Ammo→Re!!のようです


2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/12(日) 19:27:06.68 ID:z4vfs6V50






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◆Prologue-序章-    【Strategy-策-】 ,:',: '  '   ,:'    ,    '   ,:'   ,: '   
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――The most important thing in the snowstorm is to keep more dispassionate mind than ice.
          吹雪の中で最も重要なのは、氷に勝る冷静さを保ち続ける事である。

                                           The Sharulan saying.
                                              シャルラの諺
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4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/12(日) 19:31:04.01 ID:z4vfs6V50
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Sharula ⇒ January 28th
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                           【7years ago...】
                            七年前……
                                       シャルラ ▼一月二十八日
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――七年前。
北部最大であると同時に世界最大の土地を持つ氷結の都市、シャルラの名物である吹き荒ぶ零度の風と雪が作り出す純白の華吹雪は、
視界不良の為に立ち往生している大型バスの中で白銀の雪景色に恐怖を覚え始めた子供達の軟肌を味わうように舐める隙間風となり、一撫で毎に幼い体に宿る気力を削っていた。
鈍色の空が不気味に蠢くたびに、雲の薄い部分は僅かに白み、墨の濃淡だけでその景観の全てを描いたとされる東洋の絵画を思わせる。

(::゚,J,゚::)「ふぅむ……」

ブラウンの瞳でフロントガラス越しに空を睨みつけるタヴィート・グラツキーはこの道三〇年にもなる、熊のような体つきと細い顎鬚がトレードマークのベテランの運転手である。
彼がハンドルを握る大型バスは、例え永久凍土の上だろうが南極の氷上であろうが走破し得る性能を持っており、白銀の風に視界を奪われなければ、定刻通りの運行は確実だった。
だが、白い魔女の気紛れによってそれは叶わなかった。



6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/12(日) 19:38:44.34 ID:z4vfs6V50
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       '   ,:'   ,: '  '   ,:',   '   ,:'    There is a witch in the snowstorm....
          '   ,:'   ,: '  '   ,:',   '   ,:'   吹雪の中には魔女がいる
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ノリハ;゚ .゚)「っ……っ……」

一人掛けの椅子に浅く腰を掛けたフレームレスのメガネが特徴の教師は時間の経過と共に落ち着きを徐々に失い、
化粧の下にヒステリックな焦燥の色を覗かせ、タヴィートの背中に非難がましい視線を向けていた。
数時間前の理知的に振舞っていた彼女に今の姿を見せたら、さぞや面白い反応が返ってくるだろう。
雪は視界を隠すが、弱い人間の本質を暴きだすと云う言い伝えの正しさを、タヴィートは教師の姿を見て実感せざるを得なかった。

車内で唯一、タヴィートだけがその体格のように大きく構えて落ち着き払い、吹雪が弱まるのをじっと待っていた。
人生の殆どを氷雪と共に過ごしてきた彼は、極寒の大地で求められる理想的な立ち振舞いを心得ており、紙コップに入ったホットコーヒーを一口啜って満足そうに唸る余裕を見せている。
実を言えば、刻一刻と激しさを増す吹雪の中でバスを進める事は可能だ。
可能だが、それは非常に危険な賭けであり、目隠しをして都会の人混みの中を走るような物。

吹雪が視界を白く染め始めた直後、現在地が交通量の多い道路である事を標識から判断し、彼は事故を未然に防ぐためにバスを停車させていた。
バスの前後にも彼と同じ判断をした車が停まっている可能性は極めて高く、当分の間動けない事は間違いなさそうであった。
雪国に生きる人間は焦りが余計な手間と問題を生み出すことをよく心得ており、この吹雪は当たり前の光景として受け入れられている。
彼の判断に誤りはなかった。

8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/12(日) 19:42:48.66 ID:z4vfs6V50
しかし、外地から集団旅行に訪れていた学校の一団はそれを理解できなかった。
この状況が異常な物だと思い込み、軽度のパニックを起こしたのである。
勿論タヴィートは、心配はないと車内放送をしたのだが、女教師が何度も同じ質問を繰り返し尋ね、
満足いく回答と行動による返答を得られなかった事に立腹し、明日から職があると思わない方がいいとご丁寧に忠告をしてきていた。

ヒステリックな声は状況によっては不快感だけでなく、不安をも煽り立てるだけだと知らないのだろうか?
まして、彼女は仮にも教師。
教師が狼狽えればそれが子供達に伝染してしまうことも、教師と云う立場の意味もまた、スポンジのような作りをした脳味噌から抜け出ている可能性がある。
何を言っても無駄だと早々に判断したタヴィートは無視を決め込み、吹雪が収まり渋滞が緩和されるまで、無言で待っているのであった。

(::゚,J,゚::)「……あ?」

(,,(:゚::::))

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       '   ,:'   ,: '  '   ,:',       The witch is wearing snowy dress...
        '   ,:'   ,: '  '   ,:', その魔女は、雪のように白い服を身に纏っている
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白いダウンコートを身に纏い、柔らかそうなファーのついたフードを目深に被った人物がバスの扉をノックしたのは、タヴィートが暖房の温度を二度上げようとした時だった。

11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/12(日) 19:47:38.00 ID:z4vfs6V50
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その人物は細身で、足の肉付きと身体つきは間違いなく女の物だった。
しかし、素顔はフードの下に隠れ、雪の舞う中ではっきりと視認できるのはルージュの口紅が塗られた口元だけ。
白いキャンバスに紅い唇が浮かんでいる様で、それは妖艶の一言に尽きる姿だ。
女性は黒い革の手袋を嵌めた指でバスの後部座席を指し、乗せてくれとジェスチャーで語るが、タヴィートは怪訝な顔をして、首を横に振った。

こんな吹雪の中で外出すると云う事は地元の人間ではないことに加えて、気狂いであることは否定する余地がない。
そのような愚か者を助ける道理はないし、このバスが一般人向けではないことぐらいは一目見れば分かる事。
全てを理解した上でやっているのなら随分と図々しい神経の持ち主だが、そこに感心して扉を開けるようなお人よしではない。
再びガラスを叩き、女性は同じ仕草で乗車を求めた。


(::゚,J,゚::)「駄目だ。失せろ」


タヴィートは手で追い払う仕草をして、それを拒絶する。
しかし、女性は全く懲りる様子も諦める様子も見せずに、三度目のノックをした。
タヴィートは視線をコーヒーの水面に戻し、反応しない事にした。
馬鹿に反応すれば、無駄に疲れるだけなのだから。


15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/12(日) 19:51:26.49 ID:z4vfs6V50
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       '   ,:'   ,: '  '   ,:',   '   ,:'   Her footsteps are absolutely silence...
          '   ,:'   ,: '  '   ,:',   '   ,:'   彼女の跫音は静寂そのもの
                    ,:',: '  '   ,:'   :'  '   ,:',: '  '   ,:'    ,  :'
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ノリパ .゚)「あの人はどうしたのですか?」

停車してから初めて、女教師がタヴィートに雑言以外の言葉を掛けた。
憎まれ口の語彙が尽きたわけではなく、単にタヴィートが反応をしなくなったのが一番の原因だと思われる。

(::゚,J,゚::)「気にしないでください。
     ありゃあ、ただの酔っ払いか馬鹿です」

ノリパ .゚)「寒そう……」

寒いに決まっている。
バナナを外に出せば物の数秒で凍り付き、釘が打てる気温なのだ。
上手くいけば、そのバナナでこの喧しい教師を永遠に黙らせることも出来る。
いい考えだと思ったが、生憎、バナナが手元にない。

吹雪の中で立ち尽くす光景に心を痛めている風な声を漏らした女教師は、非難するような口調で、タヴィートに訊いた。

16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/12(日) 19:53:58.79 ID:z4vfs6V50
ノリパ .゚)「どうして中に入れて差し上げないのですか?」

(::゚,J,゚::)「酔っ払いならウオッカを持っているでしょうし、馬鹿なら構わない方がいいですからね」

四度目のノックにも応じないタヴィートの脇を通って、女教師が昇降口に向かおうとするのを、彼は咄嗟に腕を掴んで引き止めた。

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(::゚,J,゚::)「何をするつもりですか?」

ノリパ .゚)「中に入ってもらいます。
     このままじゃ、あの人が可哀そうです」

(::゚,J,゚::)「扉を開ければ車内の温度が下がります。
     それに、予定にない人間を乗せるなんて事は、運転手として認められません」

あくまでもタヴィートの声は静かだったが、威圧的だった。
女教師はタヴィートを振り解こうと腕に込めるが、彼女の細腕はびくともしない。
教鞭を振るってきた人間と、斧を振るって森を切り開いてきた人間の腕力の差は歴然としている。
力で勝てないと察したのか、教師は切れ長の目を吊り上げ、唾を飛ばしながら怒鳴る。

ノリハ#゚ .゚)「運転も出来ない、人助けも仕事も出来ない!! 貴方は最低の人でなしです!!」

18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/12(日) 20:00:00.46 ID:z4vfs6V50
(::゚,J,゚::)「それで構いませんから、席に座っていてください」

尚も罵倒を続ける女教師の言葉を右から左に聞き流し、タヴィートはうんざりした風な溜息を吐く。
教師とはどうして、このような人種が多いのだろうか?

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       '   ,:'   ,: '  '   ,:',   '   ,:'        She is always smiling and...
          '   ,:'   ,: '  '   ,:',   '   ,:'     彼女は常に笑みを浮かべ
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(,,(:゚∀::))

横目で例の女性を見ると、その唇の端が僅かに吊り上がり、笑みを浮かべているのが分かる。
それは果たして嘲笑か、それとも失笑か。
意味深に歪んだ唇の意味を、タヴィートは理解できなかった。

ノリハ#゚ .゚)「もういいです!! 貴方はクビです、クビにします!!」

(::゚,J,゚::)「私は学校に雇われている身でしてね。
     一介の教師に解雇される言われはないですし、そのような権限を貴女が持ち合わせている様には思えないのですが」

20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/12(日) 20:05:07.44 ID:z4vfs6V50
何にしてもバスの扉は手動では開かない為、この女教師が勇んで行った所でタヴィートが運転席にあるボタンを押さなければ扉は閉ざされたままだ。
そのようなことも分からなくなっていることを考慮すると、対話は無駄に終わるだろう。
しかし、仕事は仕事。
どれだけ面倒なことでも仕事を果たす事こそが、後々に自分の身を守る最善の手段なのだ。

(::゚,J,゚::)「いいですか、先生。 乗っている子供達をこれ以上不安にさせない為にも、もう、余計な事はしないで大人しく席に座って、本でも読んであげてください。
     雪の中でじっとしているのが恐ろしいのは分かります。
     ですが、この地には雪の中では冷静で在り続ける事が重要だと云う諺があるんですよ」

辺りが闇ならば、目を閉じればいい。
闇はありもしない物を幻想させ、幻視させるからだ。
しかし、雪は違う。
純粋な白一色に視界を奪われ囲まれると、人は孤独を感じるようになる。

強く目を閉じたところで、瞼の向こうに広がる白い光景は残滓となって孤独を強調し、人間をどうしようもない負の連鎖に陥れる。
冷ややかな孤独はやがて不安に火を点け、心が纏っている氷のような冷静さを溶かし、本性を曝け出させる。

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       '   ,:'   ,: '  '   ,:',   '   ,:'    mocking cowardly hearts...
          '   ,:'   ,: '  '   ,:',   '   ,:'  臆病な心を嘲笑っている
                    ,:',: '  '   ,:'   :'  '   ,:',: '  '   ,:'    ,  :'
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21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/12(日) 20:07:32.57 ID:z4vfs6V50


ノリハ#゚ .゚)「私は冷静です!!」


指摘しても埒が明かない事は女教師の取り乱しようから十分に察する事が出来た。
タヴィートはこの教師の本質と云う物を見定め、退屈な時間を有意義に消費しようと決めた。

(::゚,J,゚::)「冷静な人間は怒鳴り声など上げない物ですよ」

ノリハ#゚ .゚)「小馬鹿にして!!」

そこまで暇ではない、と喉まで出かかった言葉を飲み込む。

(::゚,J,゚::)「まさか。
     そちらの地では何と表現するのかは浅学な私には分かりませんが、この土地では臆病者の小胆は馬鹿にも劣ると言いまして――」

タヴィートが言い終わる前に、その頬を女教師が平手で叩いた。

ノリハ#゚ .゚)「離しなさい!!」

耳をつんざくその金切り声に、タヴィートは思わず手を離してしまう。
耳鳴りの中でタヴィートは、女教師が音楽の授業を受け持っていると云うことを思い出した。
そして女教師は扉に駆け寄り、よりにもよって、非常用の開閉ボタンを押して素性の知れない女性を招き入れてしまう。
剃刀のような風が車内に入り込み、児童達が悲鳴を上げる。


(,,(:゚::::))「うっ……」


24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/12(日) 20:10:31.71 ID:z4vfs6V50
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       '   ,:'   ,: '  '   ,:',   '   ,:'    So, if you came across the witch...
      '   ,:'   ,: '  '   ,:',   '   ,:'      だから、その魔女に出会ったなら
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女性は入ってすぐに力なく崩折れ、教師がそれを支える。
当然、扉は開かれたままだ。

(::゚,J,゚::)「このっ……馬鹿教師……!!」

タヴィートは急いで扉を閉め、暖房の温度を最高値まで上げた。
得意顔でタヴィートを見る女教師に、彼は呆れを通り越して激昂した。
何時動くかも分からない渋滞の中、無駄にバッテリーを消費させた上に危険要素を招き入れた事は、如何に客である教師であっても許される物ではない。
タヴィートはこれ以上余計な事をされる前に、一発、拳を用いて教師に教える必要があると判断した。

彼女の本質は己の信念に心酔し、信仰し、それ以外を不純と断じる独り善がりの盲信者だと、今この瞬間判明したのだ。

ノリパ .゚)「さぁ、もう大丈夫ですよ」

紅い唇が白い息を吐いて震えながら、何か言葉を紡ぐ。

27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/12(日) 20:13:31.98 ID:z4vfs6V50
ノリパ .゚)「どうしました?!」

(,,(:゚::::))「……ありがとう……ございます……」

教師が安堵の表情を浮かべるより早く、タヴィートが握り拳を作るよりも疾くその女性は動いていた。

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       '   ,:'   ,: '  '   ,:',   '   ,:'         Do not open your heart...
          '   ,:'   ,: '  '   ,:',   '   ,:'   決して、心を許してはならない
                    ,:',: '  '   ,:'   :'  '   ,:',: '  '   ,:'    ,  :'
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(,,(:゚∀::))「おバカな先生さん」



30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/12(日) 20:16:54.34 ID:z4vfs6V50
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       '   ,:'   ,: '  '   ,:',   '   ,:' Because, she loves the cowardly hearts...
 '  ,:'   ,: '  '   ,:',   '   ,:' 何故なら、臆病な心臓こそ彼女の好物なのだから
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至近距離から放たれた一本拳は喉を潰して声と気道を奪い、心臓への抜き手による一撃は命を奪った。
一連の手際の良さは体に染みついた習性のように自然で、無駄がなかった。
それは、ほんの数秒の出来事。
児童達は誰一人としてこの事態に気付いていなかったが、タヴィートは数秒前まで生きていた女教師が呆気なく殺されたのを見て、
下手に騒いだり動いたりしない方が賢明であると判断した。

(,,(:゚∀::))「理解ある運転手で結構。
     もう一度扉を開いてくれるかな?」

ねっとりと、甘ったるく、そして含み笑いのような独特の訛りのある若い女の声。
言われた通りに、手元のボタンを操作して扉を開く。
女性は教師の死体を雪中に放り捨て、扉を閉めるように指を鳴らして指示をした。
扉が閉ざされると、再び冷気と暖気が混ざり合う。

それは、タヴィートにこれが現実の光景であることを認識させた。

33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/12(日) 20:21:01.62 ID:z4vfs6V50

从 ゚∀从


雪のついたフードを頭から外すと、肩まで伸ばした銀色の髪と血の色をした瞳がまず目に付いた。
厚い化粧を施した女性の顔の左半分は垂らした銀髪が隠し、右の瞳はタヴィートに向けられていた。
その顔に美があるのだとしたら、それは、一部の人間が毒蜘蛛に美しさを感じる時に湧きあがるそれと同じ類のものだろう。
そして、その女性は驚くほど若かった。

二十代手前、いや、顔に残るあどけなさから十代前半だろう。

(::゚,J,゚::)「……目的は」

懐から携帯電話を取り出すような気軽さで、女性はサプレッサーの付いたマカロフ自動拳銃を抜き、タヴィートに向ける。

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  ヽ、 ̄ ̄ ̄ヽ───────tttttttttt=──‐ l
    ̄ ̄ ̄`ー- ──、─ 、└─` ─‐- 、   _ノ
          //    ,ノ r´ ヽ /´: : : : : : :ヽ-,´
           `、ヽ   -‐´   ) ハ`ー----‐ ´ (
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从 ゚∀从「一先ずは移動だ。
     渋滞の事なら気にするな。
     すぐに良くなる」

(::゚,J,゚::)「場所は?」

从 ゚∀从「ヴォルコスグラード区」

36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/12(日) 20:23:28.27 ID:z4vfs6V50




児童二十三名を乗せたバスは、こうして、雪の中に消えて行った。
その児童の中には軍事都市イルトリア市長、フサ・エクスプローラーの一人娘が含まれていたのであった。










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       '   ,:'   ,: '  '   ,:',   '   ,:' Prologue End...   序章 了
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39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/12(日) 20:25:53.08 ID:z4vfs6V50






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      This is the story about the world where the force can change everything...
                これは、力が世界を動かす時代の物語。

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          '   ,:'   ,: '  '   And the beginning of New Ammo → Re!!...... '  
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44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/12(日) 20:29:01.37 ID:z4vfs6V50
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Mardish ⇒ July 28th
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    、v,..v、  |_}::/ 、';';〉.:/ /{_|┴lニニニニニl.r┴、_|_|_|:彡v、./ /.:: .::./....::/ ,::'.ソ;:::
─'ー;;ミ゙'爻爻ミ;.. |_;l'_;_;_∠;/_/___l_,,:;;}┬┴┬┴┬┴┐::| .:::|彡ミx;: -─: ッ?Ew ー ywv、‐ー
゙':;ゞ;爻彡炎炎;ゞ~゛'' ┘⊥ 」_ |  |{_|┴┬┴┬┴┬┴┤ .:|彡ミメ゙';ヾ: ;:; ';: ;:; 'ヾ淡炎ミミx:;'
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";: ;: ;: ;:  ; ::; : ;:; :; :  :: :; : ;:; ;~'',;' ' : ;:; ;~ ; ::; ;~'',;''  ; : ; ::; :;~'',;:; ,”v:": ;:; ';v:'';'' ;~'',;'
                          【7years later after...】
                            七年後……

                                 マーディッシュ ▼七月二十八日
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雲が一つだけ浮かんだ天空から降り注ぐ正午の日差しは、殺人的に強い。
鉄板の上に肉を乗せて放置しておけばいい焼き具合のステーキになっていると云う冗談も、この炎天下で一時間も過ごせば冗談に思えなくなる。
穴の開いたトタンと煉瓦で造られた粗末なバラックと、土塊かと見紛う建物を見て、ここが東の海に浮かぶフィリカ大陸の中でも屈指の都市であると誰が考えるだろうか。
乾燥した空気は埃っぽくて土臭く、大地に吹く強風は砂塵の運び手となって目に見える全てを土色に変える。

そして、十分前から響き始めた発砲音は耳を弄し、飛び交う銃弾によって通りから関係者以外を遠ざけていた。
誰だって、鉛弾の行き来するパーティーに参加したいとは思わないだろう。
例えそれが地球の裏側であっても、地の果てであっても。

(,,゚Д゚)「本部、応援はまだか?」

乗り捨てられていた錆びだらけの車を盾にして、デザート・ハットを被り膝立ちになった男がインカムに向かって苛立ち気味に尋ねる。
返ってきたノイズ混じりの女性の声は、機械のように冷ややかだ。

48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/12(日) 20:32:58.95 ID:z4vfs6V50

『現在地は?』

(,,゚Д゚)「5110-1800だ。 繰り返す、5110-1800」

『……ヘリが安全に着陸可能な地点まで移動してください。
現在の位置では着陸できません。
民兵をできるだけ撒いて、安全を確保するのが優先です』

すぐ耳元を銃弾が掠め取んで行き、男は苛立たしげな表情を浮かべた。

(,,゚Д゚)「何処だってその気になれば着陸できるだろ。
    何のためにクソ高い市民税を払ってると思ってるんだ?」

『何のために貴方に依頼したと御思いですか。
それに、納税者でもない元・イルトリア市民が税の話をしないでください』

(,,゚Д゚)「皮肉の上手い女は好きだが、あんたは好きになれそうもないよ」

『光栄です』

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          \ヽ ヽ  >、」 _」_」 _」_」 _」_」_,<      /
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                ゝ!    `ー─‐'´   ミ  _/ \
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              ,/  ハj  _彡{  ノ  `  }}j  |   |.   i> ,_
                     Giko・Brogan
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50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/12(日) 20:36:18.40 ID:z4vfs6V50
昨日誕生日を迎えて三十六歳になったギコ・ブローガンは、デザート・ハットの下に五センチほどに伸びた鬣のような白髪交じりの黒髪を持った、
スカイブルーの瞳を持つ典型的なイルトリア人だった。
嘗ては白く石膏のそれに近かった肌は浅黒く日に焼け、切創や銃創が競うようにその肌に刻まれ、一種の年輪のような役割を果たしている。
一際目立つ顎の大きな傷は、奇しくも四年前にこの地で負った物であった。

砂埃に汚れたSR-47を肩付けに構え、セミオート射撃で建物の角から出てくるサマリー人を正確に撃ち殺し、彼の隣で血に汚れたシャツを着る男を見ることなく、声を掛けた。

(,,゚Д゚)「マイク軍曹、申し訳ありませんが、ヘリが着陸可能な地点まで移動する必要があります」

マイクと呼ばれたイルトリアの軍人は、その声に力なく頷いた。
マイクの顔は固まった血と土埃で汚れ、酷い打撲傷と擦過傷に歪んでいた。
ギコの受け取った顔写真では彫が深く整った目鼻立ちをしていたのだが、今では見る影もない。
サマリー人の怒りのこもった持て成しを受ければ、十人が十人とも振り返る美男子であろうとも、ゾンビと見分けがつかないぐらいの変身を遂げる事だろう。

――事の発端は一カ月前に遡る。
軍上層部から指令を受けたイルトリア軍がマーディッシュの輸出入を司る大物の会合を襲撃する秘密作戦を終えて撤収する際、一人の軍人が捕えられると云う事件が起こった。
秘密作戦故に大々的な救助チームを派遣する事も出来ず、かといって見殺しにもできない。
イルトリアは正に身動きが取れない状況にあった。

そこで、ギコの出番だ。

ギコが所属する民間人質救出専門会社ホステージ・リベレイターは、人質を救出する事だけを専門とした異色の民間軍事会社である。
一見して需要がなさそうにも思えるこの業界だが、一時間に六十件の誘拐事件が発生している現実と、会社が毎年黒字を叩き出していることから、決してそうでは無いことが分かる。
いつの時代、どこの場所でも誘拐は有効な交渉の手段の一つとして考えられ、今日でもその考え方は根強く残っている。
特に、争い事が長期化した場合や無理難題な要求を通そうとする際には、誘拐を利用した交渉が好まれる傾向にある。

人質救出会社内でのギコの役割は、武力によって人質救出を行う実働部になる。
リベレイター社は事件発生後すぐに軍に依頼を受け、ギコは単身サマリーに向かい、マイクを捕えた地元の武装組織の根城と相手の戦力を一カ月で事細かに調査した。
それを元に綿密な計画を立て、時期を見計らって作戦を決行し、マイクの救出に成功した。
そしてそれに気付いた武装組織に追われ、ギコはマイクと共にこうしてマーディッシュのバカラ・マーケットで白昼から銃撃戦を繰り広げていると云うわけである。

54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/12(日) 20:39:41.86 ID:z4vfs6V50

当初の予定では、軍の秘蔵品である小型ヘリコプターが早急に回収に来ることになっていた。
だが今し方、ヘリの撃墜を危惧した軍の意向によって安全な場所に移動する事が求められた。
これを無理難題な臨機応変と云うのだろう。
確かに昼間のマーディッシュは危険だが、空の危険など、地上で戦っている人間に比べれば可愛い物だ。

それに、空を飛ぶ兵器に対してRPG-7を命中させるのは運に頼るところが大きく、仮に当てられたとしたら、それは間違いなくパイロットの責任だ。
現存している航空兵器は全て希少なもので、この辺境の地でお目にかかることはまずない。
可能性の低いリスクに臆病になっているのは、それだけヘリが大切だと云うこと。
マイクとギコの命を天秤に乗せても、ヘリに傾くと云うことなのだろう。

マーディッシュディッシュ人のほとんどが、航空兵器を見たこともないに違いない。

「ギコ、弾はもつのか?」

不安げに訊いてきたマイクに、ギコは間を空けずに答えた。

(,,゚Д゚)「えぇ。あいつらが二十三ドルの箱を運んでくれるので、弾と経費の心配は要りません」

ギコの使用するアサルトライフルの弾は、敵がカラシニコフ突撃銃を使う限り、途切れる事はない。

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56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/12(日) 20:43:13.52 ID:z4vfs6V50
この銃はカラシニコフと比べて外観が全く違うが、使用する弾倉と弾薬は同一なのである。
しかし、いくら武器と弾に恵まれても、それを使う肝心の人間だけは補充がきかない。
少なくとも、ギコ側は実質一人と足手纏いが一人。
今は武器も必要だが、それ以上に人手が必要だった。

面と向かっての潰し合いで最初に根が上がるのは、技量と経験の差があれども、ギコの方だ。
戦力差は絶望的だが、ギコは全く焦っていなかった。

(,,゚Д゚)「心配はなにも要りません、軍曹。
    家に帰ってから奥さんに言う、ドラマティックな言葉でも考えていてください。
    どうにも、機嫌が悪そうですので」


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最悪の状況下での救出作戦は、初めてではない。


(,,゚Д゚)「……さぁ、軍曹。
   移動しましょう、この場所よりも、家庭で味わう地獄の方が幾らか過ごしやすい」


60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/12(日) 20:47:45.23 ID:z4vfs6V50
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  ヽ============| |     \ゝ\  o     ̄ ̄―――     /
     ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\ / ̄ ̄ ―-ヽ    |        |  /
                }|     亅|>ヽ   ヽ____ / o|
                }|    <,ノ丿 ) 冊   ̄ ̄ ̄ ̄  .|||
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スリングベルトを使ってライフルを肩に掛け、レッグホルスターからグロック18カスタムを抜いた。
力なく背を車に預けていたマイクに肩を貸し、素早く退路を見出したギコは中腰で移動を開始する。
建物の角が砂と風で削れて丸みを帯びた、窓ガラスのない窓を持つ三階建の家が、彼らに残された唯一の道だ。
グロックで追手に対して牽制射撃をしつつ、申し訳なさ程度に備え付けられた鉄の扉を押し開いて、中に入った。

J::゚J゚::J『ひっ?!』

開いたドアのすぐ前に、肌の黒い女性が蹲っていた。
現地人の女だ。
怯えた表情でギコを見てきたので、彼は笑顔を浮かべ、サマリー語で礼節を持って話し掛けた。

(,,゚Д゚)『やぁ、いいお宅ですね』

階段を使って上に向かおうとした時、彼らを追って来たコーヒー色の肌をした男が数人、ギコ達が入ってきた扉を蹴り破って乱暴に侵入した。
自分達に危害が及ぶ前にギコは男達の胸を素早く撃ち、地面に倒れて生きている様子がある者は頭を撃って止めを刺した。
家主の金切声を背に階段を上りながら、ギコはインカムに向かって声を荒げた。

(,,゚Д゚)「本部、これから民家の屋上でイエロー・スモークを炊く。
    親鳥を急いで寄越させろ!!
    座標は、5120-1802だ。繰り返す、座標は5120-1802」

63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/12(日) 20:51:07.70 ID:z4vfs6V50
『……もう少し、市街地への脱出を試みてください』

(,,゚Д゚)「いいか、勘違いするな。
    俺の仕事はマイク軍曹を助ける事で、あんたらの仕事は回収用のヘリにキンキンに冷えたビールを積んで、俺の指示通りに寄越すことだ。
    ビジネスって云うのは互いに仕事をして初めて成り立つんだろ?
    あんたの後ろで腕組んでふんぞり返ってる、最高にクソッタレな上官にようく言っておけ」

無線を切ったギコはマイクに先に進ませ、追手に対する足止め役として、階段の踊り場に残った。

(,,゚Д゚)「軍曹、これを」

目印となる黄煙を発生させるためのグレネードをマイクに手渡しつつ、仲間の死体を民家から引き摺り出す色黒の手に片手で狙いをつけて撃った。
男の悲鳴が上がり、応射された銃弾が脆弱な土壁を貫いてギコの足元を砕いた。
数歩階段を上がって、銃弾の飛んできた壁面にギコは数発撃ち返した。
拳銃弾でも、土壁を容易く貫通し、その向こうにいる人間に対する十分な威嚇になった。

だがグロックの弾には際限があるので、出来るだけ撃ちたくはないのが正直な所。
使うのなら、ライフルの方が優先だ。
拳銃に比べて長いライフルの銃身を狭い階段で取り回すのは難しいため、ギコはライフルを使うのに適した場所を目指して、マイクの後を追った。
既にマイクは上の階へと足を進めているようで、姿は見えないが跫音が上の方から聞こえてきた。

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                                          |::::::::::::::::::::::::|
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                             (;:...  {ttttttttttttttttt,=≡≡=、
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二階に足が着いた瞬間、先ほどまで居た踊り場が爆発し、爆風に背中を殴られたギコは躓くように転んだ。

65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/12(日) 20:54:24.82 ID:z4vfs6V50
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  ̄        ̄(::: (( )     ゙ー-v、/  )    厂_,//
        //(:(:: )  : (( (   (  )   ∨` .r )
       /   (  (( :::( )   ((    ))    ̄  )
          / /(  ((:::::   (  ))    )  )
         .//   (  | : /:::  (    )  )
         /        .| ./
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(;,,゚Д゚)「おいおい嘘だろ、おい?!」

大穴の開いた踊り場の向こうに見える地上には、携帯式対戦車榴弾発射機RPG-7を構えた民兵と、カラシニコフで武装した男達がギコを指差し、大声を上げていた。
殺意のこもった銃弾が天井と壁を細かく砕く中、ギコは立ち上がらずに転がって、その場を移動する。
新たなRPG-7が発射され、丁度天井を見やったギコの目に、天井近くを通過する対人弾頭が映った。
それは開けられた大穴からガラスのない窓を抜け、どこかに飛んで消えていった。

間一髪の出来事に、流石のギコも冷や汗をかいてしまう。

(;,,゚Д゚)「……あっぶね」

『イエロー・スモークを確認しました。
三十分以内に到着しますが、搭乗に割ける時間は十数秒です』

その声が、ギコに平常心を思い出させる手助けとなった。

(,,゚Д゚)「準備に時間を掛けたくせにデートをすぐに終わらせるような女は、男にもてないぞ」

『遅すぎる男も女性には好かれませんよ』

(,,゚Д゚)「ご忠告どうも。 ところで、ビールはどうした」

67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/12(日) 20:57:41.89 ID:z4vfs6V50
一瞬の間。

『……ビジネス、ですから』

妙に人間味を感じさせる、ぶっきらぼうな声が返ってくる。
その声に、ギコは素直な気持ちで感想を述べた。

(,,゚Д゚)「素直な女は好感が持てる」

『後は任せました……夫を、よろしくお願いします』

マイクの妻が、先ほどとは違った声色で、そう、一言付け加えた。

(,,゚Д゚)「了解」

立ち上がり、ギコは三階を目指して駆け上がった。
屋上に通じる扉の前で、マイクが身を低くしてギコを待っていた。
今作戦に彼の妻が関わっていることは、黙っておくことにした。

(,,゚Д゚)「お待たせしました。
    三十分程で到着するそうです。
    ビールを注文しておきました」

「そいつはいい」

終わりが近づきつつあることを察したのだろう。
死人のような顔をしていたマイクにも、ギコの言葉で笑顔を浮かべる余裕が生まれていた。

(,,゚Д゚)「一応、これを持っていて下さい。
    実用的なお守りというやつです」

71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/12(日) 21:00:56.88 ID:z4vfs6V50

ライフルを弾倉と共に手渡し、ギコはマイクを壁から遠ざけ、衣装タンスの陰に移動させた。
わざわざライフルが使える場所に出てきたのに、それをマイクに手渡したのには思惑があってのこと。
長物のライフルを持って屋内戦に臨むよりも、拳銃の方が有利になることが多いことが一点。
そして二点目は、ライフルには人間の恐怖心を少しだけ麻痺させる力があるからである。

時間が来ればギコの勝利は揺るがない。
故に、目指すのは効率的な防衛だ。
一人しかいない戦力を、せめてもう少しだけ増やすことは、この逼迫した状況では当たり前と言える。
親指と人差し指を立て、ギコは簡潔に話をした。


(,,゚Д゚)v「ここに通じる場所は二か所あります。
    屋上と、そこの階段です。
    自分は階段を見るので、軍曹は屋上からの敵に注意してください。
    誰かが来たら、七十五セントのキスをくれてやってください、いいですね?」


「あぁ、分かった」


レバーを軽く引いて薬室を確認していたマイクの口から出た軍人らしい返答に、ギコは帰国後に彼の心が病む心配が少ないことを察した。
イルトリアの軍人は、こうでなければいけない。
再び階段に戻ったギコの耳に、荒々しい跫音が届いた。
テルミット手榴弾を放って壁にぶつけ、階段の吹き抜けを転がして下の階に送り込む。

爆発音と共に、人が生きながらに焼かれて上げる胸の悪くなる悲痛な叫び声が聞こえた。
ここまで状況が終焉に近づいているのなら、出し惜しみは無用。
あるだけの装備で応じるのが礼儀。

73 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/12(日) 21:03:56.99 ID:z4vfs6V50
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                     ,>:::r‐ ''´   ヽ- '' ¨_.. -‐ '' ¨  ̄
                     l/   ヽ'':.¨ヽ }`!「
                  _ /    、 \L`'_//
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        ,, -―- ,-‐ ':.:.:.:/         l  l ', ヽヽ.
    _ .. - ''´:.:.:.:.:.:.:/:.:.:.:.:.:.:.:.l        〉 l  ', ヽ, ヽ
:-‐''´:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:!:.:.:.:.:.:.:.:.:.l       ,イ /  / / /
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拳銃の残弾数に配慮してギコは極力戦闘を避ける事に決め、持っている弾倉の数が二つである事を確認し、両手でグロックを構えた。
耳を澄ませ、跫音と気配に細心の注意を払う。
砂を踏めば、否が応でも音は鳴る。
それが微小なものであれ、ギコの訓練された耳がそれを聞き逃すことはない。

二人以上の民兵が息を潜め、跫音を立てないようにして近づいている事を、ギコはすぐに察知した。
跫音から伝わる体重と重心の掛け方は、銃を構えている人間のそれではなく、接近戦を想定した物だ。
つまり得物はナイフか拳銃。
左手をナイフの柄に伸ばし、ギコは呼吸を止めた。

風が運んだ熱砂が建物を撫で大地を移動する音に紛れ、くぐもった鼻息と布擦れの音と古タイヤを利用して作ったサンダルが砂を踏む微かな音が、確実に、近づいてくる。
移動の間隔、足取りから、得物が鉈に近い刃物である事をギコは遂に悟った。
ナイフの柄を掴み、ギコは獣のように静かに、根気強く待った。
経過した時間は一分にも満たなかったが、体感した時間は五分以上だった。

殺気の塊が踊り場の一段手前に来た時、ギコが動いた。
右足を軸に半円を描いて、壁一枚を隔てた吹き抜けにいる追手にナイフを突き立てた。
シュマーグに隠れた右目に深々と刺さったナイフを捻りながら引き抜き、ギコは元の位置に素早く戻る。
二〇センチ近くもあるナイフの半ばに、神経の尾を引いた眼球が付いていた。

77 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/12(日) 21:07:03.98 ID:z4vfs6V50
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\ \`ヽ.  i   | /
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...    {.   }   |∨ ///.\
...    `ヽ-|::._ | ∨/////\
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グロテスクなそれが付いたナイフで空を切り裂くと、半分に切れた目玉が勢いよく飛び、石の壁にへばりついた。
それを見たギコは、暫くの間魚料理を控える事にした。
現地語で殺せ、見つけた、と物騒な声が聞こえてくると、いよいよ焦らずにはいられない。
仕事仲間が増援を待つ間に惨殺された事は珍しくなく、そうなった場合、葬儀は期待するだけ無駄だ。

よくて鳥葬、悪くて風葬、最悪の場合は肉屋行だ。
火星の荒野と差異のないこの土地で散るには、まだ、やり残したことが多すぎる。

『こちら親鳥、迷子の雛鳥を迎えにきたぞ。
残り二分。
待たせてすまない』

イヤフォンに届いたその声は、ギコとマイクが待ち望んでいたそれだった。

(,,゚Д゚)「こちら雛鳥。
    了解した」

腰を落として頭を低くしつつ、後ろ向きに階段を上ってマイクの元にまで戻る。

78 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/12(日) 21:07:47.82 ID:z4vfs6V50
(,,゚Д゚)「お待たせしました。
    後二分で到着するそうです。
    屋上に出て、天使を出迎える準備をしましょう」

得物をマイクと交換し、ライフルに持ち替えたギコは肩付けに構え、銃口と目線を階段から離さない。
視線の先で昔懐かしい木の把手が付いた手榴弾が投げ込まれるのが見えたが、ギコは慌てなかった。
あれは直線上に飛ばすのが主な使用用途であり、ギコが披露した様な芸当には向いていない。
鈍い音と共に踊り場の壁にぶつかった手榴弾は跳ね返り、階段を転がって見えなくなった。

二拍おいて生じた爆発の衝撃で建物全体が揺れ、天井から土埃が降ってきた。
イルトリアが事前に掴んでいた情報通り、何者かがこの街に大量の銃器を流している。
――それこそ、隣接する街を相手取っての激しい戦闘が可能なほどに。
それについて頭を悩ませるのはギコの仕事ではない。

些事を一瞬で頭から消し飛ばし、瞬きをせずにギコは叫んだ。

(,,゚Д゚)「ワン・ミニッツ!!」

遠方からここにまで聞こえてくるローターの回転音は、救援に駆けつける騎馬が蹄を鳴らして疾走する姿を連想させ、長い仕事に終わりが近づいてきた事を告げる。
ギコはコンマ数秒の間、両目を閉じて音だけで周辺の状況を脳裏に思い描いた。


(,,-Д-)


黒い肌と白い目の現地の人間が、殺意を剥き出しに階段を駆け上がる。
不揃いな跫音が近づいてくる。
煩わしい事を考える時間を暴力の時間に変換するのが彼らの流儀。
――ギコの両瞼が薄らと開く。

81 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/12(日) 21:10:49.44 ID:z4vfs6V50
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          \////>  / ¨ 「¨≧−‐y . ____
   ⌒ヽ   ヽ、    -=<    ゝ.// ソ     //^ゝ
     i  ヽ         ゝ _   ¨    //
     j    Y  ゝ、  `ヽ.   ¨  -=ニ
     /       !    ヽ                     '⌒ヽ
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(,,゚Д゚)

瞳は刃のように鈍い輝きを放ち、呼吸は静かだった。
それから起こった全ての出来事は、ギコが脳裏に描いたそれと大差なかった。
階段を上がってきた男の人数。
そして、タイミングまでもがギコの予想した通りだった。

ギコが彼らを、彼らがギコを目視した瞬間、銃声が木霊し、交錯した。
カラシニコフを乱射しながら、雄叫びを上げながら、次々と階段を上がってくる姿はホラー映画の一場面を切り抜いた様。
しかし、銃弾は壁と床を抉り取り、ギコの野戦服の裾を掠め取っただけ。
対するギコは焦らず正確に狙いをつけて、即座に一人を射殺した。

狭い道の戦闘で、人数の多さは有利ではなく不利に働く。
先頭の一人を撃てば、後は弾が勝手に解決してくれる。
倒れた一人が後続の人間の進路を妨害し、身動きが取れなくなっているところに、ギコは数発ずつ撃ち込み、一人残らず殺した。
弾倉を交換し、壁の向こうに控えているであろう増援に向けて、牽制射撃を加える。

『親鳥より雛鳥へ。
着陸態勢に入る』

(,,゚Д゚)「雛鳥より親鳥へ。 了解した。
    ――軍曹、帰りましょう」

86 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/12(日) 21:14:38.19 ID:z4vfs6V50
最後にスモーク・グレネードを階段通路に投げ込み、ギコはマイクを抱えて屋上に飛び出した。
屋上では上空から発生した凄まじい風圧が砂埃を舞い上げ、砂煙を立てている。
その中心部に、風を作り出している物が浮かんでいる。
今まさに着陸しようとしていたのは、イルトリアの虎の子とも言える、世界に数百機しか現存していない電気ヘリコプターのリトル・スパローだ。

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                ~^`"'ー- 'ヘ.,_,.ソ'ヽ(⌒"'
                        (.., 、
                          ヾ,....ソ
  __,..,_ _,.;'"'⌒'`^~(⌒ヾ、_,, _
   ~"'^(.,_,.ノ'"~`ヾ.,_ソ
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砂漠用迷彩にペイントされた卵型の機体が着陸する寸前で滞空し、二人を待つ。
そこにマイクの体を押し込み、自分もその横に乗り込む。

(,,゚Д゚)「よし、出せ!!」

浮遊感の後、二人を救出したヘリコプターは土塊の建物を飛び去った。
わずかに遅れて到着した民兵が急いでRPG-7を撃つが、リトル・スパローは高度を上げ、機首を前に傾けてその場を飛び去った後。
円錐形の弾頭は放物線を描いて街の一角に落下し、爆発した。

(.ノ円)「ご苦労様でした」

副操縦士がクーラーボックスからバドワイザーを二本取り出し、ギコに手渡す。

(,,゚Д゚)「すまない、恩に着る。
    マイク軍曹、少し薄いですが、命の水ですよ。
    こいつを飲めば、生き返ります」

87 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/12(日) 21:17:29.13 ID:z4vfs6V50

さぁ、と言ってギコはよく冷えたビールを差し出す。

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                  //     ,L二二」    丶\
、               トヽ  o  //\  ヽ  o  ヽ.}
:.`"‐-、_         | \ 、  ゝ_ノ})_ノ    /イ
:.:.:.:.:.:.:.:.:\_   , =ヘ: : ` ニニニニニニニニニニニ ィハ
:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:`Y     ∨: : : : : : : : : : :|卩卩L ∠  ,
:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:」 ,     へ: : : : : : : : : : !| , | l/   l
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「あぁ、ありがとう」


プルタブを開け、ギコとマイクは缶をぶつけ合う。
乾杯の言葉は要らなかった。
二人は同時にそれを呷り、喉を鳴らして黄金の液体を流し込んだ。
カラカラに乾いた喉に、ビールが染みる。



(,,^ー^)「お帰りなさい、軍曹」



ギコは傷だらけの顔に満面の笑みを浮かべて、そう言ったのであった。


90 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/12(日) 21:19:58.93 ID:z4vfs6V50
* * *
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Forresta ⇒ August 2nd
                                 ..,,;;
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                        / ̄/i:i:i\       ''';;
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       .......,,,,        ...::::;;;;;''""""''::;;;,,,,,..:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:;.;;..;;   ゙゙ヾ,,,,..,
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爻ヾ∧:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::..;;;;'''""..:::;;;:;...,,;;''' 〜'""::::::::::::::::::/ ̄kkkkkk ∧kkkk
ハハ从'从∧::::∧::::::::::::::::::::::::::::,,;.;.'' ;;;;;''":::::::::::::::::::::::::::::::::::__/kkkkkkkkkノノヾ从ノノ;
ノノゞゞ"ヾハ∧从∧:::::::::::::::::::::::''''""::::::::::::::::::::::::::::::::::::::/kkkkkkkkkk∧kk,',,彡ミ彡爻',
〃゙ゞ∧ノノ',ゞ从゙ゞソ∧,,:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::__ノ¨kkkkkkkk,,∧从从゙ゞ;:;"ゞ,,ソゞ从
∧゙ミ爻彡从爻"ハハ彡ゞ:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::,.ノkkkkk∧kk∧ミ从ミゞ',从リ冫';',彡ンゞ,
爻Y;'ハリ从ソゞミハ∧ゞ゙ヽ ̄ ̄) 冫 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄从;爻゙ヾ,,  フォレスタ ▼八月二日                                    
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

早朝の澄んだ空気の中、鬱蒼と生い茂る常緑樹の間から見える白い化粧を施した歪な刃のように険しいクラフト山脈と夏の青空。
そしてそれを反射する透明度の高い湖の組み合わせは、芸術の域を遥かに超えて美しい。
この荘厳な景色を見る為にはニクラメンの港からバスを使い、電車を乗り継ぎ、渓谷の街クロジングからドルイド山の麓を目指してフォレスタと呼ばれる樹海に踏み入る必要がある。
マーディッシュから船に揺られて半月ぶりに我が家に帰って来たギコは、新聞受けに溜まっていた新聞の束を一掴みにして、
郵便受けの中に少しだけ入っていた手紙を指の間に挟み、玄関の鍵を器用に解錠し、扉を足で開いた。

94 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/12(日) 21:23:31.12 ID:z4vfs6V50

木で作られた家の中は杉の香りが強く、それがギコにとっての我が家の香りだった。
ベッドの上に新聞と手紙を放り投げ、窓を大きく開いて網戸だけの状態にした。
朝露と木の香り――即ちフォレスタの匂い――が部屋いっぱいに広がる。
井戸水で満たしたヤカンをコンロに乗せ、ギコは大きめのマグカップにたっぷりの砂糖とインスタントコーヒーを入れ、湯が沸くまでの間、手紙と新聞に目を通すことにした。

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     ,---、  ヽ/ 〃     ̄`ヽ
     l/´ / ヽ、 ヽ /_  ,ィ     ',
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固いスプリングを軋ませベッドに腰を下ろし、郵便物を手に取る。
差出人の八割は、全く同じ人物からのそれであった。
それ以外はダイレクトメールの様で、一応目を通してからゴミ箱に丸めて捨てる。
目ぼしい物は特になかった。

取り分けておいた封筒の封を慎重に鋏で切る。
そこには、一枚の写真と一通の手紙が入っていた。
手紙に書かれた字は汚く、乱雑で、そして元気に溢れた文字だった。
解読するのには時間がかかるが、一緒に収められていた写真を見れば、何が言いたいのかは一目で分かる。

前歯のない少年や、みすぼらしい格好をした少女の屈託のない笑顔は、それを雄弁に物語っている。
同じ差出人からの便りには、全て異なる子供の笑顔の写真と直筆の手紙が添付されていた。
全て何度も見直した後、ベッドの横の床板を一枚外し、そこから古びたブリキ缶を取り出した。
そこにはこれまでに彼に送られてきた手紙と写真が全て収められ、先ほど見ていた手紙と写真もまた、そこに収められる事となる。

95 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/12(日) 21:26:45.10 ID:z4vfs6V50
それはまるで、小さな子供が大切に隠しておいた宝箱のようで、壊しがたく侵しがたい雰囲気を醸し出していた。
ブリキ缶を床下に戻し、床板を嵌めると、ヤカンがカラカラと音を立て始めた。
重い腰を上げてガスを止め、湯をカップに注ぐ。
途端に立ち上る香ばしく甘い匂いが森の香りと混ざり、ギコの心を落ち着かせる。

――四日前に味わった激しい感情の変化はあの日と比べて落ち着きを取り戻してはいるが、その毒はまだ彼の心を内側から蝕んでいた。
これまでに百人以上の人質を救出し、その度にギコは感謝をされていた。
それは自己満足でしかなかったが、彼が仕事を続ける上ではなくてはならない見返りのようなものだ。
その見返りのためにギコは危険に身を晒し、人質を助けてきた。

仕事と割り切るには、彼はあまりにも長くこの体験に携わりすぎていた。
仕事ではなく生甲斐として感じるようになってしまっていたのだ。
それは、彼の仕事の終わりと直結していた。
仕事はあくまでも仕事であり、私情と混同してはいけなかったのだと、忘れてしまっていたギコの失態だ。

荒れ果てたこの時代で生き様を貫き通すのは、とても難しい。
今まではそれを誤魔化し、騙し、忘れて生きていたが、直視せざるを得なかった。
夢が終わった気分だった。
体の一部を失った感覚だった。

無期限療養と銘打った事実上の退職宣言を受けたギコは、ベッドに腰掛けてコーヒーを啜りながら、今後の身の振り方について考え始める。

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   /7,.- 、   .ゝヽ{'         ' : : : : : : /
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96 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/12(日) 21:30:25.92 ID:z4vfs6V50
彼は人間付き合いが希薄なことに加えて、クロジングの人間には変人として見られていたので、この辺りにいる知り合いは皆無に等しかった。
彼がごく稀に街へ買い出しに行くと、親は子を連れてギコから遠ざかり、それまで笑顔を振りまいていた店員は途端によそよそしくなり、八百屋に至ってはシャッターを下ろす始末なのだ。
そうなった原因に心当たりが幾つもあるため、もう、ギコはクロジングの人間とコミュニケーションをとることを諦めていた。
そもそもクロジングは閉鎖的な街であるため、余所者であるギコがそこに馴染むこと自体が非常に難しく、
ギコは街から離れたフォレスタ――地元の住民は魔女の住む森と呼んでいる――に仕事仲間の手を借りて家を建て、街の人間と関わり合いにならないように生きてきたのだ。

互いに関わり合いにならなければ、面倒事は避けられる。
過干渉を好まないギコにとっても異人を好まない街の人間にとっても、これが最善の選択だと今でも胸を張って断言できる。
これで、彼らが愛してやまない平和と日常は守られる。
そして、ギコの心の平穏も守られる。

ギコは平和と云う言葉と、変わらぬ日常と云う言葉を心底嫌悪していた。
これほど彼を不愉快にさせる言葉はそうない。
日常も平和も、ただ、その生ぬるい時間に甘んじて身を投じ、前に進むことを放棄した人間が好んで使う言葉だ。
人間だけでなく、生物の自然な状態とは闘争である。

闘争が成長を促し、進化を促進する。
そうして築き上げられた今日なのだ。
平和とは即ち、人間だけが信仰する反吐が出るほど不自然な状態。
世界は変化を望んでいる。

それは決して止まることのない歩みだ。
平穏な日常とは平和の一部であり、それを好む人間とギコは対極の存在なのだ。
そんな彼らと対話すればいつか必ず衝突する日が来てしまう。
ギコが街の人間と関わり合いにならなければ、無用な衝突は避けられる。

そうするだけでギコは要らぬ手間と時間を掛ける必要がなくなり、街の人間は気分を害さなくて済む。
少しの不便を受け入れれば、隠居生活は何の問題もない。
殺し合いに精神を病んだ戦闘狂にとって見れば死刑宣告に等しいが、そうではないギコにとっては、新たな生き方の一日目が今日だ。
少しずつ慣れていけばいいだろうと、悲観的になることなく、腰を落ち着けて現状を受け入れていた。

99 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/12(日) 21:41:42.16 ID:z4vfs6V50
紙面を流し読みしながら、オセアンで起こった出来事とその影響に関する記事に目が留まり、眉をほんの少しだけ顰める。
死者多数、重傷者数名。
そして、目的不明、目撃者無し。
対立宗派を狙ったテロリストの犯行ではないことだけは明らかだ。

一か月前に紙面を騒がせていた集団強盗事件、そして過激派の宗教団体が起こした自爆攻撃の拙い手口と比べると、実に鮮やかで見事な手口だ。
興味深い事件だが、この長閑な田舎――の近くにあるフォレスタ――にそれが飛び火しなければ、ギコとしては何が起ころうが困らない。
そもそも、閉鎖的なこの街にそういったおかしな人間が訪れれば、五分とかからずに街全体にその存在が知れ渡るから、危惧するまでもない。
足首に巻いていた小型のグロックを無意識の内に取り外し、新聞の上に乗せた。

鮮やかな手つきでグロックを分解し、銃の状態を確認する。
部品の摩耗具合を指の腹で撫でて調べ、問題がないことを確認してから銃を組み立て直す。
日常的に繰り返してきたこの作業は、ギコの体に染みついて離れることはない。
こうした作業が結果的にギコの命を救い、彼に敵対する人間の命を奪ってきた。

足首にそれを戻し、ギコは首の骨を鳴らした。
その時ふと思い出したかのように空腹を覚えたギコは冷蔵庫の扉を開き、嘆息した。
何ヵ月も家を空ける事があるため、ギコは基本的に自分用の食材を買い溜めない。
冷蔵庫に入っているのは、いつのものか分からないマヨネーズとソース、そして少々の保存食だけ。

これで飢えを凌げと言われれば可能だが、今はその必要に迫られていない。
今、腹を満たすには二つの方法がある。
気乗りしないが、クロジングのスーパーマーケットに買い物に行くか、ウィンチェスター・ボルトアクションライフルを提げて森に分け入り、獣を狩るか。
労力と時間と確実性を考慮して、ギコは前者を選ぶことにした。

ヒップホルスターにグロック・カスタムを収め、その上にジャケットを羽織り、ギコは玄関の扉を押し開いた。
風に合わせて音を奏でる木々のざわめきに混じって、鳥の囀りが聞こえる。
森林の青々とした香りは太陽のそれと混ざり合い、極上の香りとなって周囲に漂っている。
ギコはその香りを肺一杯に吸い込み、似合わない微笑を浮かべたのであった――

101 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/12(日) 21:44:09.47 ID:z4vfs6V50




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━━━━━━━━ Opening of new Ammo→Re! ―――――――――→






第三次世界大戦は、世界を一新させた。
国家と云う枠組みを失い、それと同時に政治的駆け引きと云う物は姿を消した。
複雑で稚拙な仕組みを失った世界は、必然的に単純な法則に従って理想的な形に変化した。
即ち、力が全てを変える時代の到来である。






102 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/12(日) 21:47:41.93 ID:z4vfs6V50




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The little boy who had been injured had met few dignified persons and traveled around the world with them.
His name is just Boon that was named by beautiful traveler.
He hasn't known about the love and own life yet.
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..:..:.:..:...:.:.:..:..:.:.:..:.:..:.:.:.:一人の少年がいた。:.:.:..:.:.:..:.:.:.:..:.:.:..:.:.:.:.:.:.:..:
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103 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/12(日) 21:50:36.49 ID:z4vfs6V50






この時代を象徴する“力”は二種類ある。
一つは武器。
銃器、刃物、爆薬。
老若男女、誰であれ――例え少女であろうが幼女であろうが――それを手にすれば殺傷行為を行える便利な道具だ。



二つ目は、“棺桶”と呼ばれる兵器だ。
それは、気が遠くなるほどの大昔に作られた、第七世代軍用強化外骨格“カスケット”の通称である。
大雑把にAからCと云う大きさのクラスに分けられ、兵器を武器として運用し、それを身に纏うことで使用者の戦闘力を劇的に向上させる兵器。
栄華を謳った“太古の時代”の終焉に加担した、“人類最新”の兵器だ。



この二つの前には、権力や富、名声や地位などというものは意味を持たない。









106 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/12(日) 22:02:30.82 ID:z4vfs6V50



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The killer who wants to be common person has traveled around the world.
Her name is Heat・Ororus・Redwing who is called "Leon".
She does think innocent child has a right to spend good life.
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        /-‐'''":::::;.、-'゙T'''" ̄  `'┬‐┬--、.,,,___ `''‐-'゙、._\\イ イ´\        〃
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108 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/12(日) 22:05:48.65 ID:z4vfs6V50





盛んな貿易によって繁栄する湾岸都市、オセアン。
この地では多くの棺桶と武器が発掘され、一日も途切れることなく世界各地に向けて輸出されている。
オセアンは今、大きな転換期を迎えていた。
これまでオセアンを支配していたロバート・サンジェルマンの死が、銃爪になったのだ。



彼の死は、事故や自然死ではなかった。
事件に巻き込まれたと言うよりかは、“災厄”に巻き込まれたと云う形で、彼は命を落としていた。
“レオン”の渾名を持つ殺し屋、ヒート・オロラ・レッドウィングと、奴隷として売られていた“耳付き”の少年、ブーン。
この二人に加えてもう一人、この災厄に関わっている人間がいる。







カーキ色のローブに身を包んだ素性不明のうら若い女性の旅人、デレシアによってそれはもたらされたのである。






111 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/12(日) 22:08:52.57 ID:z4vfs6V50



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The beautiful traveler is strong and mysterious whose name is Dellesia.
No one knows her purpose and destination of her travel.
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..:..:.:..:...:.:.:..:..:.:.:..:.:..:.:.:.:..:..:.::そして、旅人がいた。:.:..:.:.:.:..:.:.:..:.:.:.:.:.:.:..:
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114 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/12(日) 22:12:12.16 ID:z4vfs6V50








三人はオセアンの秩序を嘲笑い、踏みにじり、虚仮にした。
何故なら、彼女達にはそうしてでも果たしたい目的があったからだ。
ヒートは友の復讐を。
ブーンは決別を。












そして、デレシアは――





116 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/12(日) 22:15:17.39 ID:z4vfs6V50





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                               _The story is full of love.
It's time to begin to tell their story. ______// ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
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118 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/12(日) 22:21:00.94 ID:z4vfs6V50











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                       Ammo→Re!! のようです

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