( ^ω^)は荒野の腹パニストのようです
- 1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/08(日) 20:41:42.02 ID:Qw8Xdv2W0
これはある、荒野に生きる男の物語。
- 6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/08(日) 20:46:51.44 ID:Qw8Xdv2W0
「テメェいい加減鬱陶しいんだよおおおおぉぉぉ!!!」
「しぃを、離せよぉぉぉぉおおおお――― ガッはッ!!」
外から酒場へ、二つの怒鳴り声が転がり込んだ。
何やら外で物騒なことが起こっているようだ。
少し前まで酒を飲み、陽気に言葉を交わしていた酒場の男達が、
今では大人にイタズラをたしなめられた子どものように、顔を真っ青にして俯いている。
自分は"ああ"なりたくはないと誰の顔にも書いてある。
ただ一人、カウンターに座る、錆色のマントに身を包んだ男を除いて。
異常事態が日常だと言わんばかりにマントの男はゆっくりグラスを傾け、
深紅に濁ったトマトジュースを飲み干す。
決して耳が遠く、外の騒ぎが聞こえなかったわけではない。
聞いた上で平静を保っていたのだ。
- 8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/08(日) 20:50:17.22 ID:Qw8Xdv2W0
(;`・ω・)「旅の人、あんた、身を隠した方がいい!」
腰にエプロンを巻いた大柄の男、酒場のマスターがマントの男にひそひそと忠告した。
その半袖から伸びた、日焼けした太い二の腕から汗が垂れている。
「何故だお?」
男は片眉を持ちあげて問うた。
本当は大方の予想はついていたのに。
(;`・ω・)「あいつらは最近このあたりを縄張りにしてる賊だ!」
(;`・ω・)「近辺の村から作物や金品を巻き上げ、歯向かった者は殺される!」
(;`・ω・)「女も沢山連れて行かれてるんだよ!」
「へぇ……怖いな」
男は口の端を持ち上げ、さぞ可笑しそうに笑ってそう答えた。
不可解な表情の変化にマスターは戸惑ったが言葉を続けた。
- 9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/08(日) 20:53:34.55 ID:Qw8Xdv2W0
(;`・ω・)「旅人も数で圧倒して、身ぐるみどころか命が危ねぇ!!」
「ははぁ、なるほどね」
「だから俺にも逃げろ、と」
(;`・ω・)「その通りだ」
「まあ金目のもなんて大して……」
男が顎に手をやり視線を宙に漂わせ、何かを思案し始めた。
客達はその会話に耳をすませているのか、はたまた外の様子を窺っているのか黙っている。
外の喧騒は去り、酒場の内外は先程と打って変って静けさに満ちている。
長いようで短い時が流れていく。
突如、男がぽんと手を叩き、マスターに向きあった。
「マスター、このトマトジュースの代金は?」
カウンターに溜められた十数個の空のグラスを指さす。
全て彼が注文し、飲んだものだ。
- 10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/08(日) 20:56:35.79 ID:Qw8Xdv2W0
(`・ω・´)「ああ……まあしっかり払ってもらうが……随分飲んだな、また」
「好きだからな、いくらでも飲めるんだお」
そこでマントの男がニヤリ、とイタズラを仕込む子どものように笑った。
「で、だ」
「このトマトジュースの代金、チャラにしてくれお」
(`・ω・´)「……は?」
唐突な提案にマスターはぽかんとした。
男はその反応を見ると返事を待たずに、さっと立ちあがり出口へと向かう。
「じゃ、ちょっと待ってると良いお」
(;`・ω・)「ちょちょ、だから外は危ないし裏口から出ろっというか金払え!!」
- 11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/08(日) 21:01:49.56 ID:Qw8Xdv2W0
あまりにも堂々と飲み逃げをしようとした男に、マスターが狼狽しながら立ち塞がる。
「ふむ、じゃあ俺の話を聞けお」
しかし沈黙していた客達が次の言葉を待たずにざわめき始めた。
<誰だ、あいつ> <だせぇマントだ>
<チャラ? あんなに飲んだのにか?> <お前知ってるか?>
<はぁ…?> <いいなぁ、俺もチャラに……> <知らねーよ>
男は床を二度踏み鳴らし客を黙らせ、朝の挨拶のようにするりと。
さも当然であるかのように宣言した。
「賊を全員倒す、それでチャラ」
そして、わかったか?とでも言いたげな顔で鼻を鳴らした。
- 13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/08(日) 21:07:00.86 ID:Qw8Xdv2W0
誰もが次の言葉を探している。
ツッコミを入れるべきなのか、それとも信憑性のない発言を野次るべきだろうか。
誰もが静けさを破ることは出来ない。
マスターが男を見定めるように、改めて注意深く観察する。
ここは荒野にぽつんと存在する小さな村の酒場だが、それでも立派な酒場だ。
これまで彼は何十人、何百人もの人を、眼を見てその人柄に触れてきた。
故に人を見る眼は十分に養われていると彼は自負していた。
『眼の前の男は確かに賊を倒す気でいる』
それがマントの男と眼と眼で会話して出した結論だった。
そして彼にはそれを踏まえて、どうしても訊きたいことがあった。
(`・ω・´)「あ、あんた、一体、何者だ……?」
「俺か? 俺は―――」
- 16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/08(日) 21:10:06.10 ID:Qw8Xdv2W0
( ^ω^)「ブーン、――― "腹パニスト"だお」
第一話「腹パニスト」
- 20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/08(日) 21:14:33.06 ID:Qw8Xdv2W0
‐‐‐−−−―――━━━
酒場を出ると、荒野ではおなじみの厳しい日射しと乾いた風がそっけなく歓迎してきた。
砂漠化の進行しているこの土地だから、尚更ドライな感じだ。
目を細め、周囲を見渡す。
( ^ω^)「…………」
この風は、何てことはない、ただの乾いた風だ。
びゅうっと時折激しく吹いては落ち着き、また駆け抜けていく。
荒野を疾走する、ただの風。
しかし、この風に吹かれた人間は一層惨めに見える。
..::(メメ Д )
人に、否応なしに現実を突きつける。
- 25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/08(日) 21:19:22.39 ID:Qw8Xdv2W0
予想はしていたがやはり賊の姿は見当たらず、既に撤収したようだ。
今は傷だらけの男を中心に、野次馬が円を作って何か口論している。
(;/△/)「おい、今度はしぃちゃんだよ……!」
(#`@´)「ギコもこのザマだ!!ふざけやがって!」
(-ム-#)「もう我慢ならねぇ!あいつらのアジトに突撃するぞ!!」
(;/△/)「待てよ、俺たちで勝てるのか!?」
(#'l`)「何だと!?このままでいいのかお前!!」
(;/△/)「良くはない! でも、あまりにも無謀すぎる!!」
(#`@´)「じゃあ―――」
賊をどうにかするか否かの相談らしい。
そうしている間、倒れた男の体は呼吸する度に苦しげに上下していた。
そんな相談より先にすることがあるだろう。
- 31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/08(日) 21:24:11.66 ID:Qw8Xdv2W0
( ^ω^)「あー、ちょっといいかお」
人の円を割り、白熱し始めた議論に水を差す。
(#`@´)「ああん!?なんだあんたは!」
(-ム-#)「そんなだっさいマントなんか羽織りやがって!!」
(#`@´)「ローブみたいにやってもマントはマントだぞ!だせぇ!」
(;^ω^)「マ、マントは関係ないだろ! 結構気に入ってんだおこれ!!」
まさかそこをつっこまれるとは思わなかった。
(#'l`)「まぁさかお前も賊の仲間か!?」
ごぼうみたいな男が顔を真っ赤にして叫ぶ。
すると男達に一斉にギロリと睨まれた。暑苦しい。
マントを馬鹿にされるどころかあらぬ疑いまでかけられてしまった。
ええい、ちゃっちゃと本題に移るべきだったか。
- 37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/08(日) 21:27:44.25 ID:Qw8Xdv2W0
(;^ω^)「そこの男、早く医者にでも診せた方がいいんじゃないかお?」
そう言うとその場の全員がハッとした顔になり、慌てて男に駆け寄っていった。
なかなか間抜けな光景だった。
(;/△/)「い、医者、医者を呼べ!」
(;`@´)「診療所へ連れて行った方が早いだろ!」
(-ム-;)「いやいやここは―――」
(#^ω^)「ええい!さっさと医者連れてこいお!!」
うだうだ議論を続ける村人を一喝すると慌てて走り去って行った。
これでこの男は大丈夫だろう。
俺は俺のやることをするとしよう。
(メメ-Д゚)「う、うう……?」
- 47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/08(日) 21:32:25.21 ID:Qw8Xdv2W0
その場を離れようとした時、傷だらけの男が目を覚ました。
( ^ω^)「大丈夫かお?」
(メメ-Д゚)「……大丈夫、とは言えないな……」
ごもっとも。
何とか半身を起こして俺と会話出来てる状態だもの。
男の服は所々破れ、覗いた傷から流れ出る血が衣服を赤く染めている。
明日明後日で治るような傷にはとても見えない。
(メメ;-Д゚)「……しぃ、そうだしぃは!!」
( ^ω^)「慌てんじゃないお」
それでも体を起こして今にも外へ駆けていきそうな青年の頭を叩く。
(メメ#-Д゚)「うぼぁ!!な、なにすんだゴルァ!!?」
( ^ω^)「あんた、ギコとか言ったかお?」
- 56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/08(日) 21:37:19.49 ID:Qw8Xdv2W0
( ^ω^)「あんたは賊にボコボコにされ、しぃは攫われた」
( ^ω^)「そうだな?」
意識が戻ったなら事実確認だ。スマートにいこう。
苦虫を噛み潰したような顔をしてから男が渋々口を開く。
(メメ-Д゚)「……俺はギコで、しぃは俺の妻だ」
(メメ-Д゚)「お前は誰だ? 俺の頭叩きやがって」
( ^ω^)「俺は旅人だ、叩いたのはまあ気にするなお」
詳しく話している時間はない。
とりあえず攫われたことが事実ならそれでいい。
( ^ω^)「お前は怪我人らしく、怪我治すことに専念するといいお」
(メメ#-Д゚)「あんだと!?あんた、俺にしぃを見殺しにしろってか!? 諦めろってのかァ!?」
- 62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/08(日) 21:40:36.88 ID:Qw8Xdv2W0
まあ落ちついて、と周囲の村人がギコを諭す。
同時にそうだそうだ、なんて酷いことを言う!と俺を非難する声も聞こえる。
随分元気な村じゃないか。いいことだ。
( ^ω^)「お前が取り返しに行く。 ……冗談かお、それ?」
(メメ#-Д゚)「ああ!?」
威勢だけ良いその男の小さな傷にデコピンを食らわす。
(メメ;-Д゚)「ふごぉ!!」
( ^ω^)「ほらな、俺のデコピン一発でそんなに痛いんだお?」
( ^ω^)「賊の懐へ妻を助けに行くなんて、間違いなくボコボコだお」
(メメ# Д )「そ、それでもなぁ!俺が、この、俺が!やらないと、駄目なんだよ!」
ギコが握った拳を乾いた地面へと叩きつけた。
そして地面の硬さに敗北感を抱くように、ぶるぶると腕が震え始めた。
- 70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/08(日) 21:45:17.29 ID:Qw8Xdv2W0
(メメ# Д )「今まであいつらは食料も、金も持っていった!!何人も女を攫っていった!!」
(メメ# Д )「俺らはな、それをただ見ることしかできなかったんだよ!!」
(メメ# Д )「歯向かったさ、最初のうちはな!」
(メメ Д )「……でも何度も返り討ちにあって、嫌でも気づいちまったんだよ」
(メメ Д )「"俺たちは弱いんだ"……って」
(メメ Д )「……」
(メメ Д )「つい最近もしぃに言ったんだよ」
(メメ Д )「"お前に何かあったら俺が何とかしてやる、だから安心しろ"」
(メメ Д )
(メメ Д )「……はっ、結局俺は、このザマだ」
(メメ Д )「……しぃを、守れなかった……!!」
(メメ;Д;)「愛した女ぐらい、守りたかったのによぉ……!!!」
体を振るわせ、歯を食いしばり、男は大粒の涙を流した。
- 75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/08(日) 21:49:39.47 ID:Qw8Xdv2W0
大の男の情けない姿を見て、素直に情けないなと思う。
それなのに、ふつふつと俺の中の何かが煮える。
( ^ω^)「……ギコ」
(メメ;Д;)「?」
( ^ω^)「俺ぁな、あの賊どもをとっちめて、トマトジュース代をチャラにしてもらうんだお」
(メメ;Д;)「あ、ああ……?」
( ^ω^)「そんでもって弱い奴を見逃すほど弱くはない」
( ^ω^)「強いんだお、俺は」
いつもなら賊を叩きのめして、それと引き換えに俺が得をして、村を去る。
それで終わりだ。
しかし。
- 89 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/08(日) 21:55:17.89 ID:Qw8Xdv2W0
( ^ω)「お前にとっては屈辱的かも知れんがな、」
煮えたぎった何かが、それ以上のことをしろと意志を持ち、俺の口を介して言葉を発する。
( )「ついでにしぃも助けてくる、だから大人しくしておけお」
乾いた風に吹かれた、情けなく、しかし男らしいギコの姿が目に焼き付いていたのだ。
- 97 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/08(日) 21:59:24.58 ID:Qw8Xdv2W0
‐‐‐−−−―――━━━
さて。
無理矢理約束をとりつけて村を出たのはいいものの、当然賊のアジトなんて俺は知らない。
カッコよく村を出た以上のこのこと帰るわけにもいかない。恥ずかしすぎる。
せめてもうちょっと情報収集するべきだった。
( ^ω^)「誤算だおー」
あっはっはと額をぺちんと叩く。
いや、笑い事じゃないな。
このままだとアジトを探し出す前に俺が恥辱に晒される。
( ^ω^)「……これまでの旅の知恵を活かすか」
経験上、大体の目星はつく。
奴らが根城にするのは雨風をしのげる場所。
例えば、"世界が世界として機能していた時代"の建物。
- 108 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/08(日) 22:04:29.74 ID:Qw8Xdv2W0
あの時代から恐らく数百年ほどが経過しており、既に当時の建物は廃墟と化している。
崩壊の危険性等から普通の人間はそんなところに住みつかないが、奴らなら喜んで住み着くだろう。
未来より今を重視して享楽にふける奴らなのだから。
"世界が世界として機能していた時代"――― 通称、"機械時代"。
それは機械が発達し、便利もクソもない今よりも遥かに文明が発達していた時代。
そして数百年前に終わり、トドメに世界の大部分を荒野に変えていった時代。
本当にそんな時代があったのか、今の世界を表面的に見ただけでは分からないだろう。
だが古い書物や文献、それに砂に埋もれた物的証拠。
それらが否応なしに機械時代の存在を証明している。
その証明から、あの時代はとても豊かな時代だったのだろう、と想像させる。
( ^ω^)「しかし、まあ」
俺は案外この発展途上な文明を持つ世界が嫌いじゃない。
見せかけの巨大な権力も与えられた不自由な自由もなく、
単純に力が世を支配するシンプルでわかりやすい世界。
- 114 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/08(日) 22:07:47.54 ID:Qw8Xdv2W0
時折吹く砂塵をマントで防ぎながら、ざくざくと小気味良く鳴る砂を踏みしめる。
( ^ω^)「……この辺は砂漠化が酷いお」
雑草の一本すら生えていない。
昔住んでいた地域はまだ砂漠化していなかった。
木々や草木が斑点状に点在していて砂利や岩石なんかも転がっていて、
この砂漠に近い荒野より人が住める環境だったように思う。
地域によって、過去の傷跡に差があるらしいことを俺はこの目で確かめていた。
"世界が世界として機能していた時代"の終焉に、一体何が起こったのか。
博識な人間に出会ったら是非訊いてみたいものだ。
頭の上にあった太陽が傾き始めた頃、一瞬強い風が吹いた。
そして舞い上がった砂が落ち着いた時、何かが見えた。
( ^ω^)「村……かお」
なるほど、廃村ならばここを根城にしているという線もある。
今日の俺はツイてるぞ。
- 123 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/08(日) 22:11:35.27 ID:Qw8Xdv2W0
こっそり様子を窺う。
人の気配のない家並、ところどころ崩れた建物、荒れた地面、――― 廃村。
色彩を失った独特の雰囲気からそう判断してもいいだろう。
道の奥に見える、地面から無造作に生える灰色のそれは、間違いなく機械時代の建物だ。
地面に接した壁は不自然に破壊され、歪な穴が空けられている。
あれが出入り口なのだろう。
この村は、あそこに佇む機械時代の建物を中心に作られたと思われる。
何か象徴があった方が人目につきやすく、人が集まりやすいからだ。
ただ、賊の標的にもなりやすい。
それがこの村が廃れた理由だろうと容易に予想できた。
( ^ω^)「さぁて、どうすっかお」
崩れてしまいそうな壁にもたれながら頭を働かせる。
考えてみれば相手の数も実力も調査せずにここまで来てしまった。
オロカと言うほかない。あっはっは。
……一か八か、このままあそこへ突撃するのも悪くない。
だがなんか馬鹿っぽくないか?
- 128 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/08(日) 22:15:10.43 ID:Qw8Xdv2W0
そんなことを頭を捻って考えていると下手クソな鼻歌が聞こえてきた。
壁から密かに覗いてみると、小汚い格好の男が千鳥足で歩いている。
そして目標の近くの家の壁に向かって小便を始めた。
(*`ー´)「ふっふんふ、ふーん、……あーらよっとぉ、へっへっへ」
真昼間から酒を飲んでいるらしく酔っ払っている。暇人め。
いや正確には暇人というか賊か。賊め。
(*`ー´)「ば〜かのあ〜ほのど〜じまぬけ〜」
(*`ー´)「いやいやおれたちゃぁば〜かな〜のよ〜ぉっとぉ」
これまた下手クソな歌が聞こえてきた。
鐘を一つ鳴らす代わりに股間の鐘でも鳴らしてやろうかと思ったが、ふと思い至った。
( ^ω^)「ああ、そうだ」
俺は馬鹿だった。
- 137 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/08(日) 22:18:40.03 ID:Qw8Xdv2W0
だから。
( ^ω^)「ハロー」
近づいて片手で挨拶する。
(*`ー´)「……はろー」
相手の両手はナニに添えられたままだ。礼儀がなってない。
( ^ω^)「俺馬鹿だったわ」
小便の音が途切れ途切れの会話の間を埋めてくれる。
( `ー´)「……そうですね」
会話が途切れた。
尿も途切れた。
(;`ー´)「お、おまっ!!! 何だお前エエエエエエエエエ!!!」
- 146 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/08(日) 22:22:29.90 ID:Qw8Xdv2W0
男が小汚いナニをしまいながら俺と距離をとる。
しかしまだナニがはみ出している。
( ^ω^)「俺か? 俺は―――」
十分距離をとったつもりなのだろう。
ナニがはみ出したままだが、表情からは動揺と少々の安堵が見て取れる。
だがその位置、その距離。
丁度いい場所だ。
( ^ω^)「ナーイショ☆」
一歩で、一瞬で距離を詰められる良い間合いなんだ。
- 156 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/08(日) 22:26:03.41 ID:Qw8Xdv2W0
奴は俺が目の前まで迫った事に気がつかなかっただろう。
俺が速すぎるから。
(;`ー゚)「ッア゙フッ゙―――!!!??」
道の上を賊が"飛んでいく"。
あの男は非常に幸せだ、実際に吹っ飛ばされるなんて滅多にできる体験じゃない。
一生に一度経験できるかどうかのレベルだ。
もっとも"腹"には耐えがたい激痛が走っているだろうが、まあ勉強代だ。
男は勢いそのままに建物を貫いた。
建物内のざわめきが次第に怒声へと変わっていく。
そう、俺は馬鹿だから馬鹿正直に真正面から突撃すればいいのだ。
- 162 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/08(日) 22:30:59.69 ID:Qw8Xdv2W0
建物の中に足を踏み入れる。
ガラスの割れた窓や穴から漏れる光がチリに反射してキラキラ輝いている。
内装は酷くボロボロで頼まれても住みたくないが。
( ^ω^)「うーっす」
(#´W`)「んぬアアアアアアア!!??」
(#゚W`)「なんだてめえはアアアアアアア!!??」
十数人の汚らしい格好をした男達の視線が突き刺さる。
そして真っ先に言葉を発した一際ガタイのいい、ボス格の男を指さす。
白色の髭をたくわえてはいるが老人とは思えない。ただのファッションだろう。
_,
( ^ω^)「自分から名乗るのが礼儀ってもんじゃないかお?」
(#´W`)「ああん!?そんなに知りてぇかあ!?」
(#´W`)「いいだろう!!!聞かせてやる!!!!」
お決まりのセリフに至って真面目に返された。
今更興味ないとは言えない。
- 166 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/08(日) 22:34:53.57 ID:Qw8Xdv2W0
(#´W`#)
「俺の名前をッッッ!!! 言ってみろッッッ!!!」
「「「「「「シラヒーゲのアニキですッッッッッ!!!!」」」」」」
シラヒーゲと呼ばれた男は感極まったように両手を広げ、天を仰いでいる。
奴の立っている場所の天井は吹き抜けになっており、
太陽の光が円形になって降り注いで照らしている。
なかなかかっこいい光でちょっと羨ましい。
- 176 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/08(日) 22:38:58.62 ID:Qw8Xdv2W0
( ´W`)「でぇ!? お前は誰だぁ!??」
(#´W`)「ネーノを吹っ飛ばしたんだ、タダモノじゃあねえよなあ!?」
( ^ω^)「タダモノではないとは自覚してるお」
胸を張ってみる。
当然雑魚達から野次が飛んでくる。自分で言うなだってよ。
( ^ω^)「俺の名前はブーン」
( ^ω^)「……と、まあそんなことはどうでもいい」
( ^ω^)「村から攫った女を返してもらうお」
_,
( ´W`)「……はぁん?」
耳に手を添え聞き返してくる。
聞こえていたくせに、聞こえていないふりをしている。
おちょくっているのだ。
それも低レベルに。
- 186 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/08(日) 22:43:23.64 ID:Qw8Xdv2W0
( ^ω^)「この建物内にいるのかお?」
( ^ω^)「それとも、もうお楽しみの後かお?」
(*´W`)「いやぁ、お楽しみはこれからだったんだぜぇ〜〜??」
(*´W`)「おいっ! 女どもを連れてこい!!!」
近くにいた仲間が柱の陰から数人の女を引きずりだしてきた。
皆一様に縄で胸を強調するように縛られ、口には布を噛まされている。
俺に対して助けを求める、縋るような眼だ。
(*´W`)「げえっへっへ、こいつらはなぁデザァートだよ、デザァート!」
(*´W`)「ほれ、見な!!」
(*´W`)「こいつらの眼だ!」
(*´W`)「助けが来たってんでちぃっと期待してやがんだよ!!」
(*゚W`)「でもなぁ、一度ドン底にいってから希望を見て、またドン底にいくとなぁ……」
(*゚W`)「嬲りがいのある良ーい色の眼をしやがんだよ!!」
- 190 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/08(日) 22:47:36.51 ID:Qw8Xdv2W0
(*゚W`)「ネーノに関しては許せねぇが、てめぇにはお礼したいぐらいだぜぇ?」
(*゚W`)「てめぇをぶっ殺した後のお楽しみが増えるんだからなぁ!!!」
( ^ω^)「ほーう、お礼ねぇ。 良い物くれるんだお?」
( ゚W`)「そりゃあいいものをくれてやるさ……俺のコブシだッ!!」
( ゚W`)「俺の強さを体に刻んで苦しむがいいぜえええええ!!」
指パッチンを合図に会話の最中に気づかれないよう、
静かに取り囲んでいた雑魚達が一斉に俺を羽交い絞めにする。
両腕は左右に広げて固定、背後から2人がかりで拘束され、俺はまさに大の字で無防備に立っている。
まあもちろん、こうなることは予想出来ていた。視界の端に見えてたし。
そしてこんな姑息な手を使うやつの実力は知れている。
これは俺の"推測"ではない。
経験から得た、"事実"だ。
- 196 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/08(日) 22:50:25.47 ID:Qw8Xdv2W0
( ^ω^)「うわー、何をするーやめるおー」
ついでにそれっぽいセリフも言ってやる。
(*´W`)「グエッヘッヘェ!!! 馬鹿な野郎だぜぇ!!!」
そして馬鹿みたいに喜ぶ馬鹿。
ひとしきり雑魚達と一緒に笑い声をあげた後。
(*´W`)「知ってっかぁ?」
( ^ω^)「おん、何をだお?」
(*´W`)「俺ぁなぁ、あの伝説の武道、"腹パン道"をたしなんじゃってるんだよこれがぁ!!」
( ^ω^)「……ほう……?」
腹パン道。
俺を抑える周囲の雑魚達が、その言葉を待ってましたと言わんばかりに歓声を上げた。
(*゚W`)「おお!? ビビっちゃったぁ!? ビビっちゃったぁ!!?」
- 203 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/08(日) 22:53:28.67 ID:Qw8Xdv2W0
( ^ω^)「……面白い、やってみろ」
( ´W`)「あ?」
( ^ω^)「貴様の腹パンとやら、一体どんなパンなのか気になるお」
(#゚W`)「ああ!? パンだとぉ!!???」
(#゚W`)「ふざけたヤローだ!泣いて謝ってクソしたら許してやろうと思ったがもーう許さねぇ!!」
(#゚W`)「死ねやアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」
咆哮と共に俺の腹へとパンチが繰り出された。
それが当たると同時に子分達が離れ、俺の体が宙を舞―――
( ´W`)「あ、あれ」
――― う、ことを期待したんだろう。
- 205 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/08(日) 22:56:57.60 ID:Qw8Xdv2W0
(メ;^θ^)「な、何だ、ボスの腹パンを食らって、あっ、あいつっ……!!」
(;+\+)「どうしてだよぉ!! 腹パンだぞ!?」
雑魚達が疑問を口に出す。
足どころか体すら動かない俺を見て、シラヒーゲの巨体がゆっくりと後ずさっていく。
その顔は恥辱と疑問と恐怖で塗りつぶされている。
どうやら今のが正真正銘本気の"腹パン"らしい。
( ^ω^)「……やっぱりその程度かお」
(;´W`)「……今日ちょっと調子悪いかなぁ〜?」
( ^ω^)「お前は多分いつも調子悪いお」
(;´W`)「い、いや、いつもはもっと……」
( ^ω^)「ならあれだ」
( ^ω^)「俺が強すぎるんだお」
びくりとシラヒーゲが肩を震わせた。
- 209 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/08(日) 23:01:51.12 ID:Qw8Xdv2W0
( ^ω^)「しぃ!」
縛られた女の集団に向かってギコの妻の名を呼ぶ。
すると拘束された女の一人が顔を上げた。
驚きでぱっちりと開かれた目、反り返った長いまつ毛、人の良さが滲み出た童顔。
しかし肉付きのいい脚、小柄な体に似合わないふくよかな胸。
なるほど、ギコに似合いのいい女だ。
( ^ω^)「ギコはずっと、あんたの心配をしている!」
( ^ω^)「俺は、……運悪くやられちまったギコと、あんたを助ける約束をしてきたお!!」
――― 自分が痛めつけられてもなお攫われた嫁の身を案じ、自分のふがいなさに涙を流していた。
……男のメンツを守るために真実は隠してやろう。
( ^ω^)「あいつはいい男だお! あんたもあいつも幸せもんだお!!」
しぃが嬉しそうに眼を細めると、その目尻から涙が零れ出した。
- 212 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/08(日) 23:05:45.31 ID:Qw8Xdv2W0
( ^ω^)「あとついでに、酒場のマスターとお前らをぶっ倒す約束もしてきたんだお」
( ´W`)「えっ」
( ^ω^)「トマトジュースの代金になってもらうお」
( ^ω^)「それとも、"泣いて謝ってクソして許しを乞う"かお?」
(;゚W`)「ングッッ!!」
賊達はボスの自慢のパンチが通じなかったという事実を前に呆然とし、
腰に下げた剣やナイフはアクセサリーのようにきらめいていた。
ぶきは そうびしても つかわないと いみがないぜ。
(;゚W`)「ひ、ひええええ〜〜〜〜!!!おま、いやあなたサマは一体いいいいいいいい!?!?」
シラヒーゲは完全に戦意を失い、顔を恐怖に硬直させながら距離をとった。
雑魚達も同様の反応をしている。間抜けな光景だ。
( ^ω^)「俺か? ……名前はさっき言ったな」
( ^ω^)「俺は―――」
- 215 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/08(日) 23:09:47.09 ID:Qw8Xdv2W0
右手に拳をつくり、拳を引き、大地に身を預けるように腰を落とす。
開いた距離のおかげで、こいつもまた一歩で辿りつける最もいい場所にいる。
狙いはあいつ。
狙いは一直線上。
狙いは、"腹"。
(#^ω^)「――― "腹パニスト"だッ!!!」
距離を一気に詰めた。
奴の顔が恐怖に引き攣る暇さえない。
- 217 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/08(日) 23:13:02.11 ID:Qw8Xdv2W0
『覚えておけ、ホライゾン』
『ワシの教える、ワシらのゆく"腹パン道"とは―――』
- 220 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/08(日) 23:17:18.19 ID:Qw8Xdv2W0
何が起こったのか理解させる間すらも与えず、引いた拳を一気に放つ。
(#^ω^)「フンッッッ!!!」
身長差のため斜めに突き上げるような、愚直に、ただ真っ直ぐなそのパンチは、腹へ。
( ゚W`)「ぶっ」
へその上あたりに衝突した拳はシラヒーゲの巨体を浮かし、かつ。
( ゚W゚)「け゛ギョおッ―――!!!!」
吹きとばす。
シラヒーゲは変なところから悲鳴と汚物を吐き出し、それは上昇を続けるシラヒーゲ本人が浴びた。
- 222 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/08(日) 23:20:22.42 ID:Qw8Xdv2W0
『"己の正義のために腹パンを行使する武道"』
『これ、大事大事じゃぞ』
『ふぉっふぉっ……』
- 229 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/08(日) 23:23:19.77 ID:Qw8Xdv2W0
シラヒーゲが壁を破壊し貫き、砂地へと舞い上がっていった。
フェードアウトしていく敗者の悲鳴の後は何も残らなかった。
( ^ω^)「……ふん、本気を出すまでもねぇお」
村人を苦しめ、あまつさえ"腹パン道"の名を汚したその罪は重い。
俺は決して弱者に手を差し伸べる、正義の味方じゃない。
故に、師匠から教わった正義の拳はただ復讐のため――― たまーに、俺が得をするために振るう。
( ^ω^)「お前の腹パンにゃあ、何の正義もないお」
見えなくなったシラヒーゲに吐き捨てるように言い、
ぽかんと口を開けて成り行きを見守っていた子分達に向き直る。
( ^ω^)「さあ、次は誰だお?」
それをキッカケに、魔法が解けたように悲鳴を上げながら逃げ惑いだした。
俺が約束してきたのは、"全員を倒す"こと。
( ^ω^)「1人も逃がさないお〜?」
- 234 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/08(日) 23:27:20.51 ID:Qw8Xdv2W0
‐‐‐−−−―――━━━―――−−−‐‐‐
( /△/)「おい、もう日が暮れるぞ……」
(#`@´)「やっぱりあんな旅人、信用した方が間違いだったんだよ!!」
( 'l`)「どうせ俺たちに期待を持たすだけ持たせて……」
(`・ω・´)「果たしてそうかな」
( /△/)「マスター?」
(`・ω・´)「あいつは帰ってくるよ」
( `@´)「はぁ、信じたいのは山々だがな、一体何を根拠に―――」
(`・ω・´)「あの男の眼、あれは子どものように純粋で、嘘を吐かない人間の眼だ」
(`・ω・´)(ただ―――)
(`・ω・´)(尋常ではない意志も秘めていた。 あの旅人は一体……)
( 'l`)「!!おい、あれっ!!」
- 236 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/08(日) 23:30:34.16 ID:Qw8Xdv2W0
‐‐‐−−−―――━━━
( ^ω^)「おいすー」
(;'l`)「か、帰ってきやがったぜぇ……!!」
もう陽は傾ききって大地は淡いオレンジに染まっている。
砂漠状態に近い荒野の日暮れは、総じて気温が下がり寒くなる。
旅に慣れたとはいえこの温度差は流石に慣れない。
賊を全滅させるのは早かった。
だが縛りあげてここまで引きずってくる、後始末の時間が長かった。
調子に乗って賊を全員ぶっ飛ばしたから回収に手間取ったのだ。
(*;ー;)「皆ー! ギコくーーーーん!!!」
(//゚Д゚)「お、おお、しぃ!!」
(//;Д;)「しぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!」
- 240 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/08(日) 23:33:34.54 ID:Qw8Xdv2W0
(//;Д;)「ごめん、俺が弱いばっかりに、お前をぉ……!!」
(*;ー;)「ううん、いいのよギコ君」
(*;ー;)「あの人から聞いて、……それに、わかるの」
(*;ー;)「ギコ君は、とっても強いんだ……って」
(*;ー;)「……だから、ね?」
(//;Д;)「う……っ、ぐっぅふっ」
(//;Д;)「しぃぃぃぃ……」
2人は再開を喜びあい、人目も憚らず抱きあって嬉し涙を流している。
いや、ギコとしぃだけではない。
あの賊に捕らわれていた女達も、村の人間もみな喜んでいる。
憚る人目がここにはない。
- 243 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/08(日) 23:37:07.54 ID:Qw8Xdv2W0
ここで俺がギコ恩を売りに行くのは野暮ってものだろう。
そもそも一村民のお礼なんてたかが知れている。
お礼される方が面倒だ。
それに。
( ^ω^)「……」
(^ω^ )「ふん」
……悪い気分ではない。
/::’*')「おお、旅の者よ、私は村長です」
集団の中から杖をつき、一人の老人が出てきた。
/::’*')「皆に代わってお礼をさせてくだされ」
/::−*-)「本当に、本当にありがとうございます」
( ^ω^)「気にするなお」
元から曲がった腰をさらに折れそうなくらい曲げて礼をしてくる村長。
そこまでされてはこっちが申し訳ない気分になってくる。
- 246 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/08(日) 23:39:41.21 ID:Qw8Xdv2W0
( ^ω^)「ほれ、悪さしてた賊共を連れてきたお」
( ^ω^)「俺はいくらこいつらが人間のクズとはいえ、人殺しは気が進まん」
( ^ω^)「どうするかはあんたたち次第だお」
( ^ω^)「似るなり焼くなりお好きにどうぞ……お?」
その言葉を聞いて村長とその後ろにいた大勢の村人の目が妖しく光った。
殺気を感じてか、俺の後ろの束縛された賊共がどよめく。
きっと今までの恨みを晴らされるんだろうな。……南無。
/::#’*')「ようし!おまんら、こいつらを広場に連れていけい!!」
「「「「うおおおおおおおおおおおおおおお!!!」」」」
村長が杖を振りあげるや否や、これまでのお返しだと言わんばかりの
野太い雄叫びをあげる男達によって、十数人の賊はどこかに拉致されていった。
あれが血祭りか……。
- 250 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/08(日) 23:42:07.84 ID:Qw8Xdv2W0
/::’*')「さて旅の者、つきましては何かお礼を……」
( ^ω^)「礼か。 礼なら……マスター!」
(`・ω・´)「お、おうっ! なんだ!?」
野次馬に紛れていたマスターに声をかける。
( ^ω^)「あの約束、忘れてないおね?」
(`・ω・´)「……! あ、ああ!あんたのトマトジュース代はチャラだ!!」
( ^ω^)「ごちそうさまだお」
いいっていいってと言いながらマスターが手を振る。
( ^ω^)「っつーわけだ、村長。 報酬なら既に約束済みなんだお」
/::;*;)「おお、なんとなんとお優しい若者じゃあ!!」
村長の顔面荒野にオアシスが出来た。
- 255 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/08(日) 23:45:22.84 ID:Qw8Xdv2W0
/::;*;)「この村に滞在するならいくらでももてなしますじゃ!!」
( ^ω^)「あ、いや、別に普通にしてほしいお」
/::;*;)「謙虚な旅人じゃあああああああ!!!」
俺が何を言ってもプラス評価になる。こわい。
/::;*;)「そうじゃ名前を、名前を教えてくだされ!!」
/::;*;)「村に石碑を造って刻みこみますだ!!」
(;^ω^)「……今日名乗るの、これで3回目なんだけどなぁ」
(;^ω^)「あと刻み込まないでくれお、恥ずかしい」
こういうのはどうも苦手だ。
気恥かしくなって目線を逸らす。
逸らした先に、あの若い夫婦がいた。
2人寄り添い、支え合うように立ち、優しい目でじっと俺を見ていた。
- 258 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/08(日) 23:48:24.48 ID:Qw8Xdv2W0
( ^ω^)「…………ふん」
ふわり、と。
( ^ω^)「……"腹パニスト"の、ブーン。 それが俺だお」
(//^Д^) (^ー^*)
夕暮れの荒野に優しい、暖かな風が吹いた。
- 262 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/08(日) 23:50:51.19 ID:Qw8Xdv2W0
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