( ^ω^)は荒野の腹パニストのようです


2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/06/10(日) 21:00:37.76 ID:iJBy5z870


( ^ω^)「さて、色々邪魔が入ったが、情報をくれ」

2人の少年と出会った街の宿にて、ようやく腰を据えて話すことにした。
金髪の女は"男女二人が同じ部屋なんて"と顔を真っ赤にして殴ってきたが、そんな気は微塵もない。

そして今は安い宿の一室、離れて置かれた2つのベッドに座りながら向かい合っている。

 _,
ξ゚听)ξ「本当に何もしないんでしょうね」
  _,
( ^ω^)「しつこいな、何かされたいのかお?」

ξ;゚◇゚)ξ

ξ;゚◇゚)ξ「ばばばばばばばば馬鹿言ってんじゃないわ!!!」

( ^ω^)「へーへーすいませんでしたー」

飛んできた枕を軽くかわす。

3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/06/10(日) 21:04:06.80 ID:iJBy5z870

( ^ω^)「で?」

ξ゚−゚)ξ「……」

ξ゚听)ξ「私の目的は、ワンパニストを倒せる人間を探すこと」

ふむ。

( ^ω^)「……倒せる人間を探す、ということは」

( ^ω^)「あんたの力じゃ奴に及ばないから、代わりに」

( ^ω^)「……そういうことかお?」

あいつがあの時の宣言通り行動するなら、
全世界中の至る所で恨みを買うようなことをやらかしているだろう。
それを成すことのできるだけの力が目覚めてしまったのだから。

ξ゚−゚)ξ「まあ、話を聞いて」

金髪の女は何か迷っていた風だったが、結局俺の問いには答えなかった。

4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/06/10(日) 21:08:32.08 ID:iJBy5z870

ξ゚听)ξ「私はあいつの居場所を知ってるわ」

(;^ω^)「!!」

思わぬ言葉が飛び出た。


世界は大まかに2つの大陸に分かれている。
俺が今まで旅をしてきた東の大陸と、まだ足を踏み入れたことのない西の大陸だ。

東の大陸の旅でのワンパニストの情報はマチマチだった。
それは奴がどこそこで達人を殺したという大きな情報から、
そう名乗る男が安い飯屋で飯を食ってたとかいう、信憑性の欠片もないような噂まで様々だ。

そう、噂。
そのどれもが決定力に欠けていた。

今までの経験上、こいつから少しの情報でもあれば最高、と踏んでいた。
そこに"居場所を知っている"と来たもんだ。

大きな、非常に大きな一歩。

知らず知らずのうちに震えていた両手を体の前で力を込めて握る。

5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/06/10(日) 21:12:02.95 ID:iJBy5z870

( ^ω゚)「あいつはどこにいるんだお!?」

思わず身を乗り出す。
頭の中にはあの時繰り広げられた惨劇が何度もリピートされていた。

復讐を叶える時は近い。

俺の声を非難するように隣から壁を叩かれた。
それほどまでに大きな声を出してしまっていたらしい。

だがそんなことはどうでもいい。

眼の前の女は腕を組んでじっと押し黙っている。
時折天井を見上げて唸り言葉を探しているようだ。

俺は女からの爆弾発言を今か今かと固唾を呑んで待ち構えている。


ξ--)ξ「…………駄目ね、やっぱり駄目だわ」

( ^ω^)「……ぉ?」

6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/06/10(日) 21:15:28.44 ID:iJBy5z870

ξ゚−゚)ξ「"何故私がワンパニストを倒せる人間を探しているか"と"どこにいるか"」

ξ゚−゚)ξ「…………思い出せない」

( ^ω^)

( ^ω^)「は?」

ξ゚听)ξ「私、記憶喪失なのよ」

( ^ω^)「…………」

はぁ?
  _,
( ^ω^)「はぁ?」

きおくそうしつ?
何て言った、今?
きおくそうしつって、あの記憶喪失か?
  _,
( ^ω^)「……ジョークだお?」

ξ゚听)ξ「こんな時にジョーク言うほど空気読めなくないわ」

その発言は怪しい。

8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/06/10(日) 21:18:55.18 ID:iJBy5z870

ξ゚听)ξ「だからどこにいるかとか、私とあいつの接点とか、何も覚えてないわけよ」

( ^ω^)「……マジで?」

ξ゚听)ξ「マジで」

全身に漲っていた憎悪の力がへなへなと抜けていくのがわかった。

なんだその勿体ぶり方は。
記憶喪失て、お前、記憶喪失て。

ξ;--)ξ「こればっかりは信じてもらうしかないわね……」

( ´ω`)「えーと、つまり、なんだお?」

自然と顔もしょげる。

( ´ω`)「あいつの居場所を知っているけど記憶喪失で今は何も思い出せない」

( ´ω`)「でもあいつを倒せる人間を探すという目的を抱えて旅をしていた」

( ´ω`)「でもでもその理由も不明……」

11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/06/10(日) 21:22:53.64 ID:iJBy5z870

ξ゚听)ξ「そゆこと」

( ´ω`)「………………」

ξ゚−゚)ξ


本気かどうか疑わしい。

だがこいつがこんな嘘を吐いて得をすることはゼロだ。

俺がこいつと出会ったのは完全に偶然だし、飯も奢ってもらった。
この街で子どもに協力し、助けようとしていたのは演技か?いや、あの首の突っ込み方は素だろう。

それにそもそもワンパニストのワの字程の情報も得られてなかったのに、
こいつは俺が尋ねる前に直でその名前を出してきた。
俺の強さも知っているし、これが嘘だとバレるとどうなるか、女とはいえ身の危険は感じているはずだ。
……ケダモノ的な意味だと勘違いしている風だが。

( ^ω^)「……」

だから決めた。

14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/06/10(日) 21:27:25.96 ID:iJBy5z870

( ^ω^)「……よし、お前を信じるお」

ξ*゚听)ξ「本当!? ありがと!」

( ^ω^)

( ^ω^)「……それで?」

ξ゚听)ξ「ん?」

( ^ω^)「お前はどうしたいんだお?」

( ^ω^)「現時点では使えない情報を俺に掴ませて、何がしたいんだお?」

ξ゚ー゚)ξ「ああ、なるほど」

ξ゚听)ξ「私としても記憶が戻ってほしいし、目的のこともある」

ξ゚听)ξ「だから一か所に留まることがいいことだとは思えない」

( ^ω^)「……確かに」

17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/06/10(日) 21:32:55.65 ID:iJBy5z870

ξ゚听)ξ「それで、私と一緒に旅をしてほしいの」

( ^ω^)

こいつに眠っている情報は大きい。賭けてみる価値はある。
だがこれから、今日のような面倒事に巻きこまれることになるかもしれない。
俺はその光景を既に予感ではなく、未来予知のようにありありと想像できていた。

(;^ω^)「む〜〜〜〜〜〜ん…………」

唸る。唸る唸る。悩みどころだ。
眉間に皺を寄せ、考える。

ξ゚−゚)ξ「……」

( ^ω^)「…………」

一緒に行動するか否か、考えを溜息に乗せて全て吐きだした。

残ったのが結論だ。

( ^ω^)「……俺はブーン」

ξ゚ー゚)ξ「! 私はツン!」

18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/06/10(日) 21:36:26.84 ID:iJBy5z870



ξ゚ー゚)ξ「よろしく、ブーン!」















                                      第四話「似て非なるもの」



19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/06/10(日) 21:41:06.87 ID:iJBy5z870


‐‐‐−−−―――━━━


ξ;゚听)ξ「ブーン! 歩くの速い!」

( ^ω^)「お前が遅いだけだお」

ξ;゚听)ξ「違う! あんたが速い!」

( ^ω^)「おーまーえーがーおーそーいー」

ξ;゚听)ξ「ゆっくり話してるくせに足速いわよ!!」

ξ;゚□゚)ξ「私疲れたのよぉ〜〜!!」

ξ;>□<)ξ「水飲みたい〜〜〜ぃい〜〜〜〜!!!」

媚びた声で生命線をねだってくるツン。
流石の俺も非常にイライラする。

(#^ω^)「水は大事にとっておくって言ったお?」

振り返り、猫背で前傾姿勢になっているツンと睨みあう。
顎からぽたりと汗が落ちた。それ飲めばいいのにと思った。

20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/06/10(日) 21:44:33.88 ID:iJBy5z870

共に行動することになってから数日、俺達はだだっ広い砂地を抜けられないでいた。
昼は憎いくらいに降り注ぐ日光の下移動し、夜は下がった気温に抗わずに野宿をする。
時たま荒れる天気から逃げるように岩陰へ非難する、そんな日々だった。

ツンは旅をするのに何もかもが足りない。

例えば体力、30分もすれば俺の歩調とまるで合わなくなる。
例えば根性、その後休みたいと駄々をこねる。
例えば我慢、そして貴重な水と食料を大量に消費する。

故に、なかなか俺達は先へ進むことが出来ていなかった。

そりゃ、無理に我慢しすぎて倒れられると困る。
しかしこれはあまりにも酷い。
一人で旅をしていた時は一体どうやって旅をしていたのか。

ξ゚听)ξ『寄生』

( ^ω^)『やっぱ乞食じゃねーかお』

ξ#゚听)ξ『ちがーう!』

性根が腐っている。

21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/06/10(日) 21:48:16.84 ID:iJBy5z870

結局俺が折れて水を与えた。ここ数日、よくあるパターンだ。
ちなみに荷物は俺が全部持っている。

( ´ω`)「はぁ……」

ξ*゚听)ξ「プハー!どうしたのブーン!悩み!?」

(#´ω`)「まさにお前のことで悩んでるお」

ξ*゚听)ξ「あら!なんで!?」

(#´ω`)「自分の胸に聞いてみるお」

ξ--)ξ

ξ゚听)ξ「私は悪くないって言ってるわ!」

うぜえ。超うぜえ。
こいつがワンパニストの情報持ってなかったら腹パンして黙らせてたぞ。

ξ゚ ロ゚)ξ「あら?」

そんな葛藤をしていると、ツンが突如すっとんきょうな声を上げた。

23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/06/10(日) 21:53:07.53 ID:iJBy5z870

まばらに舞う砂のカーテンの遠く向こうにひっそりと佇む長方形、塔。

なるほど、ここは小高い丘陵のてっぺん。
今まで見えなかったものも見えてくるわけだ。

( ^ω^)「ありゃあ、"ビル"……かお」

ξ゚听)ξ「機械時代の建物ね?」

( ^ω^)「そうだお。昔見た本にあれそっくりな建物が載っていたお」

ξ゚−゚)ξ「ふーん……随分大きいわね」

ツンがボトルに栓をする。
透明度の高い緑色のボトルに入った水がちゃぷんと音を立てた。
風が吹き、さあぁ、と砂が鳴る。
ツンは黙りこみ、地面から生える塔を見つめている。

まさか、と思い先に注意しようと口を開いたが、遅かった。

ξ*゚听)ξ「あそこに行きましょ!登ってみたい!!」

爛々と好奇心に輝く瞳。
ああ、やっぱり。

25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/06/10(日) 21:57:01.62 ID:iJBy5z870

( ^ω^)「却下」

どうして、と不満顔で不平を言われる前に今度こそ先に言葉を繰り出す。

( ^ω^)「ああいう建物は賊が住み着いてることが多いお」

( ^ω^)「ただの興味本位で近づくにはリスクが大きすぎるお」
  _,
ξ゚听)ξ「あら何よ、あんた賊に負けるの?」

ツンががっかりだわと言いたげに肩をすくめる。
異様に腹が立つ顔もセットだ。

(#^ω^)「あのな、俺が負けるはずがないだろうが」

ξ゚听)ξ「じゃ、いいじゃない。ちゃちゃーっとぶっ飛ばせばいいじゃない?」

( ^ω^)「面倒くさい」
  _,
ξ#゚听)ξ「……あんたのださいマントの方が臭いわ。ニオう。」

ツンがこれ見よがしに鼻をつまみ、顔をしかめてみせた。

27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/06/10(日) 22:01:25.88 ID:iJBy5z870

(#^ω^)「なっ、馬鹿、お前これちゃんと洗ってんだお!?」

ξ#゚听)ξ「嘘つけ!それ洗ってるとこなんて見たことないわ!」

(#^ω^)「雨と風の自然乾燥舐めるなお!」

ξ;゚听)ξ「ぎゃー!不潔!」

そこでツンは思いついた顔をした。
ニヤリと笑った瞬間翻し、塔へ一目散に駆けて行った。

……なるほど。
思わず感心してしまった。

あいつの情報は言わば"人質"。

(#^ω^)「……くそったれぇ」

先手を打たれたら、俺はそれに従うしかないのだ。


‐‐‐−−−―――━━━


29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/06/10(日) 22:05:23.31 ID:iJBy5z870

"世界が世界として機能していた時代"の建物はその鼠色の特性を活かす様に、静かにそびえ立っていた。

根元の不自然に破壊された穴から中へ侵入する。
砂に埋没した床、朽ちた壁、割れた窓。廃墟という名前が良く似合う。
天井に開いた穴にはハシゴがかけられていて、人間が住みついている可能性を示唆している。

ξ゚ー゚)ξ「賊なんていないじゃない。あんた案外心配性ね」

前半部分はその通りなので黙っておく。


かつて栄えた"機械時代"はぼんやりとしか姿を残せていない。

いや、そもそもぼんやりとでも残っている方が稀有なのかもしれない。
例えばあの光る金属のあった"機械時代の跡"のように後の時代の人間によって好き勝手に荒らされる。
全てが全て、あの街のような健全な理由ではない。

高い金を出して今の技術では生み出せない金属や機械――― "機械時代の名残"を買い集めるマニアがいる。
ということは、買う者があれば売る者もありということで。
恐らくこのビルからもそういう人間達が高値で売りさばくために遺物を持ち出してしまい、
ただの寂れた廃墟と化しているのだろう。

31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/06/10(日) 22:10:10.22 ID:iJBy5z870

ξ;゚听)ξ「うっ!?」

と、そんなことを考えているとどこかからよくないことが起こった時の声が聞こえた。
そして後ろからドシンという音とともに呻き声が垂れ流されてくる。

( ^ω^)「……なーにやってんだお」

ツンはハシゴで足を滑らして落下していたらしく、へたり込んでいた。
おまけに床に散在した刃物のように尖った物質、ガラスで腕を切ったらしく、
綺麗に切れた小指程の長さの傷からは真っ赤な血が流れている。

ξ;凵G)ξ「うう〜〜……」

(;^ω^)「ああ、もうほら泣くな、子どもじゃねぇんだから」

傷口を水に晒し、手持ちの布を手ごろな大きさに破って腕を縛り、とりあえず止血してやる。

ξ;凵G)ξ「痛い!」

(;^ω^)「知らんがな」

恨むなら自分を恨めよ。

そんなこんなでグズるツンを手伝いながらハシゴを登り、五階へ到達した時。

33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/06/10(日) 22:13:56.28 ID:iJBy5z870

ハハ ロ -ロ)ハ「ハイ、ご到着〜」

カンカン、とドラム缶を棒で叩く女がいた。

ハハ ロ -ロ)ハ「ようこそウェルカム。ワタクシ、ハローの城、や、塔へ」

怪しげな言葉を繰り出しながらニヤリと笑う。

くたびれただぼだぼの白衣に小柄な身を包み、黄土色の髪はぼさぼさ。
眼鏡は度々ズレるようで、俺たちが呆気にとられて眺めている間に何度も直している。

ハハ ロ -ロ)ハ「ん、どしたの?」

やる気なさげに棒を宙に泳がせ、頭に?を浮かばせている。

ξ;゚听)ξ「あ、いや、まさか人がいるとは思わなくて」

ハハ ロ -ロ)ハ「む? 失礼だな、ミーはちゃんと入り口に看板を―――」

そこまで言って、あ、と声を出して奥へ引っ込む。
戻ってきた女は等身大の鈍い光を放つ金属の板を抱えていた。

36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/06/10(日) 22:18:28.38 ID:iJBy5z870

ハハ ロ -ロ)ハ「いやー、この看板、表に立てさせとくの忘れてた」

看板には下手クソな尻すぼみな字で"天才研究家の偉大なる塔"と書かれている。

ハハ ロ -ロ)ハ「あははっ!はずかちー!」

( ^ω^)「…………」

( ^ω^)「ハロー、と言ったか」

( ^ω^)「あんたはここで何やってんだお?」

真っ当な疑問をぶつける。

ハハ ロ -ロ)ハ「んん?だから研究だよ。 ほら」

そう言ってポケットからあからさまなスイッチを取り出し、押す。
するとツンの近くに置いてあった何かが激しい音を立てる。

ξ;゚听)ξ「ひゃあっ!!」

( ^ω^)「……おお」

37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/06/10(日) 22:23:38.98 ID:iJBy5z870

スイッチに呼応して動きだしたそれは、小さな丸太のような置物だが、
足元にぼろ布がつけられており、床を磨くように回転している。おまけに移動する。
意味のなさそうな角やら髭がついており、さらに派手に色づけされて目が痛い。

( ^ω^)「……掃除する機械……かお?」

ハハ ロ -ロ)ハ「ザッツラーイ!ロボットと呼んでいただきたい! アームも出るのさ!」

丸太の側面から棒が飛び出し、ぐりんぐりんと動く。
しっかり腕らしく関節部分も作られており、かゆい所に手が届く仕様だ。

ξ;゚听)ξ「た、確かにすごい……」

ハハ ロ -ロ)ハ「ふふん、でしょー」

ハローが自慢げに胸を張る。

ξ*゚听)ξ「これって他にもあるの?」

また好奇心に目を輝かせている。

ハハ ロ -ロ)ハ「まあ折角の客に立ち話もなんだ、中に、や、上に昇って行きたまえ」

ハローの奥にはまたハシゴがあった。
ここは玄関みたいなものなんだろう。

38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/06/10(日) 22:28:08.12 ID:iJBy5z870

ハハ ロ -ロ)ハ「この建物、ビルっていうんだけどね、他にも部屋あるんだけどさぁ」

ハハ ロ -ロ)ハ「どれもこれも広くって!落ち着かないの!」

ハハ ロ -ロ)ハ「いやー汚いちっさい部屋で申し訳ないねー」

少しも申し訳なさそうな笑顔でハローは椅子に座る。

ハハ ロ -ロ)ハ「適当に片づけて適当なとこに座ってくれればいいよ」

ハハ ロ -ロ)ハ「あ、お茶煎れるね。お茶でいいよね?お茶しかないし」

矢継ぎ早にまくしたてられ、おう、としか返事が出来なかった。

どうやら最上階が彼女の生活スペースらしい。
机の上や床に機械の部品があちこちに散らばり、作りかけと思われる機械、いやロボットがいくつも並んでいる。
……生活スペースとは言ったが、とても人の住む環境であるとは思えない。

床の上に座るスペースを確保し腰を下ろす。

ξ゚听)ξ「なんだかすごい部屋ねー」

差し出された薄い色のお茶に入っていたネジをつまみ出す。
こんなもんどうやって入ったんだよ。

お茶を煎れ終わったハローがせかせかと動き、自分の作ったロボット達の紹介を始めている。
ええっとかへぇーとか相槌をうつツンに怪しげな研究者はご満悦のようだ。

40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/06/10(日) 22:32:10.52 ID:iJBy5z870

とんだ変人かと思ったが、話を聞いているとなかなか面白い。
師匠から古い教科書を通じて教わった知識ではカバーできない、"今"の情報を彼女は持っている。
こんなしなびた建物に確かに彼女が生きていることが伝わってくる。

機械時代では日常生活にも、例えば野菜を切る時にもロボットを利用していたとか。
それを掘りだし"何でも切る君"と名付けられた、……センスを感じさせる名前のロボットに改良したとか。
そういったロボをリメイクし、メンテナンスしながら生活するのが日々の楽しみなんだとか。
ただ彼女には芸術の才能はなかったらしく、どれもこれも一目見ただけでは何かわからない。

そしてマシンガントークは続く。

ハハ ロ -ロ)ハ「ミーは人が苦手でね、だからこんなところに住んでるのさ」

ハハ ロ -ロ)ハ「だから拾ってメンテしたこの子達はミーの家族同然」

ハハ*ロ -ロ)ハ「メンテしないとこの子達は死んじゃうし、ミーもこの子達がいないと寂しさきゅんきゅん!」

ハハ*ロ -ロ)ハ「砂で痛んだ関節をメンテナンスしてやると嬉しそうな色になるのさ」

ハハ*ロ -ロ)ハ「色なんてない、ただの錆びた銀色だって?ミーだけにしか見せてくれないんだなー」

ハハ*ロ -ロ)ハ「あっはっはっは、この子は女の子かなー??」

ハハ ロ -ロ)ハ「おっとお茶がなくなったかい?煎れようか?飲むよね?」

41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/06/10(日) 22:36:37.03 ID:iJBy5z870

(;^ω^)「あ、どうも」

ハハ ロ -ロ)ハ「お礼ならこの子に言ってねー」

こぽこぽと音を立ててお湯を吐き出す機械を叩く。


そのまま活き活きと話し続ける彼女を止めるタイミングを見失い、

ハハ ロ -ロ)ハ「あれ、ユー達のことミーよく知らないんだけど」

遠くの物が見える"双眼鏡"という物をこれまた自慢げに掲げ、
それを使って俺達が塔に入ってくるのを見ていたと説明した時、ようやく喋りが止まった。

軽く自己紹介をしたが、ださいマントだねの一言で片づけられた。
よれよれの白衣を着てるやつに言われたくはない。

そこでハローがツンの軽く処置しただけの怪我に気づき、消毒液らしき液体で処置した。
その謝礼として水と食料を要求するあたりちゃっかりしてるというか、
人間嫌いというか人に嫌われやすい人間なのだろうか、と思った。

追加された茶をすすった後、ツンが声を上げた。

ξ゚听)ξ「そうだそうだ、ついでに一つ聞きたいんだけど……」

そう言って腰に差していた拳銃を取り出す。

43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/06/10(日) 22:40:15.39 ID:iJBy5z870

ハハ ロ -ロ)ハ「ふむ?拳銃だねこれは。これがどうかしたかい?」

ξ゚−゚)ξ「拳銃は拳銃なんだけど、どうも弾を入れるスペースがないのよね」

何度か引き金を引いて見せたが当然弾が出ることはなく、カシュカシュと情けない音を立てただけだ。

ハハ ロ -ロ)ハ「ちょい貸してみ」

興味深そうに拳銃を調べるハローは、それまでの無邪気な子供のような顔から、
真剣に目の前の物に対して正体を探ろうとする研究者の顔をしていた。
しかし同時に親しい者を気遣うような、優しい顔でもあった。
本当にハローは機械が好きらしい。


ハハ ロ -ロ)ハ「ふむ……」

ξ゚−゚)ξ「何かわかった?」

ハハ ロ -ロ)ハ「わからなかった」

( ^ω^)「わからなかったのかお」

ハハ ロ -ロ)ハ「"わからなかった"ということがわかっただけで成果だぞ、喜べ。わーい」

とりあえず二人で万歳しておく。

44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/06/10(日) 22:44:37.64 ID:iJBy5z870

( ^ω^)「じゃあ、何がわかったんだお?」

ハハ ロ -ロ)ハ「……この世界は二つの大陸に分かれていることは知ってるね?」

頷く俺と首を傾げるツン。

( ^ω^)「ここ、東の"ソウサク大陸"と西の"ヴィップ大陸"」

ハハ ロ -ロ)ハ「ザッツライ」

ハローが適当な紙の端っこに楕円を二つ書き、大陸に見立てた。

ハハ ロ -ロ)ハ「過去の大戦の時、二つの大陸には敵対する二つの大国があった」

ハハ ロ -ロ)ハ「ま、ヴィップ大陸のことはミーは全然知らないよ」

断言されてしてヴィップ大陸に大きく×を描いた。
しかし言い方からしてソウサク大陸の事は知っている、ということだろう。

ξ゚听)ξ「長くなりそうだったらカットね。私、歴史とかってちょっと苦手なの」

( ^ω^)「おい」

ハハ ロ -ロ)ハ「元よりそのつもりだからだいじょーブイ!」

こいつらは示し合わせたりしているのか?

45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/06/10(日) 22:48:37.87 ID:iJBy5z870

そこからは宣言通り、ハローがペラペラとかいつまんで話してくれた。

ソウサク大陸の"ソウゴウ国"とヴィップ大陸の"ボウ国"は量産型の兵器の他に、
独自の兵器を開発していた。

ソウサク大陸の国は"サイボーグ"と呼ばれる兵器。
人を機械化し、サイボーグとして最強の機械歩兵部隊を造ろうと画策していたらしい。
しかし人と機械の融合はやはり難しかったらしく、機械兵の研究の傍らで進めていた、
戦闘機や武器等の正真正銘の純機械だけが実戦化された。

一方のヴィップ大陸の国の兵器は、正直興味がなかったから覚えてないらしい。
あまり機械とは関係のない兵器だったようだ。

で、機械については詳しいハローの知らない機構で出来ているツンの銃は、
ヴィップ大陸の国の兵器の産物だろう、ということらしい。

ハハ ロ -ロ)ハ「ただぶっ壊れてるわけじゃない、と思うよ」

ハハ ロ -ロ)ハ「何か条件があるんだ。たまに引き金引いてみると良い。」

ハハ ロ -ロ)ハ

ハハ*ロ -ロ)ハ「いやぁ、この子達は可愛くてさぁ!」

知ってることを喋り終えてから、また話し始める。

俺はもうその手の話はお腹いっぱいだから何も返事をせず、
窓から見えるオレンジ色に染まり始めた空を眺めていた。

46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/06/10(日) 22:51:48.33 ID:iJBy5z870

ハハ*ロ -ロ)ハ「ほらこの掃除ロボのフォルム、地を這う円盤!とても機械とは思えない!」

ハハ*ロ -ロ)ハ「この子は充電式なんだ。どこで充電してるのかって?雷さ!」

ハハ*ロ -ロ)ハ「ここは砂地とはいえたまーに激しい雷雨に見舞われてねぇ」

ハハ*ロ -ロ)ハ「その時に避雷針代わりのこの塔のてっぺんの角に落ちるのさ」

ハハ*ロ -ロ)ハ「いやー、この理論は昔からあったらしいけどミーがちょちょーっと改良してさ!」

ハハ*ロ -ロ)ハ「どう!?すごいでしょ!褒めていいよ!」

ξ;゚听)ξ「すごーい」

ハハ*ロ -ロ)ハ「いやぁ嬉しいねぇ!あっはっは!!」

ξ;゚听)ξ「はは……」

ツンが流石に疲れたのか、雑に受け答えしていた。
それにも関わらずハローは喋り続ける。

ξ;゚听)ξ「すごいわね……」

いい気味だ。

48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/06/10(日) 22:56:48.03 ID:iJBy5z870

ハハ ロ -ロ)ハ「ところで!」

( ^ω^)「んお?」

ふいに両手で俺とツンを指さすハロー。

ハハ ロ -ロ)ハ「今晩はどうするかい?」

そんなことをニコニコしながら尋ねた。

ξ゚−゚)ξ「今晩って、そんな気の早い」

ハハ ロ -ロ)ハ「もうすぐ夜だよ」

ξ;゚听)ξ「あら、本当」

外は紺碧色。
そしてかちん、という音と共にハゲ坊主のような物が薄暗くなった部屋を照らした。
機械時代では当たり前のように各家庭についていたという、電球だ。

ツンが眩しげに目を細めながらつついたりする。
その光景を見ながらハローは満足気にニヤニヤしている。

ハハ ロ -ロ)ハ「どうだい、ここに泊まるってのは?」

49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/06/10(日) 23:01:37.55 ID:iJBy5z870

ξ*゚听)ξ「いいの!?」

俺が返事をする前にツンが反応する。

ハハ ロ -ロ)ハ「オーケイオケイ、散らかっちゃいるが人二人寝るぐらいどうとでもなるさ」

( ^ω^)「……うーん」

ξ゚听)ξ「ブーン?」

いつもなら俺も二つ返事するところだが何かが引っかかった。
当てにならない勘でも俺の勘、信じてやる価値はあるかもしれない。

( ^ω^)「……人嫌いじゃなかったかお?」

そう指摘するとハローはあー、とかうーん、とか呟きながら歩きまわり始めた。
その様は素直に何か言いだせない子どもそのものだ。

人工の明かりに照らされて、肩をすくめてみせる。

ハハ ロ -ロ)ハ「ま、人恋しいこともあるさ」

ハローは少し照れくさそうに笑った。

51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/06/10(日) 23:05:40.31 ID:iJBy5z870

外はすぐに真っ暗になった。
ハローと食料と水を分け合い、久しぶりに食事らしい食事にありつけた。
食糧は自前の機械仕掛けの罠で野生動物を捕らえているらしい。割とワイルドだ。

埃っぽい部屋には、心なしかゆらゆらと揺れる電球の明かりだけが点いている。
俺達は明かりに顔を向けて、これまた埃っぽい布団で暖をとっている。
月の見えない夜、そのせいか気温もいつもより低いのだ。

まあ、つまらない話だから勝手に寝てもいいよ、とハローは前置きした。


‐‐‐−−−―――━━━―――−−−‐‐‐


荒野に存在した村が滅びる理由はいくつかある。

大地に点在するほとんどの機械が動かなくなってしまっているが、
この数百年、人類が何もしていなかったわけではない。
各地に生き残った人々は独自に機械時代の情報を集め、
"天才"と呼ばれる人間達が本来の使用用途で利用できるまで機械時代の名残を修復した。

そして更なる機械を求め機械を奪い合い、殺し合う。
それが村を滅ぼし、人類がさらに減少する原因の一つだ。

52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/06/10(日) 23:09:33.44 ID:iJBy5z870

ハローはソウサク大陸のある辺境の村に産まれた。

辺境と言えども近辺の村に比べ豊かであったと言える。
その村には数百年前の記録がありながら、
いや、あったからこそ機械時代の名残で滅んだ村の二の舞にならなかった。

ハローの産まれた村の創始者達は代々受け継がれていくことになる、歴史を記録した書物を残した。
その書物を村人たちは盲信し、しかしだからこそ機械に頼ることなく自らの頭で考え、
文明は少しずつ、しかし着実に進歩して行った。
歩みは実を結び周辺の枯れた大地には作物が育ち、ついには完全な自給自足を完成させ、
他の村と交流することもほとんどなく、村は一つの"閉じた国"として機能していた。


ハローは"天才"だった。
それ故に書物に触れ、自らの考えの及ばない機械に興味を持った。
そして日に日に募りゆく機械への情熱を抑えきれず、12歳の時、彼女は少しずつ行動を開始した。

何でもない、簡単なことだ。
近場の機械時代の跡へ赴き実際に機械に触れるというただそれだけのことだ。

53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/06/10(日) 23:13:54.63 ID:iJBy5z870

彼女は日が沈むまでの数時間の作業を数か月繰り返し、楽に畑へ水を撒けるロボットを造りだした。
天才だからこそ作り上げることができた。

褒めてほしかっただけだった。
父と母に、よくやった、これで村は楽ができると言ってほしかった。
しかしたったそれだけの望みすら閉じた環境は許さなかった。

幼い心血と愛情を注いだ記念すべき第一作目は、村の屈強な男の斧で破壊された。

父からは"何故こんなことをしたんだ馬鹿者"と怒鳴られた。
母からの言葉はなかった。

彼らの前時代の遺物に対する、狂気染と言うべき感情を幼いハローには理解できなかった。
彼女の心に残ったのは"我が子"を破壊された悲しみと、村に対する復讐心だった。

三日三晩、寝ずに作り上げた第二作目は人を殺すことを望まれた。
だから、その任務を遂行した。

正気に戻ったハローの耳に残っていたのは幾つもの悲鳴と狂った笑い声。


機械を愛し、機械に罪を着せた彼女は自らの行いから逃れるように旅に出た。
"何か"の悲鳴は耳の奥底でいつまでも聴こえていた。

54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/06/10(日) 23:18:15.22 ID:iJBy5z870



‐‐‐−−−―――━━━


ハハ ロ -ロ)ハ「……ありゃ、寝なかったのかい?」

ξ゚−゚)ξ「ハロー……」

ハハ ロ -ロ)ハ「つまんない話だったろうに」

自作ロボットについて語る時の活き活きとした面影はなく、ハローは淡々と身の上話をした。
俺達はそれに相槌をうつこともできずにこれまた淡々と受け止めていた。

( ^ω^)「……旅の終着点がここ、というわけかお」

ハハ ロ -ロ)ハ「ザッツライ」

ハハ ロ -ロ)ハ「このビルは見るからに怪しいからね、君達みたいな物好きな旅人しか立ち寄らないのさ」

それは自分でもわかっていたか。

ハハ ロ -ロ)ハ「ここに辿りついてからは機械時代の跡から遺物を回収して改造する日々さ」

ハハ ロ -ロ)ハ「故郷での一件以来、人間が恐くなったし自分も恐くなった」

ハハ ロ -ロ)ハ「だからこの子達を家族と思い、心を落ちつけた」

56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/06/10(日) 23:22:43.22 ID:iJBy5z870

愛しげに近くの"空気調整君"と名付けられた、珍しく無骨な直方体のロボットを撫でる。

ハハ ロ -ロ)ハ「この子達は創りだしたミーがメンテナンスしてやらないと死ぬ」

ハハ ロ -ロ)ハ「ミーもまた、この子達がいないと……死んでしまうだろうね」

大昔、寂しいと死ぬと言われた動物がいたらしい。
俺には動物に心があるのかはわからないが、どれだけ偽ろうと人間には確かに心がある。
だから本当に寂しくて死んでしまう動物は人間に違いない。

ハハ ロ -ロ)ハ「でもね、所詮ミーは人間で、この子達は機械」

ハハ ロ -ロ)ハ「ミー達は似て非なる物なのさ」

吐き出すように小さく呟かれた言葉は暗闇に溶けた。
静寂の中、ハローが本当にそう言ったのかどうかわからなくなった。

ξ゚−゚)ξ「……これからもここで、こうやって生きていくつもり?」

ツンが彼女のこれからを案じるように尋ねる。
まるで娘を心配する母親のようだった。

ハハ ロ -ロ)ハ「……その辺はわからな」

ハハ ロ -ロ)ハ「あ」

ハハ ロ -ロ)ハ「……ソウサク大陸のソウゴウ国は、機械兵の研究をしていたらしい」

57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/06/10(日) 23:26:18.30 ID:iJBy5z870

唐突にそう切り出した。

( ^ω^)「急にどうしたんだお?」

ハハ ロ -ロ)ハ「さっきも言ったが、人は体の部位を機械化することにより、サイボーグと呼ばれる」

ξ゚听)ξ「兵を機械化して戦争に使おうとしてたってことよね……信じられないわ」

ハハ ロ -ロ)ハ「昔は昔、今は今」

ぴしゃりとそう言った。
そして言葉を続ける。

ハハ ロ -ロ)ハ「ミーはそのサイボーグになろうと思っている」

ξ;゚听)ξ「えっ」

ハハ ロ -ロ)ハ「ま、こんなこと言われても困るよねー。あっはっは」

言葉を失ったツンにフォローを入れるようにから笑いをする。

( ^ω^)「理由を聞いたら答えは返ってくるかお?」

ハハ ロ -ロ)ハ「ん、…………ああ、返そう」

ハハ ロ -ロ)ハ「今も、あの村での虐殺を夢に見る」

58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/06/10(日) 23:29:37.41 ID:iJBy5z870

ハハ ロ -ロ)ハ「ミーはロボットを操縦しているだけだったのに、ミーが殺しているみたいにリアルなんだ」

ハハ ロ -ロ)ハ「手に残る感触も、向けられた非難の声も、浴びる血の暖かさも」

ハハ ロ -ロ)ハ「……サイボーグになってしまえば、そんなこともなくなるかと思ってね」

( ^ω^)「"逃げ"だお」

ハハ ロ -ロ)ハ「まあそうだろうね」

ふひひっと自嘲気味に笑う。

ハハ ロ -ロ)ハ「こうして君達に話したのも、ミーのしたことを赦してほしかったのかも知れない」

ハハ ロ -ロ)ハ「……咎めてほしかったのかもしれない」

ハハ ロ -ロ)ハ「私は弱いんだよ」

狼の遠吠えが荒野の渇いた夜に響く。

ξ--)ξ「…………」

ξ--)ξ「これはただの私の意見なんだけどね」

ξ゚听)ξ「だからいつ寝てくれても構わないんだけどね、」

ツンが眉間にしわを寄せて人工の光を見つめながらそう前置きをした。
奴の頭は今、かつてないほど稼働しているんだろう。

59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/06/10(日) 23:34:00.29 ID:iJBy5z870

ξ゚听)ξ「ハローは自分が弱いって言ってるけど、そんなことはないわ」

ξ゚听)ξ「こんなところで、一人だけで"家族"を支えるだけの強さがあるんだもの」

ハハ ロ -ロ)ハ「……」

ξ--)ξ「……過去にやっちゃったことを今更私達がどうのこうの言う権利はないわ」

ξ--)ξ「あなた自身が罪だと思うなら、それを背負って生きて」

ξ゚听)ξ「この世界の行く末を見守る義務があるんじゃない?」

ハハ ロ -ロ)ハ「!…………」

ξ゚听)ξ「ハローの故郷が望んだ、機械の発達しない世界へ進むのか」

ξ゚听)ξ「それとも数百年前と同じ世界に辿りつくのか」

ξ゚听)ξ「死んだ人達の分まで、ね」

ハハ ロ -ロ)ハ「……贖罪」

ξ゚ー゚)ξ「……私はそう思うわ」

ハハ ロ -ロ)ハ「そう、か……」

ξ゚ー゚)ξ「あなたには似ても似つかない、寄り添える"家族"がいるんだし」

60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/06/10(日) 23:37:45.04 ID:iJBy5z870

俺が言うことは特になかった。
ツンの言葉に捕捉する言葉もなければ敢えて同意する言葉もない。

似ていて非であるからこそ、彼女達は寄り添いあえるのかもしれない。


‐‐‐−−−―――━━━


朝日が眩しい。
夜の涼しさはどこへやら、またいつもの蒸し暑い砂地の気候が肌をちりちりと焼こうとしている。

( ^ω^)「じゃ、食料と水、有難く頂いていくお」

ξ゚ー゚)ξ「ありがとね!」

ハハ ロ -ロ)ハ「うん、じゃあね。 またどっかで会えると良いね」

ポケットに手を突っ込み、少し照れくさそうにハローが言った。
ひょっとするとロボットを紹介しているハイテンションな彼女より、
このローテンションな彼女の方が素なのかもしれない。

ハハ ロ -ロ)ハ「君達がミーだってわかるように、人間のミーのままで、ね」

素のハローの笑顔は普通の女性のそれだった。

61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/06/10(日) 23:42:02.14 ID:iJBy5z870

ビルを出発し、数時間。
俺はあることに気がついた。

( ^ω^)「ツン、包帯はどうしたんだお?というか、傷は?」

ξ゚听)ξ「え?ビルで切っちゃったやつ?治ったわよ?」

(;^ω^)「は?」

腕をとりまじまじと眺めるが、その言葉通り、傷など元からなかったかのような肌が見えるだけだ。

(;^ω^)「いやお前、治るの速すぎだお!?」

ξ;゚听)ξ「た、確かにちょーっと他の人より治るの速いけど、そこまで気にすること?」

(;^ω^)「…………ありえないお」

幼い頃の修行で何度も傷ついたことのある俺が驚いているのだから、普通ではない。

思えばツンは謎が多すぎる。
弾のない銃、失われた記憶、尋常じゃない治癒速度。
出会って十数日経っても明かされないツンの謎が、漠然としたツンへの疑惑に変わっていく。

ξ;゚听)ξ「な、なによ……?」


似て非なるもの。

ツンは一体、何だ?

62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/06/10(日) 23:45:19.52 ID:iJBy5z870





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