

345 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/06/08(金) 23:18:24 ID:wzCO0IB60

(´・ω・`) 「……何か不都合が?」

子供たちに聞こえないように話す。
少し驚いたようだが、女性は二度頷いた。

「彼は……モララルド君は……、一人でいることが多いんです。
 あまり他の子供たちと遊ぼうとはしませんし、
 嫌がらせも少しあると聞いています」

(´・ω・`) 「ふむ……」

お節介をすべきかどうか。
子供たちは僕らの話に気づいていないのか、一軒の家に走って入って行った。

「ここで、祭りの準備中は子供を預かっているんです。どうぞ」

女性が扉を開けたまま中へ案内してくれる。
大きな部屋が一つあるだけで、他に何もない。

子供たちは外で遊べず、暇を持て余していたのだろう。
それで窓から見えた僕に声をかけに来たわけだ。

346 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/06/08(金) 23:23:45 ID:wzCO0IB60

(´・ω・`) 「さぁて、じゃあ何の話から始めようか」

「お姫様のはなしー」

「魔物の話だろっ」

「面白いのお願い!」

それぞれが求める話は別々で、それにそんなに子供がはしゃげるような話があるわけでもない。
血と泥にまみれて戦うような、そういった生き方をしてきた僕は、
常にかっこよくあり続ける物語の主人公とは違う。

それでも、そういった話を望んでいるのだろう。
子供たちの目は期待に輝いていた。

その期待にこたえるためには、少々の脚色をする必要があるな。
ありのままよりも、そちらの方がきっと面白い。

(´・ω・`) 「……これはあるときの話だ。僕が……」

部屋の中はときに笑いで満たされ、ときに息の飲む音が聞こえるほど静かになる。
あまり得意ではない僕の語りに、誰もが熱心に耳を傾けてくれた。

347 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/06/08(金) 23:24:59 ID:wzCO0IB60

感受性の高い子供たちは、僕の言葉に踊らされるように、心象に風景を描いていく。
こうやって話して聞かせるのは、意外と楽しいものだと思った。
また、彼にも聞かせてやりたかった、とも。

彼は、それは無理です。そんな怪物がいたら人間滅んでますから、
とでも言うだろうか。

(´・ω・`) (……あとで声をかけてみるか)

三つの話を聞かせ終わった時、子供達は目を擦り始めていた。
ちょうど昼寝をする時間になったのだろう。

「どうもありがとうございました。子供たちもとても喜んでいましたし」

(´・ω・`) 「いや、このくらいのことでしたら。こちらも聞きたいことがあるのですが」

「私に答えられることでしたら」

床の上で静かな寝息をかきながら眠っている子供たち全員に毛布をかけ終わった後、
疑問に思ってたことを彼女に聞いた。

348 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/06/08(金) 23:26:10 ID:wzCO0IB60

(´・ω・`) 「この祭りは一体何のために……?」

「それは確かに気になるでしょうね。
 古来より、私たちは生贄を捧げてきたのです」

(´・ω・`) 「生贄……?」

物騒な話だ。
この言葉をいい意味で聞いたことなど、長い人生のなかで一度もない。

「ええ、怖い話ですよね。も、もちろん今はやってませんよ?」

彼女があせって弁明したのは僕の顔を見たからだろう。
僕は表情を取り繕いながら続きを促す。

(´・ω・`) 「ということは、その名残ですか?」

「はい。昔はあまり恵まれてなかったんですね、この辺は。
 特に初夏の災害がひどかったんです。大雨や、乾燥、日照り、
 様々なことに苦しめられてきたようです。
 ですから、夏の収穫の前、実りくれたことへの感謝として」

(´・ω・`) 「なるほどね……」

349 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/06/08(金) 23:27:21 ID:wzCO0IB60

「今でも形式だけ残って、この時期にやってるんです」

(´・ω・`) 「それでは、もうひとつ」

今はどちらかといえばこっちの方が気になっている。
町はずれの道でであった少年。
確か名前は……

(´・ω・`) 「えっと……モラルド君でしたっけ……?」

「モララルド君ですね」

(´・ω・`) 「どうして彼は独りでいるのですか?」

「彼は……すいません、私はよく知らないんです。昔から一人で遊んでますし、
 他の子とあんまり話そうとしません。
 それで、一度無理やり授業に参加させた時、彼は文を読むのを酷く苦にしていました」

(´・ω・`) 「読むのが……?」

350 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/06/08(金) 23:28:24 ID:wzCO0IB60

「それで、他の子たちがからかって……それからなお寄りつかなくなりました。
 私もかなり嫌われちゃって……」

(´・ω・`) 「なるほど……」

あれほど聡そうな子が読みを苦手……か……。

(´・ω・`) 「ありがとうございました」

「いえ、それでは失礼します」

(´・ω・`) (祭りの内容も聞けたし、湖に行くか)

他の子供たちと同じように扱ってやるべきだろう。
祭りに参加しようと決めたから、時間はまだあるはずだ。

彼はまだ湖で四つ葉を探しているだろう。
そう思って来た道を戻ろうとした時、後ろから服をつかまれた。

(´・ω・`) 「……?」

(;・ー・) 「やっと見つけたよ」

少年の手には確かに四つ葉の草が握られている。

351 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/06/08(金) 23:29:47 ID:wzCO0IB60

(;・ー・) 「宿屋にいなかったね」

文句を言うように唇を尖らしていた。
走って僕を探したのだろう、肩で息をしている

(´・ω・`) 「ああ、ごめん……」

( ・ー・) 「別にいいよー。約束通り遊んでくれれば」

そういう約束だったな、と思いつつも考える。
一体、どうやって見つけたのか。
湖畔に生えている可能性もゼロではないが……

(´・ω・`) 「どうやって見つけたんだ?」

( ・ー・) 「普通に見つけたよ? 
       なんで三つ葉が四つ葉になるのか考えてたら時間が過ぎてて……」

(´・ω・`) (普通に……か、まぁ無いわけじゃないしな)

それに、今はもう遊んでやるのを避ける理由はない。
むしろ他の子にしたのと同じだけの労力は割いてやるつもりだ。

352 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/06/08(金) 23:31:28 ID:wzCO0IB60

(´・ω・`) 「じゃあ……約束だ。何をして遊ぶ?」

( ・ー・) 「うん。錬金術ごっこ」

(´・ω・`) 「錬金術ごっこ?」

子供たちと遊ぶことは多いが、そのような単語を耳にしたのは初めてだ。
とはいえまぁ、内容は大体想像できる。

( ・ー・) 「必要な道具は家にあるから、うちまで来てー」

(´・ω・`) 「わかった、君の家まで案内してくれ」

少年の歩幅に合わせ、後ろについていく。
どことなく嬉しそうなステップを踏んでいるのは、久し振りに他人と遊べるからだろうか。

( ・ー・) 「〜〜♪」

(´・ω・`) (あれか……豪邸だが……この地域の領主だろうか……)

353 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/06/08(金) 23:32:59 ID:wzCO0IB60

丘を下って見えたのは横一列に長く続く塀。
かつての戦争の名残だろうか、ところどころは崩れたまま放置されている。
その先に見えるのは二階建ての横長な屋敷。

正面から見える窓は玄関の横に、合わせて十二。
一部屋に二つだとしても左右に三つずつ部屋があることになる。

( ・ー・) 「あそこが家だよ」

(´・ω・`) 「大きいね」

( ・ー・) 「大きいだけだよー。今はほとんどの部屋を使ってないし」

何かがあったのだろう。
それくらいは簡単に察せた。
だからというわけでもないか

(´・ω・`) 「隠していたわけじゃないけど、僕も錬金術師のはしくれだからね
      君の研究室、結構楽しみにしているんだ」

(*・ー・) 「! ほんとっ!?」

飛び上がるように喜ぶ少年。
家に向かう速度が上がり駆け足気味になる。

354 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/06/08(金) 23:34:00 ID:wzCO0IB60

(*・ー・) 「本物の錬金術師なんだー」

本物の、か。
昔と比べて錬金術師を名乗る人間も増えてきた。
それをいいことに詐欺を働く者もいる。

(´・ω・`) 「……錬金術師がどういうものか知っているのか?」

( ・ー・) 「……あんまり詳しくは知らない。調べようにも記録が残ってないんだ
       少なくとも200年くらい前には最古の錬金術師集団がいたってことくらい。
       今の形として錬金術が有名になったのは100年くらい前だって聞いてる」

どうだろうか。僕でいえば300年くらい前にはもういた気がする。
正直、自分の年齢など覚えていられない。


(´・ω・`) 「詳しいね。たぶん、そこらの似非錬金術師よりはずっと歴史を知っている」

( ・ー・) 「父さんが昔教えてくれたんだ。今から行く場所もその書斎だよ。
       残ってた本は少なかったけど、そこから勉強したんだ」


(´・ω・`) 「独学か……どうしてそこまで錬金術に拘るんだ?」

( ・ー・) 「それしか、ないから。僕が父さんを知ることができるのは錬金術を通してだけ」

355 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/06/08(金) 23:34:50 ID:wzCO0IB60

子供がそう簡単に錬金術について理解できるはずもない。
血のにじむような、相当の努力があったのだろう。
他の友達と遊ぶ時間も犠牲にして、それでも父に近づこうと努力した。

( ・ー・) 「ここだよ」

家の錠は開いていて、中に人がいる気配はない。
入ってそのまま右にまっすぐ進む。

玄関が南向きだから、おそらく研究室は北側にあるだろう。
日当たりなどを均等にしなければ、試料の比較なども難しいからだ。

予想通り、少しして左に曲がる。
奥まった場所にある部屋は鍵が閉まっていた。

( ・ー・) 「どうぞ」

独特のにおいが部屋の中に充満していて、
実験器具が丁寧に並べてある。
古いものだが、きちんと手入れされていた。

(´・ω・`) 「この部屋は……」

見ただけでわかる。これは"本物"の部屋だ。
だから、つい言葉にしてしまった。

356 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/06/08(金) 23:36:35 ID:wzCO0IB60

(´・ω・`) 「君のお父さんは本物の錬金術師だったようだね」

( ・ー・) 「? 当然だよ」

その反応に苦笑する。
少年からすれば、それは特別なことではないのだから。

(´・ω・`) 「いや、ごめん。変なことを言ったね」

( ・ー・) 「さ、今日は持ってきた四つ葉を使うよ」

行われる作業はまだ子供のものだ。
小さな手で一生懸命にフラスコを水で満たしていく。

それを火にかけながら、三つ葉を細かく千切り、
沸騰した水の中に沈めてかき混ぜる。

(*・ー・) 「よっし」

四つ葉には、錬金術の素材として利用する方法がある。
でも僕は黙って少年の指示に従う。

357 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/06/08(金) 23:37:57 ID:wzCO0IB60

ここでは、彼が術師で僕は助手だ。
三つ葉のカスをとり、残った水分に四つ葉を浮かべる。

室内にあった何種類かの液体を混ぜ合わせた後、
30分ほど放置し、少年は満足したようだ。

(*・ー・) 「できたっ……ありがとう」

(´・ω・`) 「どういたしまして」

その一言出たのは、既に日も落ちた時間。
部屋の窓から外の様子を伺うが、月が陰っているのかほとんど見えない。

( ・ー・) 「うちに泊ってよ。部屋もあるし、ご飯も作ってもらうから」

(´・ω・`) 「そうさせてもらおうかな」

断る意味はないだろう。
今から宿屋に行っても晩御飯は出ないだろうしね。

「ぼっちゃま、ご飯はどうされますか」

タイミング良く、部屋のノック音と女性の声が聞こえる。

( ・ー・) 「二人分お願い。一人分は大人の人の量で」

「畏まりました」

358 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/06/08(金) 23:39:08 ID:wzCO0IB60

( ・ー・) 「それじゃ、来て。食事をするのは別の部屋だから」

少年は後片付けを終え、部屋の鍵を閉めた。
廊下を右に曲がり玄関まで戻ってきた後、北側にある両開きの扉をあける。

白のテーブルクロスが敷かれた長い机からは、
暖かい料理の匂いが漂ってくる。

「今夜はお祭りですが、どうされますか?」

( ・ー・) 「お兄さん、お祭り行く?」

(´・ω・`) 「出来れば少し見ていきたいと思ってる」

「それでしたら、ご飯を食べた後に出られるとちょうどよろしいかと」

湯気をあげるスープは香草と兎肉の贅沢なものだ。
机の真ん中には、綺麗な焦げ目のついたチキンが置いてあり、
見た目でどの料理も手が込んでいるのがわかる。

( ・ー・) 「わかった。じゃあ、ご飯を食べてから行こうか」

359 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/06/08(金) 23:40:30 ID:wzCO0IB60

大広間の長テーブルで僕らは話しながら食事をとった。
内容はそのほとんどが錬金術に関するもので、僕は少年の質問に答える。

小一時間で食事が終わった。
少年が準備するのを待ち、二人で祭りに向かう。

(*・ー・) 「うわぁっ……!」

町中の道の真ん中に松明が掲げられ、中心の広場では家よりも高い炎が上がっていた。
男たちは火を絶やさぬように次々と薪を放り込んでいく。

(´・ω・`) 「凄いな……」

( ・ー・) 「これを一晩中燃やし続けるんだよ。
       食べ物や飲み物は近くの家の人がみんな用意しているから、頼めばもらえるけど」

(´・ω・`) 「さっきおいしいのを食べたから、今日はもういいかな。
      そうして各家庭の料理を比べるの?」

( ・ー・) 「正解! みんなで投票するんだー。今年は食べないから参加しないけど」

あっちこっちで顔を火照らした大人たちが大騒ぎをしている。
子供達と一緒になって炎の周りを駆け回っていた。

360 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/06/08(金) 23:41:18 ID:wzCO0IB60

(´・ω・`) (ん…………?)

祭りの雰囲気にそぐわない男達が、村人に声をかけていた。
何かを尋ねているようだが、ここからでは聞こえない。

人影は明らかに武装している。
もしかしたら僕を探しているのかもしれない。

(´・ω・`) 「……さて、帰ろうか?」

( ・ー・) 「もう?」

恨まれるようなことをした覚えは…………色々とあるし、
荒事になって、祭りを壊してしまう前にこの場を去るべきだ。
顔を隠すように、彼らに背を向けた。

(´・ω・`) 「いいものは見れたし、長居しても仕方ないからね」

(*・ー・) 「わかったー。あ、これ甘いっ」

近くの家のフルーツを食べていたモララルドと一緒に家に帰った。

361 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/06/08(金) 23:42:20 ID:wzCO0IB60

・  ・  ・  ・  ・  ・



帰宅した後、僕は用意された部屋のベッドに座っていた。
壁にある本棚には紙の束が乱雑に積まれている。

(´・ω・`) (下の研究室とは別に、資料を溜めこむ部屋だろうか)

悪いと思いながらも、好奇心に勝てず紙束を手に取る。
その中に一つだけ、特殊な装丁の本が目に入った。


──錬金術師の歴史


……?

本に書いてある文字は左右を逆にした鏡文字だったからだ。

( ・ー・) 「ちょっといいかな」

362 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/06/08(金) 23:43:21 ID:wzCO0IB60

ノック音とともに少年が入ってきた。
気付かれないように紙を本棚に戻そうかとも思ったけど、やめておいた。

( ・ー・) 「ああ、それ」

こちらの手にあったものに気づいたのだろう。
少し寂しそうな光が少年の目に見えた。

( ・ー・) 「それは、父さんが残してくれた本。僕のために」

それを聞いて女性の話を思い出した。

この子は文章を読むのが苦手なんじゃない。
読字障害なのか。

(´・ω・`) 「それで、鏡写しの本か」

( ・ー・) 「うん……錬金術で治そうと研究してくれてたんだけど……」

読字障害は人間の中でも最も複雑な脳に関する障害だ。
少なくとも今の錬金術では、完全に治療するのは不可能なはずだ。

( ・ー・) 「僕のためにずっと研究をしててくれたんだけど、それが近くの領主様に見つかって……。
      連れていかれてから……帰ってきてない」

(´・ω・`) (…………)

363 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/06/08(金) 23:44:26 ID:wzCO0IB60

錬金術を悪魔の業だと信じている輩は少なくない。
人体に有害な物質を作り出すことも出来れば、強力な武器を作ることも可能だからだ。
戦争にその力を用い、領土を広げようと画策する奴らは、
自領土内にいる術師にそのような研究を無理強いする。

利用価値があるとして生かされていればまだいい。
酷いところだと、錬金術を異端として迫害している地域もある。


(´・ω・`) (両親がいないのに、これほどの屋敷を保てている理由はそれか……)

( ・ー・) 「母さんも一緒に出て行った……。だから今は一人で暮らしてるんだ
        ご飯はメイドさんが作ってくれるから」

(´・ω・`) 「出て行ってから一度も帰ってきてないのか?」

( ・ー・) 「うん……」

(´・ω・`) 「出て行ったのはいつ頃になる?」

( ・ー・) 「2年くらい前かな」

町の中に戦禍の跡がないのは、まだ戦争をしていないからか。
それとも……

364 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/06/08(金) 23:45:23 ID:wzCO0IB60

( ・ー・) 「それでね、あの……錬金術の話をして欲しい」

少年が話題を変えるのに合わせる。

解決すれば必ず彼のためになるわけじゃない。
余計なことをするべきじゃなかった、そう思うのは避けたかった。

(´・ω・`) 「具体的には、どんな話がいい?」

一口に錬金術と言っても、素材になる動植物及び鉱石の話、
作業する行程の話、使用する器具や道具、具体的調合例など多岐にわたる。

( ・ー・) 「実際に錬金術で作ったものの話が知りたいかな」

ま、予想通り。
それが一番面白いだろう。

(´・ω・`) 「例えば……これか。危ないから少し離れてろ」

持ち歩いている荷物の中から、種火を取り出す。
三叉の燭台の真ん中に灯っている火を吹き消した。

( ・ー・) 「?」

365 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/06/08(金) 23:46:52 ID:wzCO0IB60

二つの火種で蝋燭の芯を挟むように叩く。
パチッという音とともに火がはね、真ん中の火は元通りになる。

(;・ー・) 「!? え?」

(´・ω・`) 「まぁ、火打石があれば別にいらないといえばいらないんだけどね。
      これの利点は、力の加減で火力が調節できること。
      火打石なんかよりもずっと火を点けやすいんだ」

(´・ω・`) 「他にも、今の時期だとこれなんかも有用だ」

荷物から取り出したのは、冷土と呼ばれる粘性の高い粘土のようなもの。
水分中の温度を吸い取って、中に閉じ込めることができる。

使用した後に空気中に放置すれば、発熱し中に取り込んだ温度を廃棄する。
劣化するまで何度でも使えるから、冷たい飲み物が欲しい時に有用だ。

(´・ω・`) 「土だとは言うけど、水に入れたらそのまま沈む。
       変な成分が溶け出すわけでもないし、慣れたら便利だな」

(*・ー・) 「これが本当の錬金術……すごい……」

366 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/06/08(金) 23:48:16 ID:wzCO0IB60

残された資料を見て、自分なりにいろいろ試していたんだろうな。
それでうまくいくほど錬金術は簡単じゃない。
実際にその成果を目にする機会など無かったはずだ。

(*・ー・) 「触ってもいい?」

(´・ω・`) 「これなら別に危なくもないし、いいかな」

手のひらに直接乗せてやる。

(*・ー・) 「冷たい……」

少年は重さや感触を直に触って楽しんでいた。
余裕があればあげてもいいのだが、残念ながら今はそれしかない。

(´・ω・`) (……もう夜も遅いな)

まだまだ話は尽きないが、子供はもう寝た方がいい時間だ。

(´・ω・`) 「さて、そろそろ自分の部屋に戻れ」

(;・ー・) 「でもっ……」

367 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/06/08(金) 23:49:00 ID:wzCO0IB60

(´・ω・`) 「明日にまた話せばいいだろ?」

( ・ー・) 「……わかった。おやすみ」

(´・ω・`) 「うん」

彼が部屋を出ていった後、本棚の資料を読み始める。
他の錬金術師の研究を知る機会なんてほとんどないし、いい機会だ。
普通は自分の利益を優先して、公表しないからな。

僕だって本当に都合のいい道具は量産されたくないから黙ってるしね……。

(´・ω・`) (どうせ大した物はないだろうな)

そう思っても、手と目を動かし続ける。
研究は、主に視覚情報についてだった。
息子の読字障害のためだろう。

左右逆に読んでしまう彼の障害を取り除く手段が、いくつも書き込まれている。

だが、いくつかの研究に途中経過が書かれたままで終わっていた。
これは少年の父が研究途中で連れ去られたからだろうな。

368 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/06/08(金) 23:50:17 ID:wzCO0IB60
(´・ω・`) 「ふぅ……」

ベッドに潜って寝ようかと思った時、玄関の方から話し声が聞こえてきた。
かなり大きな声で話しているのか、部屋の中まで響いてくる。

「子供はどこにいる」

「どなたですか」

「いいから子供を出せ」

「申し訳ありません」

( e ) 「煩いですね、あなた」

「かはっ」


 「きゃあああああああああああああああ」



(;´・ω・`) 「ッ!?」

369 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/06/08(金) 23:51:39 ID:wzCO0IB60

( e ) 「お静かに」

悲鳴は長く続かなかった。

突然のことに焦りながらも、手元にある剣を抜き玄関まで走った。

(;´・ω・`) 「……!」

玄関の絨毯は真っ赤に汚れていた。
女性は胸を貫かれ絶命している。

(#´・ω・`) 「何をしている!」

(’e’) 「誰でしょう? 確かここには男性はいなかったはずですが」

血に汚れた刀を持っていたのは、薄汚れたローブを頭からかぶった小柄な男。
腰紐にぶら下がっているのは、蓋の閉まった試験管。
男は、おそらく錬金術師だ。

(#´・ω・`) 「どういうつもりだ?」

真っ赤な汚れはゆっくりとその範囲を広げていく。
警戒しながらも辺りを見回す。

370 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/06/08(金) 23:53:17 ID:wzCO0IB60

倒れているのはメイドの恰好をした二人の女性。
二人とも地に蹲り、息をしていない。

子供の体がそこにないことに少し安心している僕がいた。

(’e’) 「何、子供さえ出せば悪いようにはしません」

(#´・ω・`) 「……誰の命令で動いている?」

(’e’) 「言うと思っているのですか?」

侵入者は三人。
二人は重装備で身の丈ほどの長槍を構え、
話をしている男は、血に濡れたサーベルを床に引きずっている。

先ほど祭りの場所で見た男で間違いない。

(´・ω・`) (目的は僕ではなく、モララルドだったか……)

対するこちらは、常に持ち歩いている古い剣だけ。

(’e’) 「怪我をしたくなければ、少年を差し出しなさい」

371 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/06/08(金) 23:53:58 ID:wzCO0IB60
(;・ー・) 「うわあああああああああ」

(;´・ω・`) 「っ!」

音に目が覚めたのか、部屋から出てきた少年が腰を抜かしている。
そちらに走った男の前に立ちふさがり、牽制に刀を向ける。

(’e’) 「あくまで邪魔をするというわけですか」

(´・ω・`) 「人が死ぬのを黙って見過ごせる性質じゃないんでね」

腰紐に下げた蓋つき小瓶を取り出すのが見えた。
相手の意識がそちらに向くのを肌で感じ取り、その隙を狙う。

(#´・ω・`) 「っあ!!」

(;’e’) 「!?」

一歩を踏みこみ、振り上げた刀を袈裟懸けに振り下ろす。
それは受け止められたが、剣先を下にし相手の刃に添わすように滑らせ、
体の向きを横に変える。
それだけで、片手を腰にやっている男はバランスを失う。

前かがみになった上半身を狙い、剣の面を向けて全力で振り上げた。

372 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/06/08(金) 23:55:30 ID:wzCO0IB60

(;´・ω・`) 「!」

金属音が鳴り、一撃が受け止められたことを悟る。
とっさに数歩下がった。
一瞬前に体があった場所をもう一本の槍が貫いている。

(;´・ω・`) 「ふぅ……」

(’e’) 「なかなかの実力ですが、三人を相手にするのはしんどいでしょう?」

後ろにいた槍使いも見ているだけではないということか。

(#´・ω・`) 「逃げろっ!」

(;・ー・) 「でもっ!」

(#´・ω・`) 「早く行けっ」

(’e’) 「そうはさせません」

(;´・ω・`) 「っ!」

小瓶の中の液体が振り撒かれた。
咄嗟に少年を庇うため両の手を広げる。

373 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/06/08(金) 23:56:47 ID:wzCO0IB60
(;´+ω-`) 「……?」

急に足元がふらついて立っていられなくなった。
視界が歪み、平衡感覚を失う。

(;´+ω-`) 「何を……した?」

(’e’) 「二、三度目を擦ってみたらわかるはずです」

言われたとおりに、目を擦って前を見る。
今までとは、その言葉通り180度違う世界があった。

(;´+ω-`) 「これは……っ」

剣を地面に突き立てて体を支えなければ立っていられない。
視覚から得られる情報が上下左右反転している。

(;´+ω-`) 「くそっ……視界が……」

(’e’) 「そういうことです。いやはや錬金術は実に面白い。
     といっても、これを受けて立ち上がることができるとは驚きです」

374 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/06/08(金) 23:57:37 ID:wzCO0IB60

 「貴公、それでは戦えんだろう」

 「諦めるがよい」

(;´+ω-`) 「そうはっ……いかないな……」

(;・ー・) 「逃げてよっ! その人たちは僕が目的なんだ!
      旅のお兄さんは関係ない! それなのに命をかけるなんておかしいよ!」

言うね……。
確かに僕らは今日会った仲で、深い繋がりもない。
だからと言って目の前の危機を放っておくなんてことはできない。

(;´+ω-`) 「君を守るのは……僕の勝手だ」

(;・ー・) 「……っ!」

(’e’) 「そうですか……では死になさい」

男からの指示を受け、二人の重騎士が槍を僕に向ける
彼らの言うとおり、おそらく攻撃は避けれない。

それならば──

375 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/06/08(金) 23:59:05 ID:wzCO0IB60

突き出される二つの先端。
覚悟を決めて、一歩踏み込んだ。

 「なっ!?」

 「にっ!?」

(;´メω-`) 「ぐっ!!!!」

両の目に穂先を突き込まれ、一瞬だけ意識が途切れた。
そのまま体は重力にひかれ、地面に向かって倒れる。

(;・ー・) 「お兄さん!?」

(’e’) 「……バランスを崩しましたか。哀れな……。ガキを捕まえなさい」

が、その破壊も一瞬で治癒する。
両手をつき、反動を受け止めて体を持ち上げる。

(´・ω・`) 「待て」

僕の声を聞いて、驚愕し、目を見開いている男の前に剣を突き付けた。

 「なんだこいつ……っ!」

 「化け物っ!」

376 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/06/09(土) 00:00:04 ID:m/L1nWJE0

(´・ω・`) 「……ああ、紹介が遅れたね。ホムンクルスのショボンだ」

(;’e’) 「ホムン……クルス……ですか……っ!!
     やはり噂は本当だったのですね……」

とっさに繰り出される三度目の突きは当たらない。
眼球を破壊し再生することで、既に謎の薬の効果は切れている。

(´・ω・`) 「少し聞きたいことがある。答えてくれれば、殺しはしない」

二本の槍を身を削りながらかわし、右手の剣を喉元の隙間に差し込んだ。
左手も同じように首元を抑える。

勿論、左手に人を殺すほどの力はない。
だが、二人の重騎士の動きは止まる。

(´・ω・`) 「誰の差し金だ」

(’e’) 「……言うわけがないでしょう」

(´・ω・`) 「ならもう一つ聞く、なぜ少年を狙う?」

どうも嫌な予感がする。
身をもって浴びたあの薬は、並大抵の術師に作れるようなものじゃないはずだ。

おそらく、組織として動いている集団がある……。
あんなものを作って、一体何をするつもりか。

377 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/06/09(土) 00:01:43 ID:m/L1nWJE0

(’e’) 「我が主様がお求めだからですよ……それよりもあなた。
    こちら側に来ませんか?
    我が主様であれば、あなたに最高の価値を与えてくださるでしょう」

僕が重騎士の相手をすることで、剣先から逃れた男は余裕が生まれたのだろう。
言葉は震えていたが、それは恐怖だけではないはずだ。

未だ僕の"親"以外の錬金術師が"ホムンクルス"を作ったなどと聞いたことはない。
錬金術師にとって、"ホムンクルス"は夢見るほどの存在。

(´・ω・`) 「必要ない。僕は自分の好きなようにする。
       それに……人に害為す研究を手伝うつもりは毛頭ない」

(’e’) 「残念ですね……今回は引き上げるましょう。ですが逃げ切れると思わないでください。
     我々を生かして帰したことを後悔させてあげましょう」

面倒なことになったな。
それなりに大きな組織が、彼らの後ろにいるのは明らかだ。

(´・ω・`) (……少し遠出をする必要があるか)

(;・ー・) 「…………」

378 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/06/09(土) 00:03:41 ID:m/L1nWJE0

少年は転んだまま起き上がっていなかった。
安心からか、それとも恐れからかは僕にはわからない。

(´・ω・`) 「それじゃ、迷惑をかけるようだから、僕はもう出ていく」

立ち去ることが、少年にとって一番いい。
僕と一緒にいたって何も得することはないし、
むしろ損することばかりだと思う。

(´・ω・`) 「後……ここは離れたほうがいいよ。しばらくどこかに匿ってもらうんだ」

( ・ー・) 「なら……なら、一緒に行きたい」

(;´・ω・`) 「え……?」

なぜ僕と一緒に来たがるんだ。
意味がわからない。

( ・ー・) 「……匿ってもらえるところなんて、ないよ」

(;´・ω・`) 「事情を話せば、町の人間に頼めるだろう?」

379 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/06/09(土) 00:04:30 ID:m/L1nWJE0

人間は好きだし、子供だって嫌いじゃない。
だけど、一緒に旅なんてできるわけがないだろう。

( ・ー・) 「お願いっ」

(´・ω・`) 「……君の安全を保障できないし、旅するというのは想像しているよりもずっと厳しいよ」

野宿は当たり前、食べ物も楽には手に入らないし、
寒さや暑さに耐え、雨に打たれることもある。

それに、余計なトラブルに巻き込まれることも多い。
今回の様に。

(´・ω・`) 「それに、僕が人間じゃないってわかっているのか?」

( ・ー・) 「知ってるよ、ホムンクルスのことも少しだけ」

(´・ω・`) 「それなら何で……」

( ・ー・) 「僕がそうしたいんだ。錬金術を覚えて、いつか父さんを迎えに行く」

この惨状を見て、それでもまだ僕についてくるというのか。

380 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/06/09(土) 00:06:05 ID:m/L1nWJE0

( ・ー・) 「連れて行ってくれないなら、ずっとここにいる」

(´・ω・`) 「あいつ等が来ればどこに連れて行かれるかわからないよ」

( ・ー・) 「それでも別にいい」

(´・ω・`) 「…………」

( ・ー・) 「…………」

にらみ合いは数分続いた。
先に折れたのは僕。

(´-ω-`) 「わかった……近くの教会がある街までだ。それでいいか?」

(*・ー・) 「ありがとうっ!」

(´-ω-`) (はぁ……。お願いにはどうも弱いな……)

長い人生で断るようなことは何度もあったけど、
"お願い"されて断ったことってほとんどないな、そういえば。
こんなんじゃ苦労するというか、現に苦労しているわけだけど。

381 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/06/09(土) 00:08:47 ID:m/L1nWJE0

人間と旅をするのは……あの時以来だな。

(´・ω・`) 「……じゃあ、もう寝るんだ。僕は彼女らを弔ってくるから」

( ・ー・) 「……置いていかないよね」

(´・ω・`) 「約束する。後、地面を掘る道具はどこにある?」

( ・ー・) 「表の小屋にあるよ。……おやすみ」

部屋に戻った少年を確認し、死体の傍にかがみこむ。
一人ずつ、丁重に玄関から外に運び出した。

部屋から持ってきた明りをかざし、埋葬にちょうどよさそうな場所を探す。
足元に蝋燭を立て、土を掘り返していく。

あまり浅ければ獣に掘り返されてしまうかもしれない。

(´・ω・`) (本当なら、彼女達も家族に帰してあげたい……)

382 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/06/09(土) 00:09:44 ID:m/L1nWJE0

それは、亡くなった二人の家族すら危機にさらすことになる。
屋敷に来た彼らは、そのくらいのことは平気でするだろう。

ならば、ここに眠らせてあげた方がいい。

(´・ω・`) (何百年生きても、自己満足の考え方は変わらないな……)

なぜモララルドを狙って来たのか。
おそらく、彼の父親が関係しているのだろう。

考え事をしながら全身を動かし、穴を深く、広くしていく。
十分な場所を確保できた時、二人の亡骸を横に並べて寝かせた。

せめて、一人で寂しくないように。

土を上から被せ、石を墓標と置く。


(´・ω・`) 「…………」

383 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/06/09(土) 00:10:35 ID:m/L1nWJE0


明日は朝早く出たほうがいい。
いつまでも感傷に浸っているべきではないのはわかっていた。

それでも、なかなか屋敷に足が向かない。



(´・ω・`) 「……寝よう」

言葉にして決心をする。
燭台を持ち上げ、部屋に戻った。



・  ・  ・  ・  ・  ・



(´・ω・`) 「起きろ」

384 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/06/09(土) 00:12:32 ID:m/L1nWJE0

ベッドに潜ってから3時間ほどだろうか。
モララルドの部屋に行って、叩き起こした。

太陽が東の空を照らし始めている。

( -ー-) 「んー……なに?」

(´・ω・`) 「何じゃない、置いて行くぞ。最低限必要な荷物だけ持って、表に出てこい」

掛け布を取り払い、少年は飛び起きる。

昨日のこと思い出して目も覚めたか。

(;・ー・) 「すぐ、すぐ行く」

(´・ω・`) 「ところで、馬はあるか? 徒歩だと相当歩くことになるよ」

( ・ー・) 「裏戸から出てすぐのところに厩舎がある。
      ……メイドさんが…………手入れをしてくれていたはず」

(´・ω・`) 「そうか……。なら、少しは楽に移動できるだろう。向かう先は南の都市だ」

385 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/06/09(土) 00:15:06 ID:m/L1nWJE0

( ・ー・) 「準備できたよ」

体に見合ったサイズの小さな布袋。
外套は少し大きめで踵まであるが、質はいいものだ。

(´・ω・`) 「よし、行くか」

( ・ー・) 「うん」

(´・ω・`) 「ところで、ずっと聞きたかったんだけど、
       なぜ、ああも早く四つ葉を見つけられたんだ?」

(*・ー・) 「ああ、あれ。最初から持ってたんだ。お兄さんと会う前に見つけてね」

(´・ω・`) 「…………ふっ」

予想外の答えに思わず笑みがこぼれる。

(´・ω・`) 「そう言えば。僕の名前はショボンだ。そう呼んでくれ」

僕は手綱を引き、進路を南に向けた。
自分の前にモララルドを乗せてから荷物を確かめる。

( ・ー・) 「よろしく、ショボン」

(´・ω・`) 「ああ」

短く返事をして、馬を走らせた。

388 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/06/09(土) 10:25:20 ID:m/L1nWJE0











10 ホムンクルスと動乱の徴候  End


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