( ^ω^)十二の運命と十六の年のようです


1 名前: ◆6U8wUGkG1U 投稿日:2012/05/28(月) 21:55:45.67 ID:lfIOKPBz0
 
 果てなき青が広がっている。
 地平線は見えない。
 点々と雲が泳ぎ、太陽が威厳を放ち見下ろしている。
 
 本日は晴天なり。
 誰もがそう口を揃えるであろう空の下を、十三匹の蟻が列を成していた。
 
 蟻の列、にしては数が少ない。
 
 それもそのはず、蟻の正体は人だった。
 
 先を走る女の後ろを、十二人の若者が追いかけている。
 重大犯罪を犯した罪人を追っているわけでなければ、
 女をストーカー集団が追っているわけでもない。
 
('、`*川「ほーら、しっかり付いて来なさいよー」
 
 先頭を走る女が、やや上方を見上げて言った。
 後続の十二人に向けられた言葉だった。
 
 その言葉からうかがえよう。
 彼女ら十三名は、ロードワークの真っ最中であった。
 
 ただ、走っている場所は整地されたグラウンドなどではない。
 大小様々な石が放置されている、いかにも険しい、岩肌続く登山道だった。
 

2 名前: ◆6U8wUGkG1U[sage] 投稿日:2012/05/28(月) 21:58:05.40 ID:lfIOKPBz0
  _
(;゚∀゚)「無茶言いやがるぜ……」
 
 追いかける十二名の中、一人の少年がぼやいた。
 ぼやきながらも、彼の金髪は風になびくまま、ペースは落とされない。
 彼の言葉はもっともだった。
 
 駆ける速度は、どう見てもジョギングの域を超えている。
 髪が風になびくことがその証拠だ。
 
 過酷な登山道を、そのようなハイペースで駆けているのだった。
 先頭の女は、息が乱れるどころか汗一つかいていない。
 
(,,゚Д゚)「どうしたジョルジュ? もう限界なのか?」
 
 と、声をかけたのはジョルジュの後ろを走る少年だった。
  _
(;゚∀゚)「うっせ! 体力バカは黙ってろよ!」
 
 振り向かず、言い放った。
 疲労が見えるジョルジュとは対照的に、体力バカと言われた少年の額に汗は見えない。
 駆ける速度は同じだが、彼の黒髪はあまり乱れていなかった。
 
(,,゚Д゚)「はっ。喋る元気はあるんだな」
 

3 名前: ◆6U8wUGkG1U 投稿日:2012/05/28(月) 22:00:14.50 ID:lfIOKPBz0
 
 一触即発、というところで、
 
(;^ω^)「ギコ! やめるんだお!」
 
 ジョルジュを煽ったギコの後方に付く少年が止めに入る。
 浮かんだ汗は冷や汗のようだ。
 
(,,゚Д゚)「冗談だよブーン。こんなとこで喧嘩おっぱじめたら、ペニサスが……」
 
('、`*川「アタシがなんだってー?」
 
(,,;゚Д゚)「い、いや……なんでも……」
 
 ギコの位置はペニサスから数えて九番目。後方に位置する。
 名を出した途端、先頭の彼女に突っ込まれ、驚きと共に萎縮した。
 
(,,;゚Д゚)(地獄耳かよ……)
 
 今度は聞こえないよう、心で呟いた。
 
( ^ω^)「おっおっ! ペニサス教官は怖いお!」
 
 ギコが大人しくなったことで、ブーンは喜びの声を上げた。
 彼女は聞こえていたが、まぁ、と思いスルーしていた。
 
(´・ω・`)「やれやれ。あの二人は相変わらずだね」
 
 と、ブーンの後ろを走る少年が言う。
 
5 名前: ◆6U8wUGkG1U 投稿日:2012/05/28(月) 22:02:12.59 ID:lfIOKPBz0
 
 前を向いたまま、ブーンが、
 
( ^ω^)「僕はいいライバルだと思うお、ショボン」
 
(´・ω・`)「まぁ、そうだね」
 
 ショボンと呼ばれた少年は、ふ、と軽く笑い、同意した。
 尚もペースを落とさぬままで、
 
( ^ω^)「もうそろそろ頂上だおね?」
 
(´・ω・`)「うん。もう着くんだ、って感じ」
 
( ^ω^)「だおだお。最初は一日かかったし……」
 
(´・ω・`)「ペニサス教官のスパルタのおかげかな」
 
(;^ω^)「……思い出すのも恐ろしいお……」
 
(´・ω・`)「……うん……」
 
 二人の顔色が青ざめる。
 あまりにも衝撃的だったファーストコンタクトを思い出したからだ。
 

6 名前: ◆6U8wUGkG1U 投稿日:2012/05/28(月) 22:04:32.64 ID:lfIOKPBz0
 
 半年前、教官として現れたペニサスは自己紹介を終えるなりこの山へ十二名を連れ、
 
────('、`*川「のぼれ」
 
 そして夜。ようやく頂上に到着した一行に対し、
 
────('、`*川「おりろ」
 
 と、冷酷に言い放ったのだ。
 恐怖を擦り込むにこの上ない二言だった。
 
 「……ヤメテクレ……オモイダシタクナイ……」
 
(´・ω・`)「おっと、ごめんごめん」
 
 消え入りそうな声に、ショボンは謝罪した。
 ブーンと同じように、振り返らずにだ。
 声の主は、最後尾を走る少年だった。
 
(;'A`)「……ハァ……ハァ……」
 
 汗だくで、息を多分に切らせながらも、一行のペースに食らいついていた。
 他の十一名と比べると、多少心もとないが。
 
(´・ω・`)「ドクオ。後少しだよ」
 
(;'A`)「ゼィ……ゼィ……わ、わかって……る……」
 

7 名前: ◆6U8wUGkG1U 投稿日:2012/05/28(月) 22:06:10.18 ID:lfIOKPBz0
 
 もはやドクオは限界のようだ。
 しかしそれでも、この場にいるということだけで、彼も常人から突出していることがわかる。
 
 ショボンがペニサスのおかげだと口にしたが、これを半年続けたら普通は死ぬだろう。
 過剰な訓練はオーバーワークとなり、体はすぐに悲鳴を上げるものだ。
 だが、登山訓練の効果はこうして如実に現れている。
 
 それはつまり、彼らが普通の人間でないということも、同時に表されているということだ。
 
(´・ω・`)「……半年、か」
 
( ^ω^)「お?」
 
 半年という言葉に、ショボンが何かを思う。
 口に出ていた事を、ブーンの声で知った。
 
 なんでもない、と返そうか一瞬の躊躇をはさみ、
 
(´・ω・`)「いや。丁度折り返しか、と思ってね」
 
( ^ω^)「……そうだおね」
 
 十二名は、ただ前だけを見て、駆けている。
 
 
(´・ω・`)「後半年で、僕らの運命が決まる」
 

16 名前: ◆6U8wUGkG1U 投稿日:2012/05/28(月) 22:37:04.70 ID:lfIOKPBz0
 
 
 
 
 
 
( ^ω^)十二の運命と十六の年のようです
 
 
 
 Episode【α】──始動編──
 
 
 
 Chapter1【Start】
 
 
 
 
 
 
 

17 名前: ◆6U8wUGkG1U 投稿日:2012/05/28(月) 22:39:15.73 ID:lfIOKPBz0
 
 「失礼」
 
 声の後、障子が開かれる。
 現れたのはトレンチコートを纏った男だった。
 コートの裾は膝下まで届いている。
 
 男が帽子を取ると、黒々とした髪が現れた。
 紳士と呼ぶに相応しい初老の男は、正面に座する男を見やると、
 _、_
( ,_ノ` )「久しぶりだな、爺さん」
 
 右手に掴んだ帽子を胸に当て、軽く笑みを浮かべた。
 
/ ,' 3「相変わらず和室が似合わん男じゃな、シブサワの」
 _、_
( ,_ノ` )「おいおい、今じゃこんな和室の方が珍しいぞ」
 
 シブサワと呼ばれた男は、老人の近くに寄ると静かに腰を下ろした。
 
/ ,' 3「ふむ……正座も忘れたとはのう」
 _、_
( ,_ノ` )「爺さん、ボケたか? アンタの前で正座したのなんて、三十年は前だぞ」
 
/ ,' 3「かっかっ。威勢の良さは変わらんがの」
 _、_
( ,_ノ` )「よしてくれ。俺ももう年さ」
 

18 名前: ◆6U8wUGkG1U 投稿日:2012/05/28(月) 22:41:09.82 ID:lfIOKPBz0
 _、_
( ,_ノ` )「……さて」
 
 通例とも言える挨拶を終えて、シブサワは一つ、息を吐き、
 _、_
( ,_ノ` )「どうだ? 今回の小僧たちは」
 
/ ,' 3「滞りなく。前Z.Cがしごいておるわい」
 _、_
( ,_ノ` )「そうか。滞りなく、ということは脱落者は出ていないようだな」
 
/ ,' 3「うむ。出たら一大事だしのう」
 _、_
( ,_ノ` )「今は?」
 
/ ,' 3「ペニサスの訓練中じゃの」
 _、_
( ,_ノ` )「あいつか……」
 
/ ,' 3「やりすぎる面もあるが、良い教官っぷりじゃよ」
 _、_
( ,_ノ` )「それはよかった」
 
 間をおいて、
 _、_
( ,_ノ` )「……あと、半年か」
 
/ ,' 3「今回も何も起こらぬか、はたまた」
 

19 名前: ◆6U8wUGkG1U 投稿日:2012/05/28(月) 22:43:19.07 ID:lfIOKPBz0
 _、_
( ,_ノ` )「何も起こらんのが一番さ」
 
/ ,' 3「しかし、こればかりは天のみぞ知ることじゃて」
 _、_
( ,_ノ` )「……天、か……」
 
 見上げる。
 あるのは木製のパネルが貼られた天井だけだ。
 だが、シブサワには別の何かが見えていた。
 
 視覚的にではない。
 心の中に、だ。
 _、_
( ,_ノ` )「大地を離れ、空が大地になってから、二百五十六年か」
 
/ ,' 3「あと半年で、の」
 _、_
( ,_ノ` )「はたして、"アガスティア・レコード"の記述通りとなるか……」
 
/ ,' 3「今までの十六年周期では、何も起こらんかった」
 _、_
( ,_ノ` )「だが、今回は違う」
 _、_
( ,_ノ` )「"十六年周期が、十六週目を迎える"」
 
 老人の薄い目が、少しだけ開く。
 

21 名前: ◆6U8wUGkG1U 投稿日:2012/05/28(月) 22:44:54.68 ID:lfIOKPBz0
 
/ ,' 3「────十二の運命交わる十六の時、人は大地へとかえる」
 
/ ,' 3「栄華を誇った旧文明の遺物。"アガスティア・レコード"が最初に予言した一節……」
 _、_
( ,_ノ` )「故障か、と当時は言われていたようだな」
 
/ ,' 3「うむ。じゃが、その後に天変地異、要人暗殺など尽くを予言してみせた」
 _、_
( ,_ノ` )「そんなことをアガスティアが繰り返すうち、最初の予言が注目されるようになっていった」
 
/ ,' 3「人……大地が空に飛んだ年から数え……天上歴十六年に、何かが起こる、とな」
 _、_
( ,_ノ` )「結局、何も起こらなかったけどな」
 
/ ,' 3「うむ。世間的には、の」
 _、_
( ,_ノ` )「……」
 
 約二百五十六年前、人は、空へ逃げた。
 通説では、海の水位が急激に上昇し、大地は全て海に覆われてしまった、とされている。
 旧文明人たちは大地を地表から切り離し、"島を空へ浮かび上がらせる"ことで事態を回避。
 
 逃げ延びた人類の数、実に七百万人。
 人が適応できる天体の中で、彼らの星は比較的大きな星であったが、
 数十億もの犠牲を生む結果となった。
 

22 名前: ◆6U8wUGkG1U 投稿日:2012/05/28(月) 22:47:21.65 ID:lfIOKPBz0
 
 空へ逃れた大地は大小含め六つ。
 それぞれの"島"はそれぞれの国家を建国し、代表者が地を治めることとなった。
 天上歴元年の、始まりである。
 
 シブサワが老人の顔を見て、言う。
 _、_
( ,_ノ` )「当時の爺さんは、このことを発表しなかったな」
 
/ ,' 3「まぁ、わからんでもない。ワシでもそうしたかもしれんしのう」
 _、_
( ,_ノ` )「当時の混乱を知れば、妥当かもしれんな」
 _、_
( ,_ノ` )「なぁ? 四代目ヴィップ統治者、アラマキ爺さんよ」
 
/ ,' 3「なんじゃ。ワシの肩書きを覚えとったんか」
 _、_
( ,_ノ` )「一応な」
 
 空に逃れた六つの島の一つに建国された国、ヴィップ。
 シブサワと対面する老人、アラマキはその血筋の四代目であった。
 
 本来であれば国王と名乗ることができるのだが、アラマキはそれを嫌った。
 真意は、彼の胸懐にある。
 _、_
( ,_ノ` )「普通に考えれば、不吉極まりないことだ」
 _、_
( ,_ノ` )「……その年の子どもが、十二人しか生まれなかった、なんてことはな」
 

24 名前: ◆6U8wUGkG1U 投稿日:2012/05/28(月) 22:49:25.32 ID:lfIOKPBz0
 
/ ,' 3「更に、その子どもたちは不可思議な力を持ち得ていた、となるとのう」
 _、_
( ,_ノ` )「今では、誰もが知る奇跡だ。救世主なんて呼んでる奴らもいる」
 _、_
( ,_ノ` )「こっちとしては、いい迷惑だ」
 
/ ,' 3「かっかっ。Z.C当人が言うと、説得力があるのう」
 _、_
( ,_ノ` )「笑い話じゃないぞ、爺さん」
 
 天上歴十六年。
 その年のヴィップの出産記録は十二件。
 人口百万人を超える国で、この数はあまりにも異常であった。
 
 この記録は、百年以上公開されていない。
 二人が言うように、混乱が国を覆い、確実に他国まで飛び火するからだ。
 更に、時が過ぎればこの十二人が人間離れした力を持っていることが発覚する。
 
 その力は悪意を持てば人を容易に殺害せしめるものであり、
 逆に善意を持てば社会貢献に大きく活用できるものだった。
 
 十二人全ての力が発現したのは、生まれて十五年後のことだった。
 アガスティアが予言した十六の時に、合わせたかのようにだ。
 
/ ,' 3「まぁ、当時もお主の時も、十六の時は何も起こらんかったがのう」
 

25 名前: ◆6U8wUGkG1U 投稿日:2012/05/28(月) 22:51:27.38 ID:lfIOKPBz0
 _、_
( ,_ノ` )「爺さん。振り出しに戻ったな」
 
/ ,' 3「うむ。じゃが半年後は、十六度目の十六の時を迎える、のじゃな」
 _、_
( ,_ノ` )「そうだ」
 
 シブサワが、また天井を仰いで、
 _、_
( ,_ノ` )「何も起こらんことが、一番、だが……」
 
/ ,' 3「嫌な予感はする、か」
 _、_
( ,_ノ` )「否定できんな」
 
/ ,' 3「じゃが、ワシらは有事に備え準備をしておる」
 _、_
( ,_ノ` )「あぁ、俺も世話になったんだ。知ってるさ」
 
/ ,' 3「Z.C────"ゾディアック・セーデキム"たちを訓練する機関で、のう」
 _、_
( ,_ノ` )「"十二の運命と十六の年"……か。大層な名前をつけられたものだ」
 
/ ,' 3「命名したのはワシの先々代じゃ」
 _、_
( ,_ノ` )「あぁ、それも知ってるさ」
 

27 名前: ◆6U8wUGkG1U 投稿日:2012/05/28(月) 22:54:07.87 ID:lfIOKPBz0
 
/ ,' 3「ワシらには、あの子らに期待することしかできないんじゃ。こういう場を用意してのう」
 _、_
( ,_ノ` )「良い事だ。強くなれるし、社会常識も学べられる。こういうのは、ガキの頃からしてるのがいい」
 
/ ,' 3「強くなる以外は説得力ないのう……」
 _、_
( ,_ノ` )「余計な世話だ」
 
/ ,' 3「シブサワの」
 _、_
( ,_ノ` )「なんだ?」
 
/ ,' 3「今後も、サポートを頼む」
 _、_
( ,_ノ` )「俺の代の十六は終わったんだ。俺に出来ることは、それくらいしかない」
 
/ ,' 3「……苦労をかける」
 _、_
( ,_ノ` )「辛気臭いのは似合わんぞ、爺さん。それに……」
 _、_
( ,_ノ` )「アンタほど、苦労してないさ」
 
/ ,' 3「…………」
 
 ──踏ん切りはついたようじゃな。
 
 熟年と熟練が刻まれたシブサワの顔を見、アラマキはそう思う。
 過去との決別は、ようやく済まされたのか、とも。
 
28 名前: ◆6U8wUGkG1U 投稿日:2012/05/28(月) 22:56:02.39 ID:lfIOKPBz0
 _、_
( ,_ノ` )「なぁ、爺さん」
 
/ ,' 3「……なんじゃい」
 _、_
( ,_ノ` )「煙草、吸っていいか?」
 
/ ,' 3「ここは和室じゃ。煙草は似合わん」
 _、_
( ,_ノ` )「キセルならいいのか?」
 
/ ,' 3「遠まわしにダメと言ったんじゃよ。ここは全棟禁煙じゃ」
 _、_
( ,_ノ` )「やれやれ。住みにくい世になったものだ」
 
 と言い、シブワサは立ち上がる。
 煙草の話は口実だった。
 以前にも、アラマキは禁煙だと告げたことがある。
 
 老人も気がついていた。
 外へ出るための、口実だと。
 _、_
( ,_ノ` )「現Z.Cは今どこに?」
 
/ ,' 3「今頃は山を登っているかのう」
 _、_
( ,_ノ` )「あそこか。まだ使っているんだな」
 

30 名前: ◆6U8wUGkG1U 投稿日:2012/05/28(月) 22:57:39.94 ID:lfIOKPBz0
 
/ ,' 3「まだ最速登頂記録は破られておらんぞい」
 _、_
( ,_ノ` )「まぁ、簡単に破られる記録じゃないからな」
 
/ ,' 3「記録保持者としてのプライドが許さんか?」
 _、_
( ,_ノ` )「どうだろうな。破られたら、それはそれで違う楽しみが増える」
 
/ ,' 3「負けず嫌いは相変わらずじゃな」
 _、_
( ,_ノ` )「人間、負けを認めたら成長は止まるものだ」
 
/ ,' 3「お主の持論だったの」
 _、_
( ,_ノ` )「過去形じゃない。今もそうさ」
 
 穏やかな表情を消さず、帽子をかぶる。
 普段から温厚な印象を他に与えるシブサワの表情だが、今の顔は毛色が異なる。
 古い付き合いであるアラマキは、やはりまた気づいていた。
 _、_
( ,_ノ` )「少し、現Z.Cの様子を見てこよう。時間はあるだろう?」
 
/ ,' 3「充分に」
 _、_
( ,_ノ` )「満足したら、また戻る」
 

31 名前: ◆6U8wUGkG1U 投稿日:2012/05/28(月) 23:00:43.91 ID:lfIOKPBz0
 
/ ,' 3「まだまだ若いの、お主も」
 _、_
( ,_ノ` )「どちらかと言うと、親の心境だ」
 
 背を向けた。次に対面したのは、閉じられた障子だ。
 そのままで、
 _、_
( ,_ノ` )「……ん? そういえば、なんで俺を呼んだんだ?」
 
/ ,' 3「あ」
 
 シブワサの外出は、もう少し後になるようだ。
 
 
◇山頂◇
 
 緑はない。
 植物が所々に生えているが、地面と同じ色をしていた。
 山頂部は思いの外、平面だった。
 
 ペニサスが訓練に使用している山は、Z.C訓練機関施設の裏手にある。
 山、といっても山頂部と同じように、外観に緑は一切ない。
 巨大で高い土地を呼称するに、山という名詞を使用しているだけだ。
 
 実際には岩山(多数の岩が重なり合い、それに少し土をかぶせたもの)が近い。
 頂上が平らに整地されているのは、標高1684メートルからの景色を楽しむ為ではない。
 演習を円滑に行うために、Z.C訓練機関が都合で整備しただけである。
 

35 名前: ◆6U8wUGkG1U 投稿日:2012/05/28(月) 23:06:26.41 ID:lfIOKPBz0
 
 とはいっても、そこからの景色は決して悪いものではなかった。
 八方が見渡せるし、晴天の今日は風も少なく、視界を弊害する要素はない。
 
 ペニサスは放置された二メートルほどの岩に飛び乗り、一点を見つめていた。
 
 空に逃れた六つの大地のうち、丁度中間規模の土地面積を持つヴィップ。
 山よりも下、つまり平野地帯には緑が確認できる。
 眼下にはZ.C訓練期間施設が広がり、校舎棟、グラウンド、武道館、寮棟と続く。
 
 更に先、街が続き、人が活発に行き交う姿が確認できた。
 街を抜ければ一本のアスファルトが伸びて行き、森、荒野、川を進んでまた街がある。
 それを何度か繰り返し、やがて道は堅牢な門に阻まれ、途切れた。
 
 門から左右に高い壁が伸びており、この壁はヴィップの半周ほどを覆っている。
 壁の向こうは、"空"だった。ヴィップの大地は、そこからぷつんと切れていた。
 ペニサスが見つめる一点は、その先にある大地である。
 
('、`*川「っと」
 
 そこで、思い出したようにペニサスが振り返った。
 二メートル高い位置から見えたのは十二人の若者たちだ。
 彼らは思い思いに、立っていたり、座っていたり、寝転んでいたりしている。
 
('、`*川「はーい、注目注目、ちゅーもくぅー」
 
 声に、二十四の瞳が彼女に向けられた。

36 名前: ◆6U8wUGkG1U 投稿日:2012/05/28(月) 23:09:20.46 ID:lfIOKPBz0
 
 彼女は満足気に頷くと、
 
('、`*川「お疲れさん。なかなか速くなったんじゃないのー?」
 
 見渡し、うんうんとまた頷いた。
 自信に満ちた笑みを浮かべる者や、目を合わそうとしない者など、反応は様々だ。
 個々の反応は気にせずに、
 
('、`*川「じゃ、今日からはちょっと趣向を変えるわよ」
 
 一転して、今度は一糸乱れず全員が顔を上げた。
 表情は驚きや、ドクオなどは完全に怯えの色が混じっている。
 共通して浮かぶことは、
 
 ──絶対にろくなことじゃない……!
 
 という思いだった。
 
(;^ω^)(絶対にろくなことじゃない!)
 
 一日かけて山を登った後に、すぐおりろと言ってみせた女だ。
 彼らの予感、不安はもっともだった。
 
('、`*川「はい、それじゃまず三人組で班つくってね」
 
 不安をよそに、トーンを変えずそう言った。
 一部の人間にはこの言葉だけで心を抉られそうな台詞である。
 

39 名前: ◆6U8wUGkG1U 投稿日:2012/05/28(月) 23:13:23.61 ID:lfIOKPBz0
 
('A`)(うわああああああぁぁぁぁぁ)
 
 一部に該当していたドクオは、心で悲鳴を上げる、が、
 
( ^ω^)「ドクオー。組もうおー」
 
(´・ω・`)「これで三人だね」
 
 友人により、彼の不安は解消された。
 まだ、ペニサスが提示する"趣向"は、謎のままだが。
 
 幼少期から現Z.Cの十二名は、共同生活している。
 関係は友人であるが、兄弟と呼んでも言い過ぎではない。
 四班の三人組は一分を待たずして完成された。
 
('、`*川「よーし、できたわね」
 
 また、満足気に頷き、班の顔ぶれを見渡している。
 
('、`*川(まぁ、予想通りねぇ)
 
 教官として現れてから半年。
 誰と誰が組むのかは彼女にも粗方の予想がついている。
 
('、`*川「それじゃ、班のリーダーを決めて」
 

40 名前: ◆6U8wUGkG1U 投稿日:2012/05/28(月) 23:16:16.97 ID:lfIOKPBz0
 
( ^ω^)「ペニサス教官は何をするつもりなのかお?」
 
 リーダーを決めろと言われ、三人組はまた向き合う。
 どの班もリーダー決定の前に、そんなことを話していた。
 
(´・ω・`)「さぁ……ろくなことじゃない、ってことしかわからない」
 
('A`)「……殺し合え、とか……」
 
(;^ω^)「いやいや! さすがにそれは……」
 
(;^ω^)「……」
 
(;´・ω・`)「ないって言ってよ。不安になるよ……」
 
(;^ω^)「ありえそうな気もして……」
 
(;'A`)「やめてくれよ……まだ死にたくねぇ」
 
 三秒ほど無言が続き、
 
(;´・ω・`)「とにかく、リーダーを決めよう」
 
(;^ω^)「だおだお! 個人の趣向でZ.Cを殺すなんてありえないし!」
 
('A`)「それで、誰がやる?」
 

41 名前: ◆6U8wUGkG1U 投稿日:2012/05/28(月) 23:20:20.45 ID:lfIOKPBz0
 
( ^ω^)「ショボンを推すお。頭がいいし」
 
(´・ω・`)「うーん、理由としては弱いと思うけど」
 
('A`)「いや、適任だ」
 
( ^ω^)「嫌かお?」
 
(´・ω・`)「嫌ではないんだけど、そうだね……」
 
 目を閉じ、ややあってから、
 
(´・ω・`)「僕はドクオを推す」
 
(;'A`)「えっ!?」
 
(´・ω・`)「嫌?」
 
(;'A`)「嫌!」
 
(´・ω・`)「ははっ。素直だね」
 
(;'A`)「無茶言うなよ。この中で一番体力もないし……頭も悪いぜ?」
 
(´・ω・`)「ブーンより頭はいいよね?」
 
('A`)「それはそうだが」
 
( ^ω^)「待ちなさい君たち」

43 名前: ◆6U8wUGkG1U 投稿日:2012/05/28(月) 23:24:30.37 ID:lfIOKPBz0
 
(´・ω・`)「じゃあこうしよう────」
 
 程なくして、全ての班のリーダーが選出された。
 十二名が再びペニサスに注目したことで、彼女は始める。
 
('、`*川「よろしい。あ、誰がリーダーとか言わなくていいから」
 
(´・ω・`)「……」
 
('、`*川「それじゃ、今から十分後に三人一組で下山を始めること」
 
('、`*川「ミッションクリア条件。リーダーが下山を完了すること」
 
('、`*川「なお、下山途中で様々な障害が発生します」
 
('、`*川「以上、質問は?」
 
 真っ先に手を挙げたのは、ジョルジュだった。
 
('、`*川「はい、ジョルジュ」
  _
( ゚∀゚)「障害って?」
 
('、`*川「私が追いかける。要するに鬼ごっこよ」
 
 ざわ、と、引きつった声が所々で上がる。
 鬼ごっこの鬼が本物の鬼とは、冗談になっていない。
 勿論、これはミッションで冗談ではないのだが。
 
44 名前: ◆6U8wUGkG1U 投稿日:2012/05/28(月) 23:28:19.45 ID:lfIOKPBz0
  _
(;゚∀゚)「ってことは……タッチされたら終わり?」
 
('、`*川「二つ目の質問は挙手後にしないと不公平よ、ジョルジュ。まぁいいけど」
 
 ジョルジュの質問は皆が知りたいことだったので、通る。
 
('、`*川「タッチされたら……だけじゃアンタたち不利だろうからねぇ。
     行動不能に陥ったら、にしてあげるわ」
  _
(;゚∀゚)「……」
 
('、`*川「はい、ギコ」
 
 挙手したギコが指名され、
 
(,,;゚Д゚)「つまり……怪我の危険が伴う、と?」
 
('、`*川「うん」
  _
(;゚∀゚)(てか、タッチされただけでも重症を負う気がする……)
 
('、`*川「繰り返すけどこれは鬼ごっこよ。狩られる前にリーダーが下山すれば、アンタたちの勝ち」
 
 一面の青空の下、重い空気が十二名を覆った。
 ドクオなどはガタガタ震えだしており、顔面は蒼白だ。
 そして、彼ほどとは言わないが、近い状態の者がいた。
 
ミセ;゚ー゚)リ「えぇ……ペニサス教官に追われるとか……勝てるわけないじゃん……」
 
46 名前: ◆6U8wUGkG1U 投稿日:2012/05/28(月) 23:32:04.73 ID:lfIOKPBz0
 
 ミディアムよりもやや短く、ショートよりは少し長い髪の少女が言った。
 右耳の上にある髪留めが特徴的だ。
 あどけなさが残るが、ここにいると言う事は彼女もZ.Cであり、並の身体能力ではない。
 
川 ゚ -゚)「ミセリ、大丈夫だ。お前は必ず私たちが下山させよう」
 
(゚、゚トソン「あなたは気にせず、全力で転がり落ちれば大丈夫です」
 
ミセ*゚ー゚)リ「クーちゃん……」
 
ミセ#゚Д゚)リ「って、ちょっとまてぃトソン! それは大丈夫じゃねぇ!」
 
(゚、゚トソン「大丈夫ですよ。あなたの頑丈さならペニサス教官とサシでも死にません」
 
ミセ#゚Д゚)リ「死ぬわ!」
 
 女三人寄ればかしましい、という。
 実際、かしましいのはミセリだけだったが。
 トソンと呼ばれた無表情でポニーテールの少女は、対照的に左耳の上に髪留めをつけている。
 
 もう一人、クーと呼ばれた少女は、見事な長い黒髪を従えていた。
 二人よりも、少し身長が高い。
 
('、`*川「なるほど。そこはミセリがリーダーなのね」
 
川 ゚ -゚)「あ」
 
ミセ;゚ー゚)リ「クーちゃん……」

48 名前: ◆6U8wUGkG1U 投稿日:2012/05/28(月) 23:36:10.95 ID:lfIOKPBz0
 
( ・∀・)「油断だねぇ」
 
(´<_` )「クーにしては珍しいな」
 
(*´_ゝ`)「いいぞ! 黒髪ストレートにちょっぴりドジっ子! クーちゃん株上昇中!」
 
(´<_` )「黙れ兄者」
 
( ´_ゝ`)「何を言う弟者。これは重大且つ重要な問題だ」
 
(´<_` )「重大なのは兄者の脳だ」
 
( ・∀・)「はいはい二人とも、期待してるよ」
 
 声を抑えて言ったのは、クーたちからもっとも離れた班の三人だった。
 会話から二名は兄弟であり、更に容姿から双子であることが見て取れる。
 もう一人の黒髪の少年が、軽く笑いながら、言った。
 
( ・∀・)「これは思ったよりも深い鬼ごっこだ」
 
(´<_` )「どういうことだ?」
 
( ・∀・)「班に分けたからさ。ただの鬼ごっこなら、そんな必要ないでしょ」
 
(´<_` )「チームワークを推し量る、ってことか」
 
( ・∀・)「それもあるけど、もっと黒いよ。この鬼ごっこは」
 

49 名前: ◆6U8wUGkG1U 投稿日:2012/05/28(月) 23:38:06.90 ID:lfIOKPBz0
 
(´<_` )「黒い?」
 
( ・∀・)「うん。黒い。どんな手を使ってでもリーダーを下山させろ、って言葉が見えるよ」
 
(´<_` )「ほう。モララーが言うんならそうなんだろうな」
 
( ・∀・)「これに気付いてるのは、多分ショボンくらいじゃないかな。
      クーもって思ったけど、あの様子じゃ気づいてなさそうだ」
 
( ´_ゝ`)「本調子じゃない……まさか!」
 
(´<_` )「それ以上は言うな兄者……最悪だぞ……」
 
(;・∀・)「ま、まぁ変態と弟者には期待しているよ……下山しながら詳しい話もする」
 
( ´_ゝ`)「ふっ。俺たちに任せておけリーダー!」
 
('、`*川「ほう」
 
( ´_ゝ`)「あ」
 
(´<_` )「あ」
 
(;・∀・)「……」
 
( ´_ゝ`)「てへぺろ☆」
 

51 名前: ◆6U8wUGkG1U 投稿日:2012/05/28(月) 23:40:20.72 ID:lfIOKPBz0
 
( ^ω^)「……ショボンの言った通りだったお」
 
 クーとモララー班の失態を見て、ブーンが呟いた。
 ショボンがそれを拾う。
 
(´・ω・`)「うん。リーダーは明かさない方がいい。
      ペニサス教官が言わなくていいと言った時点で、実質鬼ごっこはもう始まってる」
 
('A`)「じゃあ、あの算段でいいのか?」
 
(´・ω・`)「そうだね」
 
( ^ω^)「とにかく三人一組で行動する……」
 
( ^ω^)「でも、まとめてやられたらどうするんだお?」
 
(´・ω・`)「まぁ、それは下山しながら話すよ」
 
( ^ω^)「ほーん。わかったお」
 
(´・ω・`)「後、ジョルジュの班に接触したい」
 
( ^ω^)「なんでだお?」
 
(´・ω・`)「大袈裟に言うと、同盟を結ぶため、かな」
 
 そして、太陽が山頂の直上に差し掛かる。
 ペニサスが、注目、と声を上げた。
 
52 名前: ◆6U8wUGkG1U 投稿日:2012/05/28(月) 23:44:05.81 ID:lfIOKPBz0
 
('、`*川「質問は以上ね? それじゃ、鬼ごっこを始めるわよ」
 
('、`*川「アンタたちは思い思いのルートで逃げなさい。五分後に私が追うわ」
 
川 ゚ -゚)「……」
 
( ・∀・)「……」
 
(´・ω・`)「……」
 
 
 一息、その後、
 
 
('、`*川「では、スタートッ!」
 
 
 じゃり、と地を蹴る音を残し、十二名全員が下山を開始した。
 登山道は基本的に一本だ。あくまで、登山道は。
 頂上は登山道からの侵入口以外、百メートル級の崖である。
 
 Z.Cの身体能力をもってすれば、下ることはできるだろうがリスクは高い。
 崖の降下中、ペニサスの襲撃に遭えば、対応は不可能だ。
 必然的に出発時のルートは決定されていた。
 
 それでも、少し下れば選ぶことができるルートはいくつかある。
 そこからどう動くか、それぞれの班のブレインが駆けながら思考していた。

54 名前: ◆6U8wUGkG1U 投稿日:2012/05/28(月) 23:48:12.75 ID:lfIOKPBz0
 
('、`*川「……」
 
 山頂に一人残った、ペニサス。
 視線の先には、四班が下りていった山頂部の侵入口。
 彼らをどう追いかけるか、彼女は考えている。
 
 わけではなかった。
 
('、`*川「久しぶりね」
 
 視線を動かさず、そう言った。
 決して気がふれたわけではない。
 
 居るのだ。確かに。
 
 _、_
( ,_ノ` )「よう。気がつけるようになったか」
 
('、`*川「当たり前でしょ。あれから何年経ったと思ってるのよ」
 _、_
( ,_ノ` )「さぁな。三十年くらいか?」
 
('、`*川「しばくわよ」
 _、_
( ,_ノ` )「冗談が通じないのは、まだまだだな」
 
('、`*川「うるっさいわねぇ。何しにきたのよ?」

55 名前: ◆6U8wUGkG1U 投稿日:2012/05/28(月) 23:51:14.51 ID:lfIOKPBz0
 _、_
( ,_ノ` )「後輩を可愛がりに、な」
 
('、`*川「悪趣味〜。いじめにきたんでしょ?」
 _、_
( ,_ノ` )「お前も、然程変わらんと思うが」
 
('、`*川「アタシはいいのよ」
 
 やれやれ、と言い、
 _、_
( ,_ノ` )「懐かしいな。今から鬼ごっこか?」
 
('、`*川「そうよ。今回が初の、ね」
 _、_
( ,_ノ` )「俺が考案した訓練だが、意図を理解してる奴はいるのか?」
 
('、`*川「多分、ね。スタート前に思ったけど、"三人"はいたわ」
 _、_
( ,_ノ` )「それはそれは。楽しみだ」
 
('、`*川「で、後輩を可愛がりにって、もしかして……」
 _、_
( ,_ノ` )「あぁ。俺も鬼にまわっていいか」
 
('、`*川「はぁ……だめって言ってもやるんでしょ?」
 _、_
( ,_ノ` )「まぁ、そうだな。学習することはいいことだ」
 
('、`*川「もう……」

59 名前: ◆6U8wUGkG1U 投稿日:2012/05/28(月) 23:53:39.56 ID:lfIOKPBz0
 
 駄目だ、と言ってもシブサワが聞くわけがない。
 といって、自分の実力で止められるわけでもない。
 ため息の後、ペニサスは渋々了承することしかできなかった。
 
('、`*川「殺さないでよ?」
 _、_
( ,_ノ` )「そんなことするか。俺を誰だと思ってるんだ」
 
('、`*川「ドSおやぢ」
 _、_
( ,_ノ` )「はっ。よくわかってるじゃないか」
 
('、`*川「こいつ……」
 _、_
( ,_ノ` )「ところで、スタートは何分後だ?」
 
('、`*川「あ、もう過ぎてる」
 _、_
( ,_ノ` )「時間厳守は大人の基本だぞ?」
 
('、`*川「アンタのせいよ!」
 
 言い捨て、ペニサスがかけ出した。
 そして、顔だけ向けて言い放つ。
 
('、`*川「いーい!? すぐ片づけたりしないでね!」
 
 シブサワは、片手を上げてひらひらと。
 やがて、ペニサスの姿はシブサワからも見えなくなった。

60 名前: ◆6U8wUGkG1U 投稿日:2012/05/28(月) 23:57:22.65 ID:lfIOKPBz0
 _、_
( ,_ノ` )「さて……面白い奴はいるか、な」
 
 言を残し、彼もまた、その場から消えた。
 
 現Z.Cから数え、先代と先々代のZ.Cが鬼ごっこの鬼役となった。
 少年たちは緊急事態をまだ知らない。
 ともかく、ペニサスだけでも脅威であることは明白で、気が緩むことはないだろう。
 
 彼らが下山に要する時間は、約二時間。これは妨害がない場合の時間だ。
 
 対して、ペニサスが本気で動けば、下山に要する時間は一時間弱。
 必ずどこかで、彼らと接触するだろう。
 その前提がなければ、鬼ごっこは成立しないのだ。
 
 彼らはそれを知っていた。
 
 知っていたからこそ。
 
('、`*川「あら」
 
川 ゚ -゚)「遅かったですね」
 
( ´_ゝ`)「もよおしたのか?」
 
('、`*川「真っ先に殺されたいようね」
 
( ´_ゝ`)「ごめんなさい」
 
 待ち伏せていた。

61 名前: ◆6U8wUGkG1U 投稿日:2012/05/29(火) 00:01:19.15 ID:ii9UjAy80
 
('、`*川「へぇ。下山ルートが分かれる地点で、待ち伏せたか」
 
川 ゚ -゚)「確実に時間稼ぎができるようにです」
 
(´<_` )「俺たち以外に同じ事を考えてる奴がいたのは、驚いたけどな」
 
( ´_ゝ`)「クーちゃんは俺と一緒にいたかったんだよ」
 
川 ゚ -゚)「よかろう。真っ先に死ね」
 
( ´_ゝ`)「ごめんなさい」
 
('、`*川「でも、クーはともかくサスガの二人まで足止めに回したら、モララーフリーじゃない」
 
(´<_` )「心配ないさ」
 
( ´_ゝ`)「俺たちが、確実にここでペニサス教官を止めるからな」
 
('、`*川「その自信、どこからきてるのかわかないけれど。
      ま、アンタら二人がセットじゃない方がおかしいわよね」
 
川 ゚ -゚)「そういうことで、時間稼ぎをさせてもらいます」
 
('、`*川「時間稼ぎ、ねぇ。それはいいけどさ」
 
('、`*川「私をここで止めたら、全員勝ちよ。本気でくれば?」
 
川 ゚ -゚)「そのつもりです。ですが、ペニサス教官にはまだ勝てそうもないので」

62 名前: ◆6U8wUGkG1U 投稿日:2012/05/29(火) 00:02:46.58 ID:ii9UjAy80
 
('、`*川「"まだ"、か。相変わらず素直ね、クーは」
 
川 ゚ -゚)「取り柄ですから」
 
('、`*川「それじゃ、私もここを通してもらうために────」
 
 
('、`*川「────ちょっぴり本気で、いかせてもらうわ」
 


 
 鬼ごっこ第一幕、開始。
 
 
 
 
 
 
 
                      ────to be continued


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