( ^ω^)は荒野の腹パニストのようです
- 5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/15(日) 20:31:27.06 ID:Uth8+2AM0
「あ、し、師匠……!!」
人を拒むように小山に建てられた古めかしい道場。
その入り口に真昼の強い日射しの逆光を背にして、初老の男が姿を見せた。
少年は誰もいない道場内でいつ終わるとも知れぬ静寂の世界に身を置いていた。
故に武の師匠である彼の登場は心に一筋の光を射した。
「師匠っ!村の人たちは―――」
言いかけて口を噤んだ。
光があまりにも強すぎて、少年は師匠の状態を確認できていなかったのだ。
少年の師匠の道着は所々破け、赤い染みを作っていた。
黄ばんだ道着の、その独特の匂いに混じった血の匂いが少年の鼻腔をくすぐった。
道着の血が師匠のものなのか、返り血なのか、
それともその両方なのか少年には判断できず、駆け寄ろうとしたポーズのまま歩みを止めた。
「ああ、ホライゾン、……無事じゃったか。 良かった、……」
「ワシも、ほら、この通りじゃ……大丈夫、大丈夫」
- 7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/15(日) 20:36:31.18 ID:Uth8+2AM0
苦しげな表情を浮かべながらもホライゾンと呼ばれた少年を安心させるように、
師匠は普段のように茶目っ気のある笑みを浮かべた。
だがその身体は入り口から動けないでいる。
ホライゾンにはとても大丈夫には見えなかった。
「傷の手当てをしますお! 早くこっちへ!!」
「ああ、すまな―――」
言葉は不自然に途切れた。
同時にホライゾンの視界が赤く染まる。
それが目の前の師匠から噴出した液体だと理解するのに、そう時間はかからなかった。
「ア、アラマキ師匠ッ!?」
「――― なん、じゃ、と……」
「あ、はは、ははは、ははははっははあはっはっはっははっはははっはははっははあははっは」
- 8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/15(日) 20:41:12.18 ID:Uth8+2AM0
アラマキの背後から発せられる笑い声は次第に大きくなり、場を混沌へと導いていく。
「なっ……! 何、が……!!」
力なく倒れ込んだアラマキを、座り込んだホライゾンが呆然と見つめる。
何故こうなったのか、何も理解できずにただ呆然と。
しかし目の前の光景を受け止めながらも、出来る限り速く頭の中を整理した。
ホライゾンは幼いながら、手放しそうになった意識をしっかりと抱きこむだけの
強靭な精神力を持ち合わせていたのだ。
すうっと頭が冷え、アラマキへ釘付けだった視線が動く。
見上げた先には今の今まで友人だと思っていた少年が立っていた。
狂った笑いはなりを潜め、感情のない二つの瞳が彼を見ていた。
虚ろに開かれたその眼はまるで洞のようだった。
――― あいつがやったのか?
考えがそう行きつき、瞬間的に熱くなった頭に抗わず少年に掴みかかった。
- 10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/15(日) 20:44:35.78 ID:Uth8+2AM0
「お前かお、―――――!」
「いや、俺はもうその名前じゃねぇよ、ホライゾン」
「……"己の正義のために腹パンを行使する武道"を"腹パン道"と呼び、」
「"腹パン道をゆく者"が"腹パニスト"と呼ばれるならば」
「腹パン道より見出された、闇の道――― "ワンパン道"」
「何を言ってるんだおお前は!!アラマキ師匠に何をしたんだお!!」
「そして"ワンパン道をゆく者"……」
「つまり、これからの俺の名は―――」
‐‐‐−−−―――━━━
( ^ω^)「…………」
- 11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/15(日) 20:47:28.15 ID:Uth8+2AM0
久しぶりにあの時の夢を見た。
決して忘れないのに、俺の頭は旅の目的を、復讐を忘れるなと時々思い出させてくる。
思い出の一番上に、あの時を持ってくる。
( ^ω^)「……あれから何年だお」
呟いてみる。
10年、いやもっとだろうか。
夢の中の俺の手は、今の手より一回りも二回りも小さかったように思う。
手の大きさが変わっても、あの時からこの手で追い求めるものは変わっちゃいない。
俺が闘う目的は、この荒野で苦しむ弱者を助ける正義の味方になりたいからじゃない。
復讐のため。
ただただ、"あいつ"を斃すため。
- 14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/15(日) 20:50:34.77 ID:Uth8+2AM0
( ^ω^)「――― "ワンパニスト"、か」
第二話「動き出す運命」
- 16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/15(日) 20:54:15.33 ID:Uth8+2AM0
‐‐‐−−−―――━━━
(//゚Д゚)(*゚ー゚)「ワンパニスト?」
夫婦が声を揃えて復唱した。
昨日の賊討伐の後、俺は一晩この夫婦の厄介になることにした。
というのも、なんとしても礼がしたいと鼻息荒く迫られたからだ。
正直体がむず痒くなって断ろうとしたが、ここ数日は野宿だったため厚意に甘えることにした。
たまには野生動物を警戒することなく眠りたい、という本音もある。
( ^ω^)「そう。 何か聞いたことはないかお?」
(//゚Д゚)「うーん、聞いたことあるか?しぃ」
(*゚ー゚)「うーん……?」
- 18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/15(日) 20:57:38.85 ID:Uth8+2AM0
2人そろってうんうん唸っている。
これが似た者夫婦というやつか。
並んだ姿は確かに似ている。気がする。
朝食として出されたパンに手作りと思われる苺のジャムを塗りたくり、かじる。
ジャムの水分で口の中がもさもさにならずうまい。
苺の甘さが特に素晴らしい。
特有の甘酸っぱさと砂糖の甘さが俺好みに混ざりあい、ジャムそのものを食いたくなる。
( ^ω^)「……ああ、いや、知らないならいいんだお」
咀嚼しながら助け舟を出す。
普通に生きていればあいつと会うことはまずないだろう。
少なくとも、あの時俺に宣言したことが本当ならば、だが。
(//-Д゚)「そうかい? すまんね、ブーンさん」
ギコが包帯を巻かれた右腕で頭を掻く。
元が丈夫なのか、一晩経った今はもうピンピンしている。
しぃも同じくだ。
精神的な後遺症も見られず元気にギコとイチャついている。正直目のやり場に困る。
- 19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/15(日) 21:00:50.75 ID:Uth8+2AM0
(*゚ー゚)「その、ワンパニストっていうのは一体……?」
(//゚Д゚)「ブーンさんは確か腹パニストって名乗ってたな」
( ^ω^)「腹パン道をゆく者、だから腹パニストだお」
(*゚ー゚)「腹パン道……武道ですか?」
( ^ω^)「そんな感じだお」
( ^ω^)「"腹パン道"とは、"己の正義のために腹パンを行使する武道"」
( ^ω^)「……まあ早い話が、ただ気に食わない奴の腹を殴るってだけなんだけども」
この解釈はあながち間違っちゃいないから困る。
俺は師匠から"自分の正義に反する者は悪であり、存分に腹パンを振るえ"と教わった。
もっともこの力を悪用しないために、正しい知識や道徳なんかもしこたま教え込まれたが。
おかげで割とまともな人間になったと自負している。
- 20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/15(日) 21:03:48.96 ID:Uth8+2AM0
(//゚Д゚)「じゃあワンパニストは……」
(*゚ー゚)「……ワンパン、ワンパンチ?」
(//-Д゚)「なんか間抜けな響きだな」
( ^ω^)「まあその通り」
( ^ω^)「俺はそいつに復讐するために旅をしているんだお」
( ^ω^)「昔、色々あってな」
(//゚Д゚)「復讐……か」
決して健全な動機ではないことはわかっている。
しかし俺は復讐を"正義"と信じて腹パンを行使している。
"あいつ"は師匠の教えに背き、"正義"と"悪意"を履き違えた。
そのために"腹パン道"の闇、"ワンパン道"に足を踏み入れたのだ。
- 22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/15(日) 21:07:08.22 ID:Uth8+2AM0
(*゚−゚)「……酷いことを、されたんですね」
( ^ω^)「……あまり楽しい話じゃないから詳しく話すのはよしておくお」
( ^ω^)「少なくとも、今のあんた達に聞かせようとは思わないお」
(*^ー^)「あら、私たちの心配をしてくださるんですか?」
(//^Д^)「ギコハハハ!!あんたいいヤツだなぁ!」
(;^ω^)「い、いや、気のせいだお。自分の利益のためにしか動かねーお」
苦笑いを浮かべた。
俺はそういう褒めの言葉に慣れる気がしない。
今回だって俺は、結果的にこいつらを助けただけで、
本当の目的はトマトジュースの代金をチャラにすることだったんだから。
それでもギコとしぃは俺に笑顔を向ける。
(//^Д^)「いーや、あんたはいい人間だ!俺にはわかるぜ!!」
(//^Д^)「俺たちのヒーロー、腹パニスト様だ!ギコハハハハハ!!!」
- 23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/15(日) 21:10:14.63 ID:Uth8+2AM0
━━━―――−−−‐‐‐
ξ;゚ー゚)ξ「えー……っと」
どうしようもなくなって空を見上げる。
不思議、人間追い込まれると意味のない行動をしたくなるのね。
流線状の雲がゆっくり奥へ、奥へと流れていく。
時折それらが太陽を遮り荒野に冷たい影を作りだす。
その冷たさも相まってか冷や汗が背中を伝っていく。
視線を戻し、目の前の男に話しかけてみる。
ξ;゚听)ξ「見逃して、って言っても……」
(*`ー´)「無駄だねぇ、姉ちゃん?」
- 25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/15(日) 21:13:38.57 ID:Uth8+2AM0
賊、襲撃中。
困った、非常に困った。
まさかこんな荒野のど真ん中で賊に囲まれるとは思わなかった。
たった数人ではあるが、それぞれが統率のとれた行動をしてあっという間に衛兵を倒してしまった。
おかげで馬車は動きを止められ、行商人達と私は荒野の空の下へと引きずり出されたのだ。
衛兵に守られた隊商に付いていれば危険にも巻き込まれないと踏んで、
無理を言って同行させてもらったと言うのに。
こうやって巻きこまれちゃったら意味がないじゃない!
ξ;゚听)ξ「くっ……」
(;゚ i゚)「ひぃぃ、い、命だけはご勘弁をぉ……!!」
[;二。二]「く、くそっ! ガードマン全員やられちまうとは……!」
(;e_e)「強すぎる……」
( ´M`)「そう!! 俺達は!俺は!!つえぇんだよぉ!!」
- 26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/15(日) 21:17:30.80 ID:Uth8+2AM0
暑苦しい黒い髭を口に蓄えた大男が叫んだ。
どうやらあいつがこの賊達のボスらしく、どしんどしんと私たちの前に出てきた。
( ´M`)「つえぇ奴が生き残る、それが荒野の世界での常識ってぇやつだろう?」
( `ー´)「その通りですぜ、クロヒーゲ様」
( ´M`)「だよなぁネーノ」
( ´M`)「だからこの雑魚共はかぁんたんに、俺にのされちまった!!」
( ´M`)「やぁっぱ俺はつえぇなあ!!??」
一しきり自分の強さを誇示してからげらげらと笑いだした。
その間に手下たちは私が同行していた隊商の荷物の確認をしている。
嫌な上司というのはこいつのことを言うのだろう。
恐らく強奪したものであろう派手で、趣味の悪い服から毛が覗いている。
真っ黒なぼさぼさの髭ややってることといい、まさに賊という感じ。
- 27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/15(日) 21:21:43.64 ID:Uth8+2AM0
( ´M`)「さぁて、お前らどうしようかねぇ……?」
舌舐めずりし、行商人一人一人の眼を覗きこむ。
クロヒーゲは巨体のため上から見下ろすような体勢だ。
覗きこまれた行商人たちは怯えて目線を逸らし、その反応に満足したのかまた次へ。
それを繰り返し、最後に私の前にクロヒーゲが立った。
(*´M`)「ほーうほうほう……」
満足気な笑みを浮かべ、これまた満足気な声を出した。
私、これからどうなっちゃうのかしら……。
太陽の陽を浴びて金色に光る髪。
強い意志の表れたキリッとした碧い目。
均整のとれたパーツがこれまた均整に配置されたお顔。
日焼けに屈することなく白く細い手足。
プロポーションは……まあ、置いといて。
自分で言うのもなんだけど、私はかわいい。
そんな可憐な美女と野蛮な男達が遭遇。
- 28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/15(日) 21:24:56.14 ID:Uth8+2AM0
火を見るより明らか、奴らの煩悩爆発。108どころじゃない。
な、何をされるのかしら……。
あれがああなって、こうなって、そうこうこうきて……。
…………。
……。
はっ!
だめ、駄目だわそんなの!
いくら私が魅力的だからって、そんなっ!
でもこいつらみたいな強い力でおさえつけられたら……ああっ!!
そ、そんな無理矢理っ!
ξ*////)ξ「だめぇぇぇーーーーーーー!!!!」
ξ*////)ξ「…………」
- 31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/15(日) 21:30:15.08 ID:Uth8+2AM0
ξ;゚听)ξ「はっ!」
( ´M`)「……姉ちゃん、頭、大丈夫かい?」
ξ;゚ー゚)ξ「ちょ、ちょっと熱さで頭が茹ってる……かしら?」
( ´M`)「そう、うん、冷やすといい……」
や、やだ私ったら、何を……。
賊なんかに目に見えて引かれてる。
別にいいんだけど、いいんだけど……なんか複雑。
( `ー´)「ボス! 食糧が大量に積んでありますぜ!!」
( ´M`)「ほーう、食糧ねぇ……? 宝石じゃねぇのはちっと残念だが」
( ´M`)「結構結構十分十分、俺ぁ満足だ」
- 33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/15(日) 21:33:27.89 ID:Uth8+2AM0
( ´M`)「これで当分の飯の心配はいらねぇなぁ」
(;二。二)「ぐう……これじゃあ商売が……!」
( ´M`)「商売? そんなもん、もうする必要はねぇさ」
( 二。二)「え?」
(;゚ i゚)「ひぃぃ、ま、まさかぁぁ……!」
( ´M`)「そう!お前らはここで死ぬんだからなぁ!ぎゃあっはっはっはっは!!!」
やっぱりそうなるのね……!
(*´M`)「お嬢ちゃんは俺達と楽しいことしようぜぇ」
や、やっぱりそうなるのね……。
- 34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/15(日) 21:37:46.09 ID:Uth8+2AM0
勇気を振り絞り、下品に笑う賊達を睨みつける。
このまま何もしないより、何か言ってやらないと気が済まないのが性分なのだ。
ξ;゚听)ξ「ちょっと!そんないやらしい眼で見ないでよ!汚らしい!!」
ξ;゚听)ξ「あんたたちみたいなのがいるから、この世界はこんななのよ……!」
ξ;゚听)ξ「この、人でなし!!」
( `ー´)「そりゃあ俺たちにとっちゃあ褒め言葉だぜぇ、姉ちゃん?」
( `ー´)「ねぇボス」
( ´M`)「おぉ、その通りよ」
( ´M`)「俺達ぁ人でなしとして生きることを強いられてるのよ! だから―――」
「あのー……」
- 36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/15(日) 21:41:38.45 ID:Uth8+2AM0
ξ;゚听)ξ「!?」
(;´M`)「お、おうっ!?」
いつの間にか私たちの間に割って入っていた、地味な色のマントに身を包んだみすぼらしい男が話を遮る。
何の気配もなかったから全く気がつかなかった。
それはクロヒーゲも同じだったらしく、小さな目をまんまるにして驚いている。
(ヽ´ω`)「あー……そこの、女」
ξ゚听)ξ「わ、私?」
(ヽ´ω`)「今こいつらに絡まれてんのかお?」
ξ;゚听)ξ「は、はぁ、そうだけど……」
突然現れて、突然尋ねられて。
尋ねたいのはこっちなんだけど……。
- 38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/15(日) 21:44:51.47 ID:Uth8+2AM0
(#´M`)「何だてめぇはぁ!!!」
(ヽ´ω`)「じゃ、飯、なんか持ってるかお?」
(#´M`)「おいィ!?」
ξ;゚听)ξ「え、ええ、干し肉とか……」
ξ;゚听)ξ「あ、そこの隊商の積荷に食糧がいっぱいあるわ」
マントの男の背後では血走った目の毛むくじゃらが顔を紅潮させながら立っている。
話を中断された挙句無視されて、相当頭にキているのだろう。
(ヽ´ω`)「じゃ、それ、くれ」
(#´M`)「グッ!!!」
(#´M`)「俺の話を、聞いてんのかぁ、このっ!!」
怒りが限界に達したらしく、背負っていた大槌を掴み、大きく振りかぶった。
大槌に潰されるイメージが彷彿し、悪寒が走った。
- 39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/15(日) 21:48:59.86 ID:Uth8+2AM0
ξ;-听)ξ「!!危ないぃっ!?」
マントの男に注意を促したと同時に、私の体は後ろに突き飛ばされた。
誰に?
ゆっくりと見上げる視界が、揺らめくマントをとらえた。
(;´M`)「お……?」
(ヽ´ω`)「こいつら倒すから、飯、くれ」
こいつだ。
- 40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/15(日) 21:53:05.24 ID:Uth8+2AM0
マントの男は私を突き飛ばし、賊の巨体から繰り出された大槌を片手で受け止め、飯を要求してきた。
何だそれ。
ξ;゚听)ξ「は、は……?」
あり得ない。
あの一瞬で咄嗟に見切って行動し、しかもあれを受け止める??
こいつは何者よ?
(ヽ´ω`)「おい、どうなんだお?」
ξ;゚听)ξ「わ、わかったわ!」
混乱しながら私は答える。
ξ;゚听)ξ「こいつら倒したら、腹いっぱい食べさせてあげるわ!!」
藁にも縋る思いで叫んだ。
- 41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/15(日) 21:56:57.53 ID:Uth8+2AM0
そして私はとんでもないものに縋ったことを知った。
(ヽ´ω`)
(ヽ^ω^)
(ヽ^ω^)「把握」
その瞬間、ぞわりと総毛立ったのがわかった。
巨大な恐怖。
- 43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/15(日) 22:00:56.60 ID:Uth8+2AM0
――― 私はこの感覚を知っている?
だが原体験そのものは、この不敵な笑みを浮かべる頬のこけた男ではない。
もっと前、私が旅を始める前にその恐怖を味わった。
この男の気配がただその恐怖に"似ている"だけだ。
記憶の海に手を伸ばし、記憶を掴み取ろうとする。
しかし掌は何も掴めない。
旅の始まり以降の記憶しか掴みとれない、それ以前は何も思い出せない。
そこで私は自分が記憶喪失であることを思い出した。
ただ、旅の目的は覚えているのだ。
記憶を失ってもなお呪いのように頭にこびりつく、その目的を。
- 44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/15(日) 22:04:15.53 ID:Uth8+2AM0
(ヽ^ω^)「んじゃ、そういうわけだお」
( `ー´)
(;`ー゚)「!!!」
(;`ー゚)「おおおお前えええええええええ!!!」
(ヽ^ω^)「ん? 何だおお前……」
(ヽ^ω^)「あ、見たことあるお……」
(ヽ^ω^)「お前、確か前ぶっ飛ばした……」
(ヽ^ω^)「あちゃー回収し忘れてたかお?」
(;`ー゚)「く、クロヒーゲ様ッ!! こいつがシロヒーゲの兄貴をヤったんですよ!!」
(;´M`)「何ィ!?こ、こいつがっ! あのッ!」
- 46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/15(日) 22:07:16.60 ID:Uth8+2AM0
(;´M`)「"腹パニスト"だってのかァ!!??」
賊達に動揺が広がる。
このマントの男はどうやら賊の仲間を倒したらしく、恐れられているらしい。
"腹パニスト"。
ああ、なるほど。
マントの男は"あの男"と同じ雰囲気を纏っている。
"あの男"の姿も居場所も思い出せないけれど、
忘却して透明な記憶が"それは確かだ"と激しく主張している。
こいつなら、"あの男"と似たこいつなら、倒せるかもしれない。
私は、この男と出会うために旅をしていたんだ。
だって私の目的は、"あの男を"―――
- 48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/15(日) 22:11:53.10 ID:Uth8+2AM0
――― "ワンパニストを倒せる人間を探すこと"だから。
空を流れていた雲は、とうとう太陽の熱さから逃れるように山の向こうへと消えていった。
太陽は惜しみなく地上を照らし、有無を言わさず人々を焼き焦がそうとする。
陽の光は恵みにも害悪にもなり得る存在だ。
それが今は心地いい。
私の心を反映したかのような地上の明るさに感動すら覚えている。
記憶を失った私はわけもわからず"目的"という名の"呪い"を解くため、
ただそれだけのために旅を続けていた。
そしてこのマントの男が間違いなく鍵なのだ。
目的は達成し、記憶を取り戻し、全てを思い出す鍵。
- 49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/15(日) 22:15:25.86 ID:Uth8+2AM0
(ヽ^ω^)「7人か、空腹の俺にはいいハンデだお」
(ヽ^ω^)「あ、ハンデにもならないかお?」
(ヽ^ω^)「あの雑魚共の仲間らしいからなぁ?」
(#;´M`)「な、舐めやがってぇ……!!」
(#;´M`)「俺はあいつみてぇにはいかねぇぞ!?」
やけくそ気味にクロヒーゲが叫び、大槌を振り回す。
闇雲に見えるが、武器に使われている感じはなく隙がないように見え、
さらに筋骨隆々の腕から繰り出される攻撃は見ていて圧倒される。
しかしその攻撃がマントの男に当たることはなく、むしろ距離を詰められていく。
じわじわと、ニヤニヤと。
まるでこの状況を楽しんでいるかのようにマントの男が、右へ左へ。
(;`ー゚)「や、ヤっちまえっ!! クロヒーゲ様ぁ!!」
周囲の賊達は手を出すことが出来ず、私たちと同じくただ見ているだけだった。
- 50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/15(日) 22:18:35.38 ID:Uth8+2AM0
(;´M`)「な、なんでだ」
(ヽ^ω^)「まぁ、確かにあいつとは違うおね」
(ヽ^ω^)「ちゃんと自分に合った武器を選んでいるお」
(;´M`)「なんでだよ!!!」
(ヽ^ω^)「あいつは腹パニストだーっつって素手だったからなぁ」
(ヽ^ω^)「素人の腹パンほど弱いものはないのに」
(;´M`)「なんで当たんねぇんだよおおおおおおおおお!!!」
(ヽ^ω^)「馬鹿だおー」
大槌が地面に叩きつけられる度に砂塵が舞い、横に薙がれる度に砂塵が晴れる。
マントの男はクロヒーゲの評価を口にしながら攻撃をかわしていて、
大槌の攻撃はただ無駄に体力を消耗させているだけだった。
(#;´M`)「はぁ、はぁ、くそっ!! この俺様がぁ! 舐められてるだとぉ!?」
- 51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/15(日) 22:23:18.58 ID:Uth8+2AM0
(ヽ^ω^)「舐め舐めだお」
(ヽ^ω^)「今は半分ぐらいしか本気出してないお」
(ヽ^ω^)「俺に本気を出させる敵はいないものかね?」
(#;´M`)「ぬぐううううう!!!クソックソがァ!!!当たれ!当たれェ!!!」
(ヽ^ω^)「じゃ、当ててみるお?」
男が両手を軽く広げ、小首を傾げる。
(#;゚M`)「く」
(#゚M`)「クソッタレエエエェエエェェエェェェエェ!!!!!」
誘いに全力で乗っかった。
- 52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/15(日) 22:26:02.28 ID:Uth8+2AM0
振り下ろされた大槌を、最初にやってみせたように片手で受け止め、
そして口を歪め意地の悪い笑みを浮かべた。
(ヽ^ω^)「お前の敗因は俺を相手にしたことだお」
(;´M`)「…………シラヒーゲぇ……化け物にゃあ勝てネェなぁ」
一瞬の静寂の後、砂煙と共にクロヒーゲは砂上を転がっていった。
遠くからではマントの男が何をしたのか見ることは出来なかった。
でも突き出された右腕が全てを教えてくれた。
握りこまれた拳が全てを語っていた。
(;e_e)「つ、ツンちゃん、僕達助かるのかい……?」
ξ゚−゚)ξ「ええ、多分そうでしょうね」
(*゚ i゚)「やったあ!! ざまーみろい!!」
- 54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/15(日) 22:28:15.20 ID:Uth8+2AM0
行商人達は突然現れた救世主に喜びを隠せない様子だ。
もう死ぬしかない状況だったからまあ当然だけど。
[ 二。二]「しかし、あの男は一体なんだぁ?」
( e_e)「腹パニスト、とか言ってましたね。……聞いたことがあるような、ないような……」
ξ゚−゚)ξ「…………」
この商人達は少数の小さな街を渡り歩いて商売をしているから、持っている情報も少ないのだろう。
彼が世界的に無名な人間なのかどうかはまだわからない。
(ヽ´ω`)「腹ぁ、減ったおねぇ……後何人だおー?」
(;`ー゚)「あ、あ、ああ、ああ…………」
(;`ー゚)「もう、アレを食らうのは――― グベラァ゙ッ!!!!」
ξ − )ξ「すごい……」
風にマントをはためかせ闘うその姿に思わず言葉が漏れた。
- 56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/15(日) 22:30:46.96 ID:Uth8+2AM0
ξ; )ξ「こ……」
思えばこの時からだ。
ξ; ー )ξ「これが腹パニストの」
ξ;゚ー゚)ξ「あいつの力……!!」
この時から、私たちの運命は動き始めたんだ。
- 57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/15(日) 22:33:18.49 ID:Uth8+2AM0
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